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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
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第304話 12歳(秋)…王さまの依頼

 さっぱり楽しむことが出来なかったシャーロット生誕祭の翌日、おれはアレサに叩き起こされた。


「レイヴァース卿! 起きてください、レイヴァース卿!」

「……アレサさん……? どうしました?」

「ちょっと窓から外を見てください!」


 あまりにアレサが慌てているので、よくわからないままにとにかく窓から訓練場を見てみる。


「……ん? んん!? シャロ様!?」


 訓練場の隅にシャロ様の像が寝ていた。

 横に寝っ転がって右腕で頭を支える――涅槃仏状態。

 どうしてシャロ様の像がうちで寝ているのか、それを考え始めてすぐに昨夜の出来事を思い出す。なんかノリでシャロ様の像を精霊たちに動かしてもらって……、そのままほったらかしだった。


「像を元通りにせずに、そのままこっち来ちゃったのか……」

「レイヴァース卿、どうします?」

「どうしますって……、どうしよう?」


 朝から晩まで思う存分に祈りまくれるが、それを喜んでいる場合ではない。

 なんとか元の場所に戻す方法はないかと考え、すぐにここに来られたんだから、帰ることも出来るだろうと思いつく。

 ひとまず精霊の通訳をしてもらうためジェミナの部屋に。

 まだお休み中だったジェミナに起きてもらい、事情を説明してからそろって寝間着姿のままシャロ様像の前へ向かう。


「んー、無理」

「え? 無理? ここまで来たのに?」

「えっと、主の力がこもってたから。でも、もうなくなった。また溜まったら戻せるって」

「エイリシェさんでも無理?」

「んー……、うん? うん。無理」

「無理なの!?」

「形が変えられない。動かすと壊れる」

「おぉう……」


 元通りにするためには精霊たちに任せるしかなく、そのためにはおれがお祈りを続けて力が溜まるまで待たねばならないらしい。

 これは困った。


「ひとまずミリー姉さんに説明だけしとくか……」


    △◆▽


 この度の企みに関わった者――ネーネロ辺境伯、そしてダスクローニ家の面々は城に召喚された。

 おれは国王の前で彼らに尋問をするアレサとティゼリアと一緒に王宮へ向かう。すると、ミリー姉さんにシャーロット像の話をするために来たのに何故か尋問の場にも立ち会うことになった。

 謁見の間、奥の玉座で腰掛ける王様と、左右に分かれて並んでいるのは大臣の方々、さらに警護の騎士たち。

 扉から国王まで続く絨毯の中央あたりで平伏するのはネロネロとダスクローニ家の者たち。当主でコルフィーの祖父ガーファス、兄のスルシード、夫人のアレーテの三名。その左右にティゼリアとアレサがいる。おれはその後方で待機中。

 本来であればネロネロは聖女の尋問を受けるところだが、神に叱られたのが相当堪えたのか、すべての情報を包み隠さず吐き、反省して二度とこのようなことは起こさないと固く誓った。

 そこにいっさいの嘘はなく、罪を認め法令違反の罰金をこの国と聖都に支払うと言うため、断罪する必要まではなくなった。

 奴隷法違反ではあるが、弱みにつけ込まれて利用された――幇助に留まるというのもある。

 そのため次のガーファスについてもそこまで厳しくない。

 こちらは事故が起きたあと、コルフィーを奴隷にすることを認めることに対し報酬が用意されていた。多額の賠償金が課せられた状態――話を受けざるを得ない状況での協力だったからだ。

