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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章1 『レイヴァース家の冬の日々』編
326/820

第322話 12歳(冬)…クロアの友達

 特別な用事がない日におれが何をやっているかと言うと、気合い入りまくりのコルフィーにせっつかれながら、メイドたちに贈る服のデザイン画を描くことに追われている。


「もうこれまで描いたものから選べばいいだろう……?」

「いえ! もっと皆さんに似合うものがあるかもしれません! だからほら、描いてください! もっともっと!」


 おれの描く服のデザインはおれの中から生まれるものではなく、元の世界で見たものを思い出すという作業の結果である。

 つまり、枯渇したらもう出ない。

 いや、もう描かされまくってほぼ枯渇していた。


「ところで兄さん、わたしルフィアさんにもお礼に服を贈りたいと思うんですけど、なにかルフィアさんにぴったりなのってありませんか?」

「ルフィアに?」


 ふむ……、快活でフットワークが軽い記者、か。


「ならこういうのはどうかな」


 と、おれがちょいちょいと描いたのはなんちゃってニッカボッカ。

 工事現場のおっちゃん兄ちゃんたちではなく、山登りとかゴルフとかの方である。


「ほうほう」

「で、上はこういう柄で、靴下は菱形の模様でな」

「ほうほうほう」


 裾口がきゅっと絞られる膝下までのゆったりとした短ズボンというものはコルフィーにとって初めてのものであるらしく、食い入るように見つめてくる。


「いいですね……、ルフィアさんはこれにしましょう!」

「ほいほい」


 すんなり納得してくれたコルフィーだったが、話はここで終わりということにはならなかった。


「うんうん、やっぱり兄さんはまだ描けますね! じゃあどんどんいってみましょう!」

「え、いや、今のはたまたま思いついただけなんだけど……」


 しまった、と困っていると――訓練場の方からキャッキャと子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。

 声はクロアと……、あと誰だろう?

 気になって窓から覗いてみると、男の子二人がすばしっこく逃げるバスカーを追っかけ回していた。

 一人はクロア。

 もう一人は近所の子かな、と思ったのだが――


「あれぇ!?」


 おれあの子、知ってる!


「おや、クロア兄さんと誰でしょう……? 獣人の……、この辺りでは見かけたことのない子ですけど」

「ユーニスだ……」

「……へ? それって、ベルガミアの?」


 みんなで一緒に就寝していたときに聞かせたおれの冒険譚(?)では、シャンセルとリビラの名前は誤魔化していた。

 が、ユーニスはそのまま出していたのでコルフィーはあの子がベルガミアの王子と気づいたようだ。


「……な、なんでここに?」

「わからん。ちょっと行ってくる」


 楽しそうに遊んでいるからとほっとくわけにもいかず、おれはすぐに仕事部屋を後にすると、まず何か知っているであろうシャンセルとリビラを捜すことにする。

 しかし階段まで行ったとき、下からやってきたサリスに出くわし、そこで正式にベルガミア王国、第二王子ユーニスが訪問したことを告げられた。

 護衛として同行してきたのはリビラの父、アズアーフ・レーデント。

 現在、応接間にてリビラとシャンセルがアズアーフの対応をしているらしい。


「ユーニス殿下はクロア様と意気投合なさったようでして……」

「あー、うん、それは窓から見てわかった」


 歳が近いしな、それにクロアは地理的に、ユーニスは立場的に友達が作りにくかったから、ここでちょうど遭遇して仲良くなったのだろうと勝手に考える。

 ともかく、まずは応接間へと向かった。

 そこで目にしたもの――


「ととニャに居座られたらやりにくいなんてもんじゃねーニャ! とっとと帰るニャ! 仕事の邪魔ニャー! 小遣い置いて帰るニャー!」


 それは久しぶりに再会した父をペシペシ叩きながら、追い返そうと躍起になっている猫娘の姿だった。


「はっはっは」


 しかし父猫はにこやかにそれを受けいれている。

 もしかしてこれがレーデント式の団欒なのだろうか?

