表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
281/820

第278話 12歳(秋)…究明の夕方

「俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!」


 王都の裏側を牛耳る組織の一つである『レンガの家』。

 この組織の手引きによってコルフィーがダスクローニ家に迎えられたというヴュゼアの情報をもとに、おれたちはさっそく話を伺いに来たのだが……、ミーネが余計なことをしたためにボスのジグが錯乱してしまった。

 おれはなんとか落ち着かせようと試みる。


「いや、あの、わかりました。わかりましたから。あなたは悪くありませんから」

「俺は――」

「わかったっつーの!」


 パチンとな。


「あばばばば!」


 面倒くさくなったので雷撃ぶっ放して意識を強制リセットさせる。


「お、お、お……、お?」

「落ち着きましたか。ではさっそく聞きたいのですが、あれは何だったんです?」


 尋ねたところ、あの仕掛けは緊急脱出用の装置だったようで、それを動かしてしまったミーネは下水路へボッシュートされたらしい。

 追っ手を撒くために一度使うと崩壊して封鎖されるようになっているという手の込みよう。

 なるほど、用心深いからレンガの家なのか。

 でもあんたらって子豚じゃなくて狼の方ですよね?


「ご主人さまー、ミーネさんどーしますー?」

「どーしよーか……」


 どこかから下水路に侵入してミーネを捜す?

 下水路って迷路みたいなもんだし、結構難題じゃねえのこれ。

 だが早いこと見つけてやらないと……、ミーネだからな、地表ぶち破って飛びだして来る可能性が非常に高い。


「わん! わんわん!」


 困っていたところ、バスカーが前足をちょいちょい引っ掛けて自己アピールしてきた。


「ん……? あ、おまえもしかしてミーネのところいける?」

「わん!」

「おお! じゃあさ、あいつが下水路をぶち壊して地上へ出ようとしてたら止めてくれ。で、なんとか水路を辿って出られるように付きあってやってくれ」


 さすがに都市のインフラを破壊させるわけにもいかんし、穴を開けた上に人がいたり建物があったら惨事になるかもしれん。


「わおーん!」


 そしてバスカーは一声鳴くと、犬から光の玉になって床を貫通して消えた。

 それを目の当たりにすることになったジグはひどく驚いた。


「消えた!? な、なんだあの犬!?」

「あの犬のことはまあ気にしないでください。それよりコルフィーのことで知っているのはこれですべてなんですか?」

「あ、ああ。これで全部だ」


 念のためアレサにちょっと視線を向けてみると、静かにうなずく。

 嘘はついていないらしい。


「ありがとうございました。あとこれ、お礼とうちの者が迷惑をかけたお詫びです」


 ちょいと謝礼を置いていくつもりだったが、ミーネが緊急避難通路を破壊しちゃったし、なんか錯乱させちゃったりで気の毒になり、謝礼は多めに置いてきた。


    △◆▽


 屋敷に戻り、作戦本部となっている応接間で情報の整理をする。

 集まったのはおれとシアとアレサとサリスの四名だ。


「おや、御主人様、ミーネさんはどうしたんですか?」

「いま下水路で迷子やってる。近日中には戻って来ると思う」

「……え、えーっと、そうですか。……ひとまず私はお風呂の用意をしておきますね」

「うん、お願い」


 どうしてそんなことになったかは疑問だっただろうが、サリスは気をきかせて帰還したミーネがまず必要とするであろう風呂の準備に向かってくれた。

 こうしてサリスは退出、残ったのはおれとシアとアレサの三人に。


「コルフィーさんの目のことは知られていませんでしたねー」

「ああ、となると……、コルフィーが母親と暮らしていた頃にそれを知った者がいるかどうか、か?」

「レイヴァース卿、当時のコルフィーさんを知っている方たちに質問をして、私が真偽を判定していけばいずれ見つかるかもしれません」

「それも一つの手ですね」


 ヴュゼアからの情報を待って、なんの進展もないようだったらアレサの提案を試してみるのもありかもしれない。

 やがてお風呂の準備をしに行ったサリスが戻り、さらにしばらくしてヴュゼアとルフィアが屋敷に帰還。

 まずはおれたちの方から調査の報告をする。


「コルフィーをダスクローニ家に引き取らせた連中は鑑定眼のことを知らなかった。あと関係ないかもしれないんだが――」


 と、ついでにネバーランドについても報告する。

 よくわからない組織だ。

 名前はもちろんシャロ様の広めた物語である『ピーター・パン』からとったものだろう。

 子供を保護する組織なら、コルフィーの情報があったとして、それを悪用するとは考えられない。

 もちろん話が本当ならばだが。


「話には聞いている」

「どういう組織とかわかるか?」

「実体は孤児たちの互助組織、というくらいのことはな。気をつけろとは言われてないし、この件にも特に関わっていないだろう」


 それからおれはコルフィーに消えて欲しいのはスルシードだけでなく、母親のダスクローニ子爵夫人もだったらしいことを告げる。

 まあ当然だ。

 夫人にとっては妾の子が正妻である自分の息子を押しのけて当主になってしまうかもしれない状況をよしとしないはず。

 しかし――


「その推測はハズレかもしれないぞ」


 ヴュゼアはこれに異を唱え、調査書の内容を報告してくる。


「コルフィーの母親であるラーナはダスクローニ卿の助手を務め、夫人とは親しかったようだ。しかしダスクローニ卿に手を出され、助手を辞めた。やがてラーナはコルフィーを出産することになったのだが、その生活を援助していたのはどうやら夫人だったらしい」

