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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
302/820

第299話 王都幻談(前編)

2万字を越えたので3つに分けてまとめて更新。

主人公が主人公でなくなっているため三人称でお送りします。

 シャーロット生誕祭四日目。

 祭り最終日の今宵、その賑わいは最高潮に達する。

 特に人でごった返しているのはシャーロット像のある正門広場。それは祭り最後の夜にはここへ集い、シャーロット像に祈りと感謝を捧げるという風習が人々に浸透しているためであった。

 そんな人で埋め尽くされた正門広場への道を、人混みをかき分けて道を作り、馬車を進ませる一団がある。

 三十名ほどの男たちに守られながら、ゆっくりとしか進めない馬車に乗っているのはミトス・ネーネロ辺境伯とその護衛である魔道執事ロヴァン、魔道侍女アーシェラの二人、そしてコルフィーの四名だ。


「ええい、邪魔くさい……!」


 のろのろとしか進めぬ状況にミトスは苛立っていた。

 いや、ここ三日ほどずっとミトスは苛立ちを募らせている。

 本来であれば祭り二日目には王都を発てていたはずなのだが、オークションでその予定が狂ってしまった。

 前もってコルフィーを手にいれたい何者か――その代理人から「ひとまず半額程度」と資金が提供されていたが、まさかそれが頭金にすらならない馬鹿げた価格になるなど完全に想定外。

 それでもなんとか競り勝つことは出来たが、すぐに次の問題に直面した。

 コルフィーを受けとるためには、まず三日以内に落札価格の一割を頭金として納めなければならない。

 そのためミトスは期限に追われながら資金集めに奔走することになった。

 こんなことになるとは、とうんざりすると同時、オークションで邪魔をしてきたレイヴァースに怒りを覚える。


「(まったく余計なことを……。だが、あの小僧は一体何を考えてこの娘を落札しようとしたのだ……?)」


 それはもしかして今回の依頼主と同じ理由なのだろうか。

 コルフィーに何か特別な価値があるのだろうとミトスも薄々は気づいていたが、これ以上深入りするつもりはさらさらなく、早くこの一連の――不可解な依頼から始まった出来事が終わってしまうよう願っていた。

 ダスクローニ家への依頼の依頼。

 最初、それは家宝になっているヴィルクの服を売ってくれと持ちかけてきた男――代理人の話から始まった。売れる物ではないと突っぱねたが、もし売るならばとしつこかったため、悪ふざけのような金額を提示して追い返した。

 ところが、その代理人は後日その金額を用意して再び訪れた。

 正直、売ってしまいたいとも思った。

 だが、やはり『服』は家宝、それを売るなど一族の誇りを売り渡すようなものであり……、あまりに世間体が悪い。

 ミトスは謝罪し、話を断ろうとした。

 が、そこから話はいよいよ不可解なものとなる。

 代理人は『服』を買い取りたいのではなく、それを魔装の依頼――ダスクローニ家に持ちこんで欲しいと言うのである。そして無事に魔装が施された場合、『服』はそのままミトスに返却すると言うのだ。

 まったく訳がわからなかったが、それは『服』が無事に帰ってこないことを示唆しているとミトスは判断した。

 そしてこの金は『服』を失わせてしまうことへの賠償金なのだと。

 ミトスは悩んだが、これを引き受ける。

 金が必要だった。

 現在、領地に隣接するエルトリアが不穏な状態にあり、警備の兵を増員したため財政が圧迫されて苦しい状態にある。そしてそれはこれからも続くため、金が必要だったのだ。

 家宝の『服』を犠牲にすることについては悩みもしたし、先祖に申し訳なくも思った。

 しかしそれが領地を、民を守ることに繋がるならば――、家宝と言えどただの服、これを後生大事に抱え、肝心の領地に被害を出すようでは意味がない。

 一人の少女を陥れることについては後ろめたくはあるが、治世は時に切り捨てることを求められ、必要な犠牲と割り切ることを望まれるもの――、少女一人を生贄にするくらい領地を治める為政者としてなんら間違いではない。


