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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
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第270話 12歳(秋)…スクープ

 コルフィーに側にいてもらうためには、我が屋敷で暮らしてもらうのが一番だと思うが、そのためにはまず関係の修復が必要だ。


「(シャロ様、どうかコルフィーとまた仲良くなれるよう見守っていてください)」


 ロールシャッハに相談した翌日の早朝。

 おれは日課のシャロ様像のお参りを終え、一緒に行ったアレサ、そして勝手についてきたバスカーをともない屋敷へと戻る。

 するとサリスが新聞を片手にパタパタやってきた。


「御主人様! ちょっとこれを見てください!」

「うん?」


 ここ、ここ、と指さされた記事に目を向ける。

 するとそこには――



【オーク仮面、現る!】

 オーク仮面を御存じだろうか?

 それはオークの仮面を被り、踊りながら現れる謎の人物。

 こう聞くと奇人変人の類と思われがちだが、その実体は闇に潜み悪行を為す者たちを成敗することを使命とした、実に奇特な人物なのである。記憶に新しいアウコリット商会の摘発、窃盗集団スビシアの一斉逮捕、これもオーク仮面が関わったと噂される事件であり、過去にさかのぼればその数たるや膨大な数に及ぶ。これまで裏の事情に精通した者たちの噂話――都市伝説として語られるばかりのオーク仮面であったが、ついにその姿を写真に収めることに成功した。


【オークからの推測】

 そもそも『オーク』とは三百年ほど昔、ザナーサリーが誇る勇者シャーロットによって魔物の名称統一が行われた際につけられた名前である。シャーロットがどのような理由であの魔物に『オーク』と名づけたか、それを知る術はもはやないが、これによりオーク仮面はここ三百年の間に誕生し、そして伝わってきたものと考えられる。


【何故、魔物の仮面を?】

 どのような理由からオーク仮面は『オーク』という魔物の姿に扮するのであろうか? これについて魔導学園の学園長を務めるベリア・スローム・イークリスト氏に聞くことが出来た。

「オークを選んだ理由は現段階では推測のしようがありません。しかし魔物の姿に扮する理由は……おそらく自己欺瞞なのではないかと私は考えます。人の悪行を裁くその手段もまた人である自らの非合法の行い――悪行という矛盾。これを人でない『別の存在』に変貌することによって突破しようとした結果なのではないかと」

 ベリア氏の仮説に基づくならば、オーク仮面は『悪でありながら悪を裁く存在』となる。はたして何がオーク仮面をそこまで駆り立てるのか? 義憤か、それとも個人的な渇望からか。その行いだけに注目すれば、オーク仮面は英雄的・救世主的な存在である。平和のために悪と戦い、自らを守る術を持たぬ弱者の味方となる。それはまるで聖女の行いであるが、一線を画すのはやはりその行いが法の外であるということだろう。もしかしたらそれこそが魔物に扮する理由なのかもしれない。つまり『法の外』とは転じて『獣』であり、その『獣』を屠るのは『魔物』であらねばならぬという思想だ。

 オーク仮面は法の外に住む『魔物』である。しかし『魔物』であることを自覚する『魔物』は、聖女と対極をなす闇の英雄的・救世主的存在にもなり得るのではないだろうか。



「な・ん・だ・こ・れ・は!?」


 新聞にはおれ――オーク仮面の写真がばっちり掲載されている。


「あー、やはり御主人様が許可しての記事ではなかったんですね」

「うん、してないね!」


 いったい誰がこんなデタラメを――、と記事を書いた記者の名前を確認したところ、そこにはルフィア・エンフィールドの名が!


「ヴュゼアーッ! おまえの嫁どうなっとんじゃーッ!」


 叫んだ途端、つい力がこもって新聞が真ん中の折り目でパーンッと真っ二つになった。


    △◆▽


 早急にヴュゼア君からお話を聞く必要ができたため、今朝はちょっと早めに屋敷を出て魔導学園へと向かった。

 すると校門前にはコルフィーの姿が……!

 いや、まだだ。

 まだ焦るな。

 昨日みたいにシャッと逃げられてしまうかもしれん。

 まずここは慎重に――、と思っていたらコルフィーがおれたちのところにテテッと駆けよってきた。


「あ、あの! おはようございます!」

「あ、お、おはよう、コルフィー」


 ちょっとあたふたしながらも、コルフィーは元気よく挨拶してきてくれた。一方、おれの方は急に望ましい展開になったことにびっくりして戸惑いながらの挨拶となった。


「ここ二日、よそよそしくなってしまってごめんなさい。色々びっくりしちゃって、考えがまとまらなかったんです。わたしのことはもう御存じですよね?」

「うん、聞いた。魔装の天才だって」

「あうぁー、いや、そんなんじゃないんですよ。ほら、ちょっと目がいいだけの話で……。あと家のこととか、色々とあれであれなんですけど、あの、すいません、これからもお屋敷に行ってお仕事を手伝ってもいいですか?」

