第4話 神との対話4
集まった民衆が「セックス」と大合唱する光景。
その映像のあまりのバカバカしさに我慢できず、おれは全身全霊でつっこんだ。
すると――、だ。
バチバチバチ――ッ!
おれの体から激しい稲妻が放たれた。
稲妻はテレビに襲いかかると、轟音を響かせて木っ端みじんにぶっ壊した。
「んな!? ……な、なんかでた!?」
わけもわからず唖然とする。
ちょっとためしに、稲妻がでたときの感覚を再現してみる。
バチチチッと弱めの電撃がおれの周囲にほとばしった。
「ちょ!? どうなってんだこれ!?」
おれが慌てふためいていると神が言う。
「死神の力の一端ですね。死とは死へといたる現象のすべての解ですから、色々な現象を引きおこすことができます。雷として発揮されたのは雷があなたと相性がよかったからでしょう。なにしろ発電のプロですからね」
「誰が発電のプロじゃ誰がッ!」
ふざけたことを言う神に向かって覚えたての雷撃を放つ!
ぶっとべ神さま!
「ンキャアァァァーッ!」
だが雷撃を喰らったのは死神の奴だった。
神が目にもとまらぬ速さで死神をひっ掴んで引き寄せ、盾にしたのである。
「ヒ、ヒドイ……」
ぷすぷすと煙をあげる死神をひょいっと脇にどけると神は言う。
「なかなかの威力ですね。よほど相性が良いのでしょう。しかしテレビが壊れてしまったのは残念です。あの後いよいよあなたの人生におけるクライマックスだったのですが……、そんなにケロッグ・コーンフロスティでしたか?」
「は?」
意味がわからない。
「つまり〝もぅがまんできなぁい!〟と言うこと――」
「死ねぇ――――いッ!!」
神に再度雷撃を発射!
「ンキャパァァァァァ――――ッ!」
そしてやはり盾にされる死神。
くそっ、神もおれみたいに縫いつけにできたら思いっきり雷撃喰らわしてやれるのに。
「まあ最後まで見届けることはできませんでしたが、これである程度理解してもらえたと思います」
「ああ、民衆に雷撃ぶっぱなして皆殺しにするだろうな」
とてもではないが、あの状況で冷静――というより正気でいられる自信はない。
「つかあの世界って言葉は同じようなものなのか? 民衆なんかセックス連呼しまくってたけど、おかしいとか思わねえの? なに、みんな狂ってんの?」
「言葉はまったく違うものです。ただ今のあなたは少しだけとはいえ神ですからね、言葉くらいどうにでもなるのです。なのでセックスという名前を気にするのはあちらではあなただけになります。むしろあちらの人々からしたら、良い名前と感じる人が多いでしょう」
ということは、素知らぬ顔でいればなんの問題もないということか。
誰もおれの名前が狂っているとはわからない。気づかない。
どうだろう。
どうだろうか?
「ダメだな」
もう一度じっくりと考えてみたが、やはり無理だ。
誰も知らなくても、気づかなくても、おれが知っている。
この痼りは、たぶんおれを殺す。そう思う。
「やはり気に入りませんか?」
「気に入るとか気に入らないとかそういうレベルじゃねえ。つーかテレビのおれってよく我慢してたな。妙に自信ありげなドヤ顔してたが」
「ああ、あれはもうどうにもならないと絶望していて、あのあとテラスから飛び降りて自殺するという覚悟を決めての顔です」
「人生の絶頂で死を選ぶとか相当だよね!?」
やっぱりおもいっきりおれを殺してんじゃねーかその名前!
「才能はキャンセルだ! もう記憶だけ残ればそれでいい!」
あんなもん見せられたらさすがに覚悟も決まる。
おれはおれ自信の才覚で物騒な世界を生き抜いてやる!
