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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
6章 『深緑への祝福』編
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第411話 13歳(秋)…少年王のお忍び訪問

 家に帰って今回の騒動はこれで終わり、とはならず、その日からおれとリィは精霊門でルーの森へと出張するようになった。

 シアは未だ猫化から回復せず、屋敷でのびのびと好きなように振る舞っているが、おれが出掛けようとすると何故か付いてくる。

 向こうでも世話することになるので付いてこなくていいのに付いてくる。

 そんなおれたち三人に同行するのはアレサ、それから遠足気分のミーネと、そのミーネに誘われたクロアだ。二人はそれぞれ猫と犬を連れ、妖精たちと森を探険するのに忙しい。さらに昨日からはシャンセルとリビラの提案でベルガミアのユーニス王子が加わり、そのお守りとして二人もルーの森へ同行するようになっている。

 おれも一緒に遊んでいたいところだが、やることは無くともリィと一緒にいてルーの森側に立ち、交流を持とうとする勢力との話し合いに参加しなければならない。

 要はルーの森の後ろ盾という置物である。

 一応、星芒六カ国が無視できない重要人物だから……、ということだが、そもそもここは聖女たちによって改革されたのだから、聖都が後ろ盾になっているようなものである。しかし聖都としてはおれを立てたいらしく、今回お世話になったおれはその意を汲んで大人しく置物になっていた。

 現在、聖都は精霊門が再稼働したことを受け、アレサ以外の戦隊員四名が案内人となり他の聖女たちをルーの森へ訪れさせている。

 そして来た人はだいたいおれを拝んでいく。

 置物になっているおれだが、あんまり拝まれるのでそろそろ御神体にでもなりそうだ。

 今は主に聖女を始めとした聖都の関係者ばかりだが、いずれはルーの森と自国の精霊門を繋ごうと、他の国々の使者もやってくることだろう。


    △◆▽


 その日はルーの森へ行くのにパイシェも同行することになった。

 理由については向こうへ行ってから、と言う。

 かなり真面目な表情をしていたので、メルナルディア関係で何かあるのだろうと思ったが、まさかおれと会うためにメルナルディアの少年王リマルキスがルーの森を訪れるとは思わなかった。

 案内されたのは新里の、おれたちがルーの森に来て最初に待機させられた小屋。

 もふもふ怪獣どもの被害を奇跡的に免れた小屋の扉前には護衛が一人いるだけだが、おそらく見えない場所にもっと居るのだろう。

 パイシェは室内には入らず、おれとアレサの二人が中へ通された。


「急な申し出に応じていただき、ありがとうございます」


 そう言ったのは、ごてごてと着飾り、全身くまなく布地で覆い隠された子供。

 声を出さなければ少年か少女かもわからなかった。

 他に室内にいたのは年老いた聖女一人。

 リマルキス王の従聖女らしい。


「こんな姿で申し訳ない」

「いえいえ、お気になさらず」


 一応、調べてみるとリマルキス・サザロ・メルナルディアという名前、それからメルナルディア国王という称号が出た。

 ちゃんと本人だ。

 身につけているものは各種耐性のある魔装、それから装飾品である。

 彼の両親――メルナルディア前国王と王妃は暗殺されたと聞く。

 それ故の装備、そして聖女である。

 まだおれより幼いというのに、そんな境遇にあっても国王としてメルナルディアを治めている立派なお子さんだ。


「すでにヴァイシェスから聞いたと思いますが、ここではお互い名乗るのは止めておきましょう。貴方にとってもその方がよろしいでしょうし」


 ささやかな配慮に感謝する。

 リマルキス国王はやけに腰が低く、どうやら何かを強引に要求するような話ではないようだ。


「まあ立ち話もなんです。どうぞ座ってください」

「はい。では失礼して」


 大きなテーブルを挟み、向かい合って座る。


「この場には私と貴方、そして互いの従聖女しかいません。なので立場は気にせず、歳の近い相手として話してください」

「……よろしいのですか?」

「はい、お忍びで来た理由の一つは、立場ある者としてではなく、僕という個人として対話しようと思ったからなんです。ヴァイシェスの報告に目を通すと、どうも貴方には親近感を抱くんですよ。子供ながらに仕事に追われていることや、人々の運命を左右する重要な立場にいること、そういった共通点からなのですが」


 表情はわからない。

 しかしその声の柔らかさから、リマルキスはおれに対し友好的であることがなんとなくわかる。

 リマルキスは自分とおれを近いと思っているようだが、おれは借り物の力と知識のパクリで成り上がっているだけだ。

 その幼さで国を背負って立つリマルキスのような『本物』ではないため、ちょっと申し訳なくなってくる。


「もう一つの理由は、迷宮都市――エミルスでの問題を謝罪するためです」

「いえ、それを謝罪する必要はありませんよ。大きくなった組織をいきなり改革というわけにはいかないのでしょう? 下手にやってしまえばバロットという組織そのものが形骸化してしまう」

「確かに、問題のある研究者を追いだせばそうなりかねません。しかし……、魔王に対抗するための組織の一員、その研究が、魔王誕生の一端を担ったとなれば話は別なのです。もしかしたらバロットという組織を見直し、必要であれば解体しなければならない時期に来ているのかもしれませんね。なにしろ長く続いてきた組織ですから、その澱はひどく積み重なり、少しばかりの掃除では払拭しきれないほどになっているのです」


 その話を聞くだけでも、リマルキスが苦労してるのがなんとなくわかる。

 あの……、なんだっけ、ダメ研究者の処理を押しつけたのは可哀想だったかな?

