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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
211/820

第209話 12歳(夏)…1回戦―第5試合・第6試合

『一回戦、第五試合! ザッファーナ皇国武官アロヴ・マーカスター対メルナルディア王国武官、ヴァイシェス・セファール!』


 お次の対戦は武官同志の対決だ。

 両者共に成人男性――、それはわかっているのだが、絵面的にはごついガントレットを装備した女の子が、長細い棍棒を持った大男に挑むようにしか見えなかったりする。


「むむっ、あれはおそらく、〝ひのきのぼう〟……!」


 シアがなんか言っていたがとりあえず無視した。


「〝火の木の棒〟?」


 ミーネはシアの発言に困惑していたが、おれはその話題に関わるつもりはなかったのでやっぱり無視した。


「兄さま、メルナルディアの方はずいぶん大きなガントレットをつけているんですね」

「そうだな。あれはただ腕を保護する防具というだけでなく、攻撃のための魔道具でもあるようだぞ」


 一方、殿下たちはヴァイシェスのガントレットに注目している。

 なにしろ本当にごつい代物だ。

 覆っているのは手から肘まで、さらにその背面にはスチームパンク的なパイプが張り付き、一本に束ねられて肘へと導かれている。

 そんなバイクのマフラーっぽいパイプを眺め、なんとなくどういう使い方をする魔道具なのか予想がついた。

 ってか……


「なあシアさんや、あのガントレットってトンデモ武器じゃないか?」


 おそらく排気口のような部分から衝撃かなにか――流石にジェットが吹きだすようなことはないと思うが、そんな感じで拳撃の威力を上げるのだとおれは予想する。

 しかしシア――


「いや、普通では?」

「普通!?」


 あれを普通とのたまうか。


「いや、だっておまえ、あれだろ、きっとあれ肘からドーンだろ?」

「ええまあ、そうでしょうね。いい線いってるんですけど……、一歩足りないんですよね。あれではわりと普通……」

「なんだその一歩って」

「はあ? そんなのパイルバンカーに決まってるじゃないですか。あの機構ならきっと出来るでしょうに。もっと言えばダンって殴って、ドゴンっと突き刺して、そんでもってバゴーンっと炸裂する――」

「わかった! もういい、もういいから……!」


 おれは慌ててシアを黙らせ、はっとミーネを見る。

 何の話なのん、と目が言っていた。

 まずい……!

