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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
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第427話 13歳(冬)…新年

 十二月も半ばとなったその日、アレサがもじもじと言いにくそうにお願いをしてきた。


「レイヴァース卿、聖都で行われる新年を祝う祝祭に参加していただけないでしょうか……」


 いつもなら「ぜひ是非ください!」とニコニコと伝えてくるようなお願いだが、おれが屋敷で年越しパーティーを企画していることをよく知っているということもあって、さすがにこれは誘いにくいと思ったのだろう。


「唐突ですね……」

「申し訳ありません。聖都も唐突に思いついたことのようで……、ああ、もちろん急な申し出ですから、予定が合わないと断っていただいてけっこうです」


 アレサはそう言うが、ルーの森の一件では聖都にはとてもお世話になった。そして今は領地の屋敷の管理までしてくれている。

 なのでこれは引き受けざるを得ない。

 が、しかし……、屋敷の年越しパーティーがなぁ……。

 おれが居ないとクロアやセレスが残念がるはずだ。

 きっと残念がる。


「聖都にはお世話になっていますし、参加しようとは思うのですが……、あ、相談なんですが、ぼくが聖都へ行くのは何時頃からとか融通をきかせてもらうことは出来ませんか?」


 年越しパーティーをちょっと前倒しに始め、途中でおれは抜けて聖都へ行くという感じにしてもらえると助かる。


「はい、それはレイヴァース卿の望むように。ちょっと挨拶に来て頂けるだけでも」


 おれの提案にアレサはようやく笑顔になった。


「ではそのあたりのことを詳しく決めないといけませんね。ところでぼくは聖都へ行って何かするのでしょうか?」

「いえいえ、レイヴァース卿は聖騎士たちが担ぐ輿に乗って頂くだけでけっこうですから」


 ……ん?


「輿……? 聖騎士の人たちはぼくの乗った輿を担いで……、どうするんです?」

「都市中を練り歩きます。これにより人々はレイヴァース卿のお姿を目にすることが出来るのです。もし叶うのであれば、レイヴァース卿には集まった人々に向けて雷撃を放って頂けると……」

「どんな奇祭だよ!?」


 思わず突っ込んでしまった。

 これはよく話し合う必要がありそうだったので、おれはそのままアレサを連れて聖都に向かった。

 なんとか新年を迎える祝祭を奇祭へと変貌させてしまうことを阻止できた。


    △◆▽


 大晦日のその夜、おれは屋敷が年越しパーティーで賑わうなか後ろ髪を引かれる気分を感じつつもアレサを伴って聖都へ向かう。

 べつにいいのに、シアとミーネもおれに付きあった。


「ご主人さまですからねー、うっかり変なことに巻き込まれるかもしれませんし」

「そうそう」


 二人の反応、心配してもらっているのに何故か悲しい。

 聖都では政庁前の広場に人々が集まり、無事今年を終えることが出来ること、そして新年を迎えることが出来ることを善神に感謝しながら年が改まるのを待っている。

 おれの役割は新年になったところで大神官からの有り難いお言葉の後にちょっとお話をする程度のこと。

 アレサに確認をしていなかったらおれはこのあと輿に乗せられ、聖都中を巡って雷撃をぶっ放し続けることになっていたかも知れない。

 確認は大事だとしみじみ思った。

 聖都の祝祭は滞りなく進み、大神官から紹介されたおれは無難なことを言ってお茶を濁した。

 そのあと神官や聖女たちに拝まれたりしたが、ひとまず相手方の顔は立てたということで聖都を後に。

 舞い戻った深夜の王都エイリシェ。

 普段であれば静まりかえっているところだが、今宵ばかりは家々にまだ明かりが灯り、道行く人も多い。


「去年も色々あったわね。一昨年もあったけど。今年はどうなるかしら?」


 屋敷へ戻る道すがら、ミーネがそんなことを言いだす。


「ふふ、きっと何かあるんでしょうね」

「ですねー」

「頑張ります」


 諦めたように同意するシアと、奮起するアレサ。

 なんでそう何か事件が起きるみたいなことを言うんですかね。

 なんとなく責任を感じて切ないんですが。

 おれが密かにしょんぼりしていることなど知るわけもなく、いや、そんなことそもそも関係ないのかミーネは楽しげだ。

 そして何を思ったか、まとまって歩いていたおれたちの輪から小走りに前へ出て、そしてふり返る。


「今年もよろしくね」


 そう言って笑うミーネ。

 付きあってくれる、と言うことか。


「こちらこそよろしく」

「はーい、わたしもよろしくー」

「今年もどうぞよろしくお願い致します」


 深夜の帰り道でのご挨拶だった。


    △◆▽


 一月十日は冒険の書の大会。

 前回は記念すべき第一回ということもあって優勝者チームとおれの特殊セッションがあったりしたが、今回からは普通に優勝者を讃えて終わりである。

 邪魔な爺さんは解説に回したので大会を荒らされずにすんだ。

 おれは今回から設けられた大人の部、子供の部という枠組みそれぞれの優勝チームに祝福の言葉を贈り、そのあと閉会の挨拶で三作目は今年の秋ごろに発売予定と告知した。

 そして大会を無事終えることが出来てから数日経過したその日、リィが壊れてしまった『簒奪の腕輪』の代わりを持ってきた。

 緩やかなふくらみを持つ厚めの楕円金属版。

 山になっている側は何もなくのっぺりとした状態だが、裏側は何か紐のような物を通すように加工されている。


「腕輪じゃないんですね。これは……、額当て?」

「いや、ベルト留め」


 ああ、なるほど、バックルか。

 しかしけっこうの大型バックルになるな。

 さすがに仮面ライダーほどでは……、ん?


