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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
5章 『迷宮の紡ぐ夢』編
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第331話 12歳(春)…ダンジョンのあれこれ

 通常、パーティでダンジョンに挑戦する場合、荷物持ちをする役を決めるか、雇って同行させることになるが、うちの場合はおれが妖精鞄を持っているのでそこは楽だ。

 その日、体験取材で迷宮に潜るにあたり、妖精鞄には何を入れておいた方がいいか、さらに各自持っておくべき物はなにか、という話し合いを仕事部屋でしていたところ、クマ兄弟がやって来た。


「え? なに?」


 プチクマが手をパタパタ、なにやら自己主張を始めたが、ジェミナじゃないので何が言いたいのかわからない。

 するとプチクマはぺかーっと光り始め、それを見たアレサが微笑みながら言う。


「レイヴァース卿、明かりについてももう少し考えておきましょう」

「ああ、なるほど、おまえが同行して明かりになるってことか」


 うんうん、とプチクマが頷く。

 迷宮内は当然ながら真っ暗。

 そこで明かりについては各自ランタンと補給用の油を持ち、戦闘などで壊れた場合も想定して他にもロウソク、即席オイルランプを作るための皿などを持っていく予定になっていた。


「おまえが光るなら油の節約になるか……」


 それに多少乱暴に扱っても壊れない……、確かに便利だ。

 迷宮に潜り、他に誰もいない状況なら使い倒せるだろう。

 プチクマもやる気らしいので連れていくことにする。


「そしておまえは……?」


 クマ兄貴は身振り手振りで何かを訴えたあと、自信ありげにふんぞりかえった。

 いくら考えても有効活用できる場面が想像できなかった。


『…………』


 誰も何も思いつかないようで、揃ってクマ兄貴を眺めるだけに。


「おまえはいらんな」


 結論をだしたところ、クマ兄貴はビクッと震えたあと、首を振ったり手足をジタバタさせて激しく抗議(?)してきた。

 だがいくら抗議されても、特に役にも立たないでかいぬいぐるみを抱えて迷宮探索などするつもりはないのだ。

 抵抗するクマ兄貴をぺいっと部屋から放りだし、話し合いを再開。

 そう言えば前にもこんなことがあったような……?


「ご主人さまやアレサさんとはぐれる状況も想定して、必要になりそうな物をそれぞれ最低限持っていた方がいいですね」

「そうだな。食料関係、あと包帯とか治療道具、ポーション……」


 シアとアレサが建設的な意見をだしてくれるので、それをメモしつつどうするかを考える。

 一方、ミーネは残念な要望が多い。


「ダンジョンの中でね、急にあれが食べたい、これが食べたい、ってなっても食べにいけないわけじゃない? だからね、私は思うの。妖精鞄には色々な料理とかおやつを入れておいた方がいいんじゃないかって」

「我慢しろ」


 神妙な顔でミーネが提案してきたことをばっさりと切り捨てる。

 ミーネはぷくぷーと拗ねたが、しばらくすると拗ねていたことなど忘れたように尋ねて来た。


「ねえねえ、そう言えばどうして迷宮都市に行くのは春にしたの? ダンジョンに入るんだから、冬でもよかったんじゃない?」

「どうしてだと思う?」

「家族と一緒にいたかったから?」

「んー……、ハズレじゃない。でもそれは期待した答えじゃないな」

「うん?」

「冬ってのは冒険者の活動が鈍るだろ? 冬に野外で活動するのは想像するよりもずっと大変だ。体は体温を保とうと頑張るから食料が多く必要になるし、ちゃんと休める場所を作れる知識がないと体調を崩す。最悪は凍死だ」

「うん、でもダンジョンなら――」

「と、みんな思うんだよ」

「……あ」


 そこでミーネも理解した。

 冬の迷宮都市はとにかく混むのだ。


「そんなに集まっても成果なんて出ないんじゃない?」

「そこは迷宮都市ゆえの仕事があるんだよ。迷宮都市には迷宮を探索するための集まり――組織が幾つもあって、そこに雇われるんだ。多くは探索者を補佐するための人員としてだな。だから迷宮の探索が捗るのは冬場なんだってさ。まあ安めの報酬だが、冬の間なにもせず収入無しよりはマシなわけだ。で、春になったら各地へと散っていく」