「となりますと……あなたの名前はセックスになりますね」
「なんでだよッ!?」
そもそも才能とか関係なくおれの名前はセックスになるように決まってたってことか? このボケ神、釣り合いをとるためとかなんとか言っていたくせに関係なしだったってことか?
「混乱しているようですので理由をお話ししましょう」
憤懣やるかたないおれをそのままに、神はかわらぬ調子で話しだす。
「才能といっても所詮は個人のものです。影響もせいぜい百年。昔そんな人がいたで終わる話なのです。しかし、あなたの記憶は違う。あなたの記憶――そこにある発想、思想、概念、主義主張はその世界を修正不可能なほど決定的に変革する可能性を秘めているのです。才能の生かし方にしてもそうです。もしその世界にあなたと同じ魔法の才能をもった者がいたとしても、あなたはその遙か先をいってしまう。それはそちらの世界の人には何百年かかろうが気づきもしない発想をすでにもっているためです」
「いやまあ言いたいことはわかるが、なんでいきなりあっちの世界のこと心配しはじめてんのあんた。名前がセックスなら記憶も才能も持ったまま転生することになってただろ?」
「それは名前がセックスになったあなたは家に引きこもり若くして首を吊るのでどんな怪物であってもなんの問題もなかったためです」
「そういうことかよ!」
この話し合いに、最初からおれの勝ち目なんてなかった……!
「記憶を放棄するなら、才能をもちこんでも名前はセックスになりません」
「それじゃあ意味ねーだろうが。それに記憶ないなら名前も気にならなくなるわけで、もうめっちゃくちゃじゃねーか、なんだそれ」
「では記憶をそのままに、名前をセックスで生まれかわりますか?」
「断る!」
「そんなにセックスという名前は嫌ですか?」
「あのな……。例えば、あんただって名前がチン――」
と言いかけたところで神がさっと手をあげ、言葉を遮った。
いや、力ずくで声を封じられた。
「いけません。この場でみだりにその言葉を口にしては。あなたの世界のとある地域神はそれを意味する名前なので、呼ばれたかな、とひょっこりやって来てしまいます。あなただって見たいわけではないでしょう? それはさながらオベリスクのようなチンコなの――、あ」
おれが言いかけたのを止めておいてわざわざ言い直すとかなにがしたいんだろうこいつ。
だが、おれがあきれていられたのはわずかな時間だった。
突如、真っ白なだけだった空間に赤黒い渦のような大きな歪みが生まれた。そしてその中心から、とんでもく巨大なチンコがせりだしてきたのだ。
「……、あー……?」
思考放棄。
おれはもうなにも考えられず、ずももももーっとでてきたビルドアップ完了ずみのチンコを呆然と見あげることしかできなかった。
「お呼びですかー?」
チンコは発射口をぱくぱくさせながらそういった。
「いえ、ちょっと話題にあがっただけです」
あまりにも巨大でご立派なチンコを前にしても、神は平然としたものだ。
「……そっか……」
なぜかちょっと寂しげに呟いて、チンコはしおしおと縮みながら引っ込んだ。
そして再びただの真っ白な空間にもどったが、インパクトが強すぎておれはすぐに喋りだすことができなかったし、神もちょっとげんなりしているような気がした。
「まあ、ああいう可愛げのある悪神ならいいんですけどね。悪さも可愛いもの――」
無茶苦茶なことを言いだした神だったが、ふと、なにかを思いたったのか顎に手をやって考えこんだ。
「あー、そういえば、確かあそこでしたね……」
ふむふむとうなずき、神はあらためておれを見た。
※誤字を修正しました。
ありがとうございます。
2018/12/04
※投稿から六年の時を経てとんでもない間違いの指摘を受けました。
もう我慢できない、はトニー・ザ・タイガー(虎)ではなく、コンボ(青いゴリラ)でした。
本来であれば修正するところですが、私としてはこの状況があまりに面白かったため、あえてそのまま残すことにしました。
2022/07/15