「(そう、私は領主として正しいことをしている。何も問題はない。領民が幸せに暮らせるためにやるべき事をやる。ささいな悪行でその幸せが守られるならばやるべきなのだ。なにしろ私はネーネロ辺境伯その人であり、王とて無闇に弾劾できはしない。いや、弾劾など出来るものか。私があの地をエルトリアから守っているのだ)」


 オークションの代理を依頼してきた代理人は言った。

 領民の幸せのため、そして貴方の幸せのため、ひいてはそれがこのザナーサリーの安定に繋がると。


「(だが……、本当にそれで……いいのか?)」


 ふいに考えがまとまらなくなり、ミトスは額を押さえる。


「ミトス様、気分がすぐれませんか?」

「いや、大丈夫だ」


 ロヴァンにそう返し、ミトスは首を振る。

 ここ数日、ぼんやりすることが増えた。

 おそらく心労が祟っているのだろう。

 特に昨日の新聞――コルフィーを巡る陰謀についての記事を読んでからひどくなっている。あれでは完全にこちらが悪者――魔導師カロラン・マグニータの手先である。この国で最もエルトリアの脅威に晒され、苦労している自分が悪く扱われることにミトスは憤ったが、記事すべてをデタラメと唾棄することも出来なかった。

 関わっているミトスだからこそ、これがコルフィーを陥れて奴隷とし、合法的に手にいれるための仕込みであると納得せざるを得ないのだ。

 記事で推測されていた通り、この回りくどい計画は聖女が関わってきた場合も想定して立てられていたものなのだろう。

 今の自分は聖女の尋問を受けようと、例え不可解な依頼があったとは言え、コルフィーが『服』を消失させた事実がある限り賠償金を請求する権利を持っている。どれだけ疑わしく、自分ですら計画の一端を担ったと認識するようになった今であっても、『被害者』という立場は崩れない。


「(だが、本当にそれで乗り切れるのか……?)」


 歯車の一つにすぎない自分は、計画の全体を見通せないが故に罪に問われにくい状態にあるが、逆に、どこかの歯車が破綻をきたしたとしてもその影響が及ぶまで何もすることが出来ない。

 もしすべてが明るみになったとき、自分は、金に目が眩み、家宝を――一族の誇りを売り渡しカロランの企みに協力したという不名誉だけが残る。例えそれが領地の安定を望んだ結果であろうと、奴隷法に接触する陰謀に協力したのは確かなのだ。


「(いまさら後悔しても仕方ない。今は王都から離れることだ)」


 後悔しても手遅れならば、このままコルフィーを連れて領地まで逃げ切り、さっさと引き渡してしまうしかない。


「まだ王都から出られんのか……!」


 苛立たしげにミトスは言う。

 今、王都に留まるのは状況の悪化を招くだけだ。

 新聞の記事はエルトリアにまで言及しているため、場合によっては王から喚問を受けかねない。もしその場にレイヴァースが同席し、聖女まで居たら目も当てられない事態になる。

 速やかに王都を脱出するならば、わざわざこんな混雑している道を選ぶ理由もないが、何者かが『コルフィーをいただきに参る』などふざけた予告状を送りつけてきたため、念のために警戒して敢えて人で混雑する道を選んだ。

