第217話 12歳(夏)…大武闘祭・本戦・2日目
本戦一日目を勝ち抜いた選手たちに出来るだけ休息を与えるという考えのもと、二日目の試合は午後からとなる。
出場選手であるリビラとシャンセルはそれぞれ早めに王宮を出たが、おれたち――金銀と殿下二名は正午近くになってやっと闘技場へと到着した。
「お昼はカレーにしましょう」
祭りの最終日、ますます大混雑という外周広場に来たところでミーネが提案した。
いやおまえ同じもの食いすぎ、と窘めようとしたのだが――
「そうですね、ぼくもまた食べたいです」
「うむ、俺もカレーでかまわんぞ」
ユーニス殿下が嬉しそうに乗ってきてしまった……。
リクシー殿下もまんざらでもない表情だ。
「どうする、シアさんや」
「わりとばっちこいです」
「そうか……」
おれはベルガミアに来た翌日からずっと味見だのなんだのとけっこうな量のカレーを食べているせいでもう飽きているのだが……、こうなっては仕方ない。
おれたちはカレーカレーとうるさいカレーのお嬢さまの先導のもとカレー屋台に向かう。
広場に人が集まりまくっているから、というのもあるかもしれないが、カレー屋台は嬉しいことにますます賑わい、順番待ちまで出来ている状態だった。
そんな待っている方々を後目におれたちは特別席へと。
「昨日はずっと寝ちゃって夜を食べ損ねたから、いっぱい食べないと」
「おまえ朝食のときもそんなこと言っていっぱい食べてなかった?」
ミーネは『いつもの』をさらに盛ってくれと頼み、結果、ルーとトッピング盛り盛りのライスがそれぞれ別の器に盛られて出てくるという事態になった。
三人前はありそうなそれをミーネは果敢に征服にかかる。
「もごごご……」
「あの、あの、ミーネさん、周りに人いますから、めっちゃ人いますからもう少しお淑やかにしたほうが……!」
シアがなだめようとするがミーネは聞いちゃいない。
ミーネの食べっぷりに順番待ちしてる方々が目をぱちくりしていたが、当の本人はお構いなしだった。
△◆▽
食事を終えたおれたちは闘技場へと向う。
混雑はしているが、左右にいる金銀に手を繋がれて進んでいくユーニス王子の前は道が開ける。
これはユーニスが王子だから開けるのか、それとも本戦でその戦闘力を見せつけた金銀がいるからなのか、いまいち判断がつかない。
そんな三人の後ろをおれとリクシー王子は並んで歩いていた。
賑わしいなか、ちらほら誰が優勝するかと話しているのが聞こえてくる。
「竜皇国の武官もすごいが、やはり優勝はアズアーフ様だろうな」
「ああ、なんたって黒騎士の団長だ。バンダースナッチも追っ払ったこの国の英雄だからな」
話はおおむねそんな感じになる。
冷静な分析ではなく、そうなってほしい、そうであってほしい、という気持ちからの予想である。
「優勝すべき者が優勝する。これを卿はどう思う?」
ふと、リクシーが聞いていた。
国を挙げての武闘祭で、この国の英雄が優勝する。
それは予定調和でありプロパガンダ。
本当に強い者を決めるだけの祭りならば、周辺諸国にも募集をかけての開催となるだろう。ザナーサリーならばバートランやマグリフ爺さんとかは招待を受けるのではなかろうか。
しかしこの祭りはベルガミアの者が――、英雄が優勝することを望まれての祭り。
「茶番と思うか?」
「そう断じるのは見当違いでしょう。ですから……、儀式かと。スナークの暴争に怯えるこの国の人々のために、象徴となるこの国の強者をより際立たせるための」
「ふむ……」
リクシーは唸り、それからこめかみのあたりを掻きながら考え込んでしまった。
なにかマズかっただろうか……。
黙って歩いていると、優勝とはまた別に、リビラとシャンセルのどちらが勝ってアズアーフと戦うか、という予想についても聞こえてくる。
おおかたの考え――と言うより希望は、リビラが勝っての親子対決のようだが、しかし、王女が挑むという状況も捨てがたいらしく、あーだこーだと好き勝手に話している。
「卿はどちらが勝った方がいいと思う?」
再びリクシーに尋ねられた。
これはただの予想ではなく、内情を知る者としての話だろう。
「そうですね……、リビラが勝ち、アズアーフ殿に一矢報いるという状況になれば良いかな、と」
「ほう?」
「本戦に進出しただけでも黒騎士の候補としては認められるわけですが、それでも認められない理由をアズアーフ殿が話し、リビラが納得する――、そんなふうになれば……」
「……、そうだな」
それまでおれはのん気になりたいならなればいい、なんて考えていたのだが、シャンセルの話を聞いて考えを改めた。
そう、今は時期が悪いのだ。
さすがにまだ正式な団員というわけにはならないだろうが、二年後は? 三年後は?
黒騎士になるということは、いずれ起きてしまう戦いに赴くということで、それを応援するのは……、ちょっとおれには難しい。
「さらに言うなら、ただ一矢報いるのではなく、それより前――王女との戦いでどれだけの覚悟があるのかをはっきりさせる必要があるでしょう。そしてそれは――」
「妹の頑張りか」
うーむ、とリクシーが難しい表情をする。
「どうだろうなぁ。リビラに黙って行かれたあと、しばらく荒れていたからな……、それがぶり返すかもしれんのだが」
「荒れていたんですか」
「荒れていたんだ」
あのさっぱりした感じのシャンセルが荒れていたと言うのだから、それはそれは荒れていたのではなかろうか。
「「うーん……」」
結局、おれとリクシー王子はそろって唸ることになった。
△◆▽
試合場の観覧席へと到着してしばらく。
時刻が午後二時となったところで本戦二日目、準決勝が開始される。
前日と比べてずいぶんと遅いが、試合数は準決勝の二試合と、決勝戦の合計三試合なため、それほど時間は必要としない。
優勝者が決定したらそのまま武闘祭の閉会式となるようだ。
そしてまず最初の第一試合――
『あーあー、皆様お待たせいたしました! それでは本戦二日目、準決勝第一試合を開始します!』
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/05/31