「リィさん、ベルト留めにしようという発想はご自分で?」

「いや、シアが薦めたから」


 あのボケ、ミーネが少しの間クェルアーク家で過ごすからお邪魔させてもらうとかなんとか言ってセレス連れて出掛けたから、なんかおかしいとは思っていたが、逃げやがったかチクショウめ。

 ま、まあ幸い、これは服に隠れる物だ。


「では普段はベルト留めとして身につけておくんですね。使う場合はどうするんです? またあのシャロ様の合い言葉ですか?」


 シャロ様には悪いが、あの『すべての親を殺せ。すべての親となるものを殺せ』というキーワードを人前で言うのはちょっとアレなのだ。


「いや、合い言葉は変えた。あんまりにもアレなんで」

「そうですか」

「新しいのは『さらば古きものよ』だ」

「………………」


 おれはしばし額を押さえたのち、リィに尋ねる。


「誰の提案ですか?」

「ミーネ」

「……」

「最初は『チェンジ! オーク!』にしようとか言ってきたけど、べつにそれでおまえがオーク仮面になるわけじゃないしな」

「……、ええ、あれは神が回収しましたからね」

「あ……、ああ、うん、そう聞いたっけな」

「でももうちょっと無難な感じの合い言葉にしていただけていたら……」

「いや師匠のやつよりだいぶ無難だろ。つか師匠、何を考えてあんな合い言葉にしたんだか」


 一つため息をついたあと、リィは『簒奪のバックル(仮名)』がちゃんと機能するかどうか確認してくれと言う。


「何か変わったところはあるんですか? 効果のある時間が延びたりとか……」

「いやそれはそいつじゃどうにもならないよ。お前がまた神から祝福を貰ったら自然と伸びるんじゃないか? どれくらいかはわからないけど」

「あー、そうですね……」


 納得し、それからおれは簒奪のバックルを起動させた。

 なんか無駄に光るバックルは――


「……? ――ッ!?」


 うっそだろこれ!


「ちょっとリィさんなんですかこれ!? 意味あるんですか!?」

「特に無い。シアとミーネが提案したからそうした」

「あ・い・つ・らぁ……ッ!」


 おれは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐な金銀をシバかなければならぬと決意した。

 だがその前に確認だ。


「リィさん、これって替えは!?」

「ねえよ」

「じゃあすいませんが作り直してもらうことは!?」

「それは出来る。三ヶ月くらいはかかるけど」

「うぼあぁ――ッ!」


 しばらくはこれを使うしかないのか!

 これを!

 これを!

 使う機会が無いことを切に願うぞおれは!

 そして怒りさめやらぬ後日、ほとぼりが冷めただろうとのこのこ帰ってきた金銀を正座させ、その正面にはハリセンを持ったおれ、背後にはメイスを持ったアレサにスタンバイしてもらった。


「いや、ほら、わたしはただライダー的な要素とかあったらいいなと思ってちょっと提案してみただけなんです。そしたらミーネさんがこんな感じにしようって言って……」

「ちょ、シア!? なんか私ばっかり悪い風に言うのはどうなの! シアだってじゃあこういうことは出来るかってリィに提案してたじゃない!」


 始まる責任の擦り付け合い。

 やがて二人がそれに疲れてきた頃、始まるおれの説教。

 これは事情などさっぱりわからないものの、いいかげん可哀想と見かねたセレスが許してあげてとお願いしてくるまで続いた。


    △◆▽


 二月の始めエイリシェで行われるニバル祭。

 オーク仮面なりきりセットの売れ行きは残念なことに今年もよかったようで、町にはオーク仮面の恰好をした子供たちが走り回っており、故におれはお家に引きこもっている。

 そんなおれの元にティゼリアから手紙が届いた。

 アレサのことを相談する手紙を送っていたので、その返信かと思われたが……、妙に手紙に厚みがある。

 いったいどんな回答が来たのかとおれはおののきながら開封して目を通したのだが――


「……?」


 いざ目を通してみると、アレサについてのことはまったく書かれておらず、代わりにエルトリア王国に関する情報が綴られていた。


「エルトリアに動きがあったのか」


 元宮廷魔導師に乗っ取られ、不気味な沈黙を保ち続けてきたエルトリアだが、とうとう変化があった。

 ティゼリアの手紙はそれについての詳細な報告書に近い。

 そして手紙の最後には、こちらに来て協力してくれないかというお願いが……。


「はぁ……」


 手紙を読み終えたおれはまずため息。

 これは行かないわけにはいかないか……。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/02

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/05


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