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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
6章 『深緑への祝福』編
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第408話 13歳(夏)…でかい子猫の救出劇

 猫は人を下僕にする。

 そういった意味では、確かに猫は生まれついての上位者である。

 ネビアはイーラレスカにとっての最後の希望であったが、言うことを聞いてもらうためには色々なものが足りなすぎたようだ。

 たぶんそれは徳とか愛情とか、餌付けする長い時間とかだ。

 イーラレスカの起死回生の一手は暴発したが、ひとまずこの場から脱することには成功しているので……、ある意味では素晴らしい選択だったのかもしれない。

 ただ、問題は残されたGネビアだ。

 好き勝手に暴れ出した。

 まあ暴れると言うより、眼下でうろちょろしているエルフたちをオモチャにしようとしているだけだが。


『この森はもう終わりだーッ!』


 逃げまわるエルフたち、喜んで追いまわすGネビア。

 例え家に籠もろうと、超猫パンチで屋根を吹っ飛ばされ、地獄の鬼ごっこは継続される。

 ネビアは完全に逃げまわるネズミを追いまわして遊ぶ猫。

 満腹でも獲物を狩ったり、狩った獲物を弄ぶのは野生の動物にはあまり見られない行動だ。普通の人がそれを目撃する機会と言ったらやはり家猫のそれだろう。元の世界ではシャチとかも――、あ、いや、もっと身近で人間なんてのがいたわ。

 まあそれは置いておいて、空猫がエルフたちをオモチャにして遊んでいる様子をおれは少し不思議に思った。

 が、そう言えばネビアは子猫、まだ狩りの練習をするような段階であったことを思い出す。

 もし成獣であれば今頃本当にルーの森が終わろうとしていたのだろう。


「ふーむ……」


 里を蹂躙するGネビアを眺めていたリィが、すっと腕を伸ばす。


「試しに攻撃してみるな」

「ちょ、ちょっと待って! 待って! あの子はきっといきなりのことで混乱しているだけなの!」


 Gネビアが攻撃されるとなり、ミーネが慌てて止めに入る。


「気持ちはわかるけど、待ってるとこの里、滅ぶんだよね。まあ別に滅んでもいいけどさ、ほっとくのもなんか後味悪いし」

「じゃあ……、私が落ち着かせるから!」

「待って下さいゴールド……!」


 ミーネが訴えていたところ、シアがそれを止める。


「まだ早い……、いえ、今この瞬間に出ていくのは良い予感がしません!」

「いいえシルバー! 私はいたいけなにゃんにゃんが虐げられるのを見過ごすことは出来ないの! だから――行くわ!」

「ああ、ゴールド……! この流れはフラグ……!」


 シアの制止を振り切り、ミーネはGネビアに叫びながら向かっていく。


「ネビアー! 聞いて! もうあなたを苛める奴はいなくなったから落ち着いてー!」


 ミーネの声に反応し、Gネビアはエルフたちを追いまわすのをやめて腰を地面に下ろしての――いわゆるエジプト座り、または三つ指座りと呼ばれる状態でミーネを見下ろす。

 あの後ろ足を折りたたんでお尻を地面に付け、前足をきっちり後ろ足の前に並べた座り方をしている場合、やや落ち着いているものの警戒を怠っていない状態と言われる。


「ネビア! なんか大きくなっちゃってるけど大丈夫よ! うちは屋敷の前に訓練場があるからちゃんと寝られるわ!」


 それおれの家であっておめえの家じゃねえから!


「だから、ね! ネビア! 落ち着いて!」


 Gネビアはミーネをじーっと見下ろしていたが、そこで唐突な猫パンチ。


「ぬぁんでよぉぉ――――ッ!?」


 ミーネは二番星になった。


「無茶しやがって……」

「ゴールドは早まったのです……」


 残念、子猫と飼い主によるハートフルなお話にはならなかった。


「やっぱ試しに攻撃してみるしかねえな」


 ミーネがどっかへ飛んでいったので、リィが再び攻撃態勢になる。

 が――


「リィねえさま、ねこちゃんもどりますか……?」

「う……」


 悲しそうなセレスの様子に戸惑う。


「え、えーっと、あれは子猫がそのまま大きくなったわけじゃなくて、子猫を核として魔素が集まった結果、ああいう形を作りだしているんだ。つまりは……、そうだな、触れる幻みたいなものだ。私が攻撃するのはその幻のところだから、子猫は大丈夫だ。たぶん」


