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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
4章 『裁縫少女と王都の怪人』編
250/820

第247話 12歳(秋)…帰国後のご挨拶(前編)

 ベルガミアから帰還して三日目。

 その日、まずは広場のシャロ様像にお参りしたあと、臨時教員終了のお知らせをするため冒険者訓練校へと向かった。

 バスカーはおれについてきたそうだったが、真面目な顔して残念なお知らせをしている最中、足元でちょこちょこ愛嬌を振りまかれてもなんだかなということでティアナ校長に預けてきた。

 たぶん誰でも引き受けてくれたのだろうが、バスカーを見るティアナ校長の目は「触りたいなー、撫でくり回したいなー」という感じだったので、主から任されたという名目でもって好きにしてもらおうという、普段の働きを労うための、ちょっとした恩返しとして預けてきた。

 訓練校に到着したおれはまず校長室に出向く。


「また派手に活躍したのう。教師を辞めてもらわねばらなんのは残念じゃが……、これはのう、仕方あるまい」


 マグリフ校長はベルガミアで何があったか興味津々な様子であったが、あまり長話は出来ないので手短に事の顛末を話した。

 死神の鎌が――、なんて説明できないので、なんか雷撃が効いた、という適当な話をすることになったが、まあ仕方ない。

 そのあとは生徒たちを集めての全校集会。

 まだ世間にはおれがスナークの群れを討滅したという事実ははっきりと伝えられていないらしく、生徒たちはどうしておれが臨時教員を辞めることになったのかわからない状態だ。

 すべてを話して騒ぎになられても困るので、おれはそれとなく、変に有名になってしまい、そのせいで皆に迷惑がかかりかねない状況になったので臨時教員を辞めることを説明し、落ち着いたらまた顔を出すと約束した。

 訓練校をあとにしたおれは、次にチャップマン商会に向かってダリスにカレーのことを相談。

 この調味料を輸入してみて、王都でも展開してみてはどうかという提案である。


「ふむ……、うまいね。ふむ、ふむ……」


 妖精鞄から昨日作ったカレーを出し、試食してみてもらったところなかなかの好印象。

 こちらでも買えるとなれば、ミーネも安心するだろう。

 昼近くになった頃、一旦屋敷へと戻り昼食を取る。

 ミーネは祖父のバートランにどれくらい強くなったか披露するためクェルアーク家に戻っていた。

 午後からはクェルアーク家に向かい「コボルト戦に続きお嬢さんを危険な目に遭わせましたゴメンナサイ」をしにいく予定だったので、ミーネとはそこで合流することになるだろう。

 そのあと、シアの鎌――ミーネにぶった斬られたアプラの修理依頼をしに鍛冶屋『のんだくれ』へ、となる。

 そして最後に冒険者ギルド中央支店へと向かい、ランクアップの手続き、それから金銀の二つ名登録などの手続きを行う予定だ。

 あ……、そう言えば二人にまだランクアップの話してねえ。

 一昨日は新しく来たメイドがあの二人だったり、シャロ様の小像が木っ端微塵になって大量の精霊が居候になったりと、妙に強烈なイベントが重なったせいで二人に言うのをすっかり忘れていた。

