第330話 12歳(春)…春のダンジョン観光計画
これまでの冬越しは森の中。
暖かな家に籠もり、家族でひっそりと過ごしていた。
それを思うと王都での冬は賑やかを通りこしてずっとお祭りをしていたような騒がしさだったように感じる。
あとなんか忙しかった。
忙しかった一番の理由は服作りだ。
なにしろ仕立てる数が多い。
まずメイド学校の方がティアナ校長を始めとして、サリス、ティアウル、ジェミナ、リビラ、シャンセル、リオ、アエリス、ヴィルジオ、パイシェという十名、それにミリー姉さんとシャフリーンの二名が加わって、しめて十二着の製作なのである。
そりゃあ忙しいに決まってる。
でもおれは頑張った。
その甲斐あってなんとか春本番までに服を完成させることができた。
すると何故か屋敷でささやかな贈呈式が行われることになり、おれはそこで完成した服を一人一人手渡していった。
本人の好みも反映しての服なので、翌日になってみたら古着屋に並んでいた、なんてことにはならないと思う。
春物なのでこれからお出かけする時に使ってください。
そんな大仕事を片付けた副産物として針が四本光るようになった。
「それ一本ください! 可愛い妹へ贈り物をするのが兄の甲斐性ですよ! ください!」
一本はコルフィーに強奪され、残り三本。
「えへへー、ごー主人さまー」
シアが猫なで声ですり寄ってきた。
そう言えばミーネにぶった斬られた鎌を修理に出すとき、光るようになったらあげると約束していたので一本渡す。
「「…………」」
しばし見つめ合ってのち――
「いや、ほら、ほら、見てください。鎌は二本ありますよ? ね?」
「ああん? だから針も二本寄こせってのか? おうおう、ずいぶんいやしんぼな事言うじゃねえか」
適当にじらしてみたが、特に建設的な展開は起こらなかった。
やがてシアが半泣きになったので、仕方なくもう一本くれてやる。
「まあ持ってても使いどころもないものだしな」
「じゃあ意地悪しないで初めから素直に渡してくださいよー!」
むすーっとしながらも、シアはさっそく二本の針をそれぞれ鎌にぶっ刺した。
ちょっと〈炯眼〉で調べてみる。
〈アプラ〉
【効果】成長(微)
《適合判定》
否…尻に刺さる(微)
合…命あるものへの呪詛(微)
〈リヴァ〉
【効果】成長(微)
《適合判定》
否…尻に刺さる(微)
合…命なきものへの福音(微)
針は刺したばかりだから、この効果は元々のものだろう。
なんだ『尻に刺さる(微)』って。
誰かがうっかり手にしたら刺さっちゃう深さか。
成長するともっと深々と刺さるのか。
恐い。
恐すぎる。
呪いの鎌だ。
「おまえこれくれぐれも厳重に管理しろよ? 間違っても誰かに使わせたりするなよ?」
「え、どうしてです? なんかうちの子たちにまずいことが?」
注意させるためにも、効果について説明しておく。
「ちょ!? つ、つまりそれは、うちの子たちがどこのゴブリンの骨ともわからない人のお尻に刺さって穢れる危険があるわけですね。わかりました。誰にも触らせないように気をつけます」
「おれは鎌の心配をさせるために説明したわけではないのだが……」
まあ誰にも触れさせないように心がけるならそれでも問題ないか。
ついでにちゃんとシアが扱う場合の効果も説明する。
アプラの『命あるものへの呪詛』は定命――いずれ死ぬ定めのものへの呪い。攻撃によってくわえた傷がよりダメージを及ぼすようになる、ようなもの。効果最大になったらかすっただけで死亡とかになるんだろうか? えぐい。
リヴァの『命なきものへの福音』はアプラの逆、生きてない奴ら――アンデッドやらゴーストやらへの浄化作用になる。
鎌の名前はシアが自分をタロットカードの死神に見立てての、正位置と逆位置が由来になっている。
なので……、そのイメージが影響したことで発現した効果なのではなかろうか?
