表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
271/820

第268話 12歳(秋)…ロールシャッハ相談室

「あー、楽しかった。レディオークの次の活躍が待たれるわ」

「ミーネさんてオーク串食べてただけじゃないですか……」


 変装して夜の町に飛びだすという体験はミーネにとってかなり新鮮なものだったらしく、何もしてないのに「いい仕事した」とでも言いたげな顔をしていることをシアにあきれられていた。

 そんなミーネはそれからお風呂に入り直し、お休みの準備を整えていそいそ寝床にもぐり込んだ。


「ミーネは寝たか?」

「楽しい気分をそのまま夢の中まで持っていこうとしてるみたいにすぐにお休みでしたよ」

「そうか。それは微笑ましい話だが……、たまには家ですごしてやれよって思うんだよな」

「もうここも自分の家と思ってるんじゃないですか?」

「ありうるが……、まあミーネはいい。それよりコルフィーだ」

「ええ、どうかしたんですか? なんか途中からご主人さまの様子がおかしかったので、どうしたのかなと思ってましたが」

「それなんだがな――」


 と、おれは〈炯眼〉で確認したコルフィーの情報をシアに伝える。


「何が、とは言えませんがヤバイ感じがしますね」

「そうなんだ。だからすぐにロールシャッハに相談したい。おれはこれから冒険者ギルドへ行って、なんとか取り次いでもらえないか試してみる。もしすぐに会えることになったらそのまま話し合いだ。悪神についての話し合いならおまえもいた方がいいよな?」

「どうでしょう? ここの悪神がどんな方か知りませんし、あまり役に立たないかもです。まあ世間一般な知識くらいはありますが」

「どんな世間一般だ……、まあ、とにかく一緒に来てくれ」

「あいあいさー」


    △◆▽


 アレサにはお願いして同行は遠慮してもらい、おれとシアは再び夜の王都へ飛びだすと、急いで冒険者ギルド中央支店へ向かった。

 すでに深夜、完全に営業時間外なのだが、緊急事態に備えて職員は残っている。

 おれは職員に緊急事態であることを告げ、支店長のエドベッカに取り次いでもらおうとしたのだが……、生憎と帰宅してしまっていた。

 が、だからと諦めるわけにはいかない。

 無茶を承知でエドベッカの自宅へ案内をお願いする。

 普通ならば突っぱねられるところだが、『スナーク狩り』がどうしてもと言うのだ、これは相当なことだと速やかに動いてもらえた。

 こういうときは肩書きがあると便利だな。

 それからおれたちは貴族街から離れ、エドベッカの自宅に到着。

 もう寝ていて起きてこなかったらシアに扉をぶち破ってもらうことまで考えていたが、エドベッカはまだ起きていたようですぐに現れた。

 寝間着姿でナイトハットとか被って出てきたらどうしようかと思ったがそんな心配は杞憂だった。


「こんな夜更けに、どうしたのかね?」

「緊急事態です」

「緊急……? また何かやるのかね?」


 どういう質問だ。

 おれが率先してやらかすことなんてそうないのに。


「それなんですが……、あなたに詳しく話していいかどうかすらわかりません。すぐにあの方に取り次いでもらいたいのです」

「君がこんな時間に来るのだ、相当なことだと思うが――、これからとなるとそれこそスナークや魔王に関わるくらいの事態でなければ」

「ならば問題ないですね。関係しているのは悪神です」


 エドベッカの顔色が目に見えて変わる。


「ここ十数年で残された悪神の痕跡の話です」

「すぐに精霊門へ向かう。準備に少し時間をくれ」


 エドベッカが家に引き返し、大急ぎで外出の準備を整え始めた。

 定期的に誕生する魔王に比べ、どうも悪神は影が薄い。

 一般的には、邪神を誕生させて世界を滅ぼそうとした神というくらいの認識しかない。そして邪神の誕生と討滅以降、姿をくらませてしまった神であるが故に、ほとんど話題にのぼらないのだ。

 だがこれは、あえて、でもあるのだろう。

 まだ悪神が活動を続け、世界を滅ぼすことをあきらめていないなどと考えたくもない話なのだ。

 魔王どころか邪神の再誕など、誰もが想像すらしたくないのだから。


    △◆▽


 冒険者ギルド支店長に与えられている緊急時の権限によって精霊門の使用が許可され、おれとシアはエドベッカに続いて門をくぐる。

 するとそこはどこかの屋敷――ちょうど玄関をくぐった場所だった。

 ふり返ってみればそこには閉まった扉。

 どうやらこの玄関が精霊門として機能しているようだ。


「ここはかつてシャーロットが住んでいた屋敷だな。世界のどこにもなく、精霊門からでなければ辿り着けない場所にある。そうだな、魔導袋の中にあるような家、とでも言っておこうか」


