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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
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第264話 12歳(秋)…学園長とお話(後編)

 暗に「授業の邪魔!」と怒られたおれたちは、そそくさと学園長室に撤収した。


「ちょっと怒られてしまったが、あれは魔法制御の訓練になるから授業に取り入れよう。楽しくて訓練にもなる。うん、いいことずくめだ」


 一緒になって遊んでいるだけに見えたが、相手の干渉に打ち負けることなく剣の形を保つのはけっこう難しいものだったらしく、戻るなりベリアはそのことをメモし始めた。


「実際に授業にするとしたら水がいいだろう。うっかり燃えたり切り裂かれたりすることもない。……ん? もし水の剣にちゃんと硬度を持たせることができたら普通に武器にできるんじゃ……? 武器製造魔法は土でなければならないわけじゃないし……、技量次第でそれぞれの属性の剣を……」

「あの、あの、ベリア学園長」


 ぶつぶつ言いながら自分の世界に行ってしまいそうになっているベリアに呼びかける。


「おっと失礼。えー、さて、ひとまず仮定ではあるが、君の短剣に秘められた効果についてはおおよそ判明した。これで魔導学園の長としての面目はたっただろうか?」

「ありがとうございます。まさか訪問したその日にここまで明らかになるとは思いませんでした」


 正直なところ、そこまで期待はしていなかったので嬉しい誤算だ。

 この成果は自分が傷つくことをまったく厭わないベリアだからこそのもの。きっと他の誰に相談してもなかなかここまで判明することはなかっただろう。


「私は今回の実験で得られた情報から、さらにその短剣について考えてみようと思う。また何か思いついたら実験してみよう」

「お、お願いします」


 なるべく穏便な実験であることを祈る。


「さて、ほかに何か尋ねてみたいことはないかな?」

「ほか……、ですか?」


 そうだな、この人なら相談できることがあればした方がいい。

 となると……


「雷撃をうまく使いこなす方法……、ですかね?」

「おや? 君は雷撃を使いこなせていないと感じるのかな?」

「使いこなせていないと言うよりも、なんとか使える範囲でどうにかしている感じなんです。力が大きすぎるようでして」


 と、雷撃が使えるようになってからの話、それから無理をすると何らかの副作用が起きることを簡単に説明する。


「なるほど。それは難儀なことだね。しかし、それでいながらこれまでの成果を?」

「無理して使っての成果――、いえ、結果ですね。その後はろくなことになっていないので、なんとか改善できないものかと」

「ふむ……」


 ベリアは顎に手をあてて少し考え込み、それから言う。


「君は指を鳴らして雷撃を使うね。あれはどれくらいまで引きあげることができるのかな?」

「どれくらい……?」


 はて、〈雷花〉の最大威力?

 これまであまり気にしたことがなかったな。

 意識するのはせいぜいシビビッと感電させるか、アバババッとしばらく動けなくさせるかくらい。

 あとは範囲の大小くらいだ。

 そもそも〈雷花〉は護身用――相手を一時的に麻痺させることを目的とした使用法で、相手を黒コゲとかそこまでは想定していない。


「なるほど……、なるほど……」


 ベリアは興味深げにうなずき、言う。


「この学園に入学した生徒にはね、まずめいっぱい力を振り絞って自分の限界を確かめてもらうんだ。それはどうしてかと言うと、自分の中に『ここまで』という一つの基準を作ってもらうためだ」


 魔法を習得していく上で、何かしら自分の中に目安があるというのは有利に働く、とベリアは言う。


「しかし君の場合は……、母君はそれをやらせるわけにはいかなかったんだろうね。だから身に危険を及ぼさない範囲で使える力を洗練させていくしかなかった」


 そういや初めて雷撃が出たときめっちゃ心配されたもんな。

 意味もなく寝かされたし。


「魔術は魔法よりもずっと感覚的なものだから、精神に強く影響される。なのに君の中に基準となるものがないとなると……、制御も難しいだろうね。うん、儀式を設定したのは賢明な判断だった。それは君が設定した範囲内で制御しづらい力を制御しやすくする」


 ベリアがそう感心していたが、ふと表情を曇らせた。


「ただ……、護身用だけというのがね、君のその――、これからの境遇と言うか、行く道に対して弱いんじゃないかな……」

「弱いですか」

「うん。あ、護身用が悪いわけじゃないんだよ? 強い力を持つからこそ、無闇に人を傷つけないようにという君の考えは実に素晴らしい。だがもう一つ、殺す用の儀式を用意しておいてもよかったと思うんだ」

「殺す用、ですか? 威力を上げたら――」

「いや、その使用法での威力を上げて、ではなく、使うなら殺すと決めたものだよ。その使い方は雷撃を使い始めてから身につけて、ずっと使っているものだろう? ならばそれは、まず護身用、非殺傷としての意識が君の根底にまで根付いているはずだ。もしかしたら君の軸にすらなっているかもしれない。そうだね、君はこれまで雷撃で誰かを殺したことはあるかな?」