 ミーネに説明してやるのはまあいいとしても、それがいつの間にやら広まり、バロットに興味を持たれるなんて事態になったらすごく面倒になる。

 おれは瞬間的――ケモっ子たちに気づかれないほど素早く妖精鞄からドーナッツを取りだしてミーネの顔の前にかざす。


「――ッ! はむっ。……はむはむ」


 よし、食いついた。

 これでもう大丈夫だ……。

 うっかりシアに話を振ったばかりに、危うい状況になりかけた。

 今後は気をつけることにしよう。


『それでは一回戦第五試合――開始!』


 おれが反省しているうちに試合開始が宣言された。


「はぁぁぁ――――ッ!」


 直後、ヴァイシェスが雄叫びをあげ、その体に淡い光が灯る。

 先ほど見たリビラの光とはまた違う、揺らめく火のような光だ。


「ねえねえシアシア、あれってあなたのあれみたいよね?」

「ええ、わたしもそう思いましたが違うみたいです。実は予選のときにちょっと縁がありまして、話を聞けたんですよ」


 と、シアがヴァイシェスの状態について説明する。

 それは消費した魔力を補うための魔技で、シアのあれとは似ているようでちょっと違うものだった。

 そんな魔功とやらを使用するヴァイシェスは勢いよく飛び出し、果敢にアロヴを攻め始めた。

 ヴァイシェスはアロヴの棍棒を躱しつつ、確実に攻撃を当てていくのだが……、いまいち効果がない。

 いくら小柄なヴァイシェスの拳と言えど、ガントレットつけてガンガンこられたら痛いではすまないはずなのに……、スーパーアーマーでもついてんのか、あの竜は。

 ……、いや、そうか、スーパーアーマーではなくて耐性だ。

 おれがふと思いついたことに考えを廻らす間にも、ヴァイシェスは攻撃を放ち、アロヴはお構いなしで棍棒を振りまくる。


『空振り! 空振り! 空振り! アロヴ選手、さっぱり攻撃が当たらない! 大丈夫かーッ!?』


 もう実況にもちょっと心配される始末。

 だがそこで――


「うむ! これは必要ないようだな!」


 ぺいっ、と棍棒を投げ捨てた。


「では行くぞ! ここからが本番だ!」


 と、アロヴは両腕を変化させた。

 前腕が赤い鱗に覆われ、そして始まるアロヴの攻撃。


「ドラゴン・パンチ!」


 捻りも何もない名前。

 だが威力は強力。

 両腕を交差するように防いだヴァイシェスだが、勢いを受けとめきれずに後方へと吹っ飛んだ。

 そんなヴァイシェス目掛け、アロヴは助走をつけて跳躍。


「ドラゴン・キック!」


 やはり何の捻りもない名前。

 しかし足元を吹っ飛ばしての跳躍は、冗談みたいに真っ直ぐな滞空を可能にした。

 駆け寄ってその脚力で普通に蹴った方が強いような気もしたが、あれがああいう魔技であるならその限りではないので深くは考えないでおく。

 体勢を立て直そうとするヴァイシェスに蹴りの体勢のまま飛んでくるアロヴ。

 だが、さすがにそれはヴァイシェスを舐めすぎだった。

 ヴァイシェスは突き出されているアロヴの右足を掴み取り、ビターンと地面に叩きつけた。


『おっと凄い音がした! これはさすがのアロヴ選手も少しは――』

「ふははははッ!」


 と、実況が喋っている途中でアロヴは笑いながら跳びあがるように復帰する。


「面白くなってきた!」

「ちょ!? 少しはきつそうにしてくださいよ!」


 あれでダメージ無いというのは、ヴァイシェスにしてみればたまらないようで文句めいたことを言う。

 そこからは本格的な格闘戦。

 棍棒は手加減用だったのだろう、無手となったアロヴの動きは明らかに良い。もう生き生きと大はしゃぎだ。

 アロヴの攻撃は隙の大きい大振りだが、空振った拳や蹴りが土埃を巻きあげるような威力を秘めている。

 ヴァイシェスはそれらをかいくぐり、小さく、鋭く、アロヴに当てることを優先した攻撃を続けた。

 ダメージを蓄積させてゆく狙いなのだろう。

 だがそんなものどこ吹く風と、アロヴはお構いなしで反撃してくる。


「ああもうッ! ここまで通じないとかッ! 悔しいですが仕方ありませんッ!」


 そこでヴァイシェスの攻撃が変わる。

 ガントレットの肘、排気口のような筒の先から、ドンッ、と低い音を立てて発せられる衝撃波。

 その勢いを受け、加速した拳がアロヴを腹を捉える。


「ぐおっ!?」


 発射されたような鋼の拳を喰らったようなものだ、これにはさすがのアロヴも体を折り、数歩よろめく。


「まだまだ行きますよッ!」


 ドンッ、ドンッ、と音を響かせながら、繰り出されるヴァイシェスの拳が叩き込まれ、そのたびにアロヴはのけぞり、ふらつく。

 だが――


「これはさすがにきついな!」


 ガッ、とアロヴが腕でヴァイシェスの拳を防ぎ、そのまま捕まえてヴァイシェスを無造作に放り投げた。

 そしてそこからの――


「ドラゴン・キック!」


 上空のヴァイシェスめがけてすっ飛ぶアロヴ。

 不安定な体勢にあるヴァイシェスは無防備――、かに思われた。

 だがそこでもヴァイシェスはガントレットを駆使。

 ガントレットの衝撃によって空中での位置をずらしてアロヴの蹴りを躱す。

 と同時に両腕を組むようにして左右同時に衝撃を放つ。

 双方向への衝撃は相殺によりヴァイシェスを吹き飛ばすことはなかったが、一方だけを喰らったアロヴは見事に撃ち落とされて地面に叩きつけられた。

 だが、だがしかし――


「凄いなそれ! 面白い! 俺もちょっと欲しいぞ!」

「どんだけ頑丈なんですッ!?」


 アロヴは元気。まだまだ元気。


「わたし、ヴァイシェスさんが気の毒になってきました……」


 ちょっと縁があったからか、シアはヴァイシェスに同情していた。


「わたしもあれほしい……」


 ミーネの方はアロヴに同調していた。

 それからもヴァイシェスは猛攻を続けたのだが、アロヴを倒しきることは出来ず、逆にガントレット――魔道具の方が限界を迎えてしまった。

 電池(魔石)切れである。

 たぶんヴァイシェスにとってアロヴは相手が悪かったのだ。

 程度はあるだろうが、きっとアロヴは常時身体強化状態――物理的な攻撃への耐性でもあるのだろう。

 あのガントレットは良い物だとは思うが、結局はただ物理攻撃を強化する代物であり、魔力のこもった攻撃をぶつけるものではない――、つまりその意志で空を飛ぶような種族を屠れるものではなかったのだ。

 まあ『物理で殴る』に特化――対スナーク戦のために作られた物なのだろうからそこは仕方ない。

 あと気になるのは、どうしてヴァイシェスが攻撃のための魔技を使わなかったか、なのだが……、予想としてはあの魔道具が魔技を使うことを想定されていない、または魔技の使用に耐えられるほど完成された物ではない、といったところではないだろうか。

