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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
5章 『迷宮の紡ぐ夢』編
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第373話 12歳(春)…ウェディングバトル

 ベルラットとエルセナによるレースの後、祭りは明日だというのに、二人の結婚が決まったことでそのすぐ後から騒ぎが始まり、急遽勃発した前夜祭はそのまま翌日の祭り本番まで続けられた。

 二人の結婚式については、どうやら婚礼天使さんがかなり根回しをしていたらしく速やかに進行していく。これにはフリード伯爵も関与していたらしく、伯爵主導の元、結婚式で二人が着る衣装、式を行う場所、用意される料理、関係者のスペースだけでなくお祝いに駆けつけた都市の人々のためのスペースの割り振りと、速やかに準備が整えられていく。

 まあそれはいいのだが、例えばエルセナが負けていた場合、シアはどうするつもりだったのだろう?

 もし何も考えてなかったのであれば、ノリだけではどうにもならないこともある、と真面目にお話する時間を設けなければならない。

 ただ、今はシアがOシックスの爆発に突っこんだ際、吹っ飛ばされてそのまま放置されたことを憤慨するプチクマに譲ることにする。


「す、すいません……」


 プチクマは猛々しい踊りをしてシアを責め立てていた。


    △◆▽


 結婚式は都市の広場で執り行われることになった。

 二人の姿を一目見ようと、やたら人が集まってくる。

 主役二人に挨拶に行くと、シアが感涙するエルセナに抱きつかれて感謝されまくった。


「うぅ……、ありがどうね、ジアぢゃんありがどうね……」

「エ、エルセナさん、わかりました。わかりましたから。ちょ、ここで泣いてどうするんですか、せっかくのお化粧が……!」


 エルセナはシアに任せるしかない。

 かといってベルラットの方はシャフリーンに任せた方が良く、おれたちはただ様子を見守るだけだ。


「父さん、結婚おめでとうございます」

「オ、オウ……、娘に言われるとちょっと不思議な感じがするぜ……」


 礼服を着たベルラットはまるで着飾った山賊のボスのようだ。

 要はまったく似合ってないということであるが、それを言うのは野暮である。

 対してシャフリーンは手配されていた衣装に身を包み、ベルラットに買ってもらったシンプルな首飾りをかけている。

 いつも身につけていられるよう、なるべく飾り気の少ない物を、という苦肉の遠慮により選ばれた品だ。いつも身につけてくれるなら贈った甲斐もあるというもので、ベルラットもすんなり納得。

 ベルラットは親バカになりそうだと思った。

 いや、もうすでにそうか。

 それから少しして、時刻にして十時くらいから結婚式が始まる。

 式が終了すると、それからフリード家の提供による料理や酒が集まった誰もに振る舞われるという、大盤振る舞いな宴が始まることになっている。

 広場に舞台が用意され、そこでベルラットとエルセナ、そして聖女のアレサが司式者として結婚式の進行をする。

 おれたちは舞台に近い関係者スペースで進行を見守った。


「ご主人さま、ふと思ったんですけど、嘘を見抜ける聖女が結婚の立会人になるのってなんか凄いですよね」

「言われてみればそうだな。場合によってはそら恐ろしいことになりかねないからな」


 だが、そんな心配はあの二人には無用だったようだ。

 二人が互いに愛を誓う様子を、アレサは微笑んで見守っている。

 偽りはないようだ。

 なんだよオッサン、結局エルセナが好きなんじゃねえか。

 それから式は進み、ブーケトスが行われることになった。

 花嫁が未婚の女性に「くらいやがれ!」とウェディングブーケを投げる……儀式? まあそんなようなものである。

 ブーケを受けとった女性は次に結婚ができるとかなんとか。


「ではご主人さま、ちょっと行ってきます」

「私もー」

「あたいもー」


 シアが言ったのをきっかけに、プチクマを肩にのせたミーネ、それからティアウルが関係者スペースから移動していく。


「シャフリーンは行かないの?」

「私は遠慮した方が良いかと思いまして。やはり……、ええと、順番というものがありますし……」

「……うん?」


 なんの話かと思ったが、たぶん実の父の再婚相手(?)からブーケを受けとる――次に結婚する、という状況が一般的には妙であるということを気にしたのだろう。

 でもブーケを受けとったからと実際に結婚できるわけでもないし、そこまで気を使わなくてもいいんじゃなかろうか?

 ブーケトスには専用にステージが設けられ、そこにエルセナから距離を置き、弧を描くようにずらっと女性探索者たちが集結する。

 まるで市民マラソン開始前といった有様だ。

 ようやく、本当にようやくベルラットとの結婚を果たしたエルセナのブーケともなれば、もう縁起物を通りこして神具レベルであり、それを狙う女性探索者たちは目の色が違う。

 そしていざブーケが放られた瞬間――


『うおおおおおぉぉぉぉ――――――――ッ!!』


 女性探索者たちから咆吼が上がり、大気を振るわせた。

 誰も彼もが死にものぐるいでブーケを取りに行く。


「うあぁぁー!」


 飢えた猛獣の群れにティアウルが呑み込まれた!

