第315話 12歳(冬)…王都での生活
家族が王都にやってきて数日が経過。
今のところ問題は起きていない。
と思っていたら庭師のデヴァスが不審者を捕まえて連行してきた。
ルフィアだった。
「確かに不審者だけど……、一応は客として通してあげてよ」
「あー、それなのですが……」
何回か会っているのにどうしたのかと思っていたら、デヴァスが捕まえてきた理由を説明してくれた。
「どういうわけか、ルフィア様はシャーロットの像に隠れながら訓練場でバスカーと遊ぶセレス様を隠し撮りしていたのです」
「おいこらてめえ、どういうことだ!」
「うぐぐ……!」
ぐににに、とルフィアの頬を引っぱって問い詰める。
「い、依頼だったの……」
「依頼だぁ? どこのどいつだ」
「や、雇い主の名を喋るわけにはいかないもん!」
「回収に来たヴュゼアに言いつけるぞ。しばらく口をきくなってお願いするぞ」
「……くっ! それはずるい! ……ま、まあ、あなたとは知らない仲というわけでもないし、そうね、じゃあやんごとない身分のお姫様とだけ言っておきましょうか!」
「んなもんミリー姉さんしかいねえじゃねえか!」
まったくあの姫さまは。
「でもそれなら隠し撮りする必要はないだろ」
「いやいやー、それじゃあ駄目なのよ。セレスちゃんが無邪気に遊んでいる姿でないと」
それは……、まあわからんでもない。
ポーズをとらせたりして撮影した写真もいいが、飾り気のない何気ない瞬間というのも良いものだ。
「もちろん普通に撮った写真も頼まれてるんだけどね。ぬいぐるみに囲まれてる姿とか、メイドのお仕事を手伝おうとしてる姿とか、みんなと遊んでる姿とか。ミリメリア様はとにかくセレスちゃんの姿を残したいみたいよ?」
姫という補正のおかげで、セレスはミリー姉さんにめちゃくちゃ懐いたからな。そりゃあミリー姉さんは嬉しかっただろう。すっかりセレスの魅力にやられてしまったのか。
「まあミリー姉さんなら写真も大事にするだろうし、ひとまず写真を撮ることは許可しよう」
「あざーっす!」
ひとまずルフィアを解放し、写真を撮るためにセレスを捜す。
するとセレスは屋敷の各所で勃発するようになった派閥抗争のなかにいた。
派閥――。
三人集まれば派閥ができる、なんて言われるのだが、この屋敷でもまさにその派閥が生まれてしまったのだ。
第一の派閥。
元からこの屋敷にいるぬいぐるみコンビ――クマ兄弟。
クマ兄弟は我らこそがこの屋敷のぬいぐるみ筆頭であると示すように練り歩き、第四派閥の連中と抗争を繰り広げる。
第二の派閥。
常にサリスと行動を共にするウサ子と、油断するとサリスに誘拐されているピョン子によるウサギ姉妹。この姉妹は中立派であり、抗争に参加することはない。ないのだが……、何気に中立派であるこの第二派閥こそが最も影響力があるのではないかとおれは睨んでいる。
第三の派閥。
主に水辺に生息する生き物をモデルにしたぬいぐるみだ。
イルカ、クジラ、マンボウ、アザラシ、ペンギン、カメ、カエルなど……。
奴らは屋敷の覇権など我関せずと天井付近をふわふわ浮遊して過ごしている。それは竜が空を飛ぶのではなく魔素の海を泳いでいるような理屈なのだろうが、では何故、ほかのぬいぐるみは飛ぶことが出来ないのか? 謎は深まるばかりだが解答を得られたからといって誰も喜ばず得もしない話なので放って置くことにした。
なんとなくリビラに浮遊する奴らが気になって仕事が手に付かないのではないかと心配して声をかけたところ――
「どうしてニャーさまがニャーにそんなことを尋ねてくるのかニャーにはよくわからないニャー。詳しく話を聞きたいニャー。いいからこっち来るニャー。ゆっくりお話するニャー」
怒られた。
まあそれはいい。
そして最後に第四の派閥。
それはレッサーパンダのレダを筆頭とした陸上で生活する動物のぬいぐるみによる軍団だ。どういうわけかこいつらは武闘派で、第一派閥のクマ兄弟と屋敷の覇権を争っている。
きっかけが何だったのか知らないし、そもそもおまえら精霊仲間だろうと思うのだが、この二つの勢力は互いに相手を敵視しており、遭遇すれば埃をまき散らす抗争が勃発するのだ。
ぽふぽふ、ぽふ、ぽふぽふぽふ……!
