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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
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第436話 13歳(春)…悪漢殺し

 なんか完成してしまった謎の酒。

 おれは〈炯眼〉でその効果を確認できたので驚いたが、皆は何がどうなったかわからずきょとんとしている。

 いや、錬金の神ディーメルンも酒の効果を理解したのか、目をまん丸にして口をあんぐりとさせていた。

 しかし、そんな状況にあっても酔っぱらいはマイペース。


「どれ、味見……」


 と、ふらふら近寄って来るギーリスであったが、そこでディーメルンが動いた。

 ついさっきまでほんわかのほほんとしていた人物とは思えぬ鋭い動きで酔っぱらいに迫り――


「ふんっ」

「あふん!」


 繰り出されたのは容赦のない当て身。

 そもそも酔っぱらって歩くのも困難なギーリスが神の一撃を躱せるわけもなく、あえなくビターンと地面に倒れ伏した。

 打ち身追加である。


「ごめん。突然だけどそれもらっちゃっていい? 君ならまた作れるよね? くれるなら代わりに祝福あげるから!」


 これまでとは打って変わってディーメルンは真面目――、いや、ちょっと必死な表情だ。


「それはいいですけど……、こちらも有り難いですし。でもこんな突然出来たものでいいんですか? あとでもっとちゃんとしたのが出来るかもしれませんよ?」

「いいの、誕生した最初の霊薬ってのがいいの」


 ああ、この神も遊戯の神と同じく収集癖があるのか……。


「ってか、これって霊薬なんですか?」

「そう、霊薬。人が作りだせたのはもうずっとずっと前の話よ」

「なんか回復効果のあるお酒みたいですけど……」

「まあそうね、どちらかと言うと神酒かもね」


 妙な効果のある飲み物ということなので、厳密な区分は特に無いような感じだ。


「とにかくちょうだい。いいよね?」

「それはいいですけど……」

「ありがとう。それともっと欲しい」

「いや、もっとと言われましても……、薬草汁の方が少ないのでそんなたくさんは作れないかと……」

「あ、なら平気平気、放置してるのがいっぱいあるから。じゃあ、それもってくるから全部このお酒に変えちゃって。それで作った一部を貰うね。――っと、そうそう」


 ディーメルンはおれの頭を撫で撫で。


「はい祝福。これで薬作りとかの精度もあがるかな? そーれーかーらー」


 と、ディーメルンはリィに近寄っていく。


「え、え、なん、なんでしょう?」

「あはは、緊張しなくていいのよー。ほら、あなた面白いものを作るでしょう? しばらくやめちゃってたけど、また作るようになったから加護をあげちゃいます」

「ふわおぅ!?」


 ディーメルンに撫で撫でされてリィが驚く。


「これでよし! これからも頑張ってね! じゃ、私は一旦戻って薬草液――、あ、強いお酒も一緒に持ってくるね!」


 そう言い残すと出現したときと同様、ディーメルンは唐突に姿を消し、気づけばおれが手に持っていた神酒も消え失せていた。

 これに一番驚いたのはギーリスを連れてきたデヴァスだ。


「あの、今の人……、消えた?」

「ああ、あの人、錬金の神なんだ」

「神って……!?」


 デヴァスはますます驚いてしまったが、まああれだ、慣れてくれ。

 そしたら今度はリィが尋ねてきた。


「お前っていつもこんな感じなのか……?」


 リィはひどく狼狽している。

 いつもは違う、そう答えたいところだが、わりとこんな感じなので困った。

 よし、誤魔化そう。


「リィさんは加護を授かりましたね」

「お、おう、おう、どうしよう……」

「感謝しておいたらいいんじゃないですかね。また後で来るみたいですしお礼を言ったらどうでしょう?」

「そうだ! びっくりしてお礼の一つも言って――」

「来たわよ!」

「ふぉっ!?」


 消えたばかりのディーメルンが再登場し、リィが驚いて跳び上がる。

 現れたディーメルンの背後には巨大なガラス瓶が二つあり、一方は緑色、一方は透明な液体に満たされていた。


「こっちが薬草液、こっちがほぼ完全な酒精。もうお酒とは言えない代物になっちゃってるけど、そこは薄めてどうにかすればいいし」


 ほぼ完全な酒精ということは……、蒸留の限界、96パーセントくらいあるということだろうか? そうなるともうアルコールと言うよりエタノールと言った方がしっくりくるレベルだ。


「よし! じゃあさっそくちゃちゃっと作っちゃおう!」


 こうして神と一緒に酒造りが始まった。


    △◆▽


 おれがやったことを再現するということで、ディーメルン――メルの持ってきた大量の超度数アルコールを8、自作ポーションに薬草汁を混ぜて出来た地獄の下剤を2の割合で投入、そして最後におれが電撃を加える。


