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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
6章 『深緑への祝福』編
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第410話 13歳(秋)…増える居候

 精霊門が使用できるようになったことで、十月に入ってからになると思われていた帰還は一ヶ月短縮されて九月の初めになった。

 増えたメンバーはリィとヒヨコに猫、あと精霊たくさん。

 リィのことは前もって家族として迎えると伝えてあったが、元バンダースナッチのピスカ、それから霊獣のネビアについては説明が必要だ。

 まあ見た目が可愛いからすんなり受け入れられるとは思う。

 そしていざひと月ぶりな我が家に到着したところ、ふとリィに尋ねられた。


「なあなあ、なんかあそこに師匠っぽい像があるんだけど……」


 あ!

 気づいちゃった?

 まあ気づくよね、あんだけデーンと寝そべってたらね。


「そういやこの都市に師匠の像があったよな?」

「ええ、ありますね。実はあれがそうなんです」

「は? いやいや、姿勢がぜんぜん違うって。私が言ってるのはどっかの広場にある、立ってる像だよ?」

「はい、去年までは正門広場で立ってたんですけど、色々あって今はうちで寝てるんです」

「何があったんだよ!?」


 おれが嘘や冗談を言っているわけではないと気づいたらしく、リィが愕然とする。

 おれの遍歴を説明しはしたが、コルフィーを巡る騒動についてはそこまで詳しく話してなかったのだ。

 話したくなかったからである。


「これについてはまたあとで話しますね。込み入った話になるので」

「お、おう、聞くのがちょっと恐いな……」


 いきなりリィを戸惑わせることになったが、とにかくおれたちは屋敷へと帰還した。


    △◆▽


 玄関口でメイドたちにお出迎えされ、そこでまずリィを紹介する。

 そこそこ伝説の人物と化しているので皆はちょっと戸惑いがちだが、リィ本人はあっけらかんとしたもの。


「世間で言われるほど大したもんじゃないから、森の奥からのこのこ出て来たエルフくらいの感覚でいいよ」


 と言われても、すぐに「はい、そうですか」とはいかないだろう。

 ところが話はさらに続く。


「ただ居候するのもなんだし、メイド見習いとして働くからよろしくな!」

『は!?』


 何言いだしてるの、と皆は困惑。

 おれも働く必要なんか無いと言ったのだが、セレスと一緒にメイドを目指すことを約束してしまったようで本人はやる気になっている。


「ひとまず教育係はリオにお願いするよ。ほら、教える相手が居ないって残念がってたし」

「いやいやいや、ご主人様!? リーセリークォートさんに指導って!? さすがにそれは恐れ多いのですが!」


 うーむ、流石に戸惑うか。


「……大丈夫大丈夫、本格的に教えなくても。セレスにつきあってのものだし、雰囲気を楽しみたい感じだと思うから……」


 あたふたするリオにそっと耳打ち。


「……本当ですかぁ……?」

「……うんうん、この屋敷のこととか、教えてあげて。基本的にはおれの仕事を手伝ってもらうことになるからさ……」

「……うぅ、それなら……」


 なんとかリオを納得させ、引き続き居候の紹介をする。

 まずはセレスの首掛け小袋に収まっているピヨ。

 エクステラ森林連邦で暴れた元バンダースナッチのナスカで、今の名前はピスカ。

 精霊なのでうっかり踏んでもたぶん大丈夫。

 それからミーネに抱えられている猫、ネビア。

 霊獣という括りだが、現在のところは風の魔術を使うオスの子猫にすぎない。

 ピヨとニャンは皆に歓迎された。


「おうリビラ、おまえの弟だぞ」

「ンニャニャニャ……」


 シャンセルの意趣返しに、リビラは複雑そうな顔。


「それで御主人様、そろそろシアさんの説明を……」


 と言ったのはサリス。

 紹介をしている間、シアは気ままにみんなにすり寄って甘えていた。

 これについては話が長くなるためひとまず食堂に移動、みんなでお茶しながら説明することに。

 ルーの森で何が起き、そして最終的にどうなったか。


「シアはちょっと猫になってます。一晩したら戻るかと思ってましたが戻りませんでした。すいませんが元に戻るまで付きあってあげてください。気まぐれに威嚇してきたりしますが、基本的には無害です」


 はぁ、と生返事を返すしかないメイドたち。

 ティアナ校長もぽかんとしている。


「甘えてきたら適当に撫でてやるくらいに相手してあげてください。いずれ正気に戻ったとき記憶が無くなっていればいいのですが……、有った場合、シアは落ち込むと思われます。みなさんにはなるべくそっとしておくような、大人の対応をお願いしたいです。これは過去に似たような経験のあるおれからのお願い――、ってシア? 今はおまえのためにみんなにお話してるからちょっと頭をごりごりしてくるの止めような? ああもう、撫でるから、ほら、撫で……、ってなんで噛むんだよ!?」


