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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章1 『レイヴァース家の冬の日々』編
313/820

第309話 12歳(冬)…ごろごろ部屋

 家族をこちらへ呼んではどうかというミーネの提案は悪くない。

 これにはおれもシアも賛成だったが、両親が賛成するかはちょっと謎である。特に父さんがあんまり人の多いところに来たがらないようなので……、これは打診してみないことには何とも。

 そこでおれはコルフィーを家族に迎えた報告の他、こちらに来てはどうかという提案を手紙に綴って実家に送ることにした。


「じゃあデヴァス、頼んだ」

「はい。お任せください」


 ごろ寝するシャロ様像の周りを花で囲うべく花壇を作っていたデヴァスを呼び、レイヴァース領へ向かってもらう。

 そんなデヴァスのドラゴンメール便は五日で帰還した。

 往復には四日、一日はクロアとセレスの遊び相手――背中に乗せて遊覧飛行をしてくれていたらしい。

 セレスはもうこのまま王都まで飛んでくれとせがんできたようだが――


「途中で色々なものを見たり聞いたりしながら向かった方が楽しいわよ? それにせっかくみんなでお出かけする機会なんだし、ここは一緒に行きましょう。ね?」


 と、母さんに諭されて諦めたようだ。

 そんな母さんの言葉でもう返答はだいたいわかっていたが、受けとった手紙にはおれの提案を快諾する内容が綴られていた。

 ただ王都で冬を過ごすとなると、領地の屋敷を何ヶ月も放置することになるので、まず家を空ける準備をしなければならず、こちらへ到着するのは二十日ほど後らしい。

 馬は村に預けるか売るか、他にも家の片付け、旅のための荷造り、ときどき家に変わりがないか見に行ってもらう依頼など、やることは色々ある。まあ母さんはでっかい妖精鞄を持っているようだし、荷物に関しては楽ではないだろうか。


「そういうわけで、みんなこっちに来てくれるみたいだ」


 仕事部屋にて妹二人――古参のシアと新参のコルフィーにそう報告する。


「はわわわ……」


 二十日と聞いて実感が湧いたのか、コルフィーがあたふたする。


「大丈夫だって。シアでもその日の内に娘として迎えてくれたし」

「わたしでもって……、なんか言葉にトゲがありません?」

「出会ったばかりの頃のおまえってかなりアレだったからな……」

「う……」


 自覚はあるのだろう、シアが気まずそうにそっぽを向く。


「手紙では父さんも母さんもコルフィーに会うのを楽しみにしているってあるし、大丈夫だよ。クロアやセレスと仲良くしてやってくれよな」

「それはもちろんです。いっぱい服を作ってあげるんです」

「そうか、そうしてやってくれ」


 腕の良いコルフィーが服を作ってくれるならクロアやセレスだって大満足だろう。

 ……あれ?

 となると、おれが裁縫を始めた意味はもう終了……?

 いや! 確かにコルフィーの方が技術は上だが、おれには服をデザインするという仕事があるからな!

 用無しではないな!


「わたしに弟と妹が……、あぁ、受けいれてくれるでしょうか。わたしみたいなお姉ちゃんは要らないとか言われたりしないでしょうか」


 おれが自分の存在理由について考えていると、やはり心配になってしまうのかコルフィーがやきもきし始めた。

 だいぶ弱っている。

 予定日近くになったらどうなってしまうんだろう。


「あうー……、あうぅ……」

「いや、コルフィー、大丈夫、大丈夫だからな?」

「あうー……、わたしダメみたいです。兄さん、ちょっとギュッとしてくださいギュッと」

「ギュッと? はあ、じゃあギュッと」


 ギュッとコルフィーを抱きしめてみる。


「あ……、ちょっと元気でてきました。でもまだです。すいません、姉さんも後ろからギュッとしてください」

「はいはい」


 こうしてシアも加わり、コルフィーをサンドイッチ。

 家族の一員――、いや、この屋敷で生活を始め、落ち着き始めた頃からコルフィーはやや甘えん坊になった。おれやシアを始め、ミーネやアレサ、そしてメイドたちにも挨拶のように抱きつく。

 そんななか、最も抱きつかれているのはクマ兄貴だ。

 この屋敷において最もプーで、そして捕獲しやすいからである。

 一番抱きつくのに苦労しているのがバスカーだ。

 奴は抱きつこうと迫るコルフィーから逃げまわり、そのまま追いかけっこを楽しんでいるフシがある。

 最終的には満足したところで抱きつかせてやっているようだが。


    △◆▽


 家族がこちらに来るにあたり、屋敷を少し整理する。

 そして両親と弟妹の部屋をどうするか考えていたとき、ふと和室を作ろうと思い至った。無駄に部屋が余っているのだから、一室くらいごろごろ出来る部屋があってもいいじゃないか、ということである。