「なるほどー……」


 ふむふむ、とミーネがひとつお利口さんになる。

 せっかくなのでもうちょっとお利口さんにさせようと、ダンジョンについての話をすることにした。


「ダンジョンと定義されるものは大きく分けて二種類あるんだが、どんなものだと思う?」

「迷宮と魔境?」

「残念。ハズレだ」

「えー」


 何が違うのかとミーネが不満そうにしていると、これについてシアが解答をする。


「遺跡型と資源型ですね」

「……何それ?」

「遺跡型と言うのはかつて人が生活していましたが、破棄された場所ってことです。都市の跡地だったり、洞窟内だったり、そこは色々です。ここには自然に生息している動物や魔物がいます。ほとんどの場合はめぼしい物は無くて、物好きが調査するくらいです」

「遺跡型はあんまりいいことないのね」

「まあ遺跡型は見つけるのが目的みたいな話なんだよ。伝承とか記録とかを調べて、探すんだってさ」

「なんでわざわざ探すの?」

「歴史研究とかのためだな。あと、ごく希に古代遺跡――邪神誕生以前の文明の都市が見つかる場合もあるんだ。そこで当時使われていた魔道具――魔導器とも言うらしいが、それが発見できたら大金持ちになれる……、かもしれない」

「かもしれない?」

「古代の魔道具は魔術士が作った物だ。それは魔法が普及した現代の魔道具とは一線を画す。なにしろ本当に才能のある天才魔術士が作った道具だからな。で、それが使い方のわかる物ならいいんだが、まったく何に使ったらいいかわからない物も多々あるらしい。本来の使い方とは違う使い方も出来たりして、それがとんでもない被害を生みだす場合もあって、そういうのは魔道具ギルドに接収される」

「見つけ損ね」

「だな。まあそれなりに謝礼を受け取れるらしいけど、もっと欲をかいてこっそり売ったりする者もいたりして……、そこからのいざこざはあんまり関わりたくない世界の話だ」


 知識が無い故に見つけた物がどれだけの危険物かわからない、というのは恐ろしい話である。

 元の世界、ブラジルで起きた人災に例えるならこうだ。


 ぐへへ、廃病院跡からいい物を盗んできたぜ!

  ↓

 穴を開けたら夜になると青白く光る粉が出てきたぜ!

  ↓

 おっす! おらセシウム137!

  ↓

 原子力事故!


 まあここまでのことが起きているのか起きていないのかは知らないが、危ない物は魔道具ギルドによって管理されるらしい。


「じゃあ資源型ってのはなんなの?」

「資源型は簡単に言うと魔素溜まりのことですよ」


 と、こちらはアレサが答える。


「ダンジョンと聞いて一般的に想像されるものですね。地殻変動などの原因によって魔素が溜まらなくならないかぎり、半永久的に魔石や魔鋼、精霊石といった資源を得ることができます」

「なにそれすごい……!」


 そう、だからこそ迷宮が発見されるとそこは都市となり栄える。


「発見されたばかりの迷宮は魔物が住み着いているので、まずはこれを討伐して制覇する必要があります。魔素溜まりの影響で魔物が強くなっていてなかなか大変なようですね」

「そのあとは色々取り放題なの?」

「いえ、資源型のダンジョンは魔物を生みだすので、楽にはなりませんね」

「魔物を生みだす……?」

「濃度の高い魔素が人の思念を核として魔物を生みだすのでは、とシャーロット様が仮説を立てています。いかにも何か出て来そう、と想像したその『何か』をダンジョンが生みだすのです。本当の魔物ではないので、倒すと核となっていた魔石だけが残るようです」

