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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
288/820

第285話 12歳(秋)…長い一日の終わり

 応接間で話し合いをするメンバーに若干の変更があった。

 シアとミーネは就寝させたし、ルフィアはとっ捕まえた業者の方を引き取ってもらうため報告に行ったので三人減っている。

 さらに――


「ごめんなさいね、アレサは私が捕まえてちょっと話をしていたからお風呂は今からなの」


 アレサはお風呂で、代わりにティゼリアが参加。

 これにより話し合いはおれとサリス、ヴュゼア、そして帰還したティゼリアの四名によって続けられる。


「貴方たちが関わっている問題はアレサからだいたい聞いたけど、ちょっとそれを話し合う前に私の話をさせてもらいたいの」


 と、ティゼリアが話し始めたのは、ずっと調査していた児童誘拐事件についてであった。

 誘拐組織はそれぞれの国、地域単位で独立しており、横の繋がりがないため連携などはまったくしていない。構成員のほとんどは金をもらったから攫える子供は攫うという、場当たり的な犯行が目立つ。

 確かにシアと初めて出会ったときに絡んできたゴロツキ、それから王都へと来る途中の――、ティゼリアと知り合うきっかけにもなったゴロツキも、実にずさんで適当、アバウト極まる行動をとっていた。

 逆に、だからこそ誘拐の発覚、その調査が行われやすくはあったのだが、地域ごとの組織が構成も行動もばらばらでちぐはぐであったため、それが大きな企みの一部であるという事実の判明の遅れに繋がったらしい。


「ほとんどの子たちは、私たちやその地を治める領主や名主たちの手によって発見されて親元へ帰されたわ。――でもね、中にはその足取りがまったくわからなくなって、今も行方知れずな子もいるの」

「行方がわからない子に共通点などはあるんですか?」

「性別も年齢もばらばらで、特別共通しているようなことはないの。共通点と言えば、その子たちを引き取っていった男性ね。誘拐犯や子供たちからの証言に出てきた、片眼鏡をつけた男。時間をかけて子供たちを選んで連れていったらしいわ」


 ん? 片眼鏡……?


「いくら下部組織を潰しても、大元を叩かないと意味がない。きっとこの片眼鏡の男が誘拐を指揮する者に繋がる。私はこの片眼鏡の男をずっと追っていたんだけど、やっと辿り着いたの。その男の足取りはある一国へと向いていたわ。どこだと思う?」


 ティゼリアが尋ねてくる。

 そもそもどこにどんな国があるかほとんど把握していないおれでは答えようのない話である。

 しかし――


「きっとあなたたちは最近聞いたことのある国よ?」

「最近……?」


 はて、とおれが首を捻っているとヴュゼアが言う。


「もしかしてエルトリアでしょうか?」

「正解」


 あ、確かに聞いた、と思ったとき、カシャン、と部屋の外から破砕音がした。

 何かと思っているとドアが開き、そこにはあたふたとカップの破片を広い集めるリオ、そして冷静な表情でお盆にティーポットとお菓子を乗せたアエリスがいた。


「はわわ、すいませんすいません」

「失礼いたしました」


 しゃがみ込んで破片を集めるリオを通りこし、アエリスは皆が囲むテーブルにお菓子とティーポットを置く。


「すぐに代わりのカップをお持ちします」

「すいませんすいません」


 そしてドアは静かに閉じられ、ちょっと話の腰を折られた感のする場ではまずカップが届くのを待つことになった。

 アエリスが皆のカップを持ってきて、待機していたサリスがお茶を用意。

 二人が給仕を終えて退出したところで話が再開される。


「エルトリアって……、ネーネロ辺境伯領に隣接する国で、現在は乗っ取られてしまっている国と聞きましたが」

「そう。元エルトリア宮廷魔導師カロラン・マグニータによってね。そんな奴がいる国に片眼鏡の男の足は向いている。この二つを結びつける材料はまだないんだけど……、私は関係があると思っているの」


 なるほど、とおれは納得する。


「つまり――、そいつが今回の黒幕なんじゃないかって話になるわけですね? 確かにそいつが黒幕なら、資金力の説明もできます。なるほど……、コルフィーが狙われるわけです。あ、それでオークションってわけか……、表の世界で使うために……」