「は? じゃあ……、なにか、夫人がコルフィーを拒否したのはダスクローニから遠ざけておきたかったからってことなのか?」

「ご主人さま、ラーナさんと親しかったってことは、もしかして夫人にはコルフィーさんの目のことは伝えてあったかもしれませんね」

「あ、そうだな。これは夫人に話を聞きに行きたいところだが……」

「それ難しいかもー」


 と言ったのはルフィアだ。


「どうして?」

「ダスクローニの屋敷に行ってみたんだけど、門前払いだったの」

「それはルフィアだったからじゃないの?」

「う、何気に酷いことを言われたような気がする」


 むぅ、とルフィアは不服そうな顔をしつつ言う。


「それだけじゃないのよ。屋敷の周辺がおかしなことになってるの」

「おかしなこと?」

「うん。なかなか雰囲気のある人たちが屋敷の周辺にいたのよ。警備するみたいに」

「雰囲気? 悪そうな奴らとか?」

「うん、とびっきりの。ぶっちゃけると殺し屋」

「はあ!? ……えと、大げさに言ってる?」

「ううん、感じたままよ? 記者としての勘が告げたの。あ、こいつら殺し屋だって。それも専業の」


 あまりにうさんくさいのでヴュゼアを見やる。


「姉さん、危険度はどれくらいの奴らだった?」

「兄さんに報告したくらい」

「……、そうか」


 ヴュゼアが渋い表情になる。


「姉さんが慎重な行動をとるくらいとなると……、下手にちょっかいを出すのはお勧めできないな。何のためにいるのかよくわからない連中というのもまた不気味でやりにくい」

「確かにどうして居るのか謎だな。誰が何のためにダスクローニの屋敷を警護させているのか……、あ、コルフィーが逃げたりしないようにってネロネロが雇ったとか?」

「いや、コルフィーは奴隷商のところに預けられている。辺境伯にはそんなことをする理由がないな」

「じゃあ……黒幕か? 何のために?」

「殺し屋なんですから、まあ誰か殺すためなのでは?」


 シアが実にシンプルなことを言う。


「そりゃそうだ。いや、そうか。殺し屋が守ってるってことは、ちょっかいかけてくる連中を殺すためだよな。かけられて困るちょっかいってのは……、計画の破綻をきたす何かか?」

「計画を破綻させる材料となると、事故が仕組まれたものであるという証拠くらいだ。となると、ダスクローニ家にいるスルシードが怪しいな。連中の仕事はスルシードに接触しようとする者を排除、いざとなったらスルシードごと排除、と、こんなところか?」

「んー、となるとぜひともお兄ちゃんにお話を聞きたいところだが、聞きに行くのも、連れてくるのも難しそうだな」

「連中の規模がわからんからな。黒幕は目的のためには金に糸目をつけない奴だ、ここでケチったりはしないだろう」

「お兄ちゃんに接触しようとするなら、そいつらとの全面戦争も覚悟しておいた方がいいってことか……」

「そんな方々とキャッキャウフフしていてはオークションどころではなくなりますし……、今は関わらない方がいいですね」

「そうだな……」


 やるならまず相手の目論見を潰してから――つまりコルフィーを落札してこっちの保護下にいれてからだ。


「だが夫人には話を聞いておきたいな。なんとか忍び込めないか?」

「忍び込むって、連中が屋敷の周囲を警戒しているとなれば無理だろう。空でも飛んでいくのか?」

「空か……」


 アロヴが残ってくれていたらあるいは……、いや、竜がばさばさ屋敷の上を飛んでいたら見つかるに決まってるか。

 どうにかならないか、と考えていたとき、下水路にボッシュートされたミーネが戻り、半泣きで部屋に入ってきた。


「うぅー……、臭いし汚いし、なんか迷路だし、なかなか外に出られないし、もうやー!」

「わん!」


 バスカーに誘導されつつ、ミーネは下水路から外への排水溝まで辿り着くことができたらしい。

 脱出してからは、まず水の魔術で服を着たまま体を洗いまくり、それからここまで戻って来たようだ。


「ミーネさん、お風呂の用意がしてありますから、まず入ってきてはどうですか?」


 苦笑しつつサリスが言う。


「うぅ……、そうするー……」


 そんな半べそのミーネを眺めていたおれはふと思いつく。


「なあヴュゼア、下水路の正確な見取り図とかあったりしない?」

「ん? ああ、なるほど、下からか。んー……、あるにはある。だが王都の防衛にも関わるからな、俺では用意することなんて出来ないぞ? それこそ王の許可が必要だ」

「王か……」


 交換条件で武器の製作を頼まれそうだが……。

 いや、待てよ……、それこそ下水路を逃走経路にしていたジグなら案内も出来るんじゃないか?

 そう考えていたとき、ノックがあり、ジェミナが入ってきた。


「主、主、ちょっとお話。大事なこと」

「うん? 大事なこと?」


 尋ねると、ジェミナはうんむ、とうなずいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