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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章1 『レイヴァース家の冬の日々』編
325/820

第321話 12歳(冬)…アーカリュース

 クェルアーク家で懇親会をしてから、ミーネの姉セヴラナと下の兄ヴィグレンがちょくちょくうちにやって来るようになった。

 セヴラナの目的は主にぬいぐるみと戯れることで、セレスと一緒になってぬいぐるみたちを撫でまくっている。そこにシアとミーネとコルフィーとミリー姉さんとひょっこり現れたルフィアが混ざるとなかなかのカオスになるのでおれはちょっと近づけない。

 ヴィグレンは主にお仕事の企画について話し合っている。

 初対面、クェルアーク家での親睦会のときは妹――ミーネをたぶらかす輩となにやら大変な誤解を受けたが、途中、取りなそうとしたのだろう、セヴラナが弟は絵を描くと教えてくれた。どうやらあまり大っぴらにしない密かな趣味のようなものだったらしいが、描かれていたものは迫力のある戦士や魔物といった、英雄譚の一場面のようなものが多かった。これはクロアとミーネに受けが良かった。本人はなんの足しにもならない趣味と言っていたがそんなことはない。


「いやー、ヴィグレンさん、実はちょっとたくさん絵を描くお仕事があるんですけどお話を聞いてもらえませんかね?」


 それからおれはヴィグレンにトレーディングカードゲームの構想を語り、おれ手作りの見本でちょっと遊んでみたりした。途中からは様子を見ていた面々も加わり、ミーネとザストーラによる父娘対決が行われる横で、ヴィグレンに協力のお願いをしてみる。


「まあ冬の間、協力してやってもいいが……」


 渋っているようなことを言うが、内心興味を持っていることはその表情でなんとなくわかった。

 詳しい話は後日、と言っておいたら、ヴィグレンはその翌日にどのような絵が必要になるか聞きに来た。

 まだどんなイラストが必要になるかあやふやなのですが……、どんだけやる気になってるんですか。

 ともかく絵を描いてくれる人は見つかったので、あとはその絵の魅力を損なうことなく印刷のための原版に落とし込める人を確保できればトレーディングカードゲームを作る準備が整うだろう。


    △◆▽


 その日、おれは王様の武器製作依頼『神に奉納する武器』のために鍛冶士のクォルズに相談しに行くことにした。

 すでに冒険の書三作目である『迷宮の見る夢』の構想、それからモデルにする有名な迷宮都市――エミルスに行く予定を立てつつあるが、それは春からなのでそう急ぐこともない。なのでまだ時間のある今のうちに、その次に行う武器製作についても着手しておく。王様のためというのはついでで、神が気にいる武器を作れたらおれも祝福が貰えるんじゃないかという打算からのお仕事だ。

 このお出かけにはティアウルを誘ってみたが、当番の仕事を受け持っているからと同行を遠慮した。


「それにとーちゃん最近ちょくちょく遊びに来るからな」


 確かにクォルズは週一くらいで第三和室に湧くようになったな。

 ということでティアウルは残し、おれはミーネ、アレサ、シャンセルの三名を連れてまずクェルアーク家へ向かうことに。

 アレサは従聖女としてのお仕事だが、シャンセルは腕の良い鍛冶士であるクォルズに刀を見てもらいたいという話だった。

 そしていざ出発となったところでクロアとセレス、シアと犬、クマ兄弟と駄パンダが同行者に追加された。


「クェルアーク家に遊びに行くわけじゃないんだけど……」


 一旦クェルアーク家に向かうのは、ミーネに贈った木製ガンブレードを回収するためである。まずはあれをクォルズに見てもらい、こんな感じの武器が作れるかどうかという相談をするのだ。


「んー、じゃあ私たちはうちの屋敷に残るから、あなたは用件がすんだらこっちに合流すればいいわ!」


 となると、クォルズの所へ向かうのは結局おれとアレサとシャンセルの三名という当初のメンバーになるのか。

 ミーネの提案を採用したおれはクロアたちとクェルアーク家で一旦別れ、木製ガンブレードを持って鍛冶屋『のんだくれ』へ向かう。

 クォルズ親方にはすぐに会うことができた。


「ん? ティアの奴はおらんのか」

「え、ええ、今日は都合がつかなかったので……」

「なあ坊主、ティアの奴にもうちょっと家に帰れと言ってやってくれんか」

「わかりました。親父さんが寂しがっていると伝えますね」

「いや儂はべつにかまわんのだがな、妻がな、元気でやっているか気にしているようでな」


 クォルズは変に意地をはってもじもじする。

 髭モジャのオッサンのもじもじとか誰得なのだろう?


「なるべく顔を見せに行ってあげてと言っておきます」


 それで従うかどうかは怪しいところだが。

 ともかくティアウルにはクォルズが寂しがっていると伝えることにして、おれは木製ガンブレードを見てもらう。

 と、そのまえにひとつ願いを。


「これの構造、そして発想については絶対に他へ漏らさないようにしてください。この仕組みは誰でも簡単に人が殺せる武器を生みだす可能性を秘めています。おそらくシャーロットもこれには気づいていたはずですが、それを世に広めませんでした。魔王のいた時代のシャーロットがです。いずれ発明されるかもしれませんが、それまでは無いものとしておきたいんです」


 誰かが気づいてしまえば普及は早いだろう。そしてそこに魔法が加わったらどんなものが出来上がるか……、想像がつかない。

 クォルズは職人魂に懸けて秘匿すると誓い、それから木製ガンブレードを受けとると時間をかけて観察し、いじり、それから唸る。


「これ……、要は剣なんじゃろ? こんな複雑なもん振り回して何かぶっ叩いとったらすぐに壊れるぞ?」

「やはりそうなりますか……、王金とか使っても無理ですかね?」

「王金といっても細けりゃ曲がるからな。こんな内部に空間があるものでは……、魔鋼化を果たし、魔剣となればそのあたりも解決するかもしれんが、作った段階ではな」

「奉納するだけなので実用的でなくても平気では?」

「武具の神じゃろ? ならば実用に耐えうる物でなければ駄目じゃろう。この仕組みを使うなら、もっと強度のある構造にせんと厳しいじゃろうな」


 となると、レバーアクションではなく、回転式弾倉――そして弾倉振出式の構造にした方がいいだろうか……?