 正門広場を抜け王都を脱することが出来れば、あとは雇った傭兵団と合流して一気に領地まで舞い戻るだけだ。

 屋敷を出たのは夕暮れ時だったが、日はすっかり暮れていた。

 祭りの明かりに煌々と照らし出される街並み。

 賑わう大通りをミトスの馬車は進み、ようやく正門前、シャーロットの像がある大広間へとさしかかる。

 あと少し、もうひと息。

 しかし――。

 そこでミトスの一団に立ちはだかる者が現れた。

 それは法衣を纏う赤い髪の少女。


「ミトス・ネーネロ辺境伯! 貴方にお尋ねしたいことがあります!」


 喧しく賑わう正門広場に、その声は驚くほどよく通った。

 まるで魔法のように、声は場に居合わせたすべての人々の耳にはっきりと届き、誰もが驚いて口を閉ざしたことで突然の静寂が生まれる。

 少女の登場と突然の静寂――。

 馬車を誘導していた男たちは事態が理解できずその足を止める。

 祭りを楽しんでいた人々は突然の出来事に困惑するばかりだったが、誰からともなく少女とミトスの一団から距離を取り始める。

 それは一滴の雫が水面に波紋を作るように、誰かとぶつかり合うような混乱もなく、静かに、そして速やかに行われた。

 何か特別な力が人々を誘導し、正門広場から退場させているとしか思えなかったが、それを不思議に思い口にする者は居ない。

 こうして正門広場は少女とミトスの一団のみに。

 何だ何だと人々がざわめき始めるなか、誰かが叫んだ。


「あ! あれは!」

「知っているのかランディ?」

「ああ、最近、朝早くシャーロットの像に祈りにきて、その際、人々を癒してくださっている聖女アレグレッサ様だ!」


 聖女様、おぉ聖女様、と人々のなかから呟きが生まれた。


「ネーネロ卿、貴方にお尋ねしたいのは一つ! 貴方がダスクローニ子爵家へ魔装の依頼をした件についてです!」


 そのアレグレッサの言葉に、ああ、と声を漏らす者も居たが、多くは何のことかわからず首をかしげる。

 そこでさらに物知りランディが叫んだ。


「なるほど! あのことか!」

「知っているのかランディ?」

「もちろんだ! ネーネロ辺境伯はダスクローニ子爵家へ魔装の依頼をしたんだ! 家宝のヴィルクの服をな! だけどその依頼を受けたダスクローニの職人が失敗してヴィルクを消失させてしまったんだ!」

「ヴィルクを! そいつはネーネロ辺境伯は気の毒だな!」

「いや、だがそれがどうもおかしな話らしい!」

「どういうことだ?」

「なんでも失敗することを前提とした企みがあったんだとよ! それは儀式に失敗をした魔装職人を手中に収める計画で、なんと依頼を受けたダスクローニ家までもそれに噛んでいたって話だ!」

「なんだって!」


 二人の男が馬鹿みたいな大声で喋り、疑惑の内容が居合わせた人々に周知されていく。


「かまわん! 無視して進ませろ!」


 ミトスが御者に怒鳴る。

 疑惑がばらまかれたなかでのこの行動――疑惑を肯定するものと受けとられてしまうが致し方ない。聖女に尋問を受けようと疑惑止まりで終わるだろうが、これ以上事態をややこしくしたくないのだ。

 故に――、押し通る。

 護衛をけしかけ、その隙に強行突破を計る。

 あと少し。

 広場を突破して門をくぐり、領地まで逃げ切ればなんとかなる。


「聖女を押しのけろ! その隙に進め!」


 ミトスの指示を受け、護衛の男たちがアレグレッサを押しやろうとする。

 と、そのときだ。

 カッ、と目映い閃光があった。

 一瞬遅れ、衝撃をともなう轟音が。

 広場にいた誰もが思わず身をすくめ、遅れてそれが落雷であったことを知る。

 しかし、この晴れた夜空に落雷が?

 人々が怪訝に思ったとき、響き渡ったのは笑い声だ。


「ふはははははは!」


 どこから、と人々が声の出所を探すなか――


「あそこだ!」


 と、ランディが指し示した先はシャーロットの像であった。

 像の肩に乗る何者かは言う。


「聖女アレグレッサよ、だから言ったであろう! 悪に説法など無意味だと! そして、だからこそ必要な悪もあると!」


 少年とおぼしき人物――その顔は妙な仮面によってうかがい知ることは出来ない。


「なんだあれは……」


 ミトスは忌々しげに唸る。

 聖女だけでも面倒だというのに、さらに得体の知れぬ者まで現れた。

 どうしますか、と尋ねてくる護衛が居る一方、何を思ったのかわざわざ問いかける護衛がいる。


「なんだキサマは!」

「なんだ、だと? ふむ、おかしいな、確か予告状を送ったと思ったが……、手違いでもあったか。はっ、よろしい、ならば名乗ろう!」


 ばさっ、と少年はマントを払い――そして告げる。


「我は影を覆う影! 闇を裁く闇! 迷える子らを光のもとへと追いやる暗がりの森の魔物! 我こそは――オーク仮面ッ!」


 オーク仮面。

 はたしてそれが誰なのか、それは誰にもわからない。

 それはそういう()()()()

