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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
5章 『迷宮の紡ぐ夢』編
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第346話 12歳(春)…どうにもならない反省会

「と言うわけで、到着初日にしてこの有様となりました」


 イールとフリード伯爵がシャロ様の屋敷を去ったあと、今後の話し合いをするためにおれたちは再び食堂に集まった。


「もしかしたら何か事件に巻き込まれるかもしれないな、とは思っていましたが、まさか到着して早々にこの都市の抱える問題の核心に関わるとは想像すらしていませんでした。どうしてこんなことに巻き込まれることになるのか、自分でも不思議でなりません。日頃の行いは良いはずなのです。なのにどうしてこうなった……!」


 もしかしたら迷宮を支配する妖精――精霊っぽい何かに遭遇することもあるかもしれないと思っていたが、遭遇したのはウンコの化身。

 本当にどうしてこうなった?


「一体何が悪かったのか? そもそもこの都市を選んだのがまずかったのか? でも精霊門で来られるのは魅力でした! 少しくらい楽をしたかったのです! 少しくらいは楽を!」

「ご主人さまー、落ち着いてー、落ち着いてー。ご主人さまが取り乱してたら、わたしたちはどうしたらいいかわからないんですから」


 おれが頭を抱えるていると、シアがなだめてきた。


「あー……、うん、そうだな。憤ってる場合じゃないな。――えっと、相談もなくあのスライムに協力することに決めちゃったのは、皆に悪いと思ってる」

「そんなのべつにいいわよ。だって要は迷宮の最下層を目指すっていうんでしょう? ちょうどいいじゃない」

「何がちょうどいいのかさっぱりわからん! いつからおれたちの目的は迷宮制覇になった……!?」

「え? うん、目的にはなってなかったけど、でもなんだかんだ言いながら、結局は制覇することになるだろうなって思ってたから」

「えぇー……」


 これで迷宮を制覇することになったら、それこそミーネの予想した通りということになるが……、恐いわ!


「レイヴァース卿は迷宮で行方不明者が出ていることを捨て置けないと思われたのですよね? 私はその判断を尊いものだと思います」

「大変なことになったからこそ、あたい付いて来てよかったと思うぞ。本気で迷宮を攻略するならあたいはさらに役に立てるからな!」

「どのような状況になろうと、ボクはこれまで通り御主人様の助けとなるよう全力を尽くすだけです」


 アレサ、ティアウル、パイシェの三人は嫌な顔一つせずおれの助けになると言う。

 ありがたいことだ。

 ただここの迷宮に関わりのあるシャフリーンだけは、困惑してしまっているのか表情が曇っている。

 シャフリーンとはあとで少し話をした方がよさそうだ。

 それからおれは皆に明日からの予定について話した。

 いや、予定なんて立派なものではないか。

 要は当初の予定はすべて破棄、状況に応じてやれることをやっていくという方針のようなものにすぎないのだ。


    △◆▽


 話をしたあと、今夜はもう自由行動ということにして皆を休ませることにした。

 ただシャフリーンとはちょっと話をした方がいいと思い、一緒にシャロ様の書斎に向かう。


「正直……、混乱しています。どこから考えていいのかもよくわからなくなってしまい、本当に、どうしたらよいのか……」


 予想通りシャフリーンはイールから聞いた話によってかなり動揺してしまっていた。

 こんな事態は予想もしていなかったが、同行のお願いをされたときにコルフィーに鑑定してもらっておいたのは正解だったと思う。

 あれでちゃんと『人』という鑑定がされていなかったら、きっとシャフリーンは自分は迷宮――スライムに生みだされた人型の魔物なんじゃないかと不安になり、とても落ち着いていられなかっただろう。


「混乱するばかりの私にかわり、それとなく隠れ里のことを質問していただいて、ありがとうございました」

「ああ、うん、たいした情報は得られなかったけど」

「それでも、あの質問のおかげで私に関わりがあるとすればノアということはわかりました」

「ああ、この都市と迷宮中層までを管理下に置いているイールが知らないのであれば、もうノアしか残らないからな」


 シャフリーンの言う地上のような空間は最下層にあるのだろうか?

 そしてそこに隠れ里はあるのか?

 隠れ里があったとして、そこに暮らす者たちはいるのか?

 そこで暮らす者たちは昔から住んでいる者か、それとも、迷宮で行方不明になっている探索者たちか?

 迷宮でシャフリーンを預けた男は何者か?

 なんの理由があってシャフリーンを里から連れだしたのか?