 最も罪が重いのは、確実にコルフィーがまずい立場になることを知りながら事故を引き起こす細工をしたスルシード。

 聖女からの問いに対し、スルシードは我が身可愛さに嘘をついた。

 結果、アレサからメイスの一撃をもらい、悲鳴をあげながらのたうち回ることに。

 痛みが落ち着いたあと、スルシードは怯えながら喋った。

 だが自らの行いを証言しながらもスルシードは罪を認めない。

 ダスクローニ家の次期当主は自分が相応しいという歪んだ自負と、コルフィーさえいなければ、という憎しみが滲んでいた。

 本来であれば自分のもの、だから間違っていないと言う。

 スルシードの発言をコルフィーへの八つ当たり、やっかみ、と断じてしまうのはあまりに哀れだ。

 確かにコルフィーが現れなければスルシードの地位は安泰だったのだろう。その腕前は別としても、魔装職人としてダスクローニ家の当主にはなったのだろう。

 だがコルフィーの出現ですべてが失われた。

 スルシードの憎しみは、コルフィーだけに向くものではない。

 それはコルフィーに鞍替えした祖父にも、そしてコルフィーがダスクローニ家に必要だと説き、最初の交渉を破談させた母にも向く。

 スルシードは自分が孤独だと思ってしまっている。

 それはヤケにもなるだろう。

 俺は間違っていない、悪くない、そう言いはるスルシードは断罪を免れない。

 それを、おれは少し寂しく思う。

 母に想われていることに気づかぬまま、スルシードという人格が破壊され、善人として再構成されることを。

 真っさらになったスルシードはあとで母の本心を知るだろうが、そういうことではないのだ。

 しかしそれを今のスルシードが知ったとして、どう反応するかはわからない。

 今更なにを、と余計に意固地になるかもしれない。

 コルフィーを消そうとしたスルシードだが、いま抱くのは怒りよりも哀れみの方が強い。

 反省などないスルシードへの断罪が行われる。

 叩き込まれるメイス。

 再び大きな悲鳴が上がり、その様子を見守る国王も大臣たちも騎士たちも青ざめて震え上がっている。

 だがそのなかで――


「聖女様、お待ちください」


 母――アレーテがアレサとスルシードの間に割ってはいる。


「お願いがあります」

「……なんでしょうか? もしかして、息子の代わりに自分がこのメイスを受けるというのでしょうか? それは認められません」


 努めて静かにアレサは言う。


「聖女様、私は罪深い女です。友のラーナを守れず、その娘であるコルフィーも守れず、そしてたった一人の息子すらも守れない。息子が思い詰めてしまったのは私の罪、正せなかったのは私の罪、ですからどうか、私に――息子と同じだけの断罪を」

「……ッ」


 スルシードが驚いたようにアレーテを見る。


「息子と同じ苦しみを受けねば、私はもう息子を抱きしめることが出来ません。ですからどうか、私の罪も罰していただきたいのです」


 アレサはアレーテとしばし睨み合うように視線を合わせていたが、一つ頷いてメイスを振りかぶり、振りおろす。

 覚悟は決めていたのだろうが、それで痛みを堪えきれるかどうかは別の話であり、アレーテは悲鳴をあげて倒れ伏した。


「まずはご子息に与えた回数を受けてもらいます」

「……は、はい」


 ガクガクと震えているのは恐怖よりもただあまりの痛みに痙攣が治まらないのだろう。それでもアレーテは断罪を受けようとする。


「ま、待て……!」


 それをスルシードが止める。


「母さんは関係ないだろう……!」

「そうかもしれません。しかし、夫人が望まれているのです」

「…………」


 スルシードが苦悩し、言う。


「ど、どうすればいい?」

「そうですね……、この状況で断罪を続けるのは良いとは言えません。ですから、猶予を与えましょう」

「……猶予?」

「はい。もし、その猶予のなかで貴方が心を入れかえていたら断罪はそれまでとします。ですがそれでも足りなければ、再び断罪は再開されます」

「心を入れかえるってどうすれば……?」

「それはご自分で考えなければ意味がありません。ですが……、そうですね、お母様とよく話し合ってはいかがでしょう?」


 そう言い、アレサはガーファスを見る。


「更正の兆しが見られなかった場合、その環境が悪かったと判断します。断罪は二人だけでなく、その一族全体を対象としますので、そのつもりでいてくださいね?」


 ガーファスは青い顔をして頷く。

 アレサはスルシードに更正の兆しを見たのだろう。そこで邪魔になりそうな親族への牽制――脅しをする。

 断罪してしまった方が早い。

 しかし自ら更正できるならその方がいい。

 アレサの判断が吉とでるか凶とでるか。

 案外、吉とでるのではないか、とおれは思った。


    △◆▽


 ネロネロとダスクローニ家の面々が退場し、次におれの報告となる。

 すでに事情は陛下に伝えられているので、あとは判断を聞くだけになるのだが……、陛下は笑顔。厳めしい顔をしようとしているものの、誤魔化しきれず笑顔になってしまっている。


「んー、レイヴァース卿、そなたはスナーク狩りの英雄であり、我が国の誇りである。しかしな……、国の物を勝手に持っていってしまうのは感心せんぞ?」

「お言葉ですが陛下、勝手にやって来てしまったんです……」

「うむ、そうらしいな。そして勝手にそなたの屋敷へ行ってしまうきっかけを作ったのが、なにやらオーク仮面なる怪しげな者ということも聞いておる。まったく、どこの誰なのやら」

「…………うぅ」


 コルフィー救出作戦についてはミリー姉さん経由で陛下にも伝わっているため、オーク仮面がおれであるということもばっちり知られている。


「しかしまあ、行ってしまったのは仕方ない。そなたが悪いというわけでもない。あの像は居を構えたそなたへの、余からの贈り物ということにしよう。広場には新しい像を置くとする」


 寛大な配慮――と言う訳ではないのだろう。

 陛下はもう厳めしい顔をするのを諦めたのか、満面の笑みである。


「さて、これで話は終わりだが、今日は邪魔もないことだ、もう少し話をしようではないか。趣味の話などはどうだ? 実は、余は珍しい武器を集めるのが趣味なのだよ」


 うん、まあそうくるよね。


「はい。存じております。武具の神より加護を授かっておられるとも」

「うむ、そうなのだ」


 陛下はますますニコニコ。

 もったいぶって段階を踏みながら話は進むが、要は『像のことは咎めないから剣を作って!』ということである。

 少し前なら苦笑いしながらなんとか断ろうとするところだが、今はちょっと事情が変わっておれは陛下からの依頼を受けることにした。

 もしうまくガンブレードを完成させることが出来れば、陛下のついでに神から祝福を貰えるかもしれないからである。

 ただ依頼を受けるにあたり条件をつけた。

 剣は神に捧げる一本きりで、その構造は秘匿させてもらう。

 とにかく加護を祝福にランクアップさせたい陛下は難色を示すこともなく、すんなり了承してくれた。


「うむ、うむ、では頼むぞ!」


 がははは、と王さまがすこぶる上機嫌のまま謁見は終了。

 周りの大臣や騎士たちからは温かい視線を送られた。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/17

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/01


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