第34話 6歳(春)…魔導剣
「あっ、なるほど! ミーネちゃんには杖が必要だったのね!」
おれとミーネではいつまでたっても顔を見合わせるだけなので、原因の究明のため母さんを呼んだ。
状況を説明すると、母さんは頭に手をやって吼えた。
「杖?」
きょとんとして言うミーネの肩を、ガッと母さんが掴む。
びくっと震えるミーネ。
さすがにミーネでもこの母さんの迫力には負けるのか……。
「そう、杖よ! 魔導師の杖!」
「で、でもわたし杖なんてつかってない、けど……?」
「母さん母さん、ミーネびっくりしちゃってるから落ち着いて」
大興奮の母さんの説明によると、魔術を使う者は三者に分類されるそうな。
まずは自分だけの意思で使える者。
つまりおれみたいな奴。
次になんらかの儀式を必要とする者。
これはシャーマンがトランス状態になるための儀式みたいなものだろうと勝手に解釈した。
そして最後になんらかの触媒が必要な者だ。
この触媒は個人によってさまざまだが、魔導学においてはお伽話の魔法使いが杖を持っていることになぞらえられ触媒杖――魔導師の杖と呼ばれる。
つまり、ミーネは剣と魔法の融合というコンセプトで作られた木製ガンブレードによってイメージが喚起され、魔術に目覚めるきっかけになった、ということらしい。
「ミーネちゃん、さっそく色々試してみましょう!」
母さん、近年まれに見るハイテンション。
ミーネの魔術はかなり希少、母さんも聞いたことがないくらい珍しいものとのこと。
魔法や魔術を使う剣士、剣を使う魔道士や魔術士はいる。
だが同時に行使するとなると前例がないらしい。
とりあえず呼び方は魔導剣になった。
ミーネは客室から自分の剣をとってくると、いそいそと抜き放つ。
そして――
「炎よ!」
ミーネがそう叫べば、剣には炎が宿る。
「風よ!」
と叫べば、刃のまわりに風がまとわりつき、振ればその斬撃は風の魔術として飛ぶ。
「水よ!」
剣の先から水がちょろちょろ出た。
飲み水とか洗い物とか、遠征には便利だ。
「地よ!」
叫び剣を地面に突き立てれば、ぼこんと音がして小さな穴ができた。用を足すのに便利そうである。やはり遠征には便利だ。
「なんか水と地がいまいちな気がするの!」
ミーネはようやく体得したばかりの魔術に文句をつけていた。
まあ火や風に比べて地味だからな、ミーネの性格ならつまらなく感じてしまうのも無理はない。
「いやいや、水は大事だろ?」
「それはわかるけど……」
「例えばあれだ、水をそうやって確保できるなら、そのぶん荷物が減らせて旅が楽になる。だろ? それに地も……、まあ説明ははぶくがとっても便利だ。地味かもしれないが、すごい魔術だと思うぞ?」
「そ、そかな」
おれが水と地の有用性を説くと、ミーネはちょっとてれた。
「わたしが使えるのは火と風と水と土だけみたいね」
ほかにも雷や氷や光や闇、色々と叫んで剣を振ってみたが、どれも反応はなかった。
「ミーネちゃんだけって……! 四つもあるのよ!? 凄いことよ!?」
母さんは浮かれっぱなしだ。
「今は使えるようになったばかりだから単純なことしかできないと思うけど、訓練すればもっと色々なことができるようになるはずよ」
「……たとえば?」
いまいちイメージできないらしく、ミーネは困惑顔で尋ねる。
「母さん、魔法を見せて、それを参考にさせたらどうかな」
「あら、いいこと言うわね。そうしましょう。ミーネちゃん、これから私が魔法をいっぱい見せるから、それを参考にして自分の魔術を作ってみましょうね」
はりきった母さんが種も仕掛けもないマジックショーをやることになる。
しかしそこでお腹をすかせた弟がよちよちあらわれ、ショーは明日に延期となった。
母さんは弟を抱っこして夕食の準備に家へ戻っていく。
鼻歌交じりの、跳ねるような軽い足取りだ。
抱えられた弟もなんだかよくわからないままキャッキャと上機嫌だ。
おれも屋内へいこうとしたが、剣をじっと見つめているミーネに気づいて足をとめる。
「来たかいがあったか?」
からかうように言ってやると、ミーネは初めて会ったときのような獰猛な笑みを浮かべた。
「ええ、すごく。……わたし、つよくなれる」
唐突すぎて戸惑っていたが、ここにきて魔術を使ったという実感がわいてきたらしい。
内心、喜びに打ち震えているみたいだ。
「ねえ、一回だけしょうぶしてみない?」
「いまのおまえと勝負とかしたくないんだけど……」
「えー、いいじゃない。ケガさせるようなことしないから。ちょっと、ちょっとだけ」
ぴょんぴょん跳ねながら言う。
あまりにしつこいので了承し、互いに木剣を持って対峙する。
「じゃあいくわよ! 炎よ!」
「炎よじゃねえよあぶねえだろうが!」
はいパッチンとな。
「んにゃぁぁぁ――――ッ!」
そして――、ミーネはまた拗ねた。
△◆▽
翌日、おれは再びリカラの樹液をとりにいく羽目になり森にいた。
「そうかそうか、おまえも意外とバカなところがあるんだな」
つきあってくれた父さんは安心したようにそう言った。
解せぬ……。
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/04/10




