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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
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第271話 12歳(秋)…オーク仮面の物語

Akirataroo様、レビューありがとうございます!

 ちょっと授業見学どころではなくなってしまったおれは、学園の図書館に場所を借りてオーク仮面のお話を考えることにした。


「どうしてこんなことに……」

「どうしてって、そりゃご主人さまがオークの仮面かぶって意気揚々と夜の王都に飛びだして行ったからじゃないですか」


 少し悲嘆していたら呆れ顔のシアから心ないツッコミをもらった。


「コルフィーさんにバレたらまずいってことで引き受けたんでしょうけど、べつにお話を作る必要まではなかったんじゃないですか? もうオーク仮面の記事は書かないようにって注意しておけば」

「あの記事に人々がなんの反応も示さなかったら、まあそれでもよかったんだが……、妙に評判ってのがな、面倒なところなんだよ」


 今回、人々に与えられたのは都市伝説というオモチャだ。

 ここで情報をストップさせたとしても、そのオモチャは人々によってもてあそばれ、徐々に変質――、いや、変貌していくことだろう。


「こういうものはより愉快な方向へねじ曲げられていくものだ。今はルフィアの記事でまあまあな扱いになってるが、これから先どうなるかなんて誰にもわからん。もしだぞ? オーク仮面は非番のときはオークの糞を体に塗りたくって踊り狂う趣味があるなんてことになったらどうする? そしてそんな噂が囁かれる変態に励まされたコルフィーはどう思う?」

「う、うーん……、まあ、げんなりですね」

「だろ? だからそんなことにならないよう、おれはこっちである程度制御しようと考えたのだ。放置すると暴走してしまう。ならば逆に情報を適度に発信して飼い慣らしてやろうってな」


 なんとかコルフィーが励まされたことを不名誉に感じない程度の存在に固定してしまいたいところである。


「これは飼い慣らせなくて手を噛まれるフラグ……」

「はいそこうるさい」


 シアが不吉なことを言うので黙らせる。


「ねえねえ、つまりはオーク仮面のお話を考えるんでしょう? ならレディオークの活躍もいれましょう」

「いや、まずはオーク仮面の伝説――、つまりオーク仮面というものが誕生するところからだ」


 それから、おれはオーク仮面の伝説を創作すべく、白紙の紙との睨めっこを開始した。

 しかし、睨めども、睨めども、紙から文字が浮かび上がってくる気配はない。

 うむむ、と唸るおれを眺めるだけは退屈らしく、ミーネはふらふら場を離れ、何か面白い本はないかと図書館内を徘徊し始めた。


「レイヴァース卿、私になにか出来ることはありませんか?」

「アレサさん……、ではミーネが変なことを始めないか側にいて見張っていてもらえますか。思いっきり子供のお守りなんですが、そうしてもらえるとこっちに集中できるんです」

「はい、わかりました」


 アレサはにっこりと快諾してくれ、すぐにミーネのところへ行った。


「ご主人さま、そう難しく考えなくても向こうのお話をパクってみたらいいじゃないですか。ほら、アメコミヒーロー的なのとか。ご主人さまはそういうのもよく鑑賞したんじゃないですか?」


 ミーネとアレサが離れたのを見計らってシアが言う。

 確かにそういう映画の始まりは、まずヒーローがどのように誕生するかが描かれるもの、参考になるところが多そうだ。


「なるほど、となれば……、まずは素っ裸な主人公が水をぶっかけられるシーンが必要だな」

「何で!?」


 なにやらシアがびっくりしたので、おれは丁寧に説明する。


「いいか、名作というのはだな、主人公がケツをぷりんとさせているところにホースかなんかで水をぶっかけられるシーンがあるものなんだよ。おまえは12モンキーズを知っているか。あれはおれの中でハリウッド三大ケツぷりん作品の一つになっているのだ。冒頭にいきなりブルース・ウィリスが素っ裸にされて放水されまくり、途中にはブラッド・ピットの半ケツ祭りが拝めるという、実に――」