 たぶんリィは核となるネビアを狙い撃つことが出来るのだろうが、セレスの手前、それをやる気はないようだ。


「試しの攻撃だからな。うん。それにほら、好き勝手にさせておくと里が滅んじゃうから」

「はい……」


 なんとかセレスを諭し、リィは再びGネビアに腕を伸ばす。

 すると唐突にリィの腕が炎に包まれた。

 火の魔術か。

 炎は燃え広がっていく様子を逆再生したようにリィの手へと集まっていき、最後はレーザーみたいな閃光になってGネビアの頭を吹っ飛ばした。


「にゃんにゃん!?」


 セレス愕然。

 が、しかし、Gネビアの頭は煙が集まるようにして再生。

 Gネビア自身は何が起きたのかわからないようにきょとんとしている。


「子猫をどうにかしないといけないみたいだな……」

「子猫ですかー……」


 おれとリィはそっとセレスを見る。

 半泣きだった。

 子猫を狙い撃てば解決ですかね、と言えない雰囲気だ。

 んんー……、どうしたもんかな、これ。


「リィさん魔素を集めてネビアみたいに巨大化とかできません? それでこう、抑え込むとか」

「なんで私なんだよ。んなこと出来たらお前にやってる。そういう術も有るには有るらしいからな」

「有るんですか」

「有る。邪術だがな。邪神を崇めるアホどもが大昔にそれで問題を……」


 と、言っている途中でリィが眉間にシワを寄せた。


「これは……、応用? いや、試行実験……、か? ってことは、あの二人の魔導師は邪神教徒……?」


 リィが思索を始めてしまった。

 今はそれどころではないのだが、けっこう深刻そうなので中断もさせづらい。

 新里はどうでもいいけど、ネビアが元に戻らないとセレスが悲しむのでそこはなんとかしたいんだが……。


「レイヴァース卿、ここは私にお任せ下さい!」


 どうしたものかと困っていたところ、名乗りをあげたのはアレサ。


「私があの大きな猫の内部に飛び込み、子猫を回収してきます!」

「内部……!? いや、魔素の塊の中に飛び込んだら体にどんな影響が出るかわかりませんよ!?」

「お気遣いありがとうございます! ですが私ならば大丈夫! もとはと言えばあの女王の処罰に手間取った私の不手際! どうか汚名をそそぐ機会を!」

「いや、アレサさんは充分やってくれましたから……! 聖都に戻って助けを呼んできてくれましたし……!」

「いえいえ、これくらいは当然です! ですからどうか、どうか挽回の機会を与えていただけませんか!」

「わ、わかりました。ではお願いします。無理かな、と思ったらやめてくださいね?」

「はい! 必ずやご期待に応えてご覧に入れます!」


 そしてアレサは像を担いだ聖女四人を引き連れ、Gネビアへと突撃していく。

 アレサがGネビアの内部へ飛び込む隙を作るべく、ティゼリアたちはGネビアの手前で急ブレーキをかけ、くるんと一回転、勢いのすべてを乗せた像をGネビア目掛けてぶん投げた。


『ハレルヤーッ!!』


 放たれた四体の像。

 質量的に壁すらぶち破れそうなそれを、Gネビアは猫の卓越した反射神経によってベチコン、バチコン、と弾き飛ばす。

 結果、善神のありがたい像はエルフたちの家を破壊。


『あぁぁ――――ッ!?』


 エルフたちが悲鳴をあげているが、まあそれはいい。

 この攻撃、Gネビアにはまったく脅威にならなかったが、飛来する像に気を取られたことで隙が生まれた。

 それを逃さずアレサが跳躍。

 たぶん魔法を使ってのものだろう、アレサは凄い勢いで跳び上がりGネビアのお口の中にダイナミック訪問。

 が、次の瞬間――


「あぁ――れ――――ッ!?」


 アレサは凄い勢いで猫のお口から弾き出され、三番星になった。

 ダメだったかー……。


「こうなったらセレスがいきます!」

「セレス!? 待った待った、いま兄ちゃんが何か考えるから!」


 何がこうなったらなんだ、やめてくれ!