 お邪魔かな、と思っていたら、アズアーフがおれに気づいた。


「おお、久しぶりだな、英雄殿。急な訪問で申し訳ない」

「いえいえ、ようこそいらっしゃいました。さっそくなんですが、ちょっと混乱しているので訪問の理由を聞かせてもらえると……」

「あー、ごめんダンナ、これあたしが原因なんだ」


 困り顔でシャンセルが言う。


「実はさ、ちょっと前に国に手紙を送ったんだよ。そこにユーニスもちょっと来てみたらいいかも、みたいな事を書いたんだ。同じくらいの男の子もいるし、みたいな。予想としてはこっちに来たいっていう手紙が来て、それからダンナに相談しようと思ってたんたけど……、まさか返事が本人ごとやって来るとは思わなくて……」

「それはシャンセルのせいってわけでもないな」


 きっかけにはなったが、シャンセルもびっくりしてる側だ。


「そして私がその付き添いとしてやってきた。まあ娘の顔を見たかったので願い出たのだがな。こちら陛下からだ」


 渡された親書を読んでみる。

 挨拶と感謝の言葉から始まり、ベルガミアの近況報告、それから本題となるユーニス殿下の話と続く。


「冬の間こっちに? いいんですか?」

「うむ、出来ればここで過ごさせてもらいたいのだ。無理ならば数日の滞在でも」

「いえ、こちらはかまいませんが……、王子ですよ? 他国の男爵家で冬越しさせていいんですか?」

「陛下の許可は出ているし、殿下もそれを望んでいる。大使から話を聞いたところ、この王都にレイヴァース家と敵対するような勢力は、貴族からゴロツキに至るまで存在しないというではないか、ならば安全だ」


 敵対しないと言うか、あいつヤベェ関わるな、な感じだと思う。


「それでは……、そうですね、飽きるまで居てもらっても」


 ひとまずユーニスを預かることにすると、リビラが言う。


「ととニャはどうなるニャ。まさか……、ユーニスと一緒にここで暮らすニャ?」

「はは、さすがにそこまで迷惑を掛けるわけにはいかん。すぐに去ると言いたいところだが……、レイヴァース卿、どうだろうか、二、三日、私も泊めてもらえないだろうか?」

「かまいませんよ。ならそうですね、お世話はリビラに任せましょう」

「ニャニャ!?」


 何言いだしてやがるコイツ――、みたいな顔をするリビラ。


「まあまあ、数日したらまたしばらく会えなくなるんだし」

「…………、しかたねーニャ。ニャーさまがそう言うなら、ととニャの面倒を見るニャ」


 リビラは嫌そうな顔をするわりには、あっさりと承諾する。

 なかなか素直になれないのは相変わらず。

 まあすぐに変われるものじゃないか。


「そうか……、リビラが世話をしてくれるか」

「しかたなくニャ」

「ならば……今日は久しぶりに背中を流してもらおうか!」

「調子に乗んじゃねーニャ!」


 そしてリビラはまたアズアーフをペシペシ叩き始める。

 それでも嬉しそうなアズアーフ。

 やはりこれがレーデント家の団欒なのだろう。


    △◆▽


 団欒を楽しむ父と娘を応接間に残し、おれとシャンセルはユーニスのいる訓練場へ向かった。


「殿下ー! ユーニス殿下ー!」


 玄関から出たところで呼びかけると、二人と一匹はこちらに気づいて駆けよってきた。


「兄さん、お客さん!」

「レイヴァース卿、お久しぶりです!」

「わん!」


 クロアと尻尾パタパタのユーニス、それと尻尾ぺるぺるの犬、すっかり仲良くなっているのが雰囲気で伝わってくる。


「えーっと、話は伺いました。殿下が居たいだけ居てもらってかまいませんよ。ただここは元々学校になる予定だった屋敷なので、部屋が狭かったりと住み心地は悪いと思いますが……」

