表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
426/820

第419話 13歳(秋)…取材旅行と領地訪問(領地編)

 ベルガミア王都の観光を終え、次に向かうは我が領地。

 シャンセルとリビラは久しぶりの故郷だし、残って家族と一緒にいてもいいんではないかと思ったが普通にこっちに付いて来た。

 二人はなにやら苦行を耐え抜いたような、疲れ果ててはいるがほっとした顔である。

 滞在した二日ほどあまり姿を見なかったのだが、いったい何があったのだろう?

 もしかしたら減るかな、と思われたレイヴァース家御一行であったが、減るどころかむしろ一名、ユーニスが増えた。


「よろしくお願いします!」

「えっとー……、あ。うん、よろしくな」

「おいダンナ、なんで一瞬こっち見た」


 王子をそんな連れ回していいのかと思ったものの、そもそもその姉が居るんだし細かいことはいいか、という思考の流れがつい動作に出てしまったらしく、シャンセルが威嚇してくる。

 決してシャンセルが王女であることを忘れているわけではない。

 ただ、うっかり失念することがちょくちょくあるというだけのことなのだ。

 王都ピアルクを出発しての旅は豪華で有意義なものになった。

 ベルガミア国王の計らいで用意してもらった三台の大きな馬車で移動し、夜が近づけばミーネが魔術で土の家を造り、温泉を作り、溜め込んだ料理を振る舞ってくれるからだ。


「美味しいでしょ! まだあるわよ! さあさあ!」


 料理を溜め込むのも楽しいが、それを放出して皆に食べてもらうこともまた楽しいらしく、ミーネは大盤振る舞いであった。

 ただ、ミーネは自分の胃袋の感覚で料理を出してくるため、だいたい量が多すぎ、おれと父さんとデヴァスは食後、お腹をぽんぽこぽんにしてダウンするという状況が続いた。


「なんかね、とっても楽しくて気分がいいの。あなたの屋敷にね、またいつか行こうと思っていたのがやっと叶うし、みんなと一緒だし」


 道中、ミーネはすこぶる上機嫌。

 いつの間にか習得し、音程まで操るようになった連続指パッチンで『猫踏んじゃった』などを演奏して聞かせ、ちびっ子たちを喜ばせていた。


「ご主人さまー、ミーネさんてなんであんな無駄に才能豊かなんですかねぇ……」

「なんでだろうなぁ……」


 クロアとセレスの興味を持って行かれ、おれとシアは僻んだ。


    △◆▽


 領地の森――特にベルガミア側のワロス伯爵領は訪れたこともない状態であったが、ベルガミア国王が気を利かせて屋敷までの道が作られ、森に呑み込まれないようにと定期的に整備もしてくれていたらしい。道についてはレイヴァース男爵領まで及ぶため、このあたりのことは母さんが聞いていたようだ。

 そして到着した久しぶりの我が家。

 おれが懐かしい感覚を覚えるなか、クロアとセレスはユーニスや犬猫ヒヨコを巻き込んできゃいきゃいはしゃぎ回る。

 生家に帰ってきた、という感覚によってテンションが上がっているようだ。

 一方、家族だがまだここに来たことがなかったコルフィーとリィはしみじみした感じである。


「ここが……、みんなが暮らしていた家なんですね。これで私もそこに加わることができます。……あ、なんか緊張してきました」


 コルフィーは何故かちょっと腰が引けた感じだ。

 するとそれを聞いたミーネが言う。


「私が案内してあげる! 鍵かして!」


 家族じゃないけど勝手知ったるお嬢さんはおれから鍵を奪い、コルフィーの手を引いて一番手で屋敷に突撃。そしてそれを見たクロアたちも続いて突撃。すぐに家の奥からきゃっきゃと楽しげな声、それからドタバタと移動する音が聞こえてくるようになった。

 そしてもう一人、初めての訪問となるリィは静かに屋敷を眺め、側にはにこにこした母さんが居る。


「ここがお前の家か」

「そうそう、貰い物なんだけどね」


 高名な魔導師、そして冒険者であった母さんを国内に留めようとザナーサリー国王が与えた領地と屋敷。

 母さんがそう簡単に説明するとリィは笑う。


「はは、国王は先見の明があったんだな。少なくとも、後世にはそう伝えられるだろう」


 ふむ、それがなかったら武具の神の祝福欲しさに武器製作の依頼をしまくっているダメな王として語り継がれていたかもしれないな。


「さて、じゃあひとまず……、掃除かなぁ……」


 久しぶりの実家という感動が薄れてくると、次第に目についてくるのは周囲の様子。

 屋敷の外観はそう変わりないものの、さすがに森の中、周辺は落ち葉や雑草が物凄いことになっている。

 そこでおれは簡単な清掃と、屋敷が傷んでないかの点検を行うことにした。

 皆が役割分担で清掃を始めるなか、おれは建物に異常がないかまずは外観から点検を行う。

 そしたら箒片手にぶつぶつ呟きながら考え込むアレサを発見した。


「……なるほど、これは管理する者が必要ですね。ここは猊下の生家、聖都が全力をもって維持管理を……」

「あのー、アレサさん、ちょっといいですかね?」


 アレサは心の声が漏れていた。

 いや、漏れていてくれて助かったと言うべきか。

 ほっとくと大ごとになりそうだったので、アレサには一応、近く(?)にあるタトナトの町の冒険者ギルドにときどき様子を見に来てもらうよう依頼してあることを伝える。


「しかしこのありさまです」

「維持管理まではお願いしてないから……」

「では!」


 聖都側は喜んで管理するとアレサは猛烈に押してくる。

 最終的には『管理を任される栄誉を賜った感謝を金銭として奉納させて頂くのでどうぞお願いします』とかいうわけのわからないことになったので、屋敷に住んでもらいながら維持管理してもらうようお願いすることになった。

 とにかく収拾を付けたかったのだ。

 なし崩し的に聖都から人が来て住み込み管理人になることが決まってしまったが……、どうなるんだろう?

