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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
6章 『深緑への祝福』編
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第387話 13歳(夏)…妖精

 ハヴォックからの情報によると、おれと同じように森へと転移させられたのはシア、ミーネ、クロア、セレス、コルフィー、母さんの六名らしい。

 わざわざ父さんだけ『別の場所』と言った理由は不明。

 別次元にでもいっているのだろうか?

 アレサは転移を免れたものの捕まってしまっているとのこと。

 なんとか逃げだしてデヴァスの元へ向かい、どこかに救助要請をしてもらいたい。

 再び一人きりになったおれは、まず誰かと合流できないかと考えた末に、断続的に思いっきり雷撃をぶっ放すことにした。

 自分の位置を知らせるとなれば狼煙あたりがセオリーだが、この森の木々はやたら背が高く生い茂っており、よほど盛大に煙を焚かなければ林冠を抜ける前に掻き消されてしまう。

 現状ではちょっと無理だ。

 もしかしたら母さんかミーネあたりが土の魔法や魔術で林冠を抜けるような柱を作り、上から捜してくれているのではないかという期待もあるのだが、燃やす物が足りないのではどうしようもない。

 そこでおれは雷撃で自分の位置を知らせようと考えた。

 木々という障害物だらけの場所なので、音も遠くまで届くとは思えないが、現状ではやれることがこれしかない。音の届く範囲に誰かが居てくれることを願うばかりである。

 雷鳴を轟かせたあと、この場におれが居たことを知らせるため、穴を掘ってそこに小さな焚き火を残しておく。その近くには枝など適当なもので矢印を作り、進んだ方向を示しておいた。

 この作業を繰り返し、何時間か経過した頃――


「ああぁぁぁーッ! ご主人さまいたーッ!」


 半泣きのシアと合流した。


「他のみんなは?」

「わかりません。捜そうとしたんですが捜しようがなくて、鎌をピッケル代わりに木に登ってみたりもしたんですが誰かが居る形跡なんて見つからなくて、それでも一生懸命捜していたらどっかで聞いたような音が響いてきたので、とにかく合流しようと走ってきて」


 シアは捲したて、それから頭を下げる。


「すいません、わたしが余計なことを言ったせいで女王を怒らせてこんなことに」

「今はそれについてはいい。確かにあれはきっかけになったが、たぶんあの女王、もともとおれたちを追放するつもりでいたぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。それにちょっと確認してみたら『悪神の使徒』とかでた」

「うえぇ!?」

「まあおまえが暴言吐かなきゃ、この事態を回避できる可能性もあったかもしれんが……、今更それを責めてもしかたない。それよりまずはセレスを保護したい」

「そ、そうですね」


 おれが責める必要もなく、シアは自分を責めていただろうから、ここで説教して時間を無駄にするようなことにはしたくない。

 セレスにもしものことがあったら、それこそシアが魔王候補化してもおかしくないのだ。

 シアが魔王とか恐ろしい話である。

 エナジードレインの拡張・拡大とか。

 ……?

 あれ、それってまるで……。


「ご主人さま、どうしました?」

「あ、いや、なんでもない」


 今は余計な想像をしている場合ではない。

 考えたいなら後でいくらでも考えればいいのだ。

 それからおれとシアはどうすれば皆を――、特にセレスを見つけられるかについて相談をした。そのなかでハヴォックからの情報――たぶんセレスは誰かと一緒に居るということを教えると、シアはずいぶんほっとしていた。