 敗退したヴァイシェスだったが、懸命に戦うその姿に観客は心を打たれたようで温かい声援が送られた。

 対しアロヴ、もう女の子を苛めているようにしか見えなかったため観客からはブーイングが送られた。


「あれぇ!? なんでぇ!?」


 アロヴは困惑しておろおろするハメになっていた。

 こちらもある意味、相手が悪かったようだ。


    △◆▽


 好感度を下げながらもアロヴは第五試合の勝者となった。

 次は聖都の騎士と冒険者のイメスによる第六試合があり、その次にうちの金銀がぶつかりあう第七試合となる。


『一回戦、第六試合! セントラフロ聖教国武官セトス・ルーラー対、奔放のイメス!』


 実況者の紹介があり、セトスとイメスが試合場へと姿を現す。

 セトスは動きを阻害しない程度でしっかりとした防具を身につけ、剣と盾を持った、いかにも騎士、という騎士姿。

 対するイメスは二十歳過ぎほどの兎族の女性である。

 機動性を重視しているのか、防具は大きな胸を包みこむように成形された胸当くらいのものだ。

 ってかそれ以外がちょっとあれである。

 上半身は身につけているのがその防具くらいで、肩やら背中は露出しており、では下半身はと言うと、やたらぴっちりした革のレギンスという、セクシー具合を強調するような……、ちょっと闘技場には場違いな装いなのである。

 しかし――


『うおおぉぉ――――ッ!!』


 観客たち――主に男性陣――の受けは良い。


「……ちっ」


 そしてシアの受けは悪い。


「ご主人さま、ああいうのどう思います?」

「どう思うって……、べつにどうもだが?」


 率直に答えると、シアはちょっと眉を寄せて考え込み、それから尋ねてくる。


「ご主人さまって、どういう格好がぐっと来たりします?」

「なにを言ってるんだおまえは?」

「いやまあ……、後学のためにちょっと聞いてみたかっただけですからそう難しく考えなくてもいいですよ」

「またよくわからんことを……、ぐっとくる……、裸マント?」

「なんか裸エプロンより難易度高いのが!?」


 答えたらシアは愕然とした表情で固まった。


「ニャーさま……、シアはニャーさまに今度仕立て――」

「リビラさん今はちょっと状況が悪いので黙りましょうか!」

「ニャー」

「俺はコルセット姿がぐっとくるな!」

「ニャーッ!?」


 聞いちゃいないのにリクシー王子が乗ってきた。


「はいはいはい、そこまでな。ユーニスがいるんだぞ」


 と、そこでシャンセルによりこの話題は強制中断された。

 そして発端となったイメス選手だが、一見色物でありながらも実力は確かなものだった。

 素早い動きからの剣技と魔法を駆使する――要は魔法剣士である。

 魔法剣士は剣と魔法がそれぞれある程度のレベルにあるとかなりの強敵になる。

 イメスはまずは即発魔法を連発して先制攻撃。

 対するセトスはその魔法を盾――防御の魔技にて粉砕。

 イメスは剣技による勝負には移行させないよう、セトスから距離をとりつつ魔法での攻撃を続ける。

 しかしセトスはその魔法をことごとく打ち破る。


「んー、なんか……、地味?」


 ぽつり、とミーネが呟く。

 イメスは魔法攻撃を続け、セトスがそれを防ぎ続ける。

 イメスは素早く逃げ、セトスはじりじりと迫る。

 しばらくそんな膠着状態が続いたが、魔法では埒があかないとイメスが接近戦に切り替えてセトスに迫った。

 セトスはイメスの剣を堅実に盾で防ぎ、そのまま押しだして牽制するなど巧みに盾を使っていく。

 それは見事なものなのだが……、


「んー、ますます……、地味?」


 これまでの試合がわりと豪快だったり激しかったせいで、この戦いがよけい地味に見えてしまう。

 結局、第六試合はセトスの防御を崩そうと懸命に攻撃し続けたイメスがへばってしまい、そこを畳み込まれての決着となった。


『勝者! セトス選手!』


 見た目は地味だったが、勝者の宣言からの歓声は大きかった。

 いや、試合中もセクシーなお姉さんが動き回る様子に、男性陣からはいちいち歓声が上がっていた。

 イメス選手は観客に愛想を振りまきながら退場し、観客はさらに声を張りあげるため、もうなんだかどっちが勝ったのかよくわからなくなるような試合となった。


「よし、それじゃ私たちは試合場へ行くから! シア! 今日こそは私が勝つんだからね!」

「うぇーぃ、どうぞお手柔らかにー……、いや本当にー」


 気合いが入りまくりのミーネと共に、やや腰のひけた感じのシアは試合場へと向かう。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/24

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/17


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