 おれが真面目に話していようとお構いなしのシア。

 しかしその様子を見たことで、皆はこれは重症だ、と納得してくれることになった。

 説明をしたあと、ひとまず解散。

 おれはリィに屋敷の案内をしようと思ったが――


「リィねえさまはセレスがあんないします!」


 セレスが張りきってしまい、そんなセレスにシアはくっついて行ってしまったのでおれはちょっと手持ち無沙汰に。

 今の内にルーの森で贈られたリクライニングチェアを自室に設置しようかと考えたが、そこで妖精たちから家内安全のお守りを受けとっていたことを思い出した。

 形はリースと呼ばれる花や葉などで作られた装飾用の輪そのもので、あの脳天気な妖精が作ったわりには良い出来映えだ。

 リースは主に室内の壁やドアに飾られる装飾物として使われるものなので、おれは食堂の壁に飾ることにした。

 と、部屋を出ていこうとしていた父さんがリースを飾ろうとするおれをちらっと眺め、視線を戻したものの、今度は愕然とした表情で顔を向けた。


「息子よ! それが何かわかってるのか!?」

「へ?」


 父さんがすっとんできて壁に掛けたリースに手を伸ばすが――


「ひゃっはーッ! 新天地だーッ!」


 リースの輪の中から妖精――ピネが飛びだしてきた。

 そして父さんのおでこに激突。


「ぎゃー!」

「ぐは!」


 ピネは墜落。

 父さんも額にダメージを負い、床に倒れる。

 ピネの出現を皮切りに、リースからはわらわらと妖精たちが飛びだしてくる。

 それはまるで日没後、洞窟から群れをなして飛び立っていくコウモリの群れのごとくである。

 まあコウモリはこんな邪悪な連中ではないが。


「あらあら、なかなか良い家のようね!」

「今日からここは我々の拠点だー!」


 妖精たちは部屋の中央に集まり、わいわい盛りあがっている。

 そうか、あのリースは妖精の輪――ルーの森に繋がる門になっていたのか。

 もちろんそんな話は聞いていない。

 ひとまず、床で目を回していたピネを拾いあげ、話を聞く。


「おいこら、まさか住み着くつもりか?」

「ふふふ、ははは! 住み着く? 違うな、我々は今日よりこの家を支配下に置き、ゆくゆくはこの国を征服するために来たのだ!」

「そうか、支配か」

「そうだ! さあお菓子を捧げるがいい!」


 ピネが言うと、ザナーサリー征服を企む他の妖精たちもならって合唱し始めた。


『おっかし! おっかし!』


 お菓子さえもらえたら征服とかどうでもよさそうな感じだ。

 まあ妖精たちは悪ノリして言っているだけなのだろうが、それをあまり快く思わない存在がうちには居た。


「……あれ? 体が動かない……?」


 ピネがまず異変に気づき、他の妖精たちも遅れて気づく。

 なんだこれ、と慌てるなか、現れたのはジェミナに体を借りた、この地の精霊エイリシェである。


「何か愉快なことを言っている子たちがいるようだね」


 エイリシェの登場に妖精たちの顔色が変わり、代表するようにピネがおれに聞いてくる。


「あの威厳のあるご令嬢はどなたでありますか?」

「彼女は精霊の巫女でジェミナっていうんだ。今はこの地の精霊であるエイリシェが体を借りているよ。たぶん、ここを支配するって言っていたのが気に入らなかったんじゃないかな」

「え、えぇ……、そんなぁ……」


 笑顔のエイリシェに対し、妖精たちの顔色はどんどん悪くなる。


「え、えっと、えっとー……、あ!」


 ピネは言い訳を考え、何か思いついたのかおれを見る。


「ボ、ボス! どうしやす!? このままでは妖精帝国の野望は泡と消えやすぜ!」

「誰がボスじゃ!」


 人を勝手にボスにして責任なすりつけてこようとすんな。


「い、いやー、久しぶりに外に出られたもんでね、ちょぉーっと調子にのっちゃってただけなんですよ。いえいえ、支配だなんて、こんなちっぽけな妖精ですよ? 出来るわけないじゃないですか、ねえ? 大人しくしてますんでここに置いてください!」


 媚び始めるピネ。

 それを確認してエイリシェがおれに問う。


「どうする?」

「ひとまずお帰り願いましょうか。そのあと入口を撤去で」

「ちょちょちょ!? それはないって!」

「「あ?」」

「いや二人して凄まないでよ! ほ、ほら、約束したじゃん! 捜索手伝ったらお菓子を好きなだけくれるって! まだ好きなだけもらってないよ!」


 ここは譲れないのか、そうだそうだと他の妖精たちも声を揃える。


「……約束したの?」

「しました。状況が状況だったので」

「そっかー。でも好きなだけって……、また曖昧な約束しちゃったみたいだね。じゃあ仕方ない、この屋敷に来るのは止めないよ。でもあんまりおいたしたら……」

「ハッ! 胆に銘じるであります!」


 恐い物知らずかと思いきや、そうでもないのか。

 妖精たちのイタズラがすぎるようだったら、エイリシェにお願いすることにしよう。

 さて、皆に妙な客が増えることを説明してまわらねば……。


    △◆▽


 夜、リィにシャロ様の像がなんであんなことになっているか説明した。


「お前、師匠をなんだと思ってんの?」

「いや蔑ろにしているわけではないんです。ぼくがやれって言ったわけじゃないんです。不可抗力なんです」


 ちょっと怒られた。


※誤記を修正しました。

 2018年2月24日

※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/05

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/03/03

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/03/05

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2023/05/09


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