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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
6章 『深緑への祝福』編
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第385話 13歳(夏)…大丈夫じゃなかった

 ぜんぜん大丈夫じゃなかった。

 まさかシアとの会話がいらぬフラグを立ててしまったのだろうか?

 いや、今はそんなことを言っている場合ではない。

 まずは状況整理。

 ここはたぶんルーの森のどこか。

 おれ、一人きり。

 ……。


「ぬおぉぉぉ! クーロアーッ! セーレスーッ!」


 咄嗟に叫んでみたが返事は無し。

 まずい。

 まずいですよこれは……!


「おおお、落ち着けおれぇ……、まずは深呼吸だ。くだらなく思えるが実は意外と効果のある深呼吸だだだだ……」


 すーはーすーはーしながら引き続き状況整理。

 ついさっきまで皆で揃ってルーの森の女王に謁見したのに、おれがこうして一人ということは、他のみんなも離ればなれで森にいると思われる。

 まったく、どうしてこんなことに……。

 ザナーサリーを出発してルーの森に到着するまでは、荷物の底にぺちゃんこになったプチクマが潜んでいたことを除けば特別問題も起きなかった。

 しかし森に到着したその日の内にこれだ。

 やはりみんなには同行を遠慮してもらうべきだったか?

 それともルーの森に怪しい雰囲気があることを警戒してすみやかに立ち去るべきだったか?

 一応、最悪の事態を考えてデヴァスは森から離れた場所に待機してもらっている。

 もし二日ほど連絡がなければ助けを呼びに戻れ、と指示をしてあるが……、この状況となってはそれでは遅い。


「ぬぉぉ……、せめて日暮れまでにしておけば……!」


 後悔は止めどなく続くが、悔やんでいても何も解決はしない。

 おれは遭難して森のクマさんと死にものぐるいで戯れた映画の主人公が語る台詞を思い出す。


『人が遭難して死ぬ一番の理由は恥だ。

 人は恥で死ぬ。

 彼らは命を救っただろう唯一の方法を見失ってしまう。

 考えることだ』


 あの主人公は自分を殺そうと画策していた妻の浮気相手と一緒になってよくサバイバルした。

 よし、おれも頑張ろう。

 まずは考えなければ。

 今できることを。

 やらなければならないことを。

 幸い、おれは妖精鞄を持ち、そこそこ自衛も出来る。

 森でのすごし方は父さんから教わった。

 なので森で命を落とす可能性は低い。

 ならばおれが皆を捜しに行くべきだ。

 離ればなれになっているのはシア、ミーネ、アレサ、それから父さん、母さん、クロア、セレス、コルフィーだ。

 他にもバスカーとプチクマもいるがこの際どうでもいい。

 心配がいらないと思われるのはまず父さんと母さん。

 父さんはおれにサバイバル技術を叩き込んだ師匠だし、『死にぞこない』なんて二つ名が付くくらいしぶといから心配無用だ。

 母さんは魔法が使えるので拠点構築や飲み水についてはまったく問題がなく、父さんほどではないが植物の見分けもできるので食料確保もなんとかするだろう。

 シアは霞を食って生きられるので問題なし。

 あいつ何気に無敵だな……。

 ミーネは魔術で快適空間を作り出せるが、問題は食糧だろう。

 そこさえクリアできたらあいつも無敵っぽいんだが……。

 コルフィーは魔法が使え、鑑定眼もある。食べても大丈夫な物の判断が出来るので何気に生存能力は高いのかもしれない。

 アレサは魔法と類い希なる治癒能力がある。

 クロアは少し魔法が使え、父さんからサバイバル技術を学んでいるので数日間は耐えられると思う。

 そしてセレスは……、まずい。

 素質はあるにしてもまだ魔法は使えないし、サバイバル技術を学んでいるわけでもない。食料確保の方法も知らず、外敵から身を守る術もない。なにしろやっと五歳になったばかりだ。

 だからまず捜しに行くべきはセレス。

 しかし……、セレスがどこにいるかなんてわからない。

 森に迷い込んだというなら追跡技術で捜すことも出来るが、転移させられたとなれば痕跡もなにもないのだ。

 それでも何か方法はないかと考え、ふと思いつく。

 困ったときの神頼み。

 ひとまずヴァンツに祈ってみた。

 ……。

 反応なし。

 そう言えばあいつ、会いに来たことはあっても、声だけを届けてきたことないな……。

 コルフィーには届けたのに。

 もしかして信仰心とかないとダメか?

