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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
6章 『深緑への祝福』編
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第413話 13歳(秋)…ロシャとリィ

 シアの居なくなった屋敷で取り組まれたのは、セレスの猫語をなんとかやめさせることだった。


「それをやめさせるなんてとんでもない!」


 と、どっかの姫さまから抗議を受けたが、そんなの知ったことではない。

 シアが旅立ったのは恥ずかしさのあまり、というのが一番の理由になるが、それとは別に自分が居てはいつまでもセレスがにゃんにゃん言うのをやめないのではないか、という危惧も含まれていた。

 しかし元凶が居なくなったからと、ここで唐突に皆が普通の態度に戻ってしまうのは、セレスに突然仲間はずれにされたような感じを与えてしまうことだろう。

 そこで矯正は数日をかけて段階的に行われる。

 この作戦で鍵になるのはナチュラルに「ニャー」と言っているリビラ。

 少しの間、リビラにはセレスの相手をお願いし、完全な猫語から人語へと戻るきっかけを作ってもらおうという計画である。


「あら、そんなニャーだなんて……、わたくし、そのような喋り方はいたしませんわよ?」

「いや、リビラさん? 唐突に喋り方を変えられてもね……」


 リビラがお嬢さま言葉を話すと違和感がひどい。

 ほら、シャンセルなんか不安そうな顔で尻尾丸めちゃってるじゃねえか。


「なんでニャー! ニャーが慎ましく喋っちゃいけないのかニャー!」


 あ、戻った。

 シャンセルもほっとした顔で尻尾ぱたぱた。


「ともかく頼むよ。このままにしておくと、帰ってきたシアがそのまま出て行きかねない」

「ニャーさまが頼むなら仕方ねーニャー……」


 ひとまず引き受けてもらえたが……、場合によってはセレスの語尾に「ニャー」が付くようになる可能性もあるわけで……、まあそのときはそのときだ。

 まずはにゃんにゃんとしか言わない状況の改善を優先しよう。


    △◆▽


 セレスの猫語矯正はどっかの姫の妨害を受けつつもリビラによって地道に行われる。

 そんなある日、おれはメイド姿のリィと一緒にロールシャッハに会いに向かった。

 これに付き添ってくれるアレサもメイド姿なのはルーの森で破損した法衣の修繕待ちだからである。

 アレサは今回も精霊門前で留守番。

 さすがに申し訳なくなってくるが……、今回もちょっと聞かせたくない話をする必要があるので仕方ない。

 一応、誰に会いに行くかは伝えておいた。

 シャーロットと共に行動していた精霊で、現在は冒険者ギルドを裏側から支えているロールシャッハ。

 いずれ会わせると約束して、おれとリィはシャロ様の隠れ家へ。


「おいこらロシャ! お前なんだよその姿!?」


 若かりしシャロ様の姿をしているロールシャッハを見てリィが言う。


「本来の姿は威厳がないからな……」

「まあ、そうか……」


 気まずそうにロールシャッハが言うと、リィはそれで納得する。

 そんなに威厳がない姿なのだろうか?


「で、リィ、お前こそその姿はなんだ?」

「メイドだからメイド服を着てるんだ。なかなか似合うだろ?」

「まあ、似合うが……、お前がメイドだと……?」


 それから二人は軽口の叩き合いをしたあと、互いにどうしていたかを話し始めた。

 ロールシャッハはギルド運営の苦労話で、リィの話は今回の出来事へと繋がる。


「シャロの弟子ともあろう者が、情けない……」

「し、仕方ないだろ。まさか悪神の使徒になって、あんなことするほど頭が悪いとは思わなかったんだから」

「ろくでもない性格なことはわかっていたんだろう? ならさっさとお前が首長になっておけばよかったじゃないか」

「やだよ面倒くさい。それに何十年かにちょろっと帰るだけの奴がどの面下げて首長になるってんだよ」


 冗談じゃねえ、とリィは手をひらひらさせる。


「まあリィさんが首長になっていたら、イーラレスカはさらに嫉妬を燃やして面倒な事態を引き起こしていたかもしれませんし……」

「そうそう、そういう奴なんだ」

「はぁ……、捕まえて聖女に矯正しておいてもらいたかったな。一応ギルドでも指名手配してあるが、今のところ足取りは不明だ」

「んー、あいつが頼れる外部の奴ってったら、それこそ手を貸した魔導師二人だろうけど……」

「その魔導師についての情報はまったく無いのか?」

「無いな。ローブ着て仮面で顔を隠していたから」

「あ、それなんですが、実は歳くってる方だけ予想がつきます」

「そうなのか?」

「はい。二人は精霊門を使ったんですよね? 聖都は世界中各地にある精霊門の記録をあたったそうです」


 この行動の早さと徹底具合、イーラレスカをとっ捕まえようとする聖都の本気具合がよくわかる。


「じゃあ……、それで魔導師が誰かわかったのか?」

「いえ、記録はなかったそうです」

「ん? じゃあわかんねえじゃん」

「あ、いや、違うぞリィ。記録を調べられない場所が一箇所あるんだ。お前は森に閉じ込められていたから知らないだろうが、現在エルトリア王国がカロランという魔導師によって乗っ取られた状態なんだ。そして精霊門が閉ざされている」

「ってことは、魔導師の一人はそのカロランってわけか」

「聖都はそう予想しているようです。カロランは奴隷法違反の疑いもあり、元々どうにかしなければならないと考えていたようなので……、いずれなにか行動を起こすかもしれません」