 ここは帰ったらシアに相談しよう。

 それからもクォルズからアドバイスをもらい、問題点を洗い出していく。

 そのなかでも解決しなければならない課題は最初の『実用に耐える強度の構造』であり、もう一つは『魔法を付与する紋章』の問題。

 紋章を作りだすのは鍛冶士の領分ではないと言われる。

 そこはまあ母さんに相談だ。

 ひとまず相談が終わり、次にシャンセルが刀を見てもらうことに。


「また珍しいもんを持ってきたな」


 鞘から刀を抜いて眺めながら、クォルズが言う。


「傾けるとするっと抜けちまうのがどうにかなんないかなって。あとこれまで手入れとかしたことなくてさー、このままほっといてもいいのかなーって思って」


 要は刀を鞘に留めておく鯉口が緩くなってしまっているという相談だった。

 しかし手入れしていないとは……。

 元の世界、クラスメイトから聞いた話では、刀は定期的に手入れをしないとくすんで輝きは落ちるわ、前に塗った油が酸化して錆びるわと困ったことになるらしい。

 にもかかわらずシャンセルの刀は綺麗なもの。

 クォルズは刀を鞘に収めたり、抜いたりと鯉口の閉まり具合を確認していく。


「抜けてしまうのは薄い木を内側に貼って、削って調整すればいいじゃろう。まあこれならすぐ出来るわい」


 そう言い、クォルズはすぐに鞘の鯉口の調整を始める。

 おれは刀を見ていたのだが、手入れもせずに状態が保たれているのが気になり、ふと、柄に収まっている茎の部分に秘密があるのではないかと分解してみることにする。

 まずは目釘を抜き、柄を持った手の手首をとんとん。

 うまく刀身が少し浮き上がったら、はばきを持ってゆっくり柄から引っこ抜く。

 すると――


「え、ダンナそれなに!?」

「なんじゃそれは!?」


 一般的には銘が刻まれているであろう茎の部分には、みっちりと電子機器の基盤みたいな回路があった。

 あれ?

 これって回廊魔法陣ってやつじゃ?


「これがどういう働きをしているのかはわからないけど、たぶんこのカタナの性能とか整備のためのものじゃないかな。手入れしないのに元のままってわけにはいかないだろうから、管理が適当でもなんとかなるようにってシャーロットが」

「ん? 坊主、それはシャーロットの手によるものなのか?」

「だったよね?」

「ああ、あたしの祖先が魔王退治のときに使ってて、それから伝わるもんだから」

「は? 魔王退治……? お嬢ちゃん何者なんじゃ?」

「ああ、あたし一応ベルガミアの第一王女なんだ」

「……なんで王女が……、あー、ああ、なるほどの」


 クォルズはぽかんとしたいてが、すぐに何か納得したようにうなずき始める。


「何を思いついたか知んねーけど、余計なことは言わないでくれよな」

「わかった。だがまあシャーロットが関わっているのなら、それはアーカリュースによる回廊魔法陣じゃろうな」

「あれ? アーカリュース? リーセリークォートじゃなくて?」

「ん? ああ、そうか。アーカリュースはリーセリークォートが一時期だけ名乗っていた別名じゃよ。二百年ほど昔だったか。作品を作らなくなって久しいからな、アーカリュースの名を知る者はもうあまりおらんじゃろうな」

「そうなんですか。どうして名乗らなくなったんでしょう?」

「それについては聞かんな。坊主ならそれこそ本人に聞いてみればいいじゃろ?」

「あ。そうですね」


 うん、会ったときに覚えていたら聞こう。


「回廊魔法陣を施された品は魔道具よりも邪神誕生以前の品、魔導器と呼ばれるものに迫る。代表はやはり精霊門じゃろうな。あの『門』を留めておく枠組みはリーセリークォートによるものじゃ」

「あれ? じゃあこれももしかして凄いもの?」

「もちろんじゃ。国の宝にしておいてもいいくらいのものじゃぞ」

「うわ……、大事にしよう……」


 家にあったよくわからない古い物を鑑定したらえらいお宝で、びっくりして大事にし始めるような心境だろうな。


「しかし坊主、そっちの複雑な剣もリーセリークォートの手を借りられたらなんとかなるんじゃないか? 剣自体に強度を増す回廊魔法陣を刻んで、その、何じゃ、魔法効果の発生? それもリーセリークォートの領分じゃろ」

「なるほど……、そうですね。帰って母にそのあたりのことを確認してみます」


 名乗らなくなって二百年って話だからな、案外母さんもアーカリュースとしてのリーセリークォートはあまり知らないかもしれない。

 ひとまずガンブレードを作るならばリーセリークォートに会う必要があることは判明した。

 神の恩恵を制御する『あやしい腕輪』のことも聞かないといけないし、これは来年、迷宮都市で取材をしたあとはルーの森へ行くべきだろうな。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/02

※さらに脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/12/27


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