 一番星はどうでもよく、二番星、三番星は丈夫なのでいいが、セレスを四番星にはさせられない。


「リィさん! 大変です! よそ事考えてる場合じゃないです! どうにかなりませんかね!?」

「うお!? お前、今、自分が考えるって言わなかったっけ!?」

「考えますけど、専門はリィさんですし、何か助言とか!」

「いやあんなわけのわからないものはむしろお前の専門だろ!?」

「セレスがいきます!」

「「待った待った!」」


 ダメだ、セレスが奮起してしまっている。

 早いとこなにか有効な案を捻りださねば……。


「あ、注ぎ込まれた魔素を吸い出したら元に戻りませんかね?」

「吸い出すってどうすんだよ……」

「そこは……、えっと、シルバーさんや、どうでしょうか!」

「えー、猫ちゃんに影響が無いようにする自信はちょっと……」


 シアの〈世界を喰らうもの〉で過剰な魔素を奪ってやればいいかと思ったが、ネビアもろともになる可能性も有るらしい。


「いやおまえ、こういう場面で活躍するために待機してたんだろ!? だからなんとか!」

「シルバーは引退します。セレスちゃんが悲しむのは嫌です」


 ダメだこのシルバー。

 エルフの里よりもセレスの気分の方が大事だ。

 まあおれもそうなんだが、話はそのセレスが無茶をしかねないので焦っているということなのである。


「エルフの皆さんには避難してもらって、あとは猫ちゃんの気がすむまで暴れさせたらいいんじゃないですか? この里は無くなっても、森が滅ぶわけじゃないですし」

「まあそれはそうなんだけどさ!」


 どうするか話し合っていたところ、セレスはもうおれたちは頼りにならないと思ったのだろうか、バスカーとピヨに話しかけていた。


「バスカー、ぴーちゃん、おねがいです、おおきくなって、にゃんにゃんをとめてください」

「わん!」

「ぴよ!」


 セレスのお願いに一鳴きして応えるバスカーとピヨ。

 そしてバスカーとピヨは大きくなった。

 大きく大きく、Gネビアに並ぶほどにジャイアント化した。


『ちょ!?』


 おれたちが声を揃えて戸惑うなか、ジャイアント化したバスカーとピヨはGネビアに襲いかかる。


『わんわん! わおーん!』

『ぴよぴよ! ぴよよよよ!』

『うにゃーうー! んぎゃるるぼうるおうぶべ!』


 争う三体の怪獣。

 被害拡大!

 うん、だよね!

 そりゃそうなるよね!


『この世の終わりだ――ッ!!』


 エルフたちが絶望のあまり叫ぶ。

 この世とはまた大げさな話だが、この森しか知らないエルフたちからしたらその通りなのかもしれない。

 三体の怪獣はタックルしあって弾き飛ばし、弾き飛ばされを繰り返している。

 もう家は潰れるわ、木々は倒れるわと大惨事であった。


「アークはおおきくなれませんか?」


 セレスはさらに怪獣を増やすべくプチクマに尋ねていたが、プチクマは「無理無理」と首を振った。

 ちょっとほっとする。


「ねえリィ、ちょっと考えたんだけど……」


 と、そこで様子を見守っていた母さんが口を開く。


「集まった魔素をどうにかすればいいなら、ほら、あの森にあった結界を逆転させて、内から外へと出て行くようにしたらどうかしら? その部分だけなら錬成陣みたいなものだし、そう難しいものではないはずよ。それで吐き出された魔素は戻らないように……、シアちゃん、どうにかできる?」

「あ、それなら猫ちゃんも安全ですね」

「うーん、可能だろうけど……、そこまで効果が明らかなものとなると地面に陣を描くだけじゃ足りないぞ? それこそ、魔素の流れを導くような触媒がないと。しばらく陣で大人しくしていてくれなんて言って聞くような相手じゃないから、効果は劇的でないとさ」