「わかりました。わかりましたからもういいです」


 しかめっ面でシアに話を中断される。


「それで素っ裸で水を浴びせかけられる主人公をどうオーク仮面にするんですか?」

「まあ待て。放水シーンを設定したおかげか、徐々に物語が浮かび上がってきた。こういうのはどうだろうか」


 おれは思いつくままに喋ってみる。


「オーク仮面――、つまり主人公となる少年は貴族の家に生まれる。両親は善良な貴族で、その愛情を一身に受けた少年は幸せな生活を送っていた。しかしある日、両親は事故により帰らぬ人となる。一人残される少年。やがて邪悪な親族が家にもぐり込み――、あ、これは両親の死の黒幕だった、なんてしてもいいかもな……、で、家は乗っ取られてしまい、少年は地下室に幽閉されてしまうのだ」

「まあ普通ですね」

「うむ普通だ。で、幽閉された少年はイジメの対象にもなり、素っ裸で水をぶっかけられる。シーンはここからだな。そして回想するように幸せな日々のシーンにつなげる。幸せな夢のなかで、両親がなんか少年に頑張れーみたいなことを言って、それをきっかけに少年は地下室――、いや、家から脱出することを計画する」

「ふむふむ」

「脱出する手段はあとで考えるとして、話を先に進めよう。なんとか屋敷から逃げだした少年だが、素っ裸で荒野をうろつくことになる。このままでは飢え死にだ。しかし人里で助けを求めようものなら屋敷に連れ戻される。まずは遠くへ行くしかない。そこでオークの登場だ」

「登場してしまうんですか」

「登場してしまうのだ。ってか登場させないとな」


 オークとなると、どうもシアの乗りが悪いのだが、仕方ない。


「登場するオークはただのオークではそのままバッドエンドになってしまうだけだから、ここはオークの王種を登場させる。それもただの王種ではなく、やたら立派で賢いオーク王だ。少年はそのオーク王に保護される」

「なんで保護……?」

「うむ、その疑問をオーク仮面がオーク仮面たる理由へつなげる布石にしようと思ってな。オーク王にはこだわりというか、矜持があってな、子供というのは例えどんな種族であろうと、保護すべきという考えを持っていたのだ。ぶっちゃけ子供ってのは望まれて生まれてくることはあっても、自ら望んで生まれてくるものではない。だから自分で人生を決められるくらいまでは守ってやらなくちゃならない。まあそんなわけで、おまえを大人になるまでは保護しよう、みたいな?」

「……、なるほど」

「で、少年はオーク王に保護され、オークの群れのなかで成長していく。他のオークはただのオーク、仲良くはなるが、少年の考え方に影響を及ぼすのはやはり言葉を喋れるオーク王だ。少年はオーク王の矜持を受け継ぐ。子供は保護するものだと。あと……」


 とおれはここで詰まる。


「どうしました?」

「うむ、少年になんか特殊能力みたいなのを与えたいんだが、どんなものがいいかと思ってな」

「雷撃でもぶっ放せばいいんじゃないですか?」

「いや雷撃っておまえ……」

「気に入りませんか? じゃあなんか精霊の加護でも与えとけばいいんじゃないですか?」

「精霊って……」


 投げやりに言うシアの言葉に、ちょっと身につまされるものがあったのだが……、まあいい。


「じゃあせっかくだから、精霊の加護かなんかを得ることにしよう。大自然のなかで暮らしてるしな。……ん? なあ、ふと思ったんだが精霊魔法とかってこっちにあるのかな?」

「お母さまから学んだご主人さまが知らないなら、わたしが知るわけないじゃないですか」

「そっか……、んー、有るのか無いのかわからんな。でも巫女のジェミナは精霊の力っぽい念力使うし、魔法という形態ではないものの、なんか力を借りることは出来るのかもしれない……、って、しまったな。ロールシャッハに精霊のこと尋ねるの忘れてた」