 例え彼を知る者であろうと、彼があの姿となったが最後、彼を『オーク仮面』としてしか認識できなくなる不可解な力が働く。

 彼を知りながらも彼がオーク仮面であるとしか認識できなくなる――、ともすれば呪いのごときその力は彼自身すらも抗うことは出来ず、故に彼がその装束を纏い仮面を被るとき、そこにいるのはオーク仮面でしかないのだ。


「さあミトス・ネーネロよ、そこにいる少女をいただきにきたぞ!」


 そして物語は始まる

 それはまるで彼が見る夢のように。

 夢とは夢を見ている自分を内包する大きな自分が構築する幻想。

 彼は彼が望んだ夢の舞台における主役と化し、そればかりか夢の影響はその場に居合わせた者たちにすら及ぶ。

 役を担う者は彼の夢に取りこまれ、最終的な決着へ辿り着くための協力者となる。

 それは彼にとっての味方であろうと敵であろうと。


「とう!」


 オーク仮面はシャーロットの像から跳躍すると、緩やかに滑空しながらアレグレッサの隣に舞い降りた。


「聖女アレグレッサ、汝はそこで我が悪を為す様を見守るがいい!」

「いいえ! 貴方に任せておくわけにはいきません!」


 疑惑だけで聖女は強奪という乱暴な手段には出ない、そうミトスは踏んでいた。事実、馬車の前に立ちはだかりはしたが、襲撃まではしてこなかった。

 確証がないからだ。

 しかし、ここで現れた妙な奴――オーク仮面は法や道理などお構いなしにコルフィーを奪う気でいる。

 だがそこでミトスにとって思いがけぬ援軍が現れた。


「ネーネロ辺境伯をお助けしろ!」


 異変に気づき集まってきた警備隊。

 彼らにとってはようやくこの生誕祭が――『地獄の四日間』が終わると思った矢先のこの珍事。余計な仕事を増やしやがって、との憤りを勢いに変え、オーク仮面を取り押さえようと襲いかかっていく。

 だが、オーク仮面は微塵も焦りを感じさせず、ゆっくりと短剣を抜いた。


「オーク・ファング」


 細く長い、珍しい形をした短剣を正面にかざし、左手でゆっくりと鞘を抜くように動かしていく。

 するとそこには雷光を纏う光の剣が。


「オーク・ブレード……!」


 得体の知れぬ武器を持ち出されたからといって怯む警備隊ではない。

 次々とオーク仮面を取り押さえようと襲いかかる。

 だが――


「オーク・ダイナミック!」


 一閃。

 ただ一閃にて、その軌跡の前にあった者たちは「あばばば!」とうめいて倒れ伏した。


「職務を果たさんとするその意気や良し! だが、己が使命を果たさんとする我の前に立つには役者が足らん! 力量ではない! おまえたちの魂が真実から遠いのだ!」


 人々の安全を守る役割を担った警備の者たちがばたばたとなぎ倒されていく光景、それは本来であれば恐怖を生みだすはずのもの。

 しかし、その場に生まれたのは歓声であった。

 その多くは子供たち。

 声を張りあげるようにオーク仮面と叫び、その戦いを応援する。


「な、なんだこの状況は……! なんなのだ!」


 愕然とするミトスであったが、このまま警備隊が全滅するまで手をこまねいているわけにはいかない。

 すぐに護衛の者たちに指示を出す。


「お前たちも奴を始末するのを手伝え!」


 そしてオーク仮面に襲いかかる護衛の者たち。

 それに対しオーク仮面は一旦雷光の剣を収めると、何を思ったのか迫り来る者たちを前に踊り始めた。軽やかでなめらかな、人の動きとは思えないような体捌きは演武のようでもあり、見守る人々の目を釘付けにする。


「おらぁ!」


 次々と護衛の者たちが襲いかかり、繰り出される剣をオーク仮面は踊りながら躱していく。と同時に襲いかかった者への反撃を加えていた。軽く押すような、払うような、とても力を込めているようには見えない動きであるにもかかわらず、襲いかかった者は弾き飛ばされて宙を舞う。だが弾き出された護衛たちは、一太刀も浴びせることが出来ない状況にありながら、大したダメージを負わないことを幸いと諦め悪く再びオーク仮面に挑んでいく。


