第261話 12歳(秋)…魔導学園へ
ザナーサリー魔導学園。
国内から魔法の素養を持つお子さんを集め、優れた魔道士になってもらうべく教育を受けさせる教育施設である。
嘘である。
いや、嘘というのは言い過ぎなのだろうが、魔法の才能を好き勝手に伸ばして楽しく生きていってもらうための教育施設でないことだけは確かだ。
生徒に望まれるのは国を支える特殊技術者になってもらうこと。
これ、要は重機代わり。
状況によっては兵器の代わりにもなるようだが、そんな事態はここしばらく起きていない。
なので生徒たちの多くは将来ひたすら国のインフラ整備に追われることになる。
とは言え給金はいいので……、まあ、いいんじゃないかな?
やり甲斐を覚えるかどうかは本人の適性に任せよう。
そんな魔導学園へ短期入学する日が近づいてきたその日――
「あのー、レイヴァース卿、私もご一緒したいと思うのですが……」
アレサから相談を受けた。
そうだ、この人っておれの側にいるのがお仕事だもんな。
さて、どうだろう?
聖女ならば学園としても歓迎する話だとは思うが……、確認はとっておいた方がいい。
連絡してみたところ「ぜひお越しください」と快諾された。
さっそくこれをアレサに伝えてみたところ――
「ああよかった。忍び込むのは気がひけますから」
許可されなくても強引に同行する気でいたことが判明した。
そして今更であったが、どうして短期入学なんて話になったのかもついでに尋ねておいたのだが――
「これ、こんな有名人も来たことがあるよ、っていうアピールだな」
「でーすねー。一応、ご主人さまったら英雄ですからね」
そう、変に注目を浴びているおれを訪問させることで、ちょっと学園の空気を変えよう――、活気づかせようという話らしい。
「わたし、授業とか見学させてもらってもちんぷんかんぷんなんですけどね」
「おれは母さんから知識だけは詰めこまれたからな、なんとなく授業内容を理解するくらいは出来るだろうけど……」
おれとシアはいまいち乗り気ではない。
一方――
「んふふふ……」
ミーネは妙に乗り気、上機嫌だった。
「なんでおまえはそんな楽しそうなん?」
「授業に参加していいんでしょ? だから魔法の模擬戦に参加させてもらうの!」
「……く、くれぐれも、おてやわらかにな?」
「うん? 大丈夫よ、いきなり全開で魔術を使ったりしないわ。まずは魔弾からよ」
「それでも充分脅威だと思いますよー?」
たぶんほとんどの生徒はそれにすら対抗できないのではないか。
生徒の多くは正確に魔法を使うことに苦心し、戦闘で使用するような即発の魔法訓練はそう受けていないはず。
軍人候補の生徒なら戦えるかな?
だが下手にミーネとやりあって「じゃあ本気でいっていいわね!」なんてことになったら大惨事である。
さすがに手加減はするだろうが、その手加減の結果が魔弾なわけで、なんだろう、不安しかない。
「そのとき、おれは見学してますね」
「うん、見ててね!」
「シアさんも一緒に見守りましょうね」
「へーい」
いざというときの制止要員であることは自覚しているのだろう、シアは気のない返事をした。
△◆▽
魔導学園への登校初日。
金と銀、そして赤と黒。
なんとなく対にされやすい髪の色をしたおれたちは連れだって学園に向かった。
魔導学園は国が運営する特殊技術者養成校なので、その立地は貴族街の外れというなかなか立派なところにある。
全寮制というわけではないが、生徒のほとんどは学園の敷地内にある学生寮にて生活。
生徒が国中から集まっているので自然とそうなるのだ。
例外は貴族の子弟子女。
王都に屋敷があるのでそこから普通に通う。
希望があれば学生寮に留まることもできるが、そんな奇特な者はごく少数らしい。
もちろんおれも屋敷から通い、夕方には戻るスタイルだ。
なのでコルフィーとのお仕事にも間に合う。
これから二週間、朝からは学園、そして夕方には屋敷へ戻りコルフィーとお仕事、という状態が続くだろう。
冒険の書の製作は……、うん、二週間したらまた本格的に再開するから、まあ、うん、冬になる前には、きっとなんとかなるんじゃないかな、うん。
学園に到着したおれたちはまず正門にて出迎えられる。