 それどころではなかったので仕方ないと言えば仕方のない話なのだが……、まあ、急ぎではないし、またのときに尋ねよう。


「もしかしてご主人さまもなんか精霊の力を使えるんじゃないですか? ほら、やたら好かれてますし」

「どうだろう……? まあそれについてはまただな。話は逸れたが、少年は精霊の魔法だか魔術だかを使うとしておこう。で、少年はすくすく成長して、十五歳くらいになったところでオーク王に追いだされて人の社会へ復帰を果たす。そうだな、冒険者になったということにしようか。で、なんだかんだで活躍して、家を乗っ取った奴らに復讐かなんかする。ここでオーク仮面の初登場だな。貴族に戻ってからはオーク仮面として正体を隠しながら弱きを助け、強きを挫く的なことをする。で、今のオーク仮面は少年の子孫ってことにする」

「おおまかに話は出来ましたね」

「うん、出来た。あとはこれを書いていかないと……」

「ご主人さま、文章よりもマンガにしたらどうです?」

「マンガって……、どうだろうな、どっちが楽だろう……」

「あっちのマンガみたいに洗練されていなくていいんですよ。バーンとそのシーンを描いて、ちょいちょい解説やら台詞がある、絵本みたいなものでも」

「ああ、アメコミに近くってことか。なるほど、絵もざっとしたものでいいか」


 確かにあちらの漫画をそのまま再現しようとすると、まずおれの技術的な問題があり、次に漫画という文化がなかった人々はコマ割りの多いページをどう見たらいいかわからず混乱してしまうという問題が予想される。

 ならば、まだ馴染みのある絵本をやや漫画に近づけたものを提供した方がいいだろう。


「じゃあこれからざっと下書き……、ネームって言うんだっけ、それを描いてみる。新聞に掲載されるあたり……、屋敷から逃げだしてオーク王に遭遇するあたりまで」

「わたしに出来ることはありますか?」

「出来たらまず見てもらうけど、描いている間は特にないと思うから好きにしていていいぞ?」

「好きにって言われても、とくにしたいこともないですし、いいですよ、ここでご主人さまを見守ってますから」

「集中しづらいなおい……」


 こうしてニヤニヤするシアに生暖かい目で見守られながらおれは『オーク仮面』の下書きを始めた。


    △◆▽


 まさかこっちで漫画を描くことになるとは思わなかった。

 とは言っても漫画もどきでしかないものだが。

 超簡単に人物やら背景を描き、台詞を書き込む。

 シアのアドバイスをもらいつつ、完成を目指す。

 結局、この日は学園の授業に参加することもなく、ひたすら下書きを完成させることに費やしてしまった。

 シアのダメだしのラッシュに半泣きになりながら完成させた下書きはミーネやアレサ、それから屋敷でメイドたちにも読んでもらった。

 おおむね好評、話の続きが気になるから早く次を描けと言われた。

 まあ続きが気になってもらえるよう、オーク王の登場で終わらせたのだが。

 その翌日、ひょっこり現れたルフィアに『オーク仮面』の下書きを見せる。


「むむむっ、まさかこんなのが飛びだして来るとは……! これはどうかしら……、どうなのかしら……、うん、載せてみましょう!」

「じゃあ完成させるってことで」


 それからおれは枠からコマから台詞まで、鉛筆書きだったところをインクで描き直し、次の日、ルフィアに提出する。

 新聞に掲載された『オーク仮面』は人気を博した。

 結果――


「あのねー、続きはまだかって声がいっぱい届いてるんだけどー……」

「そんなこと言われても!」


 無駄に忙しくなった。


※誤字と文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/29

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/09/23

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2023/05/07


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― 新着の感想 ―
[一言] これはもう、オークの呪いというべきでは(笑)
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