 性急な改革は強い反発を生む。

 例えば、魔王を倒すための研究をしている狂える研究者を組織から弾き飛ばした場合、リマルキスを恨み、その研究成果をぶつけてこようとするかもしれないのだ。


「謝罪を受けいれます。ですから、あまり事を急ぐようなことはしないでください。見当違いな恨みを買うことになりかねません」

「ありがとうございます。その辺りについては、僕も気をつけています。僕を害そうとする者が現れれば、まず傷つくのは僕を守ろうとする者たちですから」


 やや哀愁混じりな声。

 ホントに苦労してんなこの王様。

 それからおれたちは会話を続けたが、リマルキスが特に何かを要求してくるようなことも、提供しようとしてくることもなかった。

 お互いのことを理解するための言葉のやりとりだ。

 リマルキスはパイシェからの報告だけでなく、直に会って会話をし、おれという人物を感じ取ろうと、そして自分を感じ取ってもらおうとするために来たのだろう。

 相手は星芒六カ国の一国、メルナルディアの国王陛下だが、歳が近く穏和な感じがしたので、ベルガミアのリクシー第一王子よりも話しやすかった。

 自分のペースでこちらに踏みこんでくるのではなく、距離を計り、保ちながらという、おれに配慮してのコミュニケーションの取り方には好感を覚える。

 境遇への同情、親近感、そして好印象と、これを計算しているなら凄いが、そこまで考えずとも自然に会うべきと思って来たならそれはそれで凄いと思う。

 やっぱり本物は違うなーと素直に感心する。


「それから……、これは貴方に相談すべきかどうか迷うのですが、ヴァイシェスがメイドのパイシェとして働く姿を隠し撮りしたと思われる写真が軍の一部に出回っているんです。調べてみるとどうやら大使経由で持ちこまれ、高値で取引されている密輸品のようで……」

「…………」


 おれは申し訳なさすぎて顔を手で覆った。

 いや、おれが申し訳なく思う筋合いは無いような気もするが、しかしその元締めと思われる人物に心当たりがありすぎるのだ。

 苦労してる少年王に余計な仕事増やしやがって……!


「ちょうど良い者がいないということで、急遽ヴァイシェスを派遣することになったのですが、彼の居た部隊はそれからなにかと問題が多くて……、しかしこれで妙な結束が生まれ始めたため、摘発するのもどうかと思うのです。こんなことで大使を処罰したくないというのもあります。ただ、苦労するヴァイシェスがこのことを知ったら悲しむのではないかとも思いまして……」

「元締めと思われる人物によく説教しておきます。写真を欲しがっている人たちには気の毒なことですが、ヴァイシェスさんにはお世話になっていますから、写真の密輸はやめさせます」

「そうですか。では、お願いします」


 と、密輸写真問題の話が終わったところ、外から件のヴァイシェスの声が聞こえてきた。


「あ、シアさん、今はちょっと駄目なんですよ……! もう少し、もう少し待ってください! あぁ、力負けしてしまう……!」


 どうやらにゃん娘が来てしまったらしい。


「すいません、少し席を外していいですか? 妹が来ているようです。今、妹はちょっと特殊な状態になってまして……、言っても聞かないんですよ。このままでは突撃して来かねないので」

「ああいえ、こちらが急にお願いしたことですから。それに僕の方もそろそろ帰還しないといけない時間ですし、ここで終えることにしましょう。今日は話せて良かった。次の機会があれば、もっとゆっくり出来る場所で話したいですね」


 この王様ったら良い子だなぁ……。

 それに比べてうちのにゃん娘ときたら、まったくまったく。

 アレサと共に小屋から出ると、シアとパイシェが向かい合って手と手を組み合わせ力比べをしていた。

 優勢なのはシア。

 パイシェは膝を付かされ、負け寸前になっている。


「こらこら、パイシェさんを困らせない」


 おれが声をかけると、シアはパイシェを解放。

 ぱあぁっと嬉しそうな顔になってこちらへやって来る。

 それから小屋の中が気になったのか、覗きこもうとするのでおれはシアを反転させて後ろから抱えるようにして移動することにした。


「んー……、ん!」

「はいはい。じゃあ好きにしていいから……」


 押されて進むのが気にくわないようで、好きなようにさせたらシアは腕にしがみついてきた。

 好きにしていいとは言ったが、今はちょっと人目が……。

 でもこうなるとおれの力では振り払うのは不可能。

 意地でも離さん、という決意でもあるのか、気がすむまでしがみつかれることになり、おれは不可抗力的にシアのお胸の生存を確認することになる。


「ん」


 そして今度はこっち来いと、シアはおれを何処かに連れていこうとする。


「わかったわかった。……ん? どした?」


 ふと、シアが不思議そうな顔をするのでふり返ると、小屋から出て来たリマルキスと付き添いの聖女が居た。

 事情を知らないとリマルキスの姿は怪しく見えるからな……。

 ふむ、お近づきの印ってことで、あそこまで着込まなくても済むよう、コルフィーと協力して服を仕立ててあげてもいいかもしれない。

 そんなことを考えながらその日はエイリシェへ帰り、さっそくルフィアを捕まえてヴュゼアと一緒に説教した。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/27

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/01

※誤字脱字、文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/04


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