 和室に改築するのは入学したメイド見習いの生徒さんたちが寝起きするためだった寄宿部屋。広さ的には六畳くらいで、当初はここに二段ベッドを設置し、二人で過ごしてもらう予定だった。


「うーん、ごろごろするには狭いか……」


 六畳くらいとなれば、庶民的な日本人としてはそこまで狭くもないという印象だが、何人か集まってごろごろするにはやはり狭い。

 部屋は無駄に余ってることだし、ここは豪勢にと二部屋ぶち抜きで広い和室(もどき)を作ることにする。さすがに畳なんてないので一段高い床を作って絨毯を敷いて妥協することに。

 リフォームするにあたり、まずはサリスに相談した。


「元は校舎兼宿舎だったからなー、屋敷としてはちょっと不便かもしれないし、これからも改築していかないといけないな」

「そうですね。ですが御主人様、不便なところもこのお屋敷の味ですよ」

「そうなの?」

「はい。このお屋敷は御主人様が史上初のスナーク討滅を果たした褒美として与えられたものです。それは名誉ある謂われですから、不便であってもそれは誇れるものなんです」


 そう教えてくれたサリス、ちょっと前までは何か気がかりがあるようで少し元気がなかったが、それが解決したのだろうか、このところ妙に機嫌が良くなっている。ただ機嫌が良すぎるせいか、ミーネに特別なおやつを与えたりとやけに甘やかしているのはちょっとどうかと思うが。

 それからサリスの手配で業者の方々がやって来て速やかにリフォームが行われた。

 そして完成したのが横長な長方形、十二畳ほどの和室もどき。

 業者の手配から進捗の確認、食事の提供に差し入れと、ほぼ関わるすべてを受け持ってくれたサリスには、まずごろごろする権利があると思い、一緒に完成した和室へと向かう。


「靴を脱いで上がるんですね?」

「そうそう」


 おれが先に上がって床に腰を下ろすと、続いてサリスもあがってきて横座りをする。


「なにか不思議な感じがします」

「あー、最初はそうかもね」


 おれはさっそくごろんと寝転がる。

 そしてごろごろ。

 癒される……。


「……す、少し抵抗が……」

「まあまあ。草原で寝転がるような感覚で」

「草原でですか……」


 サリスが戸惑っているが、まあそれも仕方ない。

 おれと違って寝転がってもいい床と、寝転がるべきではない床という区分けが頭の中にないのだ。おれだって土足で生活する空間で、どうぞ寝転がってくださいと言われても抵抗があるしな。

 サリスが戸惑っていると、新しい服――フリルの多いドレスを着たウサ子がポーチからもぞもぞ抜けだして床に飛び降りた。

 そして床をころころ転げ回り、そしてぽすぽすと床を叩く。


「あら……、じゃあ……」


 ウサ子に促されてサリスも仰向けに寝転がる。

 それから顔を向けて言う。


「……やっぱり不思議な感じが……」

「そっか。まあ無理に合わせる必要はないから」


 戸惑う様子に思わず微笑むと、サリスはちょっと驚いたように目を軽く見開いてころんとうつ伏せになる。


「で、でも、悪くないかもしれません……」

「そう? 気に入ってもらえたら嬉しいかな」


 そしておれはのんびり……したかったのだが、そこでミーネの声がした。


「ねーねー、そろそろ入っていいかなー」

「まーまー、ミーネさん、もう少し待ちましょう」

「そうニャ。サリスはニャーさまに喜んでもらおうと頑張ってたニャ。ここはもうちょっと待つニャ」

「――ッ!?」


 サリスがビクッとして、すごい勢いでごろごろ転がりながら部屋の隅まで離れていく。

 どこいくのー、とばかりにウサ子が追っかける。

 楽しそうだ。


「んー、じゃあどうぞ。あとは好きに」


 ドアの隙間に顔を並べていたお嬢さん方を招待する。

 戸惑うことなく寝っ転がったのは金銀とティアウルにジェミナ。

 他はちょっと戸惑いながらもごろごろ。

 ごろごろ、ごろ、ごろ?

 さすがにこれだけの人数だと狭いな!

 こうして完成した和室(もどき)であったが、始めこそ困惑気味だった皆もすぐに慣れていき、三日もすると占拠されてメイドの休憩室になっていた。

 おれは第二和室を作ることを決めた。


※ドラゴンメール便が遅かったので日数を短縮しました。

 2017/07/30

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/31

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/11/13

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/02/28


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