そこには学園長であるベリア・スローム・イークリストもおり、まずは社交辞令的な挨拶を交わす。
聞いてはいたがやはり若い。
三十手前くらいの穏やかそうな男性である。
「その若さで学園長とはすごいですね」
「いえいえ、レイヴァース卿に比べたら大したものではありませんよ」
実に無難な挨拶を交わしたあとは全校集会。
学園生には制服が支給されており、皆の身なりが揃っているので冒険者訓練校生の整列よりも整然としているように感じた。
ベリア学園長は順番におれたちの紹介。
おれの紹介はベルガミアでの活躍から始まり、その活躍から冒険者ランクがSと認定された話。身近なところでは冒険の書などの紹介、それから今では聞かなくなったが一昔前まで有名な魔導師だった母さんの話があり、おれはその教育を施され、魔法こそ使えないが魔術の雷を使えることなどが説明される。
それからシアの紹介。
おれの妹という以外に語るべきことがあまりないのでメイドの説明などが入り、それからこの度のベルガミアでの活躍が評価されて冒険者ランクがBになっていることなどが紹介される。
次にミーネの紹介。
勇者の末裔であるクェルアーク家の話から、四大属性の魔術を自在に使えること、それからシア同様に冒険者ランクがBであることなど。
最後に同行者であるアレサの紹介。
まだ聖女になったばかりではあるが、従聖女という任務を帯びておれに付き添っていることなどが説明された。
「それでは、簡単でいいので挨拶をしてもらえますか?」
ベリアに促され、まずはおれから挨拶をする。
「どうも皆さんこんにちは。紹介にあずかりましたレイヴァースです。この度はベリア学園長の計らいにより、特別に短期的な入学を認められました。紹介にあった通りぼくは魔法が使えません。ですが魔導学については母から教わりましたので、少しは会話に参加できるのではないかと思います。二週間という短い期間なのですが、皆さん、どうぞよろしくお願いします」
無難なことを言って引っ込む。
と、シアが「なにしれっと普通に挨拶してんですか!? わたしそんなふうに言うことないんですけど!?」という表情をしていた。
無視した。
「あ、どうもこんにちは。シア・レイヴァースと申します。わたしは……、あー、ご主人さまのおまけみたいなものですから、あまり気にしないでください。どうぞよろしく」
大勢を前にしての挨拶は訓練校でクラスメイトにちょっと挨拶したのとは違うらしく、やや緊張気味だったシアは早々に切りあげた。
「……もっとこう、ないのか……?」
「……挨拶があるとわかってたら何か考えておきましたよ……!」
次にミーネの挨拶となる。
「ミネヴィア・クェルアークよ! 私は戦闘の授業に参加させてもらうと思うからよろしくね!」
清々しいほどに戦うことしか頭にない挨拶だった。
「……わたし、あれよりはマシですよね?」
「……似たようなもんだ」
最後にアレサの挨拶。
「ご紹介にあずかりました、アレグレッサと申します。聖女と認められてまだ日の浅い未熟者ではありますが、善神の祝福を戴くレイヴァース卿の従聖女という大任を――」
「ちょちょちょちょ!」
おれが祝福持ちなことをいきなりぶっちゃけ始めたアレサを慌てて止めてみたが、もう手遅れで生徒たちが一斉にざわめき始めていた。
「え!? 内緒だったんですか!? すす、すいません!」
「いやまあ……、いいんですけどね、なんか有名になっちゃいましたし、いまさら知られたところで大差ないですから」
まあ悪気があったわけではないのだ。
ティゼリアからは祝福持ちとだけ聞いていたのだろうし、おれもそれについてアレサと話すことがなかった。そのためアレサは『誇るべきこと』という感覚のままだったのだろう。
結局、いきなりの失態――、としょんぼりするアレサはもう挨拶どころではなくなり、気をきかせたベリア学園長の取りなしにより集会はそこで終了することとなった。
※誤字を修正しました。
ありがとうございます。
2018/12/16
※文章の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/01/29