「なるほどな。イーラレスカもそのときに見つかるかも、か」


 現段階では迂闊に手出し出来ないため、イーラレスカと魔導師についての話はここまでに留め、話題はリィの今後についてに移る。


「しばらくはこいつの屋敷でやっかいになる」

「まあそれは……、その姿を見ればな……」


 大丈夫なのか、とロールシャッハが目で尋ねてくる。


「本格的にメイドをさせるわけじゃないんですよ。妹がせがんでしまったので、リィさんはそれに付きあってくれているんです。リィさんにお願いしたいのは神の恩恵を制御するための魔道具の製作ですから」

「あ、そもそもそういう話だったな。いや、ちょっとこいつのメイド姿に驚いて頭から消えていたよ。で、リィ、作れるのか?」

「難しいな。師匠とは事情が違う。最悪、一回きりの使い潰しも考えるが……、まあこれから相談しながらじっくり考えるさ」

「ふむ、ここにはシャロが残した物がある。ちょうどいいことに整理する機会があったから、ある程度把握している。手に入りにくそうな物があったら声を掛けてみてくれ」

「ああ、そうするよ」


 二人は和やかな雰囲気になっている。

 困ったな……。

 確認したいことがあるけど言い出しづらい。

 しかしそこでロールシャッハがおれに話を振る。


「さて、ではあまり愉快ではなさそうな話を聞くことにしようか」

「え?」

「あるんだろう? 前回のようなのが。そのうちミネヴィアやアレグレッサも連れて挨拶に来ると言っていたのに、今回は見送ったのはそういうことだろう?」

「あー……、はい」


 ロールシャッハはとっくに察していたようだ。


「今回は悪神や魔王とは別で気になったことです。一つ確認したいのですが……、シャロ様を看取った人というのは存在するのですか?」

「「……!?」」


 二人はまず息を呑み、やがてロールシャッハが口を開く。


「おそらく居ない。シャロは私に後を託して旅立ち、しばらくして死期を悟ったのか一人霊廟へと籠もった」

「そうですか。では、シャロ様が死んだことを確認した者は居ないわけですね?」

「霊廟を突破した者がいれば話は別だろうが……、おそらくシャロの元へ到達できた者などいないだろう」

「そうですか……」

「なあなあ、どういうことだ?」

「前回のエミルス、今回のルーの森、ぼくはシャロ様が延命――、いえ、叶うならば若返りを望んでいたことを知りました。しかし、シャロ様であってもその望みに辿り着くことは出来なかった」


 それは不可能なことであったのか?

 いや、シャロ様は不可能とは思わなかったはずだ。


「ただ、シャロ様には時間が足りなかった。なら、まずはその時間を稼ぐことを考えたとしても不思議ではないと思いませんか?」

「ちょ、ちょっと待てよ! な、なら……、師匠はまだ霊廟の奥底で生きてるかもしれないってのか!?」

「それは何とも言えません。生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない。場合によっては……、その中間という状態かも」

「中間……?」

「はい。ふと思いついたんです。ほら、年老いた大魔導師と難攻不落のダンジョンと化した霊廟。連想するものはありませんか?」

「――リッチか! ……ん? あ、なら君は……、もしかしてロークの言っていたリッチがシャロかもしれないと!?」

「可能性としては、あるのではないかと。ただこれはこれまで聞き知ったことからの思いつきですから、信憑性なんてありません。しかし、シャロ様は魔王が倒せなければ墓を暴けと言い残したと聞きます。何か魔王を倒す武器や道具のような物が残されていると思われるでしょうが、魔王はこれがあれば必ず倒せるといった類の存在でないことはエミルスの出来事ではっきりしました」


 例え何者をも屠る剣があろうと、攻撃どころか近寄ることすら出来ない状態ではどうにもならない。それにあれはシャフリーンの場合というだけであって、魔王はそうなってしまった者の素質により千差万別なのだ。

 すべてに対応できる『武器・道具』など現実的ではない。


「しかし、シャロ様自身が()()であると言うなら、魔王を倒すための知恵を授けることが出来るでしょうし……、場合によってはシャロ様自身が倒すのかもしれません」


 ひとまず思いついたことを伝えたところ、二人は額に手をやって唸り始めた。


「二人はシャロ様の霊廟を訪れたことはありますか?」


 リィとロールシャッハは小さく首を振る。

 そうか、行けなかったんだな。

 まあその気持ちは……、わかる。


「僕はいずれお参りに行こうと考えていました。今は……、早ければ来年あたりに行こうと思っています。よければそのとき、お二人も同行しては頂けませんか?」


 二人はしばし黙りこんでいたが、まずリィが長い深呼吸をして言う。


「そうだな。行くよ。一緒に行く」

「私も行こう。何が待つにしても、シャロにもう一度会おう」


 覚悟を決めたように二人は言う。


「私はシャロの霊廟について情報を集めよう。深部を目指すとなればどんな情報でも欲しいところだからな」

「じゃあ私は……、何だ? ひとまず腕輪の代わりを作るのは決定として……、そうだな、迷宮に潜るときに役に立ちそうな道具を作っておくか」


 二人はお参り計画に前向きだ。

 この二人が同行してくれるなら心強い。

 今回訪問した主な用件はこれだけだが、もう一つ、ロールシャッハにお願いしたいことがある。

 今は二人で大まかな計画を話し合ってるし、これが一段落してから話すことにしよう。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/05

※さらに脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/01/23


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