 まあそれはミーネと合流して冒険者ギルド支店に向かうときに話せばいいか。


    △◆▽


 シアをともないクェルアーク家へと到着する。

 微笑みながら迎えてくれたのはミーネの兄、アル兄さんことアルザバート。

 クェルアーク家次期当主であり、ミリー姉さんの婚約者だ。


「またずいぶんと活躍をしたようだね」

「ええ、まあ、なんかそんなことになってしまいました」


 詳しいことはミーネから聞いているのだろう、アル兄さんから労いの言葉をもらう。

 そして応接間に案内され、そこで王都でのミーネの保護者となるであろう、祖父のバートランとのお話となった。

 前回はなんだかんだでミーネの成長に喜ばれてしまったのだが、今回はとなると……、いや、今回も喜ばれた。


「この子には実戦が必要なのだ」


 隣に座るミーネの頭を撫でながらバートランは言う。


「実戦ですか……」

「うむ、儂はこの子に剣術を教えてはやれんからな、この子は実戦のなかで自分の剣を身につけていくしかないのだ」

「教えてやれない……?」


 そう言えばミーネが体系づけられた型のようなものを使うところを見たことがない。

 使わないのではなく、そもそも我流だったようだ。


「なぜ教えられないのですか?」

「それはな、儂はただの剣士で、この子は魔導剣士だからだ。そもそも剣術というのもな、強くなる近道ではあるが、頂点を目指すには遠回りになる代物なのだ」

「……遠回り?」


 よく意味がわからなかったので聞いてみたところ、一度『剣術を身につけた剣士』という型にはまってしまうと、それを突破して先を目指すのが難しくなるらしい。

 剣術は優秀な剣士を生みだしはするが、同時にほとんどの者をそこで終わらせてしまうのだ。


「儂も若い頃そこにはまってな。かなり苦労した。剣術によって強くなった自分は、いくら鍛えようとより上手に剣術を駆使するだけに留まるのだ。極論すると相手を倒せさえすれば剣術などいらん。剣術を身につけていようと相手を倒せねば意味は無い。ただ相手を倒せる一撃を、その意志を込め放てればそれでいいのだ。これは特に魔技に現れるな。下手に学んだ技術を発展させて身につけたものよりも、自分の経験から捻りだされたものの方が強い。間違いなく強い。自分の人生をかけて放つのだから強いに決まっている」


 元々バートランはミーネに剣術を教えるつもりでいた。

 しかしレイヴァース家での滞在にて魔術を開眼――、それもかなりの才能とわかり、それを取りやめたらしい。

 剣しか知らない自分が、剣と魔術を使うミーネに剣術を教えてしまえばそれは偏りとなり、型が枷となってミーネの才能を抑え込んでしまうと考えたようだ。

 なので技術的なことは教えることは控え、練習試合と適当な魔物との戦闘――実戦だけを積ませた。


「そのため、なかなか目に見えての成長が無く、この子もさすがに悩んでいたのだが……、君との再会、そしてコボルト王との遭遇で一気に開花した。この子はこれからなのだ。もっと戦う場が必要になる。ぜひとも連れ回してやってほしい」

「…………」


 とんでもねえお墨付きをもらってしまった。


    △◆▽


 クェルアーク家をあとにしたおれとシアは、合流したミーネを連れて鍛冶屋『のんだくれ』へと向かった。

 クォルズにベルガミアで何があったのか尋ねられたので、知れ渡るまでは内緒に、ということにして向こうでの出来事を話した。


「スナークの討滅って……、大ごとすぎて驚くよりもあきれが先にきてどう反応したらいいかわからんぞ」


 クォルズはぽかんとして言う。


「坊主なら魔王も倒せるかもしれんのう」

「いやいや、そこまで自惚れていませんから。たまたまスナークを討滅することが出来ただけで、魔王となると話は別でしょう」


 実際は『たまたま』とは言えないのだが、説明するわけにもいかないので濁しておく。おれは対スナーク特効ではあるが魔王となると通用するかわからない。魔王が出現となったらおれにも話が来てしまいそうだが、そこはなんとか回避したい。

 そんな話のあと、ようやく訪問した用件となった。

 シアが申し訳なさそうに斬られた鎌を差しだす。


「あのぉ、作っていただいた鎌がこんなことになってしまいまして、どうか直していただけないかと……」

「おいおい、なんじゃこの綺麗な断面は……、嬢ちゃん一体誰と戦ったんじゃ?」

「私……」

「あー、嬢ちゃんかー……」


 鏡面とまではいかないが、綺麗に断ち切られた鎌の断面に驚いていたクォルズは名乗り出た犯人に対しあきれたように納得する。


「また一体全体、どうしてここまでやる状況になったんじゃ?」

「えっとね――」


 と、ミーネはベルガミアの武闘祭に参加し、シアとの本戦での対決の結果と説明した。


「なるほど、そういうことか。まあ勝負だったなら仕方ないんじゃろうが……、こりゃ鋳つぶして作り直しじゃな。嬢ちゃんの剣なら自己修復に任せられそうじゃが……、こっちの嬢ちゃんの鎌はな」