「愚かな、力の差がわからぬか。ならばとくと味わえ。このオーク仮面の味わい深いまろやかな蹴りを! ――はあっ!」


 叫ぶと共にオーク仮面は跳躍し、天高く舞う。

 そして一瞬空中で制止した後――叫ぶ。


「オォォ――ク、キィィ――ック!」


 彗星のごとき蹴り。

 それは護衛たちの中心へと突き刺さり、いったいいかなる力なのか、その全員を木の葉のように吹き飛ばした。


「一体何なんだあいつは!?」


 見た目はただの変人。

 しかし秘めたる力は圧倒的――臨時雇いの護衛など物の数ではないとばかりに、まさに言葉通りに蹴散らした。

 ミトスにとっては迷惑極まりない闖入者。

 これでは聖女に対する盾が居なくなってしまう。

 ミトスは激しく憤るが、周囲でそれを見守る観衆は大喜びで喝采を上げるばかりだ。


「あ、あんなふざけた奴に邪魔されてたまるか! ロヴァン、アーシェラ、お前たちで片付けろ!」


 そこでミトスは魔道執事ロヴァン、魔道侍女アーシェラを投入。

 馬車から降りたロヴァンとアーシェラはすみやかに戦闘に移った。


「「讃える賛辞も炎にて。――フレイム・オベリスク」」


 二人は斉唱するように声を揃え、簡略化した詠唱からの発動句を口にする。

 発動した魔法は対象を成形された火の柱で焼き尽くすもの。

 いきなりの攻撃魔法は避ける間もなくオーク仮面を呑み込み、それを目にした人々からは悲鳴があがる。

 だが魔法が消え失せたあと、そこには無事なオーク仮面と、その前に立ち、透き通る金色の障壁を作りだしているアレグレッサの姿があった。


「聖女よ、我を助けるとは意外だな」

「貴方を認めるわけにはいきません。しかし、だからといって死なせて良いわけでもないのです。その手段こそ無法ではありますが、確かに貴方は人々を救う。そこは――認めざるを得ないのですから」


 怪人の危機を救った聖女――、それを見たロヴァンは言う。


「聖女アレグレッサ、貴方はミトス様を襲おうとした不届き者を庇いました。つまりそれはその者に協力する――ミトス様を貶める手伝いをするということですね? であれば私は魔道執事としてそれを見過ごすわけにはまいりません。しかし、もし今の行動が貴方の善意から生まれた咄嗟の行動であったと言うなら、見逃すこともやぶさかではありません。さあ、その不埒者から離れていただきたい」

「それは……出来ません!」

「その者に与すると? そのような無法者に協力など、とても聖女のやることとは思えませんが……、近年は聖女の質というものが落ちているのでしょうか」

「何か勘違いをされているようですね。聖女は模範となるべき者、ならばと法を破るような真似を控えているだけです。私たちが真に従うのは善神の教えであり、己が良心なのです」

「その者に与することが善神の教えであり、良心に従うことだと?」

「はい。でなければ……、私は善神の力をお借りするこの魔法を使うことはできなかったでしょう!」


 アレグレッサが退かぬとわかり、ロヴァンは小さく首を振る。


「まあいいでしょう。アーシェラ、聖女様のお相手を」

「兄様は?」

「無論、あの巫山戯た小僧にお仕置きだ。――アース・クリエイト」


 呟くようにロヴァンが魔法を唱える。

 変化がない、そう思われた瞬間、オーク仮面とアレグレッサの居る場所が陥没。


「むっ、いかん!」


 オーク仮面がアレグレッサを突き飛ばし、その反動でもって自分も飛び退く。

 と同時、二人が居た場所が崩落。

 外部からの攻撃を防ぐための障壁を強引に潰そうというのではなく、障壁の影響の届いていない地中深くに空間を作り、自然と崩落させるというやり方だった。

 オーク仮面の咄嗟の判断で難を逃れたアレグレッサであったが、それを見計らったように迫る者――アーシェラが居た。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/31

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/01

※さらに脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2023/05/07


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