 ひとまず軽食をとりながら小休憩をしつつ話し合ったが、そこでさらに――


「……あ! ご主人さま! バスカーですよ!」

「お、犬!」


 シアが指さした方を見ると、バスカーがてててっと駆けてくる。

 こいつもわりと近くに飛ばされて、雷撃に反応して来たのか。


「あれ、何か咥えてますね」

「うーん……?」


 指摘されてみると、確かにバスカーは何かを咥えていた。

 ぱっと見では20センチくらいの人形に見えたが……、動いてる。

 めちゃくちゃジタバタしている。


「うおぉぉ! この犬ぅ! はなせー! あたしなんか食っても美味くねえぞー!」


 そして叫んでる。

 バスカーはこっちに来ると、咥えていた小人を地面に置く。


「わん! わんわん!」

「お、おお……、よく来た。よしよし」


 バスカーを撫でつつ、運ばれてきた小人を観察する。


「ご主人さま、これって妖精では……?」

「っぽいな……」


 背中には翅、そして民族衣装っぽいひらひらした服を纏っている。

 妖精はよろよろと体を起こすと、翅をピンと伸ばし、それからふわっと浮き上がっておれの顔の前に。

 そして怒鳴る。


「おるるぁ! おめえがこの犬の主人か!」

「あ、はい」

「あ、はい――じゃねえんだよゴルァ! おめえ飼い犬にどんな教育してんだ!? こいつはなぁ、妙な音がするからって様子を見に来たあたしにいきなり襲いかかって来やがったんだぞ!? ったくよぉ! なんか面白いことでもあるのかと期待に胸膨らませてたらこれだ! まったく面白い目に遭わせてくれたじゃねえか、ええ!?」

「面白かったならよかったのでは……」

「皮肉だよ!」

「あ、ですよね。はい」


 妖精……、可愛いけど口が悪いな!


「つか普通よぉ、飼い犬には妖精には噛みついちゃいけません、って教えこんでおくもんだろうが!」

「いやそんな特殊な状況を想定してなかったもので……」

「うっせー! 言い訳すんな! まったくふざけやがって! つかこの犬どうなってんだ!? ってか本当にこいつ犬か!? 逃げるあたしに雷はなちやがったぞ!? 珍しい魔獣とかじゃねえのか!?」

「いやまあ犬っぽい何かですね。……えっと、すいませんでした」

「お? おう、そうだな。謝罪は大事だ。で、ほれ」

「はい?」

「はい、じゃねえよ。あるだろ、出すものとか。謝罪の心を込めたお菓子とか」

「あ、ええ、ではこれを」


 なんだか当たり屋っぽいが、妖精からすれば本当に被害にあっているわけで、おれは妖精鞄からクッキーを一つ出して渡してみる。


「え、ホントにくれるの? お、おめえいい奴だな!」


 妖精は抱きかかえるようにしたクッキーを抱えると、そのまま猛然と食べ始めた。

 やはりその姿だけは可愛らしい。

 セレスに持っていったら喜ぶ……、いや、セレスが感化されてこんな感じに育ったら困るのでよそう。

 しかしこの妖精……、全部食べるつもりなのだろうか?

 ちょっと状況についていけなくて、おれもシアも唖然とそれを見守ることになった。

 やがて妖精はクッキーを完食。

 いったいどこに入っていったのか不思議で仕方ない。


「ふー、なかなか美味かったぜ。ところでお前らなんなの?」


 お腹が満たされたからか、落ち着いた妖精が尋ねてくる。

 ひとまず女王にハメられたことを説明した。


「あー、やっぱあの女王に追放された奴か。まだ子供なのに大変な目に遭ってんな! よし、ここで会ったのも何かの縁だ。追放されたエルフたちのところまで連れてってやってもいいぜ?」

「追放されたエルフたち?」

「おう。そいつらが暮らしてる里――、ってか、もともとルーの森の連中が暮らしていたところだ。そこに行けば野垂れ死ぬことはねえだろうよ。ま、お前の誠意次第だがな!」

「……」


 それを聞き、おれは考える。

 エルフたちに遭難した皆の捜索を手伝ってもらえないだろうか?


「お、おい? 誠意はさっきと同じでいいんだぜ? なんならさっきの半分でもいいんだぜ?」


 おれがお菓子を渋っていると思ったのか、妖精が弱気になる。


「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

「お、なんだ?」

「実は女王に飛ばされたなかに、まだ幼い弟妹がいるんだ。そのエルフたちに捜索を手伝ってもらうことって出来るか?」

「……んー、手伝ってくれるとは思うけどさ、ジジババばっかだからあんまり期待は出来ないんじゃねえかな? なんならあたしらが捜してやろうか? まあそれも誠意――」


 おれは妖精鞄からクッキーを一握り出してみせる。


「お菓子ならいくらでもやるし、足りなければ作る。だから弟妹を捜すのを手伝ってくれ」

「うぉぉ! やる! やるやる! 全員に声かけて捜しまくるぜ!」


 途端に妖精がやる気になった。

 やや即物的な感じもするが、そこは単純……、ではなく、純粋故にと思いたい。

 全員がこんな調子であったとしても、この森で暮らしている妖精たちなら、おれやシアが闇雲に捜索を続けるよりずっとましなはずだ。

 これで少し希望が見えてきた、か……?


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