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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章1 『レイヴァース家の冬の日々』編
333/820

第329話 閑話…人、それを自業自得と言う

 間章は大会で終わる予定でしたがおまけをひとつ一緒に更新。

 二月の始め、ザナーサリー王国の王都エイリシェでは仮装した人々が町を練り歩くニバル祭が行われていた。

 厄払いと豊穣を祈るための祭りである。

 大人たちの仮装はその地区での役回り。

 今年の当番となった者は決められた区画をしずしずと巡回する。

 対して子供たちは参加したければ誰でも参加できるため、思い思いの仮装をして町をちょこまかと走り回る。

 大人たちが担うのは厄払いの精霊であり、子供たちが担うのは豊穣を呼び込む精霊だ。

 そのため子供たちが騒がしくはしゃぐことが良しとされ、精霊へのお供え物として王都の各所ではお菓子が配られる。

 子供たちはこれを目当てに王都を賑やかに駆け回るのだ。

 それまで子供たちの仮装は各家庭で手作りされた簡素な衣装であったが、今年は少し様子が違っていた。

 とある商会から売りだされていた『オーク仮面なりきりセット』が子供たちの心を掴んでいたのである。

 セットの内容は粗末な木彫りの仮面と、安い生地のマントであったが、子供たちはそれを欲しがり、価格が安いこともあって買い与える親も多かった。

 結果、今年のニバル祭は小さなオーク仮面が王都に溢れた。

 この変化は後年に至るまで続くことになり、やがてニバル祭はオーク祭とも呼ばれるようになるのであった。


    △◆▽


 ニバル祭が行われるなか、とある通信社の建物の一室で一人の少女と三人の男性による密談が行われていた。


「それで反響はどうだった? いい感じ?」


 そう尋ねた少女はこの通信社で記者として働くルフィア。

 エンフィールド家の令嬢であり、ウィストーク家の家令を務めるレグリントの妹、そして将来はウィストーク家の次期当主ヴュゼアの妻となる予定の少女であった。


「俺が回ったところはどこも良かったぜ?」

「こっちもだ。まあ好きな奴は興味を持つだろうさ。大会に行けなかった奴にとっては願ってもない物だし」

「見学に来た奴でもすべての試合を見学できたわけじゃないからな。むしろ大会を観戦に来た奴なら買うんじゃないか?」


 ルフィアに答えた三人、それぞれ名をゴディア、ゼルガ、ザガンと言い、この通信社に雇われている男性だ。

 一応、この三人はウィストーク家の人間ではあるが、それは本当に形だけのもの。

 去年の春頃に行われたレイヴァース家のセクロスとウィストーク家のヴュゼアによる決闘の際、親族限定という条件のなかで代理人として引っぱりだすため、急遽養子にされた元冒険者なのである。

 現在、三人はウィストーク家の計らいにより通信社に勤め、ルフィアに振り回される日々を送っている。


「ふむふむ、私としてはもっと期待されていてもいいような気がするけど……、そうね、これまで無かったものだから仕方ないわね」


 三人の報告を聞いたルフィアは満足げに笑う。

 現在、ルフィアが計画しているのは冒険の書の遊戯録。

 人が行った冒険の書のセッションをそのまま文章に書きおこしたものをまとめて書籍にする計画である。

 その第一弾として、まず冒険の書の大会で行われた全試合の遊戯録を製作中であり、遊戯録というこれまでにない書籍が近いうちに発売されることを今朝の新聞で告知した。

 ゴディア、ゼルガ、ザガンの三人は王都を周り、ひとまずの反響を調べ、ルフィアに報告をしているのだった。


「私はこの遊戯録が冒険の書を発展させる新たな一歩になると思っているの。これまでは他人がどうやって遊んでいるか、どういう発想をするか、そういうのは直接そばで見るしかなかった。でもこの遊戯録があればそれを解消できるわ。この王都以外の都市、ザナーサリー以外の国々に、この初めての大会でどのような試合が行われたかを知ってもらうことができる。素晴らしいわね」

