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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
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第296話 12歳(秋)…レイヴァース家襲撃計画

 そしておれたちは行動を開始する。

 一番忙しかったのはルフィアだろう。

 夜の内にコルフィーの事故とネロネロの疑惑、そしてオーク仮面の予告状と、新聞に掲載する記事を仕上げなければならないからだ。

 朝になったところでミーネとシアはクェルアーク家に、それから王宮へと事情説明に出掛けた。

 おれはジェミナのお目覚めを待ち、それからエイリシェに取り次いでもらってお願いをする。

 いざ襲撃を行った場合そこが人通りの少ない場所ならばそう問題ないが、人目に触れない場所を警戒し、逆に多い場所を選んで移動された場合そこは大騒ぎになる。オーク仮面は観客となるであろう人々に危害を加えることはないだろうが、対するネロネロの関係者がヤケを起こす可能性がある。そこでネバーランドに協力してもらって誘導をお願いしようとしたのだが――


「いや、その必要はないよ。私がやる」

「あなたが?」

「この都市は私だからね、そっと働きかけて誘導するくらい出来るんだよ。ただどれくらいの人数になるかわからないのがね……」


 ふむ、とエイリシェは顎に手をやって考え込む。

 普段ぽやんとしているジェミナがちょっと知的な素振りをしているように見えて微笑ましいが、顔には出さないよう頑張る。


「私もその場に居ていいかな? そこに居られるなら、どれだけの人数だろうと誘導できるんだけど」

「あ、むしろ都合がいいです。実はそれとは別に、もう一つお願いがあったんですよ」

「うん?」


 きょとんとするエイリシェに、おれはオーク仮面が登場する場に居てやってもらいたいことを説明する。


「ふむふむ、なるほど。念話をしながら君を跳んだり跳ねたりさせるのか。場合によっては攻撃に見せかけたりする、と」

「はい、お願いできますか」

「うんうん、もちろんもちろん、面白そうだ。下手に複雑な演出をしようとすると、最悪君が八つ裂きになってしまうかもしれないけれど……」

「跳んだり跳ねたり吹っ飛ばしたりだけでいいので……!」


 若干の不安も残ったがエイリシェは快諾してくれた。

 その後、ミーネから話を聞いたバートランが屋敷にやってきた。


「む? なんだ、儂は派手に蹴散らす役ではないのか。久しぶりにクェルアークを振り回そうと思っていたのだが……」


 ミーネにどんな話を聞いたか知らないが、バートランの爺さんは魔王殺しの剣を持ちだして大暴れする気になっていたのでなんとかなだめ、やって欲しい役についての説明をする。

 それは強奪したコルフィーをアレサに引き渡すのを渋るオーク仮面を諭すという役なのだが……、実際にそうなるかは神であろうとわからないため、一応の役割としてお願いしておく。


「そうか、暴れられないのは残念だが……、うむ、任された」

「お願いします」


    △◆▽


 エイリシェとバートランの爺さんに話をしたあと、おれはアレサに同行してもらって精霊門へ向かい、シャロ様のお屋敷を訪ねた。

 お屋敷はさらに荷物が山積みされた状況になっていたが、それはさておいてロールシャッハに昨日までのことを説明する。


「ほう、君もしくじることがあるんだな」

「むしろ思い通りに行かないことの方が多いんですが……」


 こうして明日の計画実行に向けて動くなか、夕方近くになってヴュゼアから無視できない情報がもたらされた。


「辺境伯が明日になったらここを襲撃させる計画を立てているようだ」

「はあ? なんでまた?」

「今朝の新聞、ルフィアの記事の影響だ。オークションでやりあったからな、今回の騒動はお前が企んでいると踏んで余計なことをさせないようにとの脅し……、いや、そっちに対処させ、手出しをさせないようにという目論見だろう」


 当てずっぽうでこられてもなー……。

 まあ当たってるんだが。


「ここですべてが明るみになれば辺境伯と言えどもまずいことになるからな、打てる手は打っておこうということだろう」

「要は追い詰められての悪あがきか……。どんな奴らが襲撃してくるとかわかるか?」

「どうやら『オオトカゲ』という傭兵団のようだな」

「……傭兵団?」

「ああ。まずは裏の連中に声をかけたようだが断られたらしい」


 裏の連中って……、そう言えば『レンガの家』のボスがおれたちに関わらないようにしてるって言ってたが、本当だったようだ。


「そこで王都に来ていた『オオトカゲ』に持ちかけたようだ」

「その傭兵団については?」

「五十名ほどの規模の小さい傭兵団だ。この国での活動はなく、そのため情報があまりない。奇襲や拠点破壊などの工作を得意とするらしいことくらいだな」

「んだよ、襲撃が今日だったら大歓迎だったのに」

「そうだな。辺境伯もまだ冷静ということだろう」


 襲撃が今日であれば、その傭兵どもをとっ捕まえ、聖女二人にお仕置きしてもらって依頼者であるネロネロの名を吐かせ、どうしてこんな襲撃を企んだかとネロネロを問い詰めることが出来た。