「いえ、住まわせてもらえるなら充分です! あ、あとお願いがあるんです!」

「何でしょう?」

「ぼくも姉さまみたいに親しくしてください」

「親しく……? あー、言葉使いとかですか?」

「はい! ここに置いてもらえる間は、王子ではなく面倒を見てあげる獣人の子くらいの感じで!」

「えーっと……、殿下をその扱いでは……」

「ダンナ? ダンナ? あたしは? あたし一応だけど王女だぜ? ユーニスの姉だぜ? もしかして忘れてる?」

「もちろんわかってるけど、ユーニス殿下は何となく敬わないとなって言うかなんて言うか……」

「ダンナひさびさにひでえ……」


 悪気はないのだが、本当に感覚的にはそうなんだもの。


「わかりました。殿下がそう仰るならそうしましょう。では改めまして……、ユーニス、久しぶりだな。まあ自分の家だと思ってのんびりしてくれ」

「はい、よろしくお願いします! え、えっと――、兄さま!」

「兄さま?」

「そう呼んではダメですか?」

「とくに問題があるわけでもないですし、かまいませ――、っと、えーっと、うん、べつにいいよ」

「はい、では兄さまと!」


 それからユーニスは「兄さま兄さま」と繰り返し、クロアが負けじと「兄さん兄さん」言いだし、何故か犬が「わんわん」吠える。

 ちょっとカオス。

 おやつとか与えたら落ち着くかな……。


「それでは――、まあしばらく遊んでていいよ。その間に部屋を用意するから。クロア、あとでユーニスに屋敷を案内してどこに何があるのか教えてやってくれるか?」

「うん、案内するね!」


 クロアにお願いし、次はシャンセル。


「来たばかりだし、しばらくは面倒を見てやってよ」

「ああ、そりゃもちろん。すまねえなダンナ、ホントに急な話になっちまって」

「まあいいさ、これがリクシー殿下だったらさすがにまずかろうと思うけど」

「兄貴だったら数日で追い返すよ、面倒くさそうだし」

「そう嫌ってやるなよ……」


 まあ本心から嫌っているわけでなく、これもまたどこかのネコ親子のような感じなのだろう。


「もし兄さまが来たら、ぼくがレイヴァース卿を兄さまと呼んでいるのを知ってびっくりするでしょうね」

「勝手に兄が増えてるって?」

「いえ、そうでなく姉さま――」

「シャー!」


 突如シャンセルがユーニスを威嚇する。

 尻尾がビシッと立っている。

 猫なら友好の証だが、犬は示威のためだったような……。


「うわぁ、姉さまが怒ったー!」


 慌ててユーニスが逃げだし――


「待ってー!」

「わん!」


 何故かクロアとバスカーが追うように逃げ出す。


「待てこらユーニス! 話があるぞ! ここで暮らすならまず話があるぞ!」


 それを追うシャンセル。

 二人と一匹、そしてそれを追う一人はそのまま正門を飛びだして行ってしまったが……、まあ大丈夫――じゃねえな。

 ジェミナ経由でエイリシェにお願いして見守っておいてもらおう。


    △◆▽


 その日から我が家でユーニスが暮らすようになった。

 礼儀正しく、そしてシャンセルの弟ということで皆の受けも良い。

 ただそのせいでクロアとセレスにシャンセルがおれのお話に出てきた王女だとバレた。

 バレたが……、特別気にすることはなく、クロアは初めての友達と遊ぶのに一生懸命で、セレスは姫とわかったシャンセルにしがみついて尻尾を撫でさせてもらうのに必死だった。

 それからアズアーフは二泊ほどして帰国していったのだが、滞在中はひたすら将棋と麻雀を楽しんでいた。


「世話もなにもあったもんじゃねーニャ」


 結果、リビラがちょっと拗ねた。


※誤字を修正しました。

 ありがとうございます。

 2018/12/17

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/01

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/13

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/10/20


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