どこからか気の抜ける柔らかい音が聞こえてきたら、それは奴らの抗争が起きている証拠だ。
クマ兄弟は二体だけの派閥だが、やはりぬいぐるみたちのなかで群を抜いて巨大なクマ兄貴がいるのは強みである。
対して駄パンダと仲間たちはその数が強み。
繰り広げられる闘争。
まあ戦う本人(?)たちは必死だが、見た目には可愛いくて微笑ましいだけなので誰も止めない。
問題はその現場に遭遇したメイドたちがつい観戦してしまって仕事の能率が低下することくらいだ。
「もー、けんかはダメです! め!」
セレスはシアとコルフィーに笑顔で見守られながら、ぬいぐるみたちの抗争を止めさせようとしていた。
「喧嘩するぬいぐるみたちの仲裁をしようとするセレスちゃん――、これはミリメリア様も喜ぶわね」
ルフィアはぬいぐるみたちを叱るセレスの写真を撮り始めた。
屋敷は今日も平和だった。
△◆▽
まずはメイドたちと仲良くなることを優先しているのか、母さんは屋敷に来てからというもの、外出をせず、メイドたちとお喋りをしているのをよく見かける。
母さんがメイドたちと仲良くなることについては問題ないし、むしろ喜ばしいことである。
でも……。
おれの昔の話をするのはやめて!
「あの子はねー――」
食堂にて、母さんがおれが幼かった頃の出来事を楽しそうに話す。
その場には、どういうわけかメイドのみんなが集まってしまっている。
ちょっとみんな!? お仕事はどうしたの!?
おれは乱入して話を止めさせようとしたが、まー、いーじゃないですかー、まーまー、とにこやかに微笑むメイドたちによって丁寧に部屋から追いだされた。
え、なにあの連携……。
迷惑な客を追っ払うならば頼もしいのだが、主を追いだすために発揮されるとかどうなのよ?
その後、おれは恥ずかしいから昔話はやめてくれと母さんに直談判を行ったのだが、笑顔で拒否された。
「いいじゃないの。みんな知りたがってるんだし」
「いや恥ずかしいんだって!」
母さんはまったく聞く耳持たず、女性陣による午後のお茶会みたいなおれの過去の暴露大会が連日開催される。さらにそこにシアとミーネも参加し、当人を置き去りに昔話は加速する。
「父さーん!」
おれでは母さんは止められないと、父さんに助けを求めた。
ここ最近、父さんは応接間を占拠して訪問してきたお客さんと将棋ばかりしている。訪問してくるのは主にバートランの爺さん、マグリフ爺さん、ダリスである。思う存分に将棋ができて、お茶や軽食も用意される理想的な遊び場所とでも思っているのだろうか?