 しかしネロネロもそこまで視野狭窄になってはおらず、ちゃんと明日――おれに行動を取りやめさせ、屋敷の防衛に専念させようとしている。


「さて、どうするか……」


 業者の方を侮るのはよろしくないので、ヴュゼアがダスクローニ家に充てる人員をこちらの警備に回すことは出来ない。

 そしてティゼリアも外せない。

 まあシアならばなんとか屋敷に回せるだろう。


「シア、屋敷の防衛にまわってくれるか?」


 おれとしては「へーい」という返事を予想していたのだが――


「…………」


 シアは困り顔で黙ったままだ。


「シア?」

「すいません、ちょっと待ってください。――ヴュゼアさん、あの、捕まえた業者の方はまだ生きてますか?」

「……生かしておいた方がよかったか?」

「そうですか……。ご主人さま、すいません、わたしはダスクローニ家の方でお願いします」

「お、おう?」


 予想外だったが、気まぐれとは思えないのでシアの好きにさせる。

 となるとミーネとバートランの爺さんに頑張ってもらいたいところなのだが……


「なあミーネ、おまえ爺さんと一緒に屋敷守ってくれない?」

「むぅー……、お家を壊されたらたまらないし……、じゃあ私はこっちでレディオークとして頑張ればいいの?」


 もっとごねるかと思ったがミーネは了承してくれそうだ。

 おまえの家じゃねえんだけどな?

 さて、ミーネとバートランの爺さんに任せれば大丈夫だろうが、一瞬で五十人を叩きのめすことは無理だろう。

 念のためにメイドのみんなにはクェルアーク家に避難してもらおうか――、そうおれが考えていたところサリスが言う。


「御主人様、少々お待ちいだたけますか?」


 そう言って退室したサリスはメイドたちを引き連れて戻って来た。


「みなさんに尋ねてみましたが、答えは私と同じでした。御主人様はコルフィーさんを助けることに集中してください。屋敷は私たちが守ります」

「守るって……」

「御主人様、ここで任せてもらえなかったら、いったいなんのためのメイドなんですか」

「主殿、サリスの言う通りだ。たまには妾たちにも活躍の場をくれても良いだろう?」


 愉快そうな笑みを浮かべてヴィルジオが言う。


「妾たちの心配をしてくれるのはありがたいが、あまり猫可愛がりされても面白くないのだ。まあ猫もいるが、それだって可愛がられることを良しとする生半可な者ではないことは主殿とて承知しているだろう?」

「なんか酷いこと言われてる気がするニャー」


 そう言うリビラは……、まあちょっと前にでかい剣振り回してスナークの群れに突っこんでいった猛者だしな。


「可愛がってもいいと思うニャー」

「なにどさくさにねだってんだよ」


 そんなリビラをあきれたように見るシャンセルも武闘祭の準決勝に進んだ強者。


「お任せいただければ、このパイシェ、御主人様に仇なす者どもを見事打ち払って見せましょう」


 アロヴに敗北はしたが粘ったパイシェ。

 本来の仕事に近いからか、すごくやる気。

 この三人が充分強いことはわかっている。


「最近、影が薄くなっているような危機感を覚える私としてもここでできることを証明しておきたいのです!」

「そうですね、練習試合で負け込んでいますし」


 そんな三人との戦闘訓練で負けはしているが、食い下がっているリオやアエリス。


「皆はやる気だ。主殿、ここは妾たちに任せてみんか」


 そして、そんな面々を未だ寄せつけないヴィルジオ。


「あたいは敵を見つける役でがんばるな」

「私はそれを伝える役として頑張ります」


 ティアウルとサリスが言う。


「なに、心配するな。雇われ者どもに負けるような無様はさらさんよ。もしメイドたちがかすり傷でも負うようなことになれば、妾は苦悩の箱に乗ることも辞さぬ」


 自信ありげにヴィルジオは言う。

 苦悩の箱――、体重計か!

 なんで罰ゲーム扱いなのよ……。


※誤字を修正しました。

 ありがとうございます。

 2018/12/02

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/05

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/19

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/09/24


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