 リィが問題提起したところ、傍観していたコルフィーがそっと自分の鞄を差し出した。


「……こ、これならばどうでしょうか。私が心を込めて紡いだ完全な空綿だけの糸……! 完全な、空綿だけの……、糸! 虚糸! 魔力をよく通す、とても貴重な、ききき、貴重なななな……!」


 たぶん本心は提供したくないのだろう。


「コルフィー、いいのか?」

「姉さんの笑顔のためなら……!」


 そうか、姉思いの良い妹だな。


「よし、じゃあいっちょやってみるか」


 リィはコルフィーから鞄を受けとり――、受け……、コルフィーが鞄を握りしめてなかなか離さなかったので、そのうちまた布の都市につれていく約束をすることになった。


    △◆▽


 こうしてGネビアを元に戻す作戦が開始される。

 まずGネビアに注ぎ込まれた魔素を吸い出す巨大魔法陣の構築がリィと母さん、それから虚糸の無駄遣いを防ぐべくコルフィーによって始められた。

 魔法陣自体は印刷するように魔法で地面に描けてしまえるようだが、その線に糸を敷いて強化していくのに時間がかかりそうとのこと。

 この作業はピリピリしたコルフィーの指示のもと、おれとシアも手伝う。

 魔法陣が完成するまでの間、Gネビアの相手をするのはGバスカーとGピスカ。

 クロアとセレス、ついでにプチクマ&クマ兄貴は父さんと一緒にここが落ち着くまで離れた場所へ避難しておくことに。

 残る聖女――ティゼリアたちは恐慌状態のエルフの避難誘導に働いてもらう。

 ミーネとアレサはまだ戻らない。

 まあミーネは無理矢理飛べるし、アレサは瞬間復元レベルの治癒能力があるのでたぶん大丈夫だろうとは思う。

 やがて魔法陣が完成し、Gネビアの誘導を試みる。

 GバスカーやGピヨ、エルフたちの避難を終わらせた聖女四人が参加しての誘導となったが、Gネビアはなかなか魔法陣の方へ来ない。

 何か興味を惹く物を魔法陣に置いたら来るだろうか?

 クマ兄貴は……、あまり酷使しては反旗を翻すか?

 どうしたものかと思っていたところ――


「……こーらぁー……!」


 遠くから二番星の怒声が響いてきた。

 声の方を見ると、そこには竜化したアロヴの背に乗りこちらへとやってくるミーネの姿が。


『――ッ!?』


 怒声が聞こえた瞬間、Gネビアがビクゥッと震えた。

 まだGバスカーやGピヨ、それから善神像を振り回す聖女たちとじゃれて――、ではなく、戦っている最中であったが、身をすくめて急に逃げ腰に。

 悪いことをしたとは思っていたのか?

 ミーネはどんどん迫ってくる。

 Gネビアはてってっと逃走を開始。


「ネビアーッ! こおーらーッ! 逃げるんじゃなーいッ!」


 ミーネがアロヴの背からダイブ。

 風の魔術によって自力でGネビアめがけて突っ込んでくる。


『みゃ……ッ!?』


 Gネビアさらに加速。

 しゃかしゃか四肢を動かしてミーネから逃れようとする。

 ちょうどいいことに魔法陣へと向かって――、いや、おれたちに助けを求めに来たのか?

 ともかくやって来たGネビアが魔法陣に入ったところで、魔素吸い出し効果が発動。

 シアは指示された位置で魔素の吸収にあたる。

 Gネビアは急速にジャイアント状態を保てなくなり、また繭のような塊になる。

 繭は超高速で糸を巻き取られるように、みるみる萎んでいった。

 そして最終的に残った、子猫一匹。

 これで一安心か……?


「こら! ネビア!」

「みゃ……!?」


 変化の様子を見守っていたミーネはネビアが子猫に戻ったところでずんずん迫っていくと、怯えて伏せていたネビアを抱えあげる。


「もう、どうして攻撃したの。なにその可愛い顔。駄目よ、私は怒ってるんだからね」

「みゃー……」


 めっ、めっ、とネビアを叱るミーネ。

 ひとまず事態は終息したようだ。

 やれやれ……。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/27

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/05

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/16

※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/04/22


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