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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
209/820

第207話 12歳(夏)…1回戦―第3試合

「ニャーは次の試合なのでもう行くニャー」


 そう言い残し、第四試合に出場するリビラは試合場へと向かった。


『ではこれより一回戦、第三試合を行います!』


 現在、試合場では第三試合の選手――ヴァイロ共和国の派遣武官エーゲイト、そして狐族の冒険者ダグマーが位置について睨み合い、開始の合図を待っている。

 両者共に得物は剣なのだが――


「むー。普通に剣なんですねー。ドワーフなので、てっきり大っきな斧とかハンマーを武器にするかと思ってましたが……」

「偏見だろ……、わからんでもないが」


 シアはドワーフであるエーゲイトが剣であることにちょっと不満を抱いているご様子だった。


「ってか皆さん無難に剣ですよねー。もっととんでもない武器が見られるかもしれないと期待していたんですが」


 シャンセルが持ち帰った冊子には参加者、そして使用武器の簡単な説明が載っているのだが、武器は剣を使う者が一番多く、あとは槍、棍棒、格闘、鎌が一人ずつという内訳になっていた。


「命を預けるもんだからな、そりゃ扱いやすい武器にするだろ」


 現実的な話、伊達や酔狂でわざわざ扱いにくく手入れや修理にも手間のかかる特殊武器なんて選ぶ奴はいないのである。


「そこをあえて、というロマンが……」


 シアがしつこい。

 ならおまえが――、と言おうとしたのだが、ふと気づく。


「そう言やおまえってトンデモ武器だもんな」

「ちょ!? なに言いだすんですか! 鎌なんて超普通ですよ! まったく、うちの子たちをトンデモ扱いしないでください!」


 シアはむっとしたようだが、鎌なんて誰もがトンデモ武器と判断すると思うんだがなぁ。


「ふむふむ……、あのドワーフの人の剣って魔剣なのね」


 そして一方のミーネ、なにやら熱心に冊子を読みこんでいる。

 なにをそんなに、と思ったら魔剣の解説だった。

 魔剣とひとくくりにするものの、一応種類というものがある。

 一般的に知られている魔剣は四種類。

 まず第一にダンジョン産の魔剣。

 ダンジョンなどの魔素溜まりで発見される物。

 これはダンジョンから生みだされた物、侵入者に持ちこまれた物が魔剣化した物、と、さらに二種類に分けられる。

 変わった効果を持っている場合があり、メリットと共にデメリットを持つことが多いようだ。

 第二に使い手の魔力が影響し、時間をかけて魔剣化した物。

 持ち主のステータスアップの効果を持っていることが多い。

 持ち主、もしくはその子孫しか力を発揮しないことがデメリットと言えばデメリットである。

 故に家宝魔剣と呼ばれる。

 ミーネの剣だな。

 そして第三、儀式によって特殊な効果を付与させた物。

 付与魔剣と呼ばれるこの魔剣は誰にでも使用でき、有用な効果が付与されるので、そう言った意味ではメリットしかない。

 いや、超お高いというのがデメリットになるのだろうか?

 最後は製造の段階から魔剣となるよう作られた物。

 錬成魔剣――今戦っているエーゲイトが使う魔剣だ。

 対スナーク用にと、ここ三百年でヴァイロ共和国が生みだした新しい技術によるもので、主に使用者を強化する効果があるらしい。


『エーゲイト選手の猛攻にダグマー選手は防戦一方です!』


 試合開始直後、ずんぐりむっくりなエーゲイトが砲弾みたいに飛びだし、勢いまかせに攻撃を繰り出し始めた。


「どおぉりゃぁぁ――ッ! おぉりゃぁぁ――――ッ!」


 雄叫びを上げながらの滅多打ち。

 それは相手を倒すと言うより、破壊すべきものをたたき壊そうとするような過剰な猛攻だった。相手がどのような攻撃をするか、反応を示すかなどいっさい考慮せず、ひたすら暴力を叩きつける。

 まずは先制の攻撃を、そしてそのまま攻撃を。

 攻撃、攻撃、そして打ち倒すべきもの――スナークを打ち倒す。

 おそらくあれは、そういう戦い方だ。

 そしてその猛攻撃を支えるのが魔剣なのだろうか。

 ドワーフは頑丈とは聞くが、あの勢いの攻撃――受けたダグマーがよろめくような威力の連撃を休み無く叩き込み続けるというのはちょっと異様だ。

 そんなエーゲイトに対し、ダグマーは回避、剣での防御と猛攻をしのいでいる。

 だが、なにしろエーゲイトが止まらない、反撃の機会を見つけられず防戦一方になっていた。

 それでもダグマーは食い下がろうとしたが――、無念、結局そのまま押し切られてしまい、第三試合の勝者はエーゲイトとなった。


「すごい強引な試合だったわね」


 ぽかんとしてミーネが言う。

 確かにそう、前の試合が魔技を駆使したものだっただけに、この試合は乱暴な力まかせの勝負という印象が強く残った。

 魔剣のアドバンテージだけで決着をつけたような、そんな感じを。


『勝者! エーゲイト選手!』


 宣言があり、勝者であるエーゲイトが剣を掲げて歓声に応える。


「……?」


 なんだろう……、あの魔剣を見ているとちょっと不愉快な気分になるのは?