「駄目ですかー……」

「駄目じゃな」

「たっぷり愛情込めていたんですが……」

「愛情だけじゃのう。それこそあれじゃ、ほれ、坊主の針でも埋めこんでおけば違ったかもしれんがな」


 クォルズがそう言うと、シアは黙っておれを見つめ始めた。

 おれは心を無にしてシアの視線に耐えた。


「じー……」


 やがてシアはわざわざ口に出しておれを見つめ始めた。

 おれは心を空にして耐えた。


「ちょっとぉー! ここは『そういうことなら』とか言ってあのピカッとする針を提供してくれるところでしょう!? ミーネさんやティアさんにはあげたじゃないですかー! わたしにもくださいよぉ!」

「いや、まああればやるけど……」


 シアが両肩を掴んでがっくんがっくん揺さぶってくる。

 そう、手持ちにあれば別にやってもいいのだ。

 使い道なんて特にないし。

 だがここで約束すると、針を光らせるためにせっせと裁縫を続けるハメになる。

 一応、金銀用に服を二着、それからミーネの姉へのプレゼント用にぬいぐるみ一つ、そしてサリスのぬいぐるみ――ウサ子用の衣装を一着と裁縫の予定はあるが、それで針が光るかどうかはわからない。


「じゃあ、予約します! ピカッとしたらそれはわたしのですからね! 誰かにあげちゃ駄目ですからね!」

「へいへい」


 ひとまず収拾をつけるために、おれは予約ということにした。


「うむ、針については坊主次第として、ひとまずこれは預かろう。確か左右対称にしとったから、もう一本も預かろうか。鋳つぶしたあと、記憶を頼りに細部まで再現するのは無理じゃからな、そっちを見ながら作るわい」

「あー、そうですか。わかりました、よろしくお願いします」


 シアはリヴァも差し出し、クォルズはそれを受けとる。


「用事はこれだけか?」

「そうですね。あ、あとちょっとした報告があります」

「うん?」

「ぼくの短剣のことなんですけどね――」


 と、おれは縫牙を抜き、雷撃の串団子を作って見せた。


「なんーじゃこりゃ……」


 お髭をがしがしいじりながらクォルズは串団子を眺める。


「どうも魔素――、力を宿すものを縫いとめるらしいということはわかったんですが、それまでなんですよ。どう思います?」

「どう思うって……、こりゃ鍛冶屋の領分を越えるじゃろ。これは冒険者ギルドの支店長やっとるエドベッカに聞いた方がいいんじゃないか?」

「あー、なるほど、魔道具に詳しいみたいですからね。ちょうどこのあとにギルドへ向かう予定だったので、そのときに聞いてみます」

「それがいいじゃろうな」

「はい。では――、あ、すいません。もう一つ聞きたいことが」

「なんじゃ?」

「ヴァイロ共和国の武官が使っていた魔剣ってどういうものかご存じですか?」

「…………」


 尋ねた途端、クォルズが不機嫌になったようにむすっと黙りこむ。


「あれ、か。あれは……、坊主には必要ないもんじゃ。そっちの嬢ちゃん二人にもな。じゃから知らんでいい」


 そっけなく言われた。

 どうやらあまり良くない物のようだ。

 まあちょっと気になっただけの話だし、クォルズがそう言うなら知らないままで平気だろう。

 余計なことは知らない方が身のためなのだ。


※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/28

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/06/15


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