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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
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第269話 12歳(秋)…魔王の候補

「うーむ、『悪神に見いだされし者』に『悪神の見えざる手』か。これは魔王候補と考えるべきか……?」


 訪問した目的――本題であるコルフィーという少女のことを話して聞かせると、ロールシャッハは額を押さえて険しい表情になった。


「やはりそこに繋がると考えますか」

「それは……、それ以外に思いつかないしな」


 ですよねー。


「実はそうと仮定して考えたことがあるんです。仮説に仮説を重ねるような話なのですが……」


 と、おれは考えたことの説明を始める。


「この『見えざる手』という表現、どうも引っかかったんです。わりと最近、似たようなことをどこかで聞いたような気がして……」


 何だったか、どこだったか、と来る途中ずっと考え、王都に来てからの出来事を順番に思い出してやっと判明した。

 それはベルガミアにおける防衛戦――その最後、バスカヴィルとの戦闘中にアズアーフ・レーデントが口にした台詞だった。


「彼は言いました。『何かが私の中に触れた。それは見えない手のようなものだった』と。重ねて言いますがただの仮説です。しかしぼくはこれがその『手』だったんじゃないかと思うんですよ。そしてもしそうならアズアーフも魔王の候補だった……、それはつまり魔王の候補というものは一人ではなく世界中に複数おり、そのなかから最終的に魔王となる者が現れるのではないかと」


 アズアーフを〈炯眼〉で確認していればよかったが、憂いが晴れた今となってはもう意味がないだろう。


「ふむ……、その『見いだされし者』という称号、そして『手』という恩恵――いや、呪いのようなそれが魔王の候補を意味するものと証明できればな……」


 呪い……?

 ふと何かひっかかり、それを考えつつおれは話を続ける。


「ええ、ですがうまくいけば証明できるかもしれません。いつになるかはわからないんですが」

「どう証明するんだ?」

「神に会ったら聞きます」

「んお? 会えるのか?」

「これまで会ったのは服の奴が三回、遊戯の神が一回です。場合によっては召喚めいた方法で服の奴を呼ぶことも不可能ではないかと……」

「召喚……?」

「召喚と言うか……、怒らせてこっちに来させます」

「いや、君な……、うん、君は神に近い者というのはわかったわけだがな、だからといってそういう事をするのはどうだろう?」

「よろしくないですか?」

「うん、よろしくない、さすがに」


 ロールシャッハに若干引かれてしまった。


「う、うーむ……、君は恩恵を授かっているかね?」

「あ、はい」

「ならば使徒なわけだ。呼びかけ……、あ、信仰心はあるかね?」

「ないですね」

「では無理か。信仰心が高ければ呼びかけに対し、神託という方法で返事――対話も出来ると思ったが……、本当になさそうだからな」

「敵意では無理ですかね?」

「それは無理だろ君!」


 無理か、そうなるとやはりいざとなったら召喚だな。


「まあわかった。機会があればぜひ尋ねてみてくれ。絶対的な条件によって魔王が誕生するのではなく、複数の候補から状況によって選ばれる……、頭の痛い話だが、知っておくべきことだ。頼む」

「はい、では会えたときに聞いてみます」


 これでひとまず悪神に関わる称号と恩恵の報告はできた。

 次にその称号と恩恵を宿してしまったコルフィーをどうするかという話に移る予定だったが、ちょっと思いついたことがあり、おれはもう少しこの話題を続ける。


「さっき仰った呪いという表現で思い出したんですが、そう言えば父さんは故郷が壊滅した際に『呪われた』って言ってたんですよ。二年前にこの話はしたと思いますが、覚えてますか?」

「ん? ああ、リッチに助けられてうんぬんの話だな」

「はい。――あ、そのリッチってもしかしたら悪神の関係者で、よさげな候補を見つけたら報告しているのかもしれませんね」

「またとんでもないことを思いつくな……。だがそうなると例えばアズアーフの場合は――、いや、関係者はリッチだけと言えないのか。関係者と言うか……、使徒か?」


 ぐぬぬ……、とロールシャッハは眉間にシワを寄せて考え込んでしまう。


「あ、今のは本当に思いつきなので。それに考えたとしても対策のしようがない話ですし。そのリッチをとっ捕まえられたら話は別かもしれませんが……」

「難しいな。話を聞いてから調べさせてはみたが、なんの情報も集まらなかった」


 おそらくこの世界で最も情報集積力がある冒険者ギルドでもさっぱり足取りが掴めないとなると、活動を控えてどこかに引きこもっているのかもしれない。

 となると、もう見つけようがないのでは。


「すいません、思いつきで話を逸らしてしまいましたが、言いたかったのは父さんが『呪われた』と感じたということなんです。これは父さんが不幸続きだったためにそう表現したと思うんですが、もしかしたらそれはアズアーフ同様『見えない手』に触れられたような感触を覚えたんじゃないかなと。もしかして優秀な素質を持つ、感覚の優れた者ならば『手』を感じられるのではないでしょうか?」

「まただいぶ仮説を積み立てた話になるな。もし誰もがその感触を感じられるなら、捜してみるのも有りかも知れないが……」

「感触を覚えたことがある人を募集して、ぼくが調べてみるような感じですか?」

「いや、まずは疑いのある者に話を聞き、その上で調べてもらうところからだな」


 疑い……?