 うっすらと頭の中で繋がり始めたことを確認する。

 するとティゼリアから待ったがかかった。


「ちょっと待って。なにを思いついたの? 私、辺境伯がカロランに通じているんじゃないかなーってことをこのあと言おうと思っていたんだけど……」

「え? ネロネロは確かに協力者のような状態ですが、通じているというほどではないと思いますよ? 飽くまで駒として使われているだけではないかと」

「え?」

「え?」


 あれ、なんか齟齬がある。


「ちょっと整理しましょう。まず貴方の言ったこと、どうしてカロランが誘拐に関わっているとコルフィーが狙われることになるの?」

「いやそれは、だって……、あれ?」


 ふとサリスやヴュゼアを見るも、二人も解せないという顔だ。

 なんで……、と考え、そんなの当然だと自分で気づく。

 考えが一人で先に進みすぎて肝心なことを説明していなかった。


「その男の片眼鏡はおそらく魔道具です」

「魔道具……?」

「はい、その魔道具は対象の情報――例えばどんな才能があるとかそういうのを調べられるみたいですね」

「そんなものがあるの!?」

「ええ、あるんです。ぼくがこれを知ったのは二年前に王都に来たとき、冒険者ギルドの支店長をやっているエドベッカさんに使われたことがあるからですね」

「エドベッカ……、『蒐集家』の持つ魔道具となるとそうそうお目にかかる代物ではないだろうな」


 そう言えば、同席したバートランの爺さんもそうある品ではないと言っていたような……。

 ぶっ壊れてエドベッカ泣いてたしな……。


「じゃあ連れ去られた子ってのは、その魔道具で見て何かしら特別な力がある子だったからってこと?」

「ええ、そうなるのではないかと。そしてコルフィーの目のことはその魔道具でバレてしまったんじゃないかと思います」

「相手の情報を読み取れる道具があるのに、わざわざ同じ能力を持った子を集めるの?」

「たぶんコルフィーの目の方が優れているんです。エドベッカさんの片眼鏡はぼくを見て壊れてしまいましたが、コルフィーは普通に調べることが出来ていましたから。その片眼鏡を使ったことはないのでわかりませんが、ぱっと見るだけで情報を知り得るコルフィーの目ほどのものではないでしょう。じっくり時間をかけて眺める必要があるとなれば……、攫って集め、逃げられない状況にしておく必要があったのではないかと」

「なるほど……」

「もしコルフィーがカロランの元へ行ってしまうと、誘拐はこれまでとは違ったものになるでしょう。一目で判断できてしまうため、連れて町を歩きまわるだけで必要な子供の発見にはことたりる」

「今の大雑把なやり方が、巧妙になってしまうってことね」


 ティゼリアが険しい表情になる。


「どうして特殊な才能を持つ子供を集めているのか……、これは推測するしかないのですが、まず表の世界で暮らしていけるようなことにはならないと思います」


 例えばそれは――、特殊な能力を持った少年兵のような。


「ですが、その子供を見つけるためのコルフィーは表の世界にいる必要があります。そのためにはどうしたらいいか? ぼくはどうしてこの陰謀の最後にオークション、第三者の介入が不可能ではない場が選ばれたのか疑問だったんですが……、おそらく理由は奴隷――奴隷法によって所持する権利が守られているという状態を作るためです」


 そう告げた瞬間、ティゼリアの気迫が強い圧力となっておれたちにのしかかった。


「……、つまり、子供たちを攫ってる奴が、さらに効率よく子供を攫うために必要な子を、堂々と側に置く権利を、よりにもよって奴隷法――、私たちに保証させようっていうこと……?」


 途切れ途切れに語るティゼリアは――、怒りだろう、体を小刻みに振るわせながら拳を握りしめていた。

 超恐い。

 サリスもヴュゼアも視線そらしてるし。


「その子は助けないといけないわね……、うん、私にも出来ることがあったら遠慮無く言ってね。もしうまくいかなくても大丈夫よ。私がネーネロだろうが、ダスクローニだろうが、関係しているところすべてに突っこむから」

「いや、あの、それでどうにかならないので困っているんですが……」


 おそらくこの回りくどくややこしい企みは聖女という存在に注意して計画されたものなのだろう。本当にその魔導師とやらが今回の黒幕かはまだわからないが――、もしそうだとして、こんなあくどい計画を実行する奴が国を乗っ取っているというのは恐ろしい話だ。

 絶対にろくなことは考えていない。


    △◆▽


 夜も更け、ひとまず今日はここらで解散することにした。

 そして応接間から出たところで――


「レイヴァース卿、お風呂いただきました! さあ、何でも申し付けてください!」

「ええ!?」


 責任を感じて落ち込んでいたはずのアレサが、なんかめっちゃ元気、満面の笑みで戻って来た。

 なに? お風呂がそんなに気持ちよかったの?


「あ、いえ、もう遅いですし、話もある程度まとまりましたからもう休んでください」

「そうですかー……」


 アレサしょんぼり。

 だがそれも一瞬。


「あ! では貴方が眠るまで子守歌などを歌いましょうか! けっこう評判なんですよ! それにそろそろ夜は肌寒くなってきましたし、いま私ほかほかしていますから添い寝でも!」

「はいちょっとこっち来ましょうねー」


 なにかアレサは妙なことを言いだしたが、ティゼリアが腕をがっちり絡ませて連行していこうとする。


「え、先輩? ちょ、あの、私はレイヴァース卿と――」

「はいはい、いいからいいから、こっち来ましょうねー」


 アレサはティゼリアに引っぱられて行った。


※誤字と文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/30

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/02

※余分な文章を少し削除しました。

 ありがとうございます。

 2021/02/05


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