第324話 12歳(冬)…アスレチックコース
クロアとユーニスはすっかり仲良くなっていつも一緒に遊んでいる。
午前中は勉強や訓練、昼食のあとお昼寝して、それから遊ぶというサイクルを一緒になって過ごしている。
そんななか、ふと育ち盛りの元気いっぱいの男の子には、訓練場があるとは言え、遊べる場所がこの屋敷だけでは可哀想かなと思った。
「そこでおれは考えた」
「はあ、何をですか?」
仕事部屋にシアを呼んで考えたことを相談する。
それは二人が思いきり体を動かせるような場所を作ろうという計画である。
「つまり、アスレチックコースを造ろうと思うのだ」
「……え、ここに?」
「いや、二人が飽きたあとも誰かに使ってもらえるよう、訓練校の近くに造ることにする。話を通す相手は屋敷にやたら出没するからちょうどいいし。で、おまえを呼んだのはあれだ、どんな遊具を用意したらいいかなーって相談だ。おれってアスレチックで遊んだことないからどんな遊具があるとかわかんねえし」
「いや、それでよくコースを作ろうなんて考えましたね……」
それからおれは冒険者訓練校をぐるっと一周するアスレチックコースの予想図を描き、後日仕事をさぼってひょっこりやってきたマグリフ爺さんにプレゼンをした。
「ほうほう、訓練用とな」
「ええ、冒険者として活動するなかで遭遇する状況――例えば崖を登るとか、縄を伝って谷間を通るとか、そういう状況に体を慣れさせておくようなものですね」
普通のアスレチックコースでは本当に体を動かして楽しむだけになってしまうため、軍人の障害走競技に寄せたものになる。
ただあまりきつすぎてはクロアやユーニスが楽しめなくなるのでその辺りの匙加減には気をつけねば。
「なるほど、いいかもしれんのう。こういう話し合いをしておったと報告すれば、遊びに行ってばかりと怒られることも減るしのう」
まあ協力してくれるなら、立場をわきまえずうちにやたら出没することには目を瞑るべきか……。
「しかしいざ作るとなると、まずは王、それから冒険者ギルドにも話を通さんとな。まあギルドの方は儂から話をしておこう」
「お願いします。では陛下にはぼくの方から」
とは言ったが、なにも国王に会いに行く必要はない。
後日、セレスを抱えてほくほくしているミリー姉さんに許可をもらう。
「お爺さまには私から伝えておきますから、好きにやってくださってけっこうですよ。大丈夫、レイヴァース卿がやると仰るならお爺さまも反対しません。それに貴方がお金を出して、それを訓練校に寄付という形を取るんでしょう? 反対する理由はありませんよ」
うむ、クロアとユーニスの遊び場を作るだけだからな、費用はおれが出すことにした。
さて、許可が出たので、あとはおれの思い描く物を実際に作ってもらうことになるのだが、そこはサリス経由でダリスに相談。
「ふむ、訓練校を囲むように訓練コースを作るのか。ある程度は基礎工事と言うか、地ならしすべきだろうが……」
「マグリフ校長が頑張ればどうにかなりませんかね?」
「それもいいだろうが……、どうだろう、マグリフ殿もけっこう歳だからな」
そうか、ではミーネにも頑張ってもらう方向で――、あ、いや、そう言えば魔導学園とも繋がりが出来たことだし、生徒が借りられないかちょっとベリア学園長に相談してみようか。
と言うことで、おれはチャップマン商会からそのまま魔導学園に行ってベリア校長に面会する。
「ああ、それはいいね。生徒たちにとっては良い経験になってお金も稼げるわけだ。うん、すぐ募集をかけてみよう。あ、話は変わるんだけど、君のお母さんにもしよかったら学園で講師をしてみませんかって伝えてもらえる?」
「あー、はい、伝えておきます」
一つお使いを頼まれたが、話自体はすんなりいった。
これで魔導学園の学生が基礎工事要員となり、その後にダリスが手配した作業員が木材で遊具を構築していくことになる。
ただその前に、実際に設置するアスレチック遊具をしっかりと設計してどれをどの順番で置くということを、訓練校の教員と協議しながら決める必要がある。おれとシアで決めた物を作って置いておくのはただの押しつけになってしまうので、生徒に必要とされる物を選ばないといけない。それにただ遊ぶだけでなく、それなりの難易度というものもなければならないわけで、やはりそれも教員に判断してもらわなければならないことだ。
「しばらくは訓練校に通うことになるー……かな?」
「わたしがやりましょうか? ご主人さまは皆さんの服を作る方を頑張ってくださいよ……、ってなんで嫌そうな顔なんですか」
「コルフィー先生が張りきりすぎてて……。でも確かにみんな楽しみにしてるみたいだし、おれはそっちを頑張った方がいいか」
「ですねー」
「じゃあ任せる」
「へーい」
そこからアスレチックコースの建設はシアに任せた。
こういうもの、というイメージを持っているのはおれを除けばシアしか居ないので、任せるというのは順当な判断だと思う。
それから遊具の検討、魔導学園の生徒による基礎工事、そして遊具の建設と、すべては急ピッチで行われた。
人員を多数動員してのマンパワーアタックであった。
アスレチックコースが完成した翌日、おれたちは実際にコースを完走できるか試すため訓練校へと向かった。
同行するのは金銀赤、それからクロアとユーニス、あとは勝手についてきた犬である。
そして訓練校に到着し、おれは初めてアスレチックコースを目にすることになったのだが――
「……ッ!?」
そこにあったのはSA・SU・KE!