おれが応接間に駆け込むと、今日は訪問客がおらず、父さんはデヴァスと対局していた。
「おー、どーしたー、息子よー」
棋盤に視線を向けたまま、棒読み反応の父さんに事情を説明。
まあいいじゃないか、と笑顔ですまされた。
ダメだ、屋敷に味方が居ない。
それから数日、おれは羞恥に耐えながら生活を送ることになったが、そのうち母さんはおれのエピソードを語り尽くしたのか、別の話題へと移った。
「あの人ったらね、最初はちっとも私を見ようとしてくれなかったのよ? どういうことなのかと思ったわ。二人で生き残ったときはあんなに強く抱きしめて、生きていたことを泣きながら喜んでくれてたのに、って」
母さんは父さんとの馴れ初めをメイドたちに話し始めた。
「息子よーッ! 母さんを止めてくれぇーッ!」
父さんが血相を変えて助けを求めてきたが、おれは笑顔で断った。
△◆▽
「冒険の書の新作は来月の頭くらいに販売を始められそうだ」
その日、父さんと対局に来たダリスは遊んでばかりなのをサリスに怒られてしまい、とってつけたように仕事の話をし始めた。
「ひとまず冒険の書の方は一段落だね。あと君が提案してきたコタツは近いうちに試作品を持ってこよう」
「ありがとうございます」
ダリスは良い物と認めてくれたが、普及させるとなると難しいという判断だった。良さを知ってもらえれば富裕層は欲しがるだろうと予想されるが、問題は知ってもらう状況が限られすぎるということ。まず床座り出来る場所を用意する必要があるというのが一番の問題だ。本当に普及させるとなれば、足の長いテーブルのコタツ――椅子に座ってあたれるタイプのものになるだろう。
「私の方でも勧めてみる。今年の冬は幾つかの試作品を試してもらい、様子を見るくらいだろうね」
「そうですね」
まあウォシュレットのときとは違うからな。
これは名声値を稼ぐとか関係なく、ただおれが欲しかったので作ってもらったというだけの代物だ。
「コタツはまあしばらく様子見として、どうだろう、他に発明品は何かあったりしないかな?」
「発明ですかー……」
うん、さっぱり考えてねえ。
発明品とか、取り組めてたのはベルガミアへ行く前までだったよ。
今はメイドたちに贈る服のデザインにかかりきりだしなー。
「一応、遊具の構想はあるんですが、ちょっと問題があって頓挫中ですね」
「ほう、遊具か」
「ええ、カードで遊ぶものなんですが」
企画しているのはトレーディングカードゲーム。
カードを集めてなんぼなので、完全に富裕層向け。さらにどうせならと冒険者証のような特殊加工をしてみようとも考えている。
製作するにあたって、問題になっているのはカードに描く絵。
これは迫力のある絵にしたいが、おれは見本となるよう写実に専念してきたからか、描くものにいまいち迫力がない。あと見たことのない魔物とかは上手く描けない。
「なるほど……、そういう絵を描ける者が見つかれば、か」
「そうですね。まあまだ構想の段階ですから」
ちょっと遊べる程度にカードを作っているが、それも厚紙をカード状にしてラフと効果をちょっとメモした程度のもの。
本格的にやるとなるともっと時間を必要とする。
さらに素晴らしい絵を描ける人が見つかったとして、それを損なうことなく印刷する方法も考案しないといけない。
お札の原版を彫れる工芸官とまではいかないだろうが、そういう技術を持つ人を捕まえたいところだ。
「ふーむ、そういうものか」
ダリスがあまり乗り気ではない。
ちょっと想像がつかないというのもあるのだろう。
「いまいちですか?」
「ん? あ、いや、君が作るのだ、きっと良いものなのだろう。ただそういうものではなく、ショーギのような物はないかなと。こう、名目としてはちゃんと遊べるか試験していると言い張れるような……」
おいオッサン、あんた娘に怒られない建前で遊びたいだけじゃねえか……。
「あー……、あるにはありますが……」
それでも父娘共にお世話になっているからな。
と言う訳で麻雀を提案してみた。
まずは試験的に木で牌を作り、そこに手書き。
最初は牌の表記をこちら向けにアレンジしようと考えた。
例えば萬子はアラビア数字、筒子は丸の数、索子を棒の数、字牌はアルファベットのESWNなどに置き換えるというものだ。
が、下手に変えると作れない役が出てきたりと面倒くさく、結局はこれはこういうものとしてそのままで押し通すことにした。
こうして実験的に用意した麻雀の試遊会は繰り返され――
「きたぜ、ぬるりと……」
「救え……! 儂を加護し続けてきた……、神よ!」
「あンた背中が煤けてるぜ」
「この世じゃ人の心が一番うまいんじゃ」
父さん、バートランの爺さん、ダリス、マグリフ爺さんが雀卓を囲んで怪しげな空間を作りだすに至った。さらに後々、母さん、ティアナ校長、ヴィルジオが混ざり、ミリー姉さんやシャフリーン、ルフィア、作り直したシアの鎌を持ってきた鍛冶士のクォルズまで参戦しての狂宴となっていく。
「息子よ! 母さんが裏の木目を暗記してるんだ! ずるい! なんとかしてくれ!」
「そんなこと言われても!」
正直、麻雀の導入ははやまったと思った。
※文章の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/01
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/14
※さらに脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/05/22




