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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
1章 『また会う日を楽しみに』編
23/820

第23話 6歳(秋)…第二回家族会議

 そしてレイヴァース家の第二回家族会議が勃発した。


「本当に装衣の神が現れて、服を引き取るかわりにと祝福を授けたのね?」


 もう何回目だろうか、母さんはまだ信じられない様子。

 同じ話を何度も何度も……、なんだか取り調べみたいになっている。

 とはいえ説明することはすべて話したので、おれはただうなずくばかり。


「リセリー、もういいだろう。この子は祝福を授かった。すばらしいことじゃないか」


 父さんはわりとあっさり信じてにこにこしてる。


「でも祝福よ? 祝福を授かったなんて……、どうしましょう」

「祝福ってすごいの?」

「凄いなんてもんじゃないわ。加護は神が気に入った者にあたえるのだけど、祝福はこの者ならばと惚れこんで授けるものだから、本当に希なことなの」


 おかしいな。

 加護じゃダメっぽいから祝福くれてやるよ的なやりとりしか記憶にないんだが。


「まああれだ。神撃の抑制もかねておまけしてくれたんだよきっと」

「もう、祝福はそんな適当に授けてもらえるものじゃないの」


 母さん、あの神は何度も来たくねぇからって理由で祝福くれました。


「でもそうね、神撃については不安もあったから本当にありがたいわ。これでこの子があの雷を制御できるようになれば一安心なんだけど……」


 やっつけの祝福に母さんの期待大だ。

 せっかくだから、ちょっと服の神を利用して説明しておこうかな。


「母さん、ぼく、加護もあるよ」

「へ?」

「うんとね、神さまがね、善神の加護があるっていってた。ぼくだけじゃなくて、母さんにもあるし、父さんにも、クロアにもあるよ」

「あ……」


 はっとして母さんは父さんを見た。

 父さんはすこし茫然としていたが、やがて静かに微笑む。


「そうか、そういうことか。あー、そうか、そうかー……」


 なにかに納得するように何度もうなずく。


「善神の加護ってことは、リセリーとのつながりからだな。本当にあれが転機だったか」


 なにかすっきりしている父さんを、母さんは暖かい目で見守っている。


「父さん、どうしたの?」

「ん? ああ、父さんは母さんに逢えてよかったなってあらためて思ったんだ」


 わからん。

 でも根掘り葉掘り尋ねるのは難しい雰囲気だ。


「しかし家族みんな善神の加護があるとか……、これはいつか家族みんなで聖都へ礼拝にいかないといけないな」

「せいと?」

「聖都ってのはな、善神を祀っている都市国家のことだ。シャーロットとも縁のあるところなんだぞ。……だったよな?」

「ええ、善神から祝福を授かったシャーロットは聖女として悪竜を改心させると、魔王討滅の旅にお供させたの。私たちの加護はきっとシャーロットからきてるのね」


 産まれていきなり善神の加護がついていたのはシャロ様のおかげだったのか。


「礼拝へ行くのは賛成だけれど、クロアが大きくなるまでは無理ね」

「あと五、六年くらいはな。あんまり遅くなると、セクロスが訓練校にいっちまうから、いやまあそこをでてから行ってもいいか」


 漠然とした旅行計画を父さんが言うと、母さんは首をかしげてうなった。


「そういえばこの子、そのまま冒険者にしていいのかしら」

「ん? どうして?」

「だって装衣の神から祝福を授かってるのよ? 王家専属の仕立屋だって泣いて悔しがるようなものを授かってるのに、弟の服だけ作ってそのまま冒険者になったらもったいないじゃない」

「そりゃそうだ。どうする?」


 父さんは尋ねるが、おれは仕立屋になる気はない。

 仕立屋で導名をえるとか、いったいどうやったらいいのか見当もつかない。自分で無駄にハードルをあげるつもりはないのだ。


「いろいろやる」

「色々か。まあおまえにはいろんな才能があるみたいだし、それがいいかもしれないな」


 いやいや父さん、才能はないんですよそれが。


「ほら、この子はシャーロットに憧れてるから、あんなふうに実績を残していくようになりたいのよ。うちは貴族としてはかなり特殊だから、次期当主とかそういうのは気にせず自由にさせましょう」