 まいったな、そんなもんねえ。

 じゃあこっちに来るように呼びかける?

 でもおれの声が届いているかどうかすら謎だしな……。


「うーん……、はっ!」


 さらに考え、閃いた。

 おれは急いで落ち枝を集め盛大に火を起こす。

 そして妖精鞄からカードゲームの試作品を出し、それを焚き火に放りこんだ。


「ぬあぁぁぁぁぁ――――ッ!?」


 ズザーッ、と何者かが焚き火にスライディングして試作品を炎から救う。

 遊戯の神ハヴォックだ。

 ダメもとだったが、幸運にも神を召喚することに成功した。

 きっと日頃の行いが良かったからだろう。


「ほ、本当に信じられないことするね君! ちょっと頭おかしい……、いや、おかしい! 頭おかしい!」


 問題があるとすればハヴォックがちょっとキレていることだろうか。


「すいません。他に手段がなかったもので……」

「いやいやいや! 申し訳なさそうな顔しながら言ってるけどそんなことないと思うよ!? 他にやり方があったと思うよ!? こんな試作品燃やされたくなかったらさっさと現れろ、みたいな風じゃなくてさ!」

「一刻の猶予も無かったもので……」

「いや君、僕に呼びかけてすらいないよね!? 火をおこすのに時間かけておいて!」

「まず試してみようと思ったのがこれだったので……。じゃあ今から呼びかけてみますね」

「もう僕ここにいるし! おかしい! 君はやっぱりおかしい!」

「まあぼくがおかしいかどうかは置いといて、うちの者がどこにいるか教えてもらえませんか? 出来ればこっちに連れてきてもらえると嬉しいのですが」

「あっさり流した!? そして厚かましい!」

「すいません。かなり切羽詰まっているので。とっととお願いします」

「いや待った待った」

「待てません! すぐお願いします!」

「お願いされても駄目だよ!? さすがにこの状況をどうにかするのは直接的すぎるから!」

「そこをなんとか!」

「ならないって! 駄目だって! ……って何、そのしょぼくれたようでふて腐れた顔!? 何もまったく手助けしないってわけじゃないからその顔やめる! あと、今後はこういう無茶なことして僕を呼びだそうとしないこと!」

「わかりました」

「それから、これが完成したら試作品をきっちり奉納するように!」


 そう言ってハヴォックは試作品をおれに返す。


「それで……、ハヴォック様はいったいどのような手助けをしてくださるのでしょうか?」

「協力するとなったら微妙に言葉が丁寧に……。まあいいよ、手助けと言っても、君をちょっと安心させる程度のものだ」

「安心?」

「はぐれた者たちは今のところ無事だよ。君の父親は皆とはまた別の所に飛ばされてるね。聖女は転移を免れたものの囚われてしまってる」

「……え? それだけ?」

「これだけの情報でも、今の君には知ることのできないものなんだけどね!」

「もう少し、もう少しおまけをお願いします! 妹がどっちの方向にいるとか、それだけでも!」

「そこまでとなるとな……」

「そこをなんとか!」

「んー……、でもその子だけってわけにはいかなくなるからなー」

「……?」


 一瞬意味がわからなかった。

 しかし、それはセレスの居場所を教えると、同時に別の誰かの位置まで教えることになる――、つまりセレスは一人きりではないということを示唆しているのではないかと思いつく。

 ハヴォックはそれ以上の情報を口にすることはなかったが、なんかにやにやしてるし……、おそらく正解だろう。

 確かにセレスが一人きりではないという情報は、おれを少し安堵させるものだった。


「ま、そういうことだから、あとは頑張ってね」


 そう言い残し、ハヴォックは姿を消す。

 ハヴォックのおかげで少し落ち着く余裕が出来たが、状況そのものは好転したわけではなく、相変わらずみんな遭難中という由々しき状態である。

 なんとか皆と合流する方法を考えなければならないのだが……


「にしてもあのクソエルフ……!」


 おれたちをこの状況に叩き込んだ元凶――ルーの森の女王に対する怒りがふつふつと湧き上がってくる。

 個人的にも色々と腹立たしかった奴だが、もし誰かに何かあったら死すら生ぬるい目に遭わせてやる。


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