「ちょっとシアさぁーん!? なんか想定してたのとずいぶん違うんですけどぉー!」
「いやー、訓練校の先生方と相談してたらなんかこんな感じになっちゃったんですよ」
「なっちゃったんですよって、おい、どうすんだコレ。ってか第一障害がいきなり垂直どころか反り返った壁じゃねえか。どうすんだアレ」
「いやまあ、頑張ってもらうってことで。最初はもっともっと高かったんですが、それはさすがにってことで止めさせました」
「……なあ、今日のこれってさ、実際に完走できるかどうかわかんねえから試しにやってみてってやつじゃねえの?」
「いやいや、ほら、わたしはいけますし、無理難題ってわけではないんですよ。実はですね、話し合いの中でご主人さまやわたしの想定を越える発想があったんですよ。やっぱり先生方は違いますね」
「どういうことだ……?」
おれが困惑していると――
「兄さん兄さん! もう遊んでいいの!?」
「兄さま! 挑戦してもいいですか!」
クロアとユーニスが待ちきれないとばかりに言う。
「あ、ああ、いいけど……、怪我をしない程度にな」
「「はーい!」」
二人は声を揃えて返事をし、勢いよく第一関門である壁に突撃していく。
どうするんだろう?
いやまあ駆け上って、頂上に手を掛けるしかないんだろうが、あの二人にしたら高すぎるのではないだろうか?
案の定二人は壁を駆け上りはするが手が縁にまったく届かない。
いや、壁を二歩くらい駆け上がれているからそれは普通に凄いと思うのだが。
ふむ、ユーニスの方がクロアより高く登れてるな。
おれは早々に二人が諦めてこんなの突破できないと言ってくると思ったのだが、クロアとユーニスは相談を始め、攻略のやりかたを変更。
クロアが壁に手をついて台になり、ユーニスはその背を蹴ってさらに登れる距離を伸ばすことで頂上に手を掛けた。
頂上に上がったユーニスは寝そべって下に手を伸ばし、駆け上がってきたクロアの手を掴んで登るのをサポートする。
「あー、あぁあぁ、そういうことか」
二人の行動を見ておれはようやく理解した。
おれはただの遊具――一人で頑張って攻略する程度のものとしか考えていなかったが、マグリフ校長や教員はこれを本当に冒険者が実際に遭遇する状況の訓練となるよう想定していたのだ。つまり、どのような手段であろうと、攻略すればそれで良し。一人で攻略できないならば二人で、それでも無理なら三人で、ということだ。
「なるほど、攻略方法はそのとき可能な手段で、ってことか。おれそこまで考えてなかったわ」
「そうなんですよ、わたしも話し合いの途中で気づきました。他にも依頼を受けていることを想定して荷物を背負ってみたり、護衛役の人をサポートして攻略させていくといったことも考えられていますよ」
「さすが訓練校ってわけか……」
うん、これは一本取られたという感じだ。
それからクロアとユーニスは一人で攻略できる関門は一人で、一人では無理な関門は協力してクリアしていく。
いま自分たちが出来る最良の手段でもって障害を攻略せよ、と言う、おれの想定とは違うアスレチックコースになったが、おそらくこの方が皆の為になるのだろう。
おれが密かに満足していると――
「私たちも行きましょう!」
ミーネがおれの腕を掴んで誘う。
「え? シアと行ったらいいんじゃね?」
「シアなら一人で出来ちゃうじゃない。ああやって協力していくのが楽しそうだもの」
「おまえも魔術でどうにかなるだろ?」
「魔術を使わずにやりたいの! ほら、行きましょう! あなた最近運動してないからいい機会よ!」
そしておれはミーネに引っぱられてコースに挑戦することになり、なんとか制覇する。
童心に返って張りきったわけではない。
ただミーネが脱落を許してくれなかっただけの話だ。
翌日、おれは筋肉痛で苦しんだ。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2018/12/17
※文章の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/01