生きてるものも、生きてないものもブッ殺す。
まったく物騒なことである。
△◆▽
だいぶ温かくなった三月の終わり。
もう春と言ってもいいだろう。
春は出会いと別れの季節。
うちの場合は別れる人ばっかりだった。
まずクェルアーク家の面々が領地へ帰ることに。
出発する前日にうちにミーネの兄姉を招いての送別会を開いた。
ミーネのお姉ちゃん、セヴラナはぬいぐるみたちと離れるのを惜しみ、一体一体むぎゅーっと抱きしめていた。
下の兄であるヴィグレンは領地に戻ってからもTCG用のイラストをせっせと描いてくれることを約束してくれた。ある程度溜まったら機会を見てこちらに来てくれるらしい。
翌日、クェルアーク家へ行ってお見送り。
みなさん、またお会いしましょう。
それから数日すると、ベルガミアからリビラの親父さん――アズアーフがユーニスを迎えに来た。
二、三日ほどしたらユーニスは帰ることに決まる。
「うぅ、お別れです。また来られるかはわかりません。なので今度はクロアがベルガミアに来てください」
「うん、行くね。兄さんに連れていってもらう」
クロアとユーニスは互いに別れを惜しみながらもそれほど落ち込んでおらず、わりと明るく別れを受けいれている。
まあ会おうと思えば精霊門でなんとかなるが……、たぶんそういう話ではないような気がした。
おれがこっちの世界にぶっ飛ばされて早十二年。
高校のクラスメイトだった連中のことはそれほど懐かしいとは思えず、特に剣術バカと乱読家の二人についてはつい最近まで会っていたような錯覚すら覚える。
あまり認めたくない気もするが、おれは連中とずいぶん打ち解けていたのだろう。
遠く離れ、暮らす世界すらも違え、もう二度と会えないとわかっているのに寂しくも悲しくもない。きっとそれぞれにそれぞれの人生を生きているのだろうと苦笑を浮かべる程度。
それはあの連中と過ごしたしょうもない日々が、おれの心にどうしようもなく根付き、支えてくれているためかもしれない。
認めたくないが。
で、クロアとユーニス。
おれですらこんな感じなのだから、あれだけ仲良くなった二人ともなれば、きっと再会を喜び合うためのちょっとしたお別れ程度に違いない――と、思っていたら、いよいよお別れとなったときに二人のガチ泣きが始まった。
あっれー?
そこでそういう反応されると、兄さんは一体何に感じ入ってしみじみしていたのとかそういう話になっちゃうんだけど……。
△◆▽
春本番の四月。
そろそろ冒険の書三作目の製作にとりかかるべく、迷宮都市への取材旅行を意識し始める。
取材に向かう迷宮都市の名はエミルス。
ザナーサリー王国からずっと南東にあるウィーザ王国のフリード伯爵領に存在する、おそらく世界で最も有名な迷宮だ。
なんでも、その迷宮内では例え魔物にやられようと罠にかかろうと死ぬことはなく、それどころか傷を癒されて迷宮外に排出されるらしいのである。
まったく不思議な話だ。
本当に死なないならちょっと調べてみたいと思っている。
この迷宮都市を取材先に選んだ理由は『死なないダンジョン』であることと、もう一つ、実は精霊門が存在し、移動が楽という理由からである。
精霊門が利用できるなら取材旅行は単純に向こうで滞在する期間だけを考えればすむ。
ひとまず取材期間はひと月ほどを予定。
一緒に行くのは金銀赤の三人だ。
「御主人様が取材に集中できるよう、身の回りの世話をさせるメイドを二人ほど同行させてはいかがでしょう?」
取材旅行の計画を立てているとサリスが提案してきた。
「あー、そうか。そうだな……」
連れていくメンバーの自活力をグラフ化した場合、一人マイナスを突破するのが居ることだし、サポートしてくれるメイドが居てくれた方が仕事もやりやすくなるだろう。
サリスの提案があってから、おれは準備を進めつつ一緒に来てもらうメイドは誰にしようかと考えるようになった。
そんなとき、パイシェから話があった。