「人はないですね。いや……、スナークをのぞけば、生き物を殺したことはないような……」

「たまたまかもしれないし、避けているのかもしれない。言った通り、魔術は精神に影響を受ける。これは意識にのぼってくるものだけではなく、その深い底にあるものもだ。殺すほどの威力を使いたくはないが、使わざるを得ない状況だからその意識を振り切って使う――、これでは制御もより難しくなるし、集中しきれずその威力も不安定だろう。そしてもしかしたら、そう決意して使ったとしてもその根底にある意志に応え、君の雷撃は何も殺さないかもしれない。つまり相手を無力化するに留まろうとするかも、ということだ」

「では殺す用のなにか使用法を考えた方がいいということでしょうか?」

「それなんだがね……、簡単な話ではないかもしれない。その非殺傷という使用法が君にとって枷になっている場合の話をしたんだが、それを外すために何か殺してみる――、まああれだ、ちょっと罪人を殺してみようとか、そういうのはよした方がいい。その枷は君にとってのタガになっている可能性もあるからね。殺すことになんの抵抗もなくなっても困るし、殺したという心的な衝撃によって魔術が使えないようになる、なんてことも否定できない」


 殺しへの忌避感か……。

 どうだろうなぁ、特にないような気がするけど。


「話が少し逸れてしまった。要はその指鳴らしのような儀式を他にも設定してみてはどうかと言いたかったんだが……、すまない、話している途中でそういう生やさしい段階ではないと気づいた。善神の祝福に守られていながらも副作用が出るほどなんだよね? たぶん、そこまでとなると君の努力ではどうにもならないと思う」

「おおぅ……」


 この人でも匙を投げるか。


「君の気がかりは副作用が出ることだろう? なら極端な話、制御はうまく出来なくても、副作用さえ抑えられたらいいわけだ」

「ええ、そうですね」

「ならこういうのはどうだろう。ちょっと神頼みな話なんだけど」


 あ、この流れって……、もしかして、あれか。


「あー……、そのことについてなんですが……、善神だけでなく、他にも三つほど祝福をもらってまして、計四つあります」

「……へ? 四つ? 四つ!? え? 加護でなくて祝福が四つ!?」

「んー……?」


 ベリアが驚き、アレサは笑顔で首をかしげていた。


「四つの祝福に守られていて副作用がでるの!? ……いや、なら話も早い。要は神の恩恵を狙ってみたらと言いたかったんだ。四つもあるんなら、五つだって六つだって狙えるかもしれないしね!」


 うんうん、とベリアが一人納得する。

 少しやけっぱちになってるような……、いや、きっと気のせいだ。


「シャーロットも祝福を多く授かっていたと聞くし、そういうところも再来ということなのかな」

「案外、シャーロットもぼくのような苦労があって祝福を増やしていったのかもしれませんね」

「あ、なるほど、そうかもしれないね。ふむ、君はシャーロットが苦労や努力をしていったと考える派の人なのかな?」

「何でも出来た、なんて考えられているみたいですけど、ぼくは努力家だったと思います。もちろん才能もあったんでしょうが、それに甘んじるだけでは世の礎を作ることは出来なかったでしょう。才能を開花させる努力もそうですが、その開花した才能を世のために役立てるにはもっともっと、大変な努力と苦労があったんだと思います」

「ふむ、シャーロットをありきたりに偉人として捉えるのではなく、その時代を懸命に生きた一人の人間として見ることのできる者がどれだけいるだろうか」


 ベリアは何やら感じ入るようにうなずき、言う。


「世間にはあまり知られていない話なのだがね、シャーロットの墓はザッファーナ皇国にあるんだ」

「え!? そうなんですか!? お参りに行かないと!」

「そうだね、君は行く資格があるだろう。ただ、そのお墓はただのお墓じゃないんだよ……」


 ベリアの話では、死期を悟ったシャロ様は地下深くへと続く霊廟を作り、その奥に籠もったらしい。

 盗掘されることも考慮し、さまざまな罠や防衛機構、守護者が用意された霊廟は世界最凶のダンジョンと化した。


「シャーロットは『魔王が倒せなかったら墓を暴け』と言い残したらしくてね、それがまた盗掘者を増加させる原因にもなった」


 墓荒らしは大勢突撃していったが……、誰一人戻らない。

 こうして無礼なアホ共はアンデッドと化し、お墓参りの難易度をさらに押し上げた。

 未だ最深部まで到達した者はいない。

 いたかもしれないが誰も戻らない。

 これ、母さん知ってておれに言わなかったヤツだな。


「まあそんなわけでね、昔はまだ知られていたようなんだけど、あまりにも帰らない者が多くなった結果、これは無理だと知られるようになり、下手に広めると死者を増やすだけになるからって秘匿されるようになったんだ。でも君なら自制もきくだろうし、入るのは別として、お参りくらいはしてもいいんじゃないかな」

「そうですね、いつか行こうと思います」


 今年は無理かもしれないが、来年くらいには……!


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/05/10

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/09/02


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