 上機嫌のアレサは清掃の手伝いを始めたので、おれは引き続き屋敷の周囲をチェック。

 異常……無し!


「よし、じゃあ妖精たちが来られるようにするか」


 クロア、セレス、ユーニスが見守るなか、玄関横の壁に妖精たちから預かった新しいリースを設置する。

 少しすると――


「ひゃっはーッ! 新鮮な森だーッ!」


 初めて出て来るときは何か叫ぶ決まりでもあるのか、ピネが嬉々として飛びだし、他の妖精たちもそれに続いてわらわら溢れだす。


「お! ユーニスいんじゃん!」

「ピネさん、こんにちは!」


 ちょっとぶりの再会となるユーニスは妖精たちに好意的である。

 なんとなく気づいたのは、クロアやセレス、ティアウルやジェミナも妖精と仲が良い――、つまり、子供は妖精と仲良しになれるということだ。

 たぶん無邪気で精神年齢が近いために意気投合しやすいのではないかと思う。

 妖精たちが飛びだしてきたあと、屋敷に住み着いている精霊たちも光の帯となってゆらゆらこちら側へ溢れだし、散り散りになって建物や森へと溶け込んでいった。

 屋敷では光を抑えて存在感を消していた精霊たちだが、誰も来ない森ということもあって光りっぱなしだ。

 これが目撃されまくったら、精霊王とまではいかなくとも精霊の森とか呼ばれるようになるかもしれない。

 それからも清掃作業は続き、一段落した頃にはもう夕暮れ時になっていた。

 屋敷は全員が休めるほど広くないため、ミーネにお願いして土の建物を作ってもらい、誰がどちらで休むかの振り分けをする。


「明日はあの取ってきた葉っぱを揚げたのが食べたいわ」

「わかった。希望には応えよう」


 これでひとまず泊まる場所はどうにかなったわけだが、ここで予想外の一悶着。

 今回の遠征において、メイドたちの立場は『雇われ人』ではなく『友人』というつもりでおれはいた。

 なので屋敷に泊まれる者を一人でも多くしようと、おれは進んでミーネの建てた土小屋に泊まり、自室を開放したのである。

 これによって合計三部屋空きができ、メイドたちも三名屋敷の方へ泊まれることになったのだが、そんなにちゃんとした家屋で眠りたいのか屋敷の外で軽い争奪戦が始まった。

 やがて聞こえてきたリオのひときわ大きな声。


「ふはははは! 私の勝ちですね! これはあれです、日頃の行いが良かったのでしょう! もしくはたまには私も目立たせてあげないと可哀想と哀れんでくれた神さまの思し召し! というわけで皆さんお休みなさい! 良い夢を!」


 ふむ、どうやらリオが優勝(?)したらしい。

 負けた者たちからの罵倒などものともせず、リオは高笑いで応えている。

 静かな森にて夜が更けるなか、我が家は久しぶりの賑やかさに包まれていた。


    △◆▽


 実家に戻っての翌日早朝。

 おれは妖精たちを同行させて森に入り、異変が無いか確認しながらどの辺りに何があるのかも一緒に教えていく。

 重要なのはメープル的なシロップが作れるリカラの木の群生地。

 ここにも妖精の輪を設置してもらい、王都の屋敷へ樹液を運んでもらうのが妖精たちに任せるお仕事のうちの一つ。

 ただ樹液を集めるのは寒暖の差が激しくなる季節――冬の終わりから春先だけなのでまだしばらく猶予がある。それまでは森を散策してもらって、見つけた森の幸を適当に見繕って運んで来てくれればそれでいい。

 ひとまず森の散策を終えて屋敷へ戻ると、玄関前にぬいぐるみたちがあふれていた。


「……ジェミナさんや、この状況の説明をしてもらえるかね?」

「ん。ぬいぐるみ、頑張って頼んだ。ティアナ校長に」


 屋敷の掃除をしてくれていたジェミナに通訳を頼んだところ、ぬいぐるみたちはティアナ校長の手を借りて妖精の輪へ押し込んでもらったことが判明。

 なるほど、姿が見えないクマ兄貴は妖精の輪に入れなくてお留守番か。

 そう思っていたら猫がやってきておれの足にしがみつき、にゃんにゃん何か訴えてきた。

 それを聞きつけたのか現れたのはプチクマ。

 うんうん頷き、それからジェミナに向かって両手をジタバタさせる。


「主。クーエル、クーエル」


 伝言ゲームされなくてもなんとなくわかったが、やっぱりか。

 まあクマ兄貴だけのけ者というのもあれだと、おれはクマ兄貴を召喚する。

 バチコーンと雷撃と共にクマ兄貴が現れ、おや、とクマ兄貴が戸惑った瞬間にはネビアは飛びついていた。

 そんなにクマ兄貴のお腹の上で寝るのは心地よいのだろうか?

 やがてミーネに引き連れられ森へ探険に行ったクロアとユーニス、そのお守りとして同行した父さん、リビラ、シャンセルが帰還。


「いっぱい取ってきたわ!」


 と、ミーネが妖精鞄から出したのはたくさんの山菜。

 昨日、山菜の天ぷらを作ると約束していたしな。

 そこで急遽、昼食は屋外での天ぷらパーティとなった。

 さすがに採ってきた山菜だけでは足らず、持ってきた食材も天ぷらにして皆で楽しんだ。


※誤字と文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/05


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