「へー」


 ミーネは唸って感心していたが、ふと気づく。


「あれ? じゃあ魔境ってのは?」

「魔素溜まりってのは基本地下にある。だが希に魔素が地上に噴出することがあって、そこが魔境になるんだ。ちなみに攻略の難易度は魔境の方が段違いに高かったりする」

「そうなの?」

「ああ、魔境は魔素の影響を受けた植物が異常発達していて、自分が育ちやすい環境を作りだすために魔術を使ってやがる。魔境は季節や気候が混在するとまで言われてるな。やたら熱い場所から数歩歩いたら今度は極寒だったとか、そういうめちゃくちゃ具合らしい」

「なにそれ……」

「一応、四作目は魔境を舞台にするって決めてるから、いずれ取材に行く予定だが……、深入りはしないつもりだ。迷宮は事前に情報を集めて準備を怠らず、無理をしなければ危険は少ない。だが魔境は個人の生存能力の高さが物を言う。どんな状況にも対処できる能力が必要になるんだ。だからそっちの取材は父さんに同行してもらおうかなって思ってる」

「そんなに危ないところなのね……。入って何かいいことあるの?」

「魔鉱や精霊石は迷宮と同じだが、注目されるのは希少な薬草、特別な木材、特殊な動物や魔物の素材だな」

「薬草とか木とか素材……?」


 魔鉱や魔石と比べて想像しにくいのだろう、ミーネはいまいちぴんと来ないようだ。


「とまあ、ダンジョンの分類は大雑把に言うと魔素溜まりか、そうでないかの違いだな。で、おれたちが向かうのは資源型のダンジョンであり、世界で最も有名らしい迷宮都市エミルスの迷宮だ」

「どうして人気があるの?」

「なんか迷宮内で魔物にやられても死なないらしい」

「……死なない?」

「そう、やられると迷宮に呑み込まれてから入り口から放りだされるらしい。装備や道具もちゃんと身につけていればそのまま。置いていたりするとその場に残る。さすがに届けてくれるほど親切じゃないみたいだ」

「なにそれ不思議。死なないからそこに行くの?」

「いや、死なないから平気とかそういう目論見じゃないぞ? むしろおれとしては死なないのが特殊すぎておかしいと思ってるくらいだからな。……興味はあるけど」


 なんせうっかり張りきると死ぬもんで。


「向こうに行ってやることは三つ。一つは探索をして雰囲気を感じること。二つめは冒険者ギルドで迷宮都市らしい依頼記録を写させてもらうこと。そして三つめはダンジョンを有する都市特有の冒険者――いや、探索者たちによるクランという協力形態の取材だ」

「クラン?」

「効率良くダンジョンを探索して収穫を得るため、多くの人が集まってそれぞれの役割をこなす……すごい人の多いパーティと思えばいいよ。探索する人、探索する人の荷物を運ぶ人、探索する人が休める場所を確保しておく人、その場所まで物資を運んで行く人、その運び手を護衛する人――と、探索だけでもこれだけの役割があってそれを受け持つ人がいる。さらに持ち帰った収穫物を売る人、不足した物資を仕入れる人、仲間に食事を作る人……、細かくあげていったらきりがないんだけど、つまりはそういう集まり――組織だ」


 冒険の書の一作目『廃坑のゴブリン王』は冒険者とはどういうものかを知ってもらうための入門書みたいなものだった。

 二作目の『王都の冒険者たち』は冒険者をやっていく上で必要になる知識を学ぶ基本書という位置づけになった。

 そしてこれから製作を開始する三作目『迷宮の見る夢』はパーティという枠組み以上――組織に所属した場合、もしくは自分で立ち上げようとした場合、どういったことを知っておいた方がいいかということを学んでもらおうと考えている。

 他にも自分はクランの運営に専念してNPCにダンジョン探索を行ってもらい、その結果起きるさまざまな問題に対処するという、運営の疑似体験――経営シミュレーションも出来るようにしたいと考えているのだが……、ウケるかどうかはちょっと未知数だ。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/01

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/03/01


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