「ああ、もちろん。ぜひ来てくれ」

「あ……、ありがとうございます」


 ほっとしたようにコルフィーは胸をなでおろす。


「あと、すいません、お願いが。学園内であんまり仲良くしていると兄を刺激するので、ここにいる間はちょっとした知り合い程度の間柄ということにしておいてほしいんです」


 まあ確かに、魔装の天才と最近その仕立てが注目され始めてしまったおれが親しげにしていたら話題になってしまうかもしれない。


「わかった。じゃあ詳しくは屋敷で」

「あ……、はい!」


 にこっと微笑み、コルフィーは校内へと駆けていく。

 それを見送ったあと、シアとアレサが微笑みながら言う。


「なんとかなりましたねー」

「よかったですね」

「うん、よかったよ」

「あ、もうオーク仮面は終わり?」

「終わりじゃい」


 終わりなのだが、終わらせる前にちょっとヴュゼア君にお話がある。

 それからおれたちはヴュゼアを捜して校内をうろうろ。

 するとヴュゼアの方からやってきた。

 ヴュゼアは実に渋い顔をしており、その手はしょぼくれたルフィアの首根っこを掴んでいた。


「レイヴァース卿を張っていれば、きっとまた凄いことになるって思ってたの。そしたらなんか面白いことしてたから、つい写真をとって面白く記事にしたの」


 とんでもねえパパラッチだ。


「面白くってな……、捏造なんて生やさしいもんじゃねえぞあれ。あと権威ある人の意見を載せて妙な信憑性を持たせるとか、やり方がちょっとあくどい」

「いやー、てれるー」

「褒めてねえからな!? ったく、あの人、真面目そうだから無駄に真剣な意見述べてたじゃねえか、どうすんだよあれ」


 ベリア学園長も無視すりゃいいのに。


「これはなんの許可もなく記事にした姉さんが悪いんだが……、お前なんでまたあんな仮面かぶって夜中に出歩いていたんだ? 色々あって疲れてるんじゃないか? 相談くらいのるぞ?」

「変に気を回さんでくれ……」


 ヴュゼアがわりと真剣に心配してくるので、オーク仮面になった経緯を説明した。


「事情はわかった。わかったが意味がわからん。どうしてそこでオークの仮面をかぶって他人のフリして相談に乗るなんて話になる?」

「オークの仮面が自分を使えとうったえてきたんだ……」

「……やっぱり疲れてるんじゃないか?」

「いや、まあ、うん、そう思うのも仕方ないと思うけど……、あー、じゃあちょっと話すわ」


 さらに今度は精霊に占拠された屋敷の有様を説明する。

 おそらく、オークの仮面はその影響を受けたのだろう、と。


「いや、そこで素直にオークの仮面をかぶって飛びだしていったお前の神経がやはりわからん」

「そ、それは……、まあ、ノリと言うかなんと言うか……」


 言われてみれば確かにその通りである。

 どうしておれはアレを被って夜の王都に飛びだして行ったのか。


「やっぱり疲れてたのかな……」

「あれよ、きっとあなたの魂が仮面と共鳴したのよ」

「恐いこと言うなよ!?」


 ミーネに言われてびっくりする。

 完全に否定できないのがなお恐い。


「と、とにかくそういう理由があったんだ。趣味とかそういう話じゃないから、もうあれをいじろうとするのはやめてくれ。ってかなんだよあの商人とか窃盗団ってよ。んなのおれ知らねえぞ」


 言ってやると、ヴュゼアは気まずそうな顔で視線をそらした。


「あー、あれ、ウチが関わった事件なんだ……」

「おいぃ! なすりつけてんじゃねえよ!」


 なんてことしやがる!


「ごめんねー。でね、そのごめんねついでなんだけど、この記事ったら妙に評判がいいみたいで、次回はね、オーク仮面の伝説を掲載することになったの。だからその話を考えてくれないかな?」

「なに勝手なことを!?」

「だめー? じゃあ事実をありのまま、実はレイヴァース卿の趣味だったってことに――」

「それは困る!」


 コルフィーに知られたらまたこじれちまうじゃねえか!


「じゃあじゃあ、考えて、考えて」

「ちょっとヴュゼアさん、あなたの婚約者どうなってんですかね!?」

「すまん!」


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― 新着の感想 ―
主人公がこの国だけでなく各国からどういう位置づけの人間なのかこの記者さんは把握してないのかな? 結婚先となる家柄は代々情報に特化した家のはずなんだけど。。。 国を想って代々裏から支えてる家系の跡取り長…
[一言] 273話のフェイルスイドラゴンさんに同意です。主人公はこういう場面でこそ指パッチンした方がいいと思う。話のテンポが良いだけに残念でならない。
[気になる点] 又しても、遠慮知らずのバカ女が! 何故に主人公にはこういうポンコツばかりが寄り付くのか?
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