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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
207/820

第205話 12歳(夏)…1回戦―第1試合

『それではこれより一回戦、第一試合を行います!』


 アナウンスがあり、歓声を受けながら選手二名――シャンセルと熊男アスレッジが試合場へと登場する。

 広々とした試合場――、最初の立ち位置は決まっているようで、両者はそれぞれ地面に描かれた輪のなかに入った。


『王女様ーッ!』

『シャンセル王女ーッ!』

「どもー! どもどもー!」


 シャンセルは声援を受けてあっちこっちに手を振っている。

 なかなか余裕のある様子、緊張はしてないようだ。

 一方の対戦相手――アスレッジは右手をゆっくりと首の後ろにまわし背負った両手剣の柄に、そして左手を背中に回して大剣を固定していたバンドを外す。

 かなりの重量と思われる大剣――、アスレッジは右手一本で天を指すように掲げると、ブンッ、と振りおろし、正面でピタリと制止させて見せた。


「王女殿下はなかなかやると聞いております! その噂が本当かどうか、試させてもらうとしましょうか!」


 アスレッジが大きな声で言い放つ。

 王女と言えど手加減するような真似はしないと言うことか。


「いんや、その噂は間違いだな!」


 シャンセルは声援に応えるのをやめると、アスレッジに向きなおって言い放つ。


「なかなかじゃねえ、かなりだ!」


 その言葉に観客がわっと沸く。

 大剣を構えたごつい大男(熊耳は可愛い)を前に宣言するとなればよほどのこと――、観客たちは王女の戦いに大いに期待する。

 そして期待を一身に受けるシャンセルはそっと左手を刀の柄に添え、やや寝かせた角度で留めた。


「うーん?」


 そんなおり、視線を試合場の二人に向けていたミーネが刀に起きていた変化に気づき、しかめっ面で目を凝らし始める。


「ねえねえ、シャンセルの剣のまわりになんか霧がでてない?」

「いや、ミーネさん、あれ霧じゃなくて……、冷気かと。ほら、下におりていっているでしょう?」

「……? 冷気だとどうして下に行くの?」

「え」


 シアが言葉に詰まる。

 やばっ、理解してもらえるまで説明するのは超面倒――、というシアの心の叫びが聞こえたような気がした。


「そ、そういうものなんですよ。温かい空気は上へ、冷たい空気は下へいくものなんです」

「でも山の上とか涼しいわよ?」

「うご」


 はい、シアは墓穴を掘りました。


「あいつ……、なんで冷やしてんのニャ……?」


 金銀に巻きこまれると面倒なので、おれは不思議そうにしているリビラと会話することにした。


「あー、あれな。試合が始まればすぐにわかるよ」

「ニャ?」


 きょとんとするリビラに苦笑して見せる。

 シャンセルがどうしてアイス・クリエイトの魔法で刀に冷気を集めているのかは、本当にすぐにわかる。


『それでは試合開始!』


 掛け声がかかり、いよいよ試合が始まった。


「うおおおぉ――ッ!」


 直後、アスレッジが吼えた。

 担ぐように剣を構え、猛然と突撃、あっという間に距離を詰める。

 あの体躯でその速さ。

 いくら身体能力の優れた獣人だからと、いくらなんでもあの剣を担いでの疾走があれほど速いのは不自然だ。

 おそらくは身体強化の魔技――。

 この身体強化なのだが、一時的に潜在能力――火事場のくそ力を引き出すといったものではない。

 身体、とは言うが、実のところ身体能力の向上というだけでは説明の出来ない効果をも発揮する。

 例えばそれは、竜と化したアロヴの一撃をその場に留まったまま受けとめる、など、物理的におかしい現象を可能にすることだ。

 これは身体強化が単純に身体能力を向上させているのではなく、自己の拡張――世界に自分の意思を通す干渉能力を向上させているからである。

 そんな強化状態のアスレッジが放つ、突撃の勢いすらも乗せての大剣となれば相当の威力なのは間違いない。

 剛剣という二つ名に違わぬ破壊力なのだろう。

 しかし――、アスレッジは相手が悪かった。


王女令ッ(プリンセス・オーダー)!」


 迫るアスレッジを見据えていたシャンセルが叫ぶ。

 右足、一歩踏みだしながら右手を刀の柄に。

 そして――


「跪けぇぇ――――ッ!」


 抜刀。

 果たしてそれが正しい抜刀法なのかは不明だが、シャンセルは瞬間的に刀を抜き放ち、弧を描かせながら振りおろす。

 刀身に宿るはアイス・クリエイトにより溜め込まれた魔法の冷気。

 冷気は刀が抜き放たれると同時、実体のない巨大な白い刃となり、突撃してきたアスレッジに叩きつけられた。


『――――ッ!?』


 王女の、予想もしない攻撃に観客たちは唖然。

 途端に静まる闘技場――。

 やがて白い氷霧が晴れたとき、現れたのは大剣にすがりつきながら跪くように片膝をついているアスレッジの姿だった。

 冷気を叩きつけられたアスレッジの体は白い霜に覆われ、その周囲にはキラキラと煌めくものがある。

 瞬間的に冷却されて凍りついた空気中の水分が細氷となり、光を反射しながら舞っているのだ。

 ダイヤモンドダスト――、そう呼ばれる自然現象。

 つまりそれは、シャンセルのあの技が少なくともその現象を引き起こすくらい――マイナス10℃以下の冷気を放てるということなのだが、しかし、単純にマイナス10℃だろうと、それ以下だろうと、冷気を一瞬浴びせられただけで体の運動機能が阻害されるようなことはない。その辺りはやはり魔法――シャンセルの意志が乗った魔力の冷気、ということではないだろうか。