 なんか魔王候補に見当をつける判断材料があるようだ。


「そう言えば、どうして父さんを魔王候補と睨んだんですか?」

「言い伝えなどをかき集めた結果、魔王は過酷な運命に悲嘆した者がなる、と見当づけられたんだ。三代目の魔王である〈慨花〉がまさしくそうであり……、そこでロークの名が挙がった」


 魔王として覚醒する条件は絶望……?


「お父さま……、けっこう危なかったんじゃないですかね?」

「かもな。でも母さんと出会って持ちなおして――」


 と言いかけて、ふと引っかかりを覚える。

 なんだろうと思考を探ってみた。


「……? ――ッ!?」


 いや、いや!

 違う、危うかったのだ!


「どうしました?」

「おいシア、あのアホ神の奴は確か……、おれは死産する子供に宿る予定って言ってたよな?」

「そ、それ……」


 おれが転生を拒否していたら初めての子は死産だった。

 持ち直しかけたところだったからこそ危うかったのでは?

 初めての子が死産となれば……、父さんはどうなっていたか。

 ダメだ、ちょっと想像が出来ないと言うより、したくない。

 父さん元気かな。


「仮定、仮説、憶測、推量。しかし……、あの神が君が宿る先を死産となるロークの子としたことに意味など無いと言うのは……、な。もしかしたら、君は生まれながらに魔王の誕生を阻止したかもしれないわけか……」


 スナークを討滅できる唯一の存在というだけでもうさんくさかったのに、なんか生まれすらもきな臭くなってきた。


「君はこの世界で起きる問題に巻きこまれるために生まれてきたようなものなのかもな。魔王が誕生したら期待していいかね?」

「やめてくださいよ……」


 そろそろ戦う能力があった方がいいと考え直したところに、まるでこの行く先が魔王戦など、冗談ではない。


「君の力は死神の鎌からのものなのだろう? ならば相当のものなのではないか?」

「それがですね、相当すぎるんですよ……」


 と、おれは現状を説明する。

 無理すると副作用で死ぬが、アホ神から与えられた恩恵でなんとか復活しているという有様。


「扱いきれないわけか……。人の身で神の力を扱う――、当然と言えば当然の話になるわけだな」

「はい。魔導学園のベリア学園長は、さらに神から恩恵をもらってみてはどうかと言われました。現在は善神、服、商売、遊戯の四つがあります」

「それはまた見事に戦いに関係のない神々ばかりだな。ちょっとびっくりだぞ」

「やはり闘神や戦神のような神の祝福の方がいいんですか?」

「いや、君の保護というだけならそうでもない。加護や祝福というのは神の力が流れ込む経路のようなものだ。要は少しばかり神の力を借りてさまざまな――例えば耐性やら防御力やらが高まるわけだ。それが四つあってもまだ駄目なのか」

「あまり丈夫になっているような気もしないんですが」

「すべて君の力を抑え込む方に使われているのかもしれないな。祝福が増えて君の力はどうなっている? 使いにくくなったり、威力を出せなくなっていたりするか?」

「そういう感じはしませんね」

「ふーむ、そうか。しかし無意味というわけではないだろう。やはり神の力を使う副作用を抑えたいなら、同じ神からの恩恵によって軽減するしかないのではないかな」


 そう言ってロールシャッハは考え込む。


「シャロ様も祝福を複数持っていた。十三ほどだったかな? もう魔王を倒したあとのことだったが、シャロ様はその祝福を使うことを考え始めた」

「……祝福を使う?」

「ああ。何と言えばいいか……、まあ一時的に恩恵の力を引きあげて、任意の目的のために使用するようなものだ。確かそれを可能にする道具をリィの奴と共同で製作して……、どこに仕舞った?」


 首をかしげながらうつむくロールシャッハ。


「君が無茶をしようとするとき、それがあれば軽減されるかもしれんのだが、どこに仕舞ったのか本当にわからん。だがどこかにあるはずだ。なんとか見つけだすから待ってくれ」

「お願いします」


 この屋敷には異次元収納がいっぱいありそうだからな、裏の物置のどこかに仕舞ったとかそういうレベルの物探しではないのだろう。


「すいません、ぼくの考えを述べたせいで話がやたらと逸れてしまいましたが、コルフィーをどうしたらいいと思いますか?」

「どうしたら、か。……一つ手っとり早い手段はあるが?」

「こ、殺すとかそういうのは無しでお願いします」

「冗談だ」


 あんたが言うと冗談に聞こえねえよ……。


「悪神の恩恵が存在するということがわかった今、それがどう働くかわからない以上、暗殺といった安易な手段は選べない。状況を悪化させる可能性もあるからな。だがそうなると……、私の方では今現在、手の出しようがない」

「今は見守るしかないと?」

「ああ。なるべく目の届く所に居てもらおう。と言う訳で、君はなんとかコルフィーとは仲良くしていてもらいたい。君の側にいれば何かあってもすぐに対処できるだろう?」

「何も起きないのが一番ですが……、そうですね。コルフィーには悪いですが、心の準備ができていなくてもこちらからアプローチして関係修復を急ぎます」


 どうかなぁ、明日も逃げちゃうかなぁ……。

 逃げないでほしいなぁ……。


※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/29

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/28


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