 ちょっと〈炯眼〉で調べてみる。



〈合金剣―B37〉


 【効果】地の恩寵(エリーデ)(小)


    《エリーデの慈愛》

     剛力(ディアム)(小)

     強靱(サフィール)(小)

     活性(ガルネ)(小)

     治癒(リズラス)(小)

     勇猛(ジスト)(小)



 なんか凄い、というのはわかったが……、やっぱり嫌な感じがする。

 帰国したとき覚えていたらクォルズのオッサンに聞いてみるか。


    △◆▽


『一回戦、第四試合! まずはエクステラ森林連邦派遣武官アウレベリト・ラスター・フォンス・ロウ! 対するは英雄の娘、リビラ・レーデント!』


 司会者が紹介に観客から歓声があがる。

 特にリビラの名が告げられた瞬間、歓声の音量が一段上がっての大歓声となった。


「なんかあたしのときより歓声がでかいような気がするんだけど、どゆこと?」

「ふむ、お前は式典などで見かけることもあるからな。リビラがこうして人前に姿を現すのは初めてだ。誰もが知る英雄には一人娘がいる、という噂だけだったリビラがこうして姿を現し、さらに戦う姿が見られるとなれば反応も良くなると言うもの」

「いや真面目に説明されても困るんだけど」


 要は単純にリビラの方が観客に人気で気に入らないというだけのことらしい。


「あのエルフの人って色々できるみたいね」


 冊子を読み読み、ミーネが言う。

 実に漠然とした解説である。


「色々ってなんじゃい」

「えっとね、魔法と弓と剣を使うみたい。でもこの試合で弓は使わないみたいね、持ってないし」


 一対一で戦う状況で剣と弓を使い分けるのは至難、そこで剣と魔法に絞ったということだろう。

 そんなアウレベリトに対し、リビラはごついナイフ一本だ。

 ――って、獣剣とかいうの持ってないじゃん。


「なあシャンセル、リビラってあの剣持ってないけど……、どっかよそにあるとか?」

「いや、あれはあいつが家出したときから、ずっと王宮のあいつの部屋に残ったままだぜ」

「うん? なんで持ってきてないんだ?」

「使わずに勝つつもりなんじゃね?」

「勝つつもりって……、相手は派遣されてきた武官なんだが……」

「なんとかするんじゃね?」


 シャンセルはあっけらかんとしたもの。

 リビラが負ける心配はまったくしていないような感じだ。


「あのー……、侮るわけではないんですが、リビラさんってそんなに強いんですか? ザナーサリーのメイド学校で戦闘訓練をしているときはそれほどではないんですが……」


 シアが不思議そうに尋ねると、シャンセルは首を捻る。


「あいつどんなふうに戦ってんの?」

「素早く動きながらナイフで攻撃してきます」


 そう、部屋で仕事をする合間、メイドの戦闘訓練を眺めることがあるのだが、リビラの戦い方はすばしっこさを生かしながらナイフで攻撃をくわえていくというもの。

 言い方は悪いが劣化シアな戦い方だ。


「普通に素早く動いて、普通に攻撃してくんの?」

「え? ええ、そうですね、普通に」


 シャンセルはちょっと考え込み、たぶん……、と前置きして言う。


「普通に戦う練習じゃねえかな。こっちに居た頃は完全にバンダースナッチとかそういう強い個体と戦うためだけの戦い方だったからさ。そりゃ伯父貴みたいに強い個体と戦う奴も必要だけど、まず求められるのは戦い続けられることだからさ、そういった戦い方を身につけようとしてたんじゃないかな」

「ではわたしは本気のリビラさんをまだ知らないわけですか」

「んー、本気って言うか……、なんだろうな、あれ」


 と、シャンセルはちょっと困ったような表情になる。


「やってることは普通なんだけどな、武器が武器なだけに無茶なんだよ。要は無理のしすぎ。手とかバキバキにぶっ壊れてたからなぁ」


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/05


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