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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
217/820

第215話 12歳(夏)…猫と狼

 本日の試合はこれにて終了。

 明日の本戦二日目――準決勝と決勝は選手に休息をとらせるため午後から執り行われるとアナウンスがあった。

 準決勝に進むのは四名。


【準決勝】

 第1試合『シャンセル』対『リビラ』

 第2試合『アロヴ』対『アズアーフ』


 さて、シャンセルはリビラから本音を引き出すことが出来るだろうか?


「……くかー……」


 本戦二日目についてのアナウンスがされ、一日目が無事終了となる頃、ミーネは戦いの疲れ――おそらくアズアーフの威圧の余波を間近で受けたこともあって眠ってしまった。

 そこでおれはくてんと眠っているユーニス王子を、シアはミーネを背負って王宮に。

 ユーニスとミーネはそれぞれの部屋に寝かせ、おれは自分の部屋へと戻った。

 リクシー王子はどこかへと去り、リビラとシャンセルは明日の対決を意識してか、今日はおれの部屋へ来ることなく自室へと戻ったため、おれは部屋でシアと二人きりとなっていた。


「ご主人さまー、ちょっとミーネさんどうなってるんですかね。なんか一人でパワーインフレ始めてますよ。もうわたし練習相手とかご遠慮したいんですけど、わりと切実に」

「あのなんか一段階強くなるあれで対処してください」

「ますますミーネさんが本気になっちゃうじゃないですかー!」


 訴えてくるシアはけっこう必死だ。

 出会った四月頃はけっこうシアが優勢だったのに、四ヶ月程度でシアの泣きが入るくらいに迫るとは……、ミーネ、恐ろしい子。


「まあ落ち着け。ここはあれだ。バートランの爺さんに練習用の剣を使うように言ってもらうから、な?」

「いやミーネさんのお相手をわたしだけに押しつけないで、ご主人さまもちょっと相手してくださいよー」

「出来るか!? おれもうあいつに勝てるとこないんだぞ!? 例えあいつがおれの作った服を着てなくても普通に負けるぞこれ!」


 それまではあの服を着ていないなら、まあ雷撃喰らわせて止めることも出来ると思っていたのだ……、密かに!


「ってかあのお嬢さん、剣を使えないからって新しい魔術の使用法を考案とかどうなってんの? 手加減の方向性がどうして違う手段で攻撃なんて発想になるの? 普通は違う剣とか木剣を使うようにして、戦闘力を下げる方向で考えるもんじゃないの?」

「そのブレーキではなくてギア変えてアクセル踏む感じがミーネさんのミーネさんたる所以では……」


 シアは乱暴なことを言ったが、何故だろう、妙に納得できてしまうのは。


「あいつ……、このペースで強くなっていったらいずれ魔王とか倒すんじゃね……?」

「称号が勇者の卵ですしね」

「あー、そう言えばそうだったな……、もう今は勇者の雛くらいになってんじゃね?」


 森で遭遇した熊に怯えていた頃がちょっと懐かしい。

 おれがミーネにいいところを見せられたのはあの頃だけだったな。


「こうなると……、いずれパーティ抜けてくかもしれんな」

「……は?」


 ぽつりと言うと、シアはきょとんとした。


「いやほら、これからさらにパワーアップしたりたりしてさ、でもおれってそんな戦いにウェイト置いてないだろ? それでもっと戦えるパーティ行くーとか」

「ご主人さまー、それはないですよ。ないです。あと、一応ですが言っておきますと、ミーネさんにそんな感じの話はしないようにしてくださいね? まず機嫌を損ねますから」

「そうなの?」

「そうなのです。たぶんご主人さまはミーネさんの好きなようにしたらいいという感じで言っているんだと思いますが、そういう気遣いは余計ですね。いいんですよ、もっとぞんざいで。普段はおやつをあげて大人しくさせておいて、いざとなったら『行けー、敵を倒せー』って突撃させればいいんです」