 くっ、参加は引き留めるべきだったか。

 だが、誰がこれほど熱狂するなどと予想出来ようか。

 そしてシアはそんな連中に向け――


「はあぁ!」


 悪辣なことに威圧を放った。

 だが――


『シャアァァァァ――――ッ!!』


 ほとんどの女性探索者たちが気合いでもって威圧をはねのけ、かまわずそのまま突っこむとブーケ目掛けて跳躍した。


「な!?」


 愕然とするシア。

 だがまだ諦めない。


世界を喰らうもの(スターリヴォア)!」


 シア、超本気モード。

 すさまじい速さで駆けて遅れを取りもどすと、集団の背後から跳躍する。

 それはまるで天に昇る白き龍。

 だがシアがブーケを手にしようとした瞬間、ブーケが不自然にぷいっと動いた。

 それはプチクマの念力。

 ブーケはプチクマを抱えるミーネの所へと引き寄せられようとしていた。

 が、しかし、超反応したシアが手を伸ばし、ブーケを勢いよく弾いた。

 宙を舞うブーケ。

 誰もが跳躍した状態でそれを追えない。

 ブーケはそのまま飛んでいき、関係者のスペースで傍観していた一人の少女――ではなく男性の手元にぽすっと収まる。


「え?」


 突然のことに状況が理解できず、パイシェは間の抜けた声をあげた。

 途端、わっと会場が沸く。

 誰もがパイシェを祝福した。

 見守っていた多くの人々、争い負けた女性探索者たちも。

 良いお嫁さんになると、パイシェを祝福した。


「あ、あはは、ど、どうも……、ありがとうございま、す……」


 かろうじてパイシェは感謝の言葉を述べるが、その瞳の光は絶望へと呑み込まれ霞んでいく。

 え、えっと……、ちょっと〈炯眼〉でチェーック!

 よし、魔王化はしてない!

 安堵してふと見やると、シアは水揚げされた水餃子みたいにくてんと地面に倒れ伏していた。


    △◆▽


 ベルラットとエルセナの結婚式が終了すると、今度は迷宮制覇&おれたちの送別会としての祭りが始まり、それは夜遅くまで続けられた。

 大騒ぎした翌日、おれたちは生活の拠点にしていたシャロ様の屋敷を離れ、まずはフリード伯爵の屋敷へ挨拶に向かう。

 するとそこには久しぶりの再会となるイールも同席していた。


「また来るといい。歓迎するよ」

「そうですよ、また来てください。私はこれから七層で暇することになるので是非来てください」


 伯爵とイールに別れの挨拶をしたあと、今度は『迷宮皇帝』の建物まで行ってベルラットとエルセナ、それからクランメンバーの方々に挨拶する。


「オマエには世話になった」


 餞別だ、とベルラットが特製薬草汁が入った小瓶と、そのレシピを書いた紙をくれた。


「オマエはこれからも色々と大変そうだからな、いずれ役に立つこともあるだろう」

「ありがとうございます」


 おれたちとの挨拶をすますと、ベルラットは最後にシャフリーンと向き合う。


「シャフリーン、元気でな」

「はい。父さんもお元気で」


 ベルラットとシャフリーンはこれでしばらく会えなくなるだろうが、それを悲しむ様子はない。ここしばらく一緒に過ごし、多く語ってきたからだろう。


「シアちゃん、また会いましょう」


 エルセナはシアに抱きついて別れを惜しむ。

 それからベルラットとエルセナ、それからクランメンバーに見送られておれたちは立ち去る。

 最後に冒険者ギルドに挨拶に向かい、都市を出たおれたちは精霊門には向かわず、ちょっと遠出して港町へと移動した。

 これで帰還が一週間ほど遅れるが、そこは仕方ないと諦めよう。


    △◆▽


「海!」

「うおー、おっきいな! 水ばっかだぞ!」


 初めて目にする海にミーネとティアウルは大はしゃぎ。

 パイシェとシャフリーンも声は出さないが感じ入っているようだ。

 港町に立ち寄ったのは海産物を仕入れるため。

 あと、シオンに教えてもらったお勧めの料理店へ行くためだ。

 一泊して明日には出発するのでのんびりしているわけにはいかないが、それでもちょっと観光する時間くらいは欲しいので行動はテキパキ迅速に。ハードスケジュールな観光プランのようである。

 まずおれたちは腹ごしらえと料理店へ。


「お、もしかしてレイヴァース卿の御一行ですか?」


 お店に入ったところ、店主にそう尋ねられた。


「はい、そうですが」

「おお、ようこそいらっしゃいました。実はひと月ほど前にシオンさんがこの町に立ち寄られましてね、漁に出てめったに捕れない大物を仕留めてこちらに持ってきてくれたんですよ。いずれ貴方がたがやって来るので、そのときの代金としてくれと。なので貴方がたの食事代はいただきません。どうぞ好きな物を好きなだけ食べていってください」


 そう言って店主はおれたちを席まで案内してくれる。


「ぐぬぬ……、シオンンン……!」


 ちょっとミーネは思うところがあるようだが、だからといって席を立ったりしない。

 それとこれとは別らしい。

 それからおれたちは心ゆくまでシーフードを堪能し、観光しつつ魚介類をせっせと買いあさって一泊、そしてザナーサリーへ帰るためエミルスの精霊門へと引き返した。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/04

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/19

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/22

※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/06/23


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― 新着の感想 ―
[一言] >よし、魔王化はしてない! 吹いた! これは予想外。 このまま有名になっていくと、メイド服を脱いでも男装していると思われそう…。
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