 まったく、謎がいっぱいだ。


「色々と疑問はあるけどさ、やるべきことは単純だ。あのスライムの提案する作戦に協力して、ノアのところまで突撃する。そうすればおのずと謎は明らかになる」

「そう……ですね」


 答えの出ない疑問ばかりに頭を悩ませていては前に進めない。

 一つ、下層突破というわかりやすい目標を決めたことで、シャフリーンが少しすっきりした顔になってくれた。


    △◆▽


「あ、ご主人さま、シャフリーンさんとのお話はどうでしたか?」


 シャフリーンが退室して少しすると、シアがひょっこり現れた。


「だいぶ困惑してたな」

「やっぱりですか。生まれ故郷が超でっかいスライムだった、なんてなればそりゃ困惑もしますよねー」


 シアにはシャフリーンのことを話していたため、ある程度おれと同じようなことを考えることができる。

 だからこそ、おれが心配していることも理解している。


「で、どう思いますか、今回のことは。わたしとしては真面目に考えると頭と胃が痛くなるんですが」

「んなもん、おれもだよ。はぁ……」


 シャフリーンから聞いた話だけで終わっていればよかった。

 迷宮の最下層に魔石を持つ人たちが暮らしていたりして、それが判明してチャンチャンと終わってくれれば。

 が、現実は非情。

 スライム覇種の登場である。


「あのスライムが生みだしてる魔物はかなり精巧なレプリカだ。もしかしたら本物と同じものだって生みだせるのかもしれない。シャフリーンの前では聞けなかったが、たぶん人のレプリカ――こっちはレプリカントと呼ぼうか、それも作れるんじゃないか?」

「それはシャフリーンさんには知られたくないですね。もしかしたら――レプリカント? なんじゃないかって考えるようになったら絶対病みますよ。死ねばわかるとか言いだして、迷宮内で自殺する可能性も否定できません」

「それでもし魔石だけ残ったら今度はおれたちが病むわ。とにかくシャフリーンはこれ以上変に刺激しないように慎重に扱おう。謎がある程度明らかになるまでは現状維持だ」

「謎が明らか、ですか……。ノアとかいうスライムに会って聞くしかないってのがまた面倒ですよね」

「ノア以外にも情報を持ってそうな奴らはいるけど、そっちもそっちでろくでもなさそうなのがなんともな……」

「うん? ああ、バロットの方々ですか。確かに三百年くらい関わりを持っていたわけですからね、何か知っている可能性はあります」

「だろ? でも変に接触していって、シャフリーンの存在を知られるのもまずいような気がする」

「まずい? どんな感じでです?」

「シャフリーンが研究成果とか、研究対象とか」


 答えると、シアは「あー……」と唸りながら目を瞑って眉間にシワを寄せる。


「良い予感がまったくしません……」


 同意見である。

 特殊な能力と生い立ちを持つお嬢さん。

 故郷はスライム覇種の分身――ノアが支配する迷宮。

 ノアは三百年ほど悪名高い研究機関バロットと協力体制にあった。

 それは完成した暁には世界に革命が起きる素晴らしい研究らしい。

 うん、本当に良い予感がしねえ。

 万能細胞のバケモノと研究機関の組み合わせなんて良い予感がするわけねえ……!


「パターンとかセオリーとか言いたくありませんが、これバイオとかクローンとか、そういう話の条件ばっちりですね」

「こうなるとコルフィーの鑑定すらも怪しくなるな……。どこからどこまでを人とするのか、何をもってして魔物と呼ぶのか」

「あとご主人さま、ノアって名前もなんかうんざりしません? たぶんそれってアークのノアですよね」

「アーク……? ああ、箱舟か。シャロ様も一時期かかわっていたって話だし、そうかもしれないな」


 ノアの箱舟(ノアズ・アーク)――。

 堕落した人々を大洪水で一掃しようとした神が、敬虔であったノアの家族だけは生かすことに決め、箱舟の建造を、そして完成した暁にはあらゆる動物のつがいを乗せることを命じた――という、動物たちにとっては大迷惑なお話だ。

 もしそれに由来――あやかっての名前であったなら?

 研究関係で伝承由来の名称とか、やっぱりろくな予感がしねえ。


「安請け合いしてシャフリーンを連れてきたのはマズかったか……?」

「それはどうでしょう? シャフリーンさんは自分でここを訪れるつもりだったんでしょう? そこで真相を知って、思い悩んで一人で苦しむよりは、どんなぶっとんだファンタジーだろうがSFだろうが、ある程度は慣れているわたしたちが側にいる今の方がいいのでは?」

「そういう考え方もあるか……」


 どんな事実が判明しようと、娯楽として膨大に生みだされた物語――パターンを知っているおれたちがいれば、それを分類してすんなり胸に収められる。冷静でいられる。であれば、いざガッカリな真相が判明したとしても、おれとシアの二人がかり――左右に陣取ってステレオで励ましたり慰めたりすることが出来る。


「よかったよかった、で終われる結末であってほしいと思うがな……」


 そう言ってため息をついたところ、シアに眉間をむにっと押された。


「何をしてるんですかね、お嬢さん」

「シワが寄っているので、伸ばしてみようかと」

「お気遣いどうも。じゃあお返しに」


 おれもシアの眉間をむにっと押す。

 するとシアもまたむにっと押してくる。

 むにっと。

 むにっと。

 おれとシアはしばし現実逃避的にお互いの眉間を押し続けた。


※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/02

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/19


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