 法衣を仕立てるのに必死こいていた一ヶ月ほど、シアはミーネと一緒に居る時間が長かったからな、なにか理解したところもあるのだろう。

 でもな、いいのか、突撃って……。

 あれ一応、お預かりしてる名家のお嬢さんなんだが……。


    △◆▽


 シアと話をしていたところ、ユーニス王子がおんぶして運んでもらったことのお礼にやって来た。

 ユーニスはいつも通りおれの部屋に皆が集まっていると思っていたようだが、おれとシアしか居ないことがわかると少し表情を暗くする。


「姉さまたちは仲直りできるでしょうか……」

「仲直りしなければならないほど、仲違いしているわけではないと思いますが……」


 リビラとシャンセルにちょっとわだかまりがあることをユーニスも気づいているようで、ちょうど二人が居ないのを幸いとおれに尋ねてきた。


「ここに集まっていないのも、まあ明日の対決がありますし、気を引き締めるためと申しますか……」


 しょぼーんとするユーニスに言って聞かせるが、ただ試合して競い合うだけならシアやミーネのようにあっけらかんとしているはずなのだ、自分で言っておいて白々しく感じる。

 リビラは父親と戦うのが目的で、シャンセルはそれを知って立ちはだかる。リビラにとっては「邪魔すんな!」と言う話だ。さすがにいよいよ明日となると、もやっとするものがあって顔を合わせてはいられないかもしれない。


「ご主人さまー、どうですかねえ、ここで喧嘩別れー、なんてことにはならないといいんですが」

「ふぇぇ……」


 シアが余計なことを言ったせいでユーニスがか細い声をあげる。


「いやいや、そんなことにはなりませんよ」

「あだだだ……ッ」


 シアの頬をつねりながらそう微笑んで見せるものの、確かに少し心配である。

 おれはユーニスを安心させながら、ちょっと猫と狼に話を聞きに行くことに決めた。


    △◆▽


「なあリビラ、黒騎士になるのを認められたらさ、やっぱりメイドはやめちゃうんだよな?」


 リビラの部屋へ向かい、それとなく話題を振る。

 メイド学校の発案者であるおれなので、()()()()を確認しに来るのは不自然なことではない。


「ニャー……。ニャーさま、ごめんニャ。そうなるニャ」

「やっぱりか。でもまあ仕方ないさ。ずっとリビラは目標にしてきたんだろ?」

「ニャ。目標だったニャ。もっと言えば団長になることニャ」


 団長にまでか、リビラの理想は高い。


「そう、か……」

「どうしたニャ?」

「ああ、ちょっと……、勝手な心配だ。そこを目標としてきたわけだろ? それは困難な道と思うんだけど、もしそうなった場合――そこに辿り着いたときのこととか、考えてる?」


 リビラが黒騎士の団長としてやっていくための、目標――モチベーションのようなものはあるのだろうか?

 それを心配しての問いかけだったのだが――、リビラは微笑んだ。

 読み取るのが難しい複雑な微笑みだった。

 そこを尋ねてきたおれに感心するような、何かを思って自重するような、納得するような、覚悟を決めたような。

 少なくともリビラを突き動かすものは、団長になったとしても潰えるものではないようだ。


「考えてるみたいだな。それは親父さんに話したりした?」

「話したくねーニャ」

「そ、そっか。じゃあシャンセルには話してやったり?」

「よけい話したくねーニャ」

「おおぅ」


 頑固な猫だった。


    △◆▽


 リビラと少し話をしたあと、シャンセルのお部屋にお邪魔した。


「で、明日いよいよ対決だけど、どうするんだ?」

「どうするって……、全力で戦うだけだけど?」

「なんか聞きだすとかそういう話なかったっけ!?」


 なんで普通に試合に臨む選手のコメントみたいなことになってんだ。


「ああ、それか。それなら大丈夫だよ、戦ってたら文句言ってくるだろうから。それでなんかうっかりしたことを喋って動揺して動きが悪くなったら儲け物だな」

「儲け物?」

「おう。あたしが勝って、次に伯父貴と決勝戦だ」


 まだアロヴが負けると決まったわけではないと思うが……、いやまあそれは置いておいて、だ。


「思いっきり勝つつもりなのか? おれはてっきり話だけ聞いて、それで決勝に進ませてやるのかと思ってたが」

「いやー、それでもしまかりまちがって黒騎士になっちまったらちょっと問題だからさ」

「あれ?! シャンセルってリビラが黒騎士になるの反対だったっけ!?」

「いやダンナ、そりゃあいつがそれを望んでるなら応援してやりたいとは思うけどさ……、時期が、さ」


 シャンセルが苦笑するのを見て、おれはそこで初めてこの時期に黒騎士になることの意味を理解した。

 そうだ、もし黒騎士になったら、リビラは戦わなければならなくなるのだ。もちろんいきなり実戦とはならないだろうが、それでも状況によってはその時は来る。

 これは、おれが完全に平和ボケだった。


「魔王の気配のない時代だったら、そりゃ純粋に応援したさ。でも今は時期が悪いんだよ。姉に戦場へ行ってもらいたい妹なんていないだろ?」

「場合によっちゃいると思うが」

「いやダンナ、そこは大人しく賛同してくれるところだろ……」


 渋い顔で言われた。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日

※脱字と文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/24

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/06


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