「ディーメルン様、分量、計り終わりました」

「んもう、リィちゃん、私のことはメルでいいのに」


 加護を授かったリィはめちゃくちゃ従順になって謎の酒作りを手伝ってくれている。

 まあ作るとは言っても混ぜて電撃加えるだけのこと。メルの持ってきた酒精をすべて謎の酒に変えるのにそう時間はかからない。

 ただ、作れる量はストックしていた自作ポーションの量が影響してでっかいガラス瓶の半分ほどにしかならなかった。

 ひとまずこの完成した謎の酒がメルの取り分となり、残った大量の薬草汁と半分になった超度数の酒――これを使ってこれから作る分がおれたちの取り分となる。


「作れた分を全部持ってっちゃうのはあれだから、はい、一瓶残していくね」


 と、メルはお高いブランデーで使われるような立派なガラス瓶に謎の酒を入れて渡してきた。

 ガラス加工の技術がそこまで発展していないこちらの世界ではそれだけで芸術品としての価値がありそうだ。


「見事な瓶ですね……、ありがとうございます」


 瓶が立派になっただけなのに、それまで放射能的な怪しさのあった謎の酒も不思議と神々しく見えてくる。


「いえいえー、こちらこそありがとうね。これで色々試せるー」


 メルはほくほくしていたが、そこでふと思いたったように言う。


「ところでこれの名前はどうするの?」

「名前? メルが決めたらいいんじゃないですか?」

「あらら、それは駄目よ。そこはちゃんと作った人が決めないと」


 そういうものなのか?

 唐突に名前を決めろと言われてもな、酒の名前なんて考えたことないし、どんなのがいいかわからない。

 そこでシアとひそひそ相談。


「……オニ殺しとかでいいかな? なんか汚れを祓うっぽいし……」

「……いやご主人さまがそれでいいならいいんですけど、こっちの人にしたら意味不明ですよ……」

「……じゃあオーガ殺し……」

「……汚れを祓うって意味とは違うような……、あ、バートランさんの技の名前が近くていいんじゃないですか?……」

「……なんだっけ……?」

「……確か破邪(マリスベイン)です。マリスが悪意とか敵意とかで、ベインは毒とか破滅の元とかそういう意味ですが、古くは殴ったりとか殺すとかそういう意味ですよ……」

「……なるほど、でもそこまでいくとちょっと大仰だな……」


 どうしようか考えていたところ、部屋の隅に転がしておいたギーリスがうめきながら起きあがった。


「うぅ……、なんだこれは、二日酔いか……」


 ギーリスは苦悶の表情を浮かべながら頭を抱えて言う。

 そりゃあんだけべろんべろんになってればな……。


「これはたまらん……、迎え撃つ必要がある」


 と、よろよろするギーリスが近寄ったのは瓶に入った謎の酒。

 ギーリスはポケットからマイショットグラスを出し、謎の酒を注ぐとさっそくぐいっとあおる。

 すると――


「ふぉぉぉぉ――――うッ!?」


 突然の奇声。

 ギーリスの体からは冬場の風呂上がりみたいな湯気(?)がもくもくと立ち上り始める。

 いや、そればかりか外見にも変化があった。

 体がぎりぎり絞られるように軋み、だらしないおっさんの代表みたいだった表情も引き締まり、しかめっ面が似合うダンディなおっさんへと変貌していったのだ。


「長い……、あまりにも長い夢をみていたようだ……」


 何やら言いだす。

 今まで寝てたからそりゃそうだろう。


「味については……、正直なところわからないと言うしかない。味覚よりも先に体が反応してしまうからだ。圧倒的な心地よさ……、表現が難しい。ぎりぎりまで我慢していたがどうにもならなくてそこらの路地裏で立ちションベンしたときの百倍とでも言えばいいのか。とにかくこれまでに感じたことのない、えもいわれぬ快感に圧倒されてしまうのだ。エルトリアの諜報員として諸国を渡りあるき、そのついでに各国の酒を堪能した私であってもこれほどの衝撃は初めてだ」

「おいあんたえらいこと暴露してんぞ!? 酔っぱらったままか!」


 凛々しい表情したところで酔っぱらいは酔っぱらいか。

 まあ妙に聡いところのあるおっさんだったから何かあるとは思っていたが、そういう人だったんだな。


「感動をもう一度……」


 ギーリスはさらに一杯あおるが、今度は変化がなかった。


「何故だ……!?」


 困惑するギーリス。

 メルはそんな酔っぱらいを眺めてふと考え込み、それから言う。


「たぶんあれね、外傷の回復と一緒に起きる変化なのよ。ふふ、一つ理解が深まったわ」


 自主的な被験体が居てくれたことにメルはご満悦である。


「つまり回復ポーションとしての効果が現れる状況で使うとついでに心と体も回復……、回復? まあなんか変化する、と」


 どんな状況で使うのだろう。

 まあちゃんと怪我の治療に使えるし、気分がリフレッシュして肉体も成長するなら戦闘中に使えばより効果は高い……のか?

 逆に日常的に使う場面は思い浮かばないな。

 酔っぱらいの意識がはっきりするにしても、怪我をしていないといけないから……、酔っぱらって喧嘩した後とか?

 ふむ、ろくでなしが真人間(?)になる酒か。


「んじゃ名前は『悪漢殺し(ピカロベイン)』だな」


 謎の酒の名前が決定。

 それを聞いたメルはなにそれと大笑いだった。


※文章がおかしかったせいで、アルコールと下剤の割合がおかしくなっていたのを修正しました。

 ありがとうございます。

 2019/02/06

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/19

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/13

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/11/10


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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず話の展開が面白くて飽きません 読み進めるのが毎日の楽しみのひとつです [一言] 丁度すぐそこ(同じ町)に良い感じの性格なデブがいますね、ワクワク
[一言] このギーリスさん、実はケイン氏と関係あったりしません?リトルジョー繋がりで。
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