 アスレッジは体勢を立て直そうとしているようだが、体が言うことを聞かないようで立ちあがることすらままならないでいる。

 寒かろう、気持ちはよくわかる。

 なんせ最初の犠牲者はおれだ。


『…………?』


 一瞬の出来事だったため、未だに観客はぽかんとしたままだ。

 そんななか――


「おーい、審判のダンナ、まだやるか確認してくれよ」


 シャンセルは審判員をそう促しつつも、もうアスレッジが戦えないことはわかっているのだろう、ゆっくりと納刀している。

 審判員が慌ててアスレッジに駆けより確認をとる。


『勝者! シャンセル王女!』


 あまりに一方的な結果になり、茫然としていた観客も審判員の声に我を取りもどし、歓声を上げ始める。

 シャンセルは得意げな笑顔を浮かべ、両手をばたばたさせて声援に応えながら試合場を後にしていった。


    △◆▽


「姉さまが勝ちましたよ! 勝ちました!」

「うむ、見事。さすがは我が妹だな!」


 兄と弟は仲良くシャンセルの勝利を喜んだ。


「すごいすごい! なにあれ!?」

「魔法でしょうか? でも魔法よりも魔技のようですよね?」


 ミーネは興奮して言う。

 もう冷気の問題などどうでもよくなってしまったようだ。

 おかげでシアはちょっとほっとしたような表情である。


「正確なところは本人もよくわかってないみたいだぞ?」


 これまで、シャンセルはアイス・クリエイトという魔法をどうにか活用できないかと密かに試行錯誤をしていたらしい。

 なかでも、時間をかけて冷気を溜めること、これに可能性を感じてはいたが、ではどう使うか――、これに悩んでいたようだ。

 そんななか、おれのふわっとしたレッスンを受けたシャンセルは冷気を鞘に溜め、抜刀でもって解放する、という一連の流れ――儀式のイメージを構築し、それを実現させた。

 その成果があれである。

 斬撃を飛ばすといった放出系の魔技――パワー・ウェイブと総称されるのだが、もしかしたらシャンセルはそっちの才能があるのではないだろうか?

 放出系は斬撃の威力を強化する強打系――パワー・スラッシュよりも習得が難しく、才能も関係するためどれだけ修練しようと身につけられない者は一生身につけることが出来ない魔技だ。

 シャンセルの技は鞘に溜めた冷気を抜刀と共に放つものであって、斬撃を飛ばすようなものではない。しかし、そんなことが出来てしまうということがその可能性を示唆するのでは、とおれは思う。


「ちなみにあれ、喰らうと超寒くて動けなくなる」

「あ! あれでやられたの!?」

「あれでやられたんだ。まさか指を鳴らすよりも速く行動不能にさせられるとは考えなかったからなぁ……」


 弱雷撃を適当に放つだけなら必要なのは一秒程度。

 しかしそれでは相手を数秒の行動不能にするだけで、勝負に決着をつけるまでには至らない。

 やるなら雷撃を浴びせ続け、相手の心を折る必要がある。

 だが王女相手にそれをやるのはいかがなものかと思い、一撃で勝負が決まるよう威力を調整しようとしたのがおれの敗因だった。

 丁寧な威力調整には五秒くらいかかる。

 距離があるのでそう問題ないと思っていたら、その数秒にあれで割りこまれてしまったのだ。

 やばい、と思って避けたが――、地味に範囲攻撃で、おれでは躱しきれなかった……。


「ニャ、ニャ、ニャニャ!? あれなんニャ!? あんなのニャーは知らないニャ! どうなってんニャ!」


 びっくりして固まっていたリビラが動き出すなり頭を抱える。


「ニャーさま、シャンに何したニャ!?」

「なんでおれ!?」


 あながち見当外れではないのだが……。


「シャンがあんなふうにいきなり強くなるときは何かきっかけがあるのニャ! となるとニャーさまが怪しいニャ!」

「なんか釈然としないが……、確かにあの武器の使い方を教えてくれって頼まれて、ちょっと説明はした。でもそれ、こういうふうに抜くといいですよ、こういうふうに収めるといいですよ、ってだけの話なんだよ。だから、どうして冷気を溜めてぶっ放すなんてことになったのかはおれにもわからん」

「ニャニャニャ……」


 リビラはさらに頭を抱えて身をくねらせる。


「シャンはああ見えてちょっと天才的なところがあるニャ。訓練してもたいしたことにはならないくせに、ふとしたきっかけでいきなり強くなりやがるニャ」

「あー、おれにもそういうお嬢さんに心当たりあるわ」

「ニャァ……、これじゃあ予定が狂うニャ。シャンがのこのこニャーの前に現れたら、あっさり叩きのめして泣かせてやろうっていう完璧な計画が……、ニャーさまひどいニャ!」

「ひどいのはおまえだ!」


 まったくひどい姉である。

 これはもうシャンセルを応援しよう、さすがに不憫だ。


「ここにきて強くなるとかとんでもないニャ! こつこつ頑張ってるこっちからすれば腹立たしいことこの上ないニャ! 勇者の末裔はなんかおかしいニャ!」

「んー……」


 なんだろう、その言葉にはなんだかすごく同意したくなった。

 でもリビラわかってるのかな、君もその末裔の一人だよ?


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/03

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2023/04/30


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― 新着の感想 ―
「王女令ッ!」からの「跪けぇぇ――――ッ!」がとても格好良くて素晴らしい 跪かせる以外の発展もできそうで夢が膨らみます
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