「……え?」


 なんか母さんが妙なことを言った。


「うちって、きぞくなの?」

「あら、言ってなかったかしら」


 初耳ですよママン。


「きぞく……、家しかないよ?」

「このあたり一帯の森が領地よ。領民はいないわね。そう言う意味では家だけね」


 なにその貴族。肝心要の税収がないじゃない。


「じゃあちょっと説明しましょう。家は男爵家。当主は母さんよ。父さんと結婚することにして冒険者をやめて、それで定住しようってことになったとき、この国の王様がこの領地と爵位をくれたの。正直いらなかったんだけど……、そこはつきあいがあったから断れなかったのよね。それに誰もいない領地で静かに暮らせるみたいだったし、面倒な貴族の関わり合いはいっさい無視していいって言われたから、それならまあいいかって母さんは貴族の仲間入りをしたのよ」


 もう一度言おう。

 なにその貴族。


「王様は、母さんに別の国に行って欲しくなかったのね。でも王都に住まわせるにはちょっと問題があったから、なら離れた場所でってこの森をくれたの。それは母さんたちにとってもいい話だったわ。領地についてはこのままね。開発するつもりもないし、そもそも開発しても領民いないし、集めるつもりもないの。お金は冒険者時代に稼いだからあなたの孫くらいまでなにもしなくてもいいわ。あなたはやりたいことをやりなさい」


 どんだけ稼いだのよ。

 しかしやりたいこと……、か。

 おれは名前を変えなければならない。

 でもそれはやりたいことではなくて、やらなければならないことだ。


「ぼくは名前をかえたいの。だから導名がほしい」


 まだ両親に言っていなかった。

 今この場なら、流れで言うことができる。

 おれがどれだけこの名前を忌み嫌っているかを。


「ぼく、いまの名前はすきじゃないんだ」


 とはいえバカ正直に話すわけにもいかないので、やんわりと伝えた。


「でもぼく、名前かえることができないみたいなの。この名前じゃないとじぶんだってわからないみたい。でも導名ならへいきなんじゃないかな」


 両親はちょっと驚いたように目を丸くした。

 まあそりゃそうだろう。


「そ、そうだったのか。しかしそれで導名ってのは大きくでたな。シャーロットに続くのか」

「本当にシャーロットに憧れてるのね」


 シャロ様に憧れているのは確かだが、導名についてはおれ自身の問題だ。

 まあそこは説明できないが。


「どんな導名をえるつもりなの?」


 なにげなく母さんがきいた。


「ヴィロック」


 おれは答えた。

 すると両親はしばらく唖然としたように言葉を失っていたが、やがて父さんが目頭をおさえてよろよろとこの場をはなれていった。


「……え? え?」


 どうしたのかと困惑していると、母さんが微笑みながらいう。


「父さんは嬉しかったのよ」


 そうか、それならいいんだが。

 あまりに突飛だったので、なにかまずかったかと心配になったよ。

 翌朝、おれはべろんべろんに酔っぱらって庭で眠りこけている父さんを発見した。


    △◆▽


 有名な冒険者が引退してのんびり暮らしているだけだと思っていたら貴族だった。

 貴族ねえ……。

 おれの貴族のイメージといえばテーブルに相向かいで談笑しながら、互いの足を蹴り合っているようなバカバカしく殺伐とした、どうあがこうと心温まらない世界に身をおく変態たちというものだ。

 まあ、ど辺境の我が家にわざわざ関わろうとする貴族なんていないだろう。

 と思っていたらほかの貴族から手紙が届いた。

 クェルアーク伯爵家。

 シャーロットと共に魔王討滅をはたした勇者――その末裔の家系らしい。

 前当主と両親はちょっとした知り合いで、その人がこっちに用事があるので立ちよるとのこと。そのとき孫娘をつれてくるので、用事がすむまでのひと月ほどこの家で魔導学を勉強させたいということだった。なんでも魔導の才能はあるようだが、どうにも魔法を使うことができないのでその原因を突き止めてもらいたいらしい。

 どうやらこれは貴族のつきあいというより、祖先に縁のある知人同士のつきあい。ダリスと同じようなものだ。

 ところで長男であるおれは当然次期当主なわけだが、となれば将来おれはセクロス男爵とか呼ばれるようになるのかね?

 マジ勘弁なんだが。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/18

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