「ああ、それはまったくその通りだと思うんだが……」

「あら、なに?」


 ゼルガの言葉を濁すような感じに、ルフィアが問う。


「いや、これ、レイヴァース卿に話通してないだろ?」

「ないわね」

「それまずくねえ?」

「そお? シナリオ本とかもう許可されてるし、別に問題ないと思うわよ? 各試合の記録だってうちでとったわけだし」

「でもレイヴァース卿が負けてた試合まで載せるんだろ?」

「もちろん載せるわ。それが記念すべき初めての遊戯録の目玉になるんだから」


 そう宣言するルフィアを男三人は困ったような表情で眺め、それからぼそぼそと囁きあう。


「……どう思う?」

「……あとで怒られると思う」

「……大会の準備してる途中で思いついたからって、提案しなくていいわけじゃねえしな」


 そんな男三人の反応が気に入らないのか、ルフィアは膨れる。


「なによー、私とあの子の仲なんだから平気だっていうのに」

「いやー、でもな? いくら懇意だからって利益を全部懐に入れるってのは問題だと思うぜ?」


 ゴディアが言うと、ルフィアはふふんと笑う。


「誤解があるようね。なにも私の懐に入れて私腹を肥やそうなんて考えているわけじゃないのよ? 利益はこの通信社が得るの。冒険の書専門の情報発信地になりつつあるここが大きくなることは、あの子にとっても良いことなのよ。だからいいの」


 そう言い、ルフィアはうんうんと頷く。


「新聞社から枠をもらって、ちまちま都市の噂を掲載させてもらっていたここが、今は冒険の書関連の特集や企画を依頼される立場よ。書籍の方も順調。そしてこの通信社発案の企画である大会も成功を収めたわ」

「マグリフ校長の発案……」

「いいの! 世間的にはうちなの! マグリフ校長は特装版さえ手に入ればそれでいい人だからいいの!」


 ザガンにそう返し、ルフィアは気を取り直して言う。


「躍進の時なのよ。町で囁かれる胡散臭い噂を記事にして糊口を凌いでいた日々は終わるのよ」

「いやあんた貴族でしょうが、裕福でしょうが」

「気分の問題よ」


 ザガンの突っ込みをそう切り捨て、ルフィアは笑う。


「ぐふふふ、そうよ、冒険の書は私が世に根付かせるの! それでもって得た利益でこの通信社をもっともっと大きくして、それでもってユーちゃんに褒めてもらうのよ!」


 と、ルフィアの慢心がこの日最高潮に達した、その時――


「そこまでよ!」


 バーンと部屋の扉が開かれ、現れたのは目元を隠すオークの仮面をつけた少女――ミーネであった。

 突然の登場にルフィアたちが目をぱちくりさせるなか、ミーネは腕組みをすると、ちょっと体勢を斜にしてからゆっくりと語り始めた。


「誰かが望むものを見いだしては作りだし、作りだしては売り払う。感動を提供するかわり、己は利益を得るその行い! 人、それを商売と言う……!」

「な、何者……!? 名を名乗りなさい!」

「あなたたちに名乗る名は無いわ!」

「おのれレディオーク……!」


 と、ミーネとルフィアは『オーク仮面物語』におけるオーク仮面の登場場面を再現し、良い仕事をしたとばかりに満足げに頷き合う。

 男三人が残念なものを見るような顔をしていることなどお構いなしだ。


「それでミーネちゃん、うちにどういう用?」

「えっとね、今うち――じゃなくてレイヴァースの屋敷にヴュゼアとレグリントが来ててね、ちょっとおたくの嫁、もとい妹はどうなってんのって怒られてるの」

「………………え?」


 ミーネの話にルフィアから表情が消える。


「それでちょっと本人呼んでお話しようかってことになって、じゃあ私が行くってことになって、せっかくのニバル祭だからレディオークになって来てみたの」

「…………」


 ルフィアはそっと男三人を見る。

 助けを求めるような目をしていたが、そんなもの、ゴディアにも、ゼルガにも、ザガンにも、例え三人がかりであったとしてもどうにかなる問題ではなく、三人はそろって行ってらっしゃいと手を振った。

 ルフィアはしばらく固まっていたが、やがて覚悟が決まったか、それとも諦めたのか、沈痛な面持ちでとぼとぼと退室する。

 そしてミーネ。


「成敗……!」


 決め台詞と共にポーズを決め、それからルフィアの後を追う。


「「「…………」」」


 残された男三人は開けっ放しのドアをしばし眺めていたが、やがて深々とため息をつくと、それから静かに仕事に戻った。

 この通信社の未来は明るいのか暗いのか、三人には推し量ることは出来ず、今は真面目に仕事に取り組むことが大切だと悟ったのである。


 これにて間章は終了です。

 次回からは5章『迷宮の紡ぐ夢』になります。

 次回更新は一週間ほど期間をあけて、15日を予定しています。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/19


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりルフィアはルフィアだった(笑)
[一言] 富士見書房とドラゴンマガジンを思い出しました
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