「御主人様、ボクを連れていってもらえませんか?」
「パイシェさんが希望してくるとは珍しいですね。何か理由が?」
「はい。御主人様が取材に向かうエミルスにはバロットの支部があります。さすがに大丈夫とは思いますが……、御主人様をわずらわせる可能性もありまして」
バロット――メルナルディア王国にある対魔王や対スナークを掲げる研究機関。
面倒そうなのであまりお近づきにはなりたくない組織である。
「お恥ずかしい話なのですが、少し前までバロットは対魔王を名目にかなり――、いえ、ひどく横暴な振る舞いをしていました。希少な素材や、新しい発見、とにかく興味を惹いたものをかき集め、場合によっては脅しを行っての接収、世界的に悪名を轟かしているような有様でした。対魔王を掲げていればすべて許されると勘違いした研究者たちによる暴走、これは前国王によってかなり正され、現国王のリマルキス陛下も取り組まれているのですが……、さすがに組織全体が改善されるところまではいっていません。なにしろ研究者を追いだすわけにはいかないので……」
ふむ、改革するからと、肝心な替えのきかない研究者を放りだすわけにはいかないわけか。
「それでもかろうじて良識を持っている者たちもいて、現在は保守派と改革派に分かれています。そしてその迷宮都市は保守派なんです」
「うっかりすると妙な検査とかされかねないと?」
「そんなことはさせません。そのためのボクですから」
「なるほど……。となるとパイシェさんにはぜひ付いて来てもらわないといけませんね」
パイシェは新参のメイドになるが、ティアナ校長の授業と優秀なアエリスによる指導、それから真面目な本人の気質によってかなりのメイド力を獲得しているので世話役としても問題ないだろう。
まあ本人は高まっていく女子力に悩んでいるようだが……。
こうして一人目はパイシェに決定。
あと一人は誰がいいかな、と考えていたところ、今度はティアウルからの自己推薦があった。
「あんちゃんあんちゃん、あたいあたい、役に立つぞ」
「役に立つって……?」
「あたいダンジョンの地形と敵がどこにいるかわかる」
「あ」
ティアウルの能力――周囲を見通せる能力はダンジョンにおいて索敵も出来るミニマップのようなものだ。
取材はダンジョン探索も予定しているので、ティアウルがいればより安全に探索を行うことができるようになる。
「それは確かに心強いんだけど……、探索に同行までさせるつもりはないよ? 危ないし」
「危ないならやっぱりあたいがいた方がいいぞ?」
「うーん……」
正直なところ、ティアウルが探索に付きあってくれるとすごくありがたい。
だがティアウルをダンジョンに……?
「あんちゃん、危ないことまでするつもりか?」
「いや、そんなつもりはないが……」
「なら大丈夫だぞ。それにあたいが付いて行かずに、あんちゃんたちにもしものことがあったらあたいずっと後悔する」
「んんんー……」
ティアウルは自分がいた方が安全性が向上することを理解し、そのうえでおれたちの身を案じている。
確かにダンジョン探索は危険を伴う。
だが、話を信じるなら迷宮都市エミルスのダンジョンは死ぬことがない。
もしも、の事があっても最悪の事態は回避できる。
「わかった。じゃあティアウルも一緒に来てくれ」
「うん、あたい頑張るな!」
ティアウルは古参のメイドだ。
なのでお世話に関しても……、えっと……、たぶん大丈夫なんじゃないかなぁ……。
若干ティアウルのメイド力に不安は残ったが、ともかく同行する二名のメイドが決定した。
その日から数日、何故かサリスの笑顔に妙な迫力があった。
※誤字と文章の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/01
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/02/06