 亜空間にある隠れ家、みたいなものか。

 シャロ様のお屋敷なんて、もうおれにとっちゃ聖地みたいなものである。感動ものだが――、今はそれに心を奪われている場合ではないのでなんとか自制する。


「おやおや、確かに都合がいいときにとは言ったが、こんな時間に訪問とはな。ふむ、何かあったのか?」


 少し扉の前で待っていると、奥からロールシャッハが現れた。


「悪神について話があります」

「……!?」


 すぐさま用件を切り出すと、ロールシャッハの目つきが鋭くなる。


「わかった、あとは私が引き受ける。エドベッカ、ご苦労だった」

「では私はこれで」


 そう告げ、エドベッカは精霊門をくぐって帰還した。

 扉に体当たりしたと思ったら消えるという、実に不思議な退場の仕方になった。


「ではまずこちらに来たまえ」


 そう案内されたのは応接間で、おれとシアは並んでソファに座る。

 ロールシャッハはテーブルに置かれた小箱からティーカップやポット、それからお菓子などをひょいひょいと出して振る舞ってくれた。


「さて、悪神の話ということだが……、シアは居ていいのか?」

「はい。むしろいた方がいいかと。こいつ元死神なので」

「……?」


 ロールシャッハがきょとんとしながらシアに尋ねる。


「その死神というのは……、例えばあちらの各地域で死神とされている神のことか?」

「あー、いえ、わたしはなんちゃってではなく、本物の方です」

「そんなわけがない。死神は言わばシステムのようなもの。いや神もそうなのだが、より根幹に近い……、いや、根幹だな。創造と生の唯一なる神と対を為す、終焉と死の無限なる神だ。人前に出てきていいものじゃない」

「まあそうなのですが、実際は……、なんと言いますか、ほら、たくさん世界があって、生き物もたくさんいるので遍在していまして、わたしはその端末的なものの一つでしたが、ちょっとイレギュラーなことがありまして、なんやかんやでこんなことになってます」

「ちょっと待て。本当にか? 本当に死神なのか?」


 ロールシャッハがやや混乱し始めたので、おれはどうしてこちらにぶっ飛ばされることになったかを手短に説明した。


「君は……、中身が死神の鎌? おいおい、場合によってはこちらの機能神よりも上位だぞ。――あ、だからスナークの討滅が可能だったわけか。なるほど、そういう……」


 ロールシャッハはふむふむと納得する。


「スナークは悪神の権限内にあるもの。だが死に関しては当然ながら死神の方が上位。これなら機能の妨害にはならないわけか」

「あの、その権限というのは?」

「ふむ、君はこれまで、神々が魔王やスナークを放って置く状況を不思議に思ったことはないかい?」

「ええまあ、不思議でしたが直接関わってはいけない決まりでもあるのかと思っていました。でなければ無能極りますから」

「まあそうだ。神にはそれぞれ役割がある。その権限内においてはその役割を担う神が強い影響力を持つ。ここに他の神が横やりを入れた場合、補正を受けてそれを正すこともできる」

「つまり悪神にとっては悪を為すことが役割であるため、他の神々は手出しが出来なかったということですか?」

「んー、悪神だからといって、悪いことをするための神というわけではないのだが……」

「ご主人さま、悪神の役割は調和を乱すことなんです」

「調和?」

「はい、そして一旦乱れた調和がより高いレベルで調和されることを望みます。要は発展、進化を促すための悪役を担う神です。試練の神とも言えますね。キリストにおけるサタン、ブッダにおけるマーラ。神話とかでも、余計なことして混乱を起こそうとするでしょう?」


 調和を乱すもの(トリックスター)

 神の世界における悪漢(ピカロ)か。


「じゃあなにか? 邪神を誕生させたのは、邪神を見事倒してみせよって、そういう話だったのか?」

「恐らくはな。明らかにやりすぎだが、しかし、それは役割でもあったのだ。まあそれはひとまず置く。えっと、権限の話だったな。つまりスナーク、魔王はシステムの内にあるもので、それを同じくシステム内にある神々がどうこうすると、補正をうけてより面倒なことになるため手出しが出来ないのだ。それをどうにかできるのは悪神が試練の対象としている人だ。神々は人に手助けをすることは出来るが、悪神の試練に直接は関わってはならない。これは不可能という話ではなく、出来るがやればさらに被害を生むという理由からだ」


 そうロールシャッハは言い、改めておれを見やる。


「さて、では君の言う悪神の痕跡について聞こうか」


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/12/28

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/08

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/04

※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/19


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