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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
206/820

第204話 12歳(夏)…大武闘祭・本戦・開幕式

 大武闘祭六日目――。

 本戦開幕式はその日の午前七時からだった。

 朝早いがこの世界の感覚では適度な時間帯であり、闘技場はすでに本戦開始を今か今かと待ちわびる観客で一杯になっている。

 試合場には本戦に進んだ十六人の選手たちが整列。

 そこには当然、シアとミーネ、リビラとシャンセルの姿もある。

 シャンセルはミーネにガンをつけられてそっぽ向いてるな……。

 やがて、ゴォォーン、ゴォォーンと都市各所にある時報鐘楼がいっせいに鐘を鳴らして午前七時を知らせ、本戦の開始を促した。

 そして七回目の鐘が鳴り終わると同時――


『これよりベルガミア大武闘祭、本戦を開始する!』

『おおおぉぉ――――――――ッ!!』


 国王の宣言をきっかけに、大歓声が闘技場を覆い尽くす。

 王を始めとした王族たちは専用のボックス席――試合場を見下ろすような高い位置にて試合を観戦するようなのだが――


「うわぁ、すごいですねぇ!」


 きゃっきゃとはしゃぐユーニス第二王子はおれの隣――試合場にほど近いレイヴァース家用の席にいた。

 そしてユーニスを挟んだ向こうにはもう一人――


「ふっ、そうか。前回、ユーニスはまだ一歳かそこらであったな。記憶にはないだろうが、お前も観戦していたのだぞ?」


 当然といった顔でリクシー第一王子が居座っている。


「あのー、お二人は本当にこっちでいいんですか?」

「もちろんだ。向こうは堅苦しいうえ、試合場からも遠い。なので卿と親睦を深めるという理由で抜けだしてきたのだ」

「いっしょに姉さまたちの応援をしましょう!」

「は、はあ」


 ユーニスはいいんだが、リクシーがちょっとどう扱っていいかわからなくてやりにくい。

 おれが苦笑いしている間に本戦出場選手の紹介が始まった。


『まず最初に紹介しますは前武闘祭の優勝者! 黒騎士団団長アズアーフ・レーデント! 言わずと知れた我らが英雄です!』


 進行役がリビラの親父さんを紹介すると、再び観客は歓声をあげた。当然のことながら大人気。親父さんは軽く手を挙げ、左右、後ろと向きなおって観客たちに挨拶をする。


『続きましては星芒六カ国より派遣された武官代表の五名!』


 ベルガミアを除いた五カ国の武官――晩餐会のときに顔を合わせた者たちは全員本戦へと駒を進めたようだ。


『まずは予選初日、この競技場にて多数の参加者、そして黒騎士を壊滅させた暴れん坊! ザッファーナ皇国武官、竜騎士アロヴ・マーカスター!』


 話によると、アロヴは初日からずっとあのまま竜の姿で闘技場を占拠し続けていたらしい。

 戦う相手もいないのに何をしていたのかというと、どうやら恐い物見たさでやってきた子供たちの遊び相手になっていたようだ。

 竜を遊具に遊ぶとか、子供たちには一生の想い出になったのではなかろうか?

 本当に憎めない奴である。

 そんな竜皇国から始まった武官の紹介は残りの四カ国へと続く。

 聖都からは聖騎士セトス・ルーラー。

 森林連邦からは精霊守アウレベリト・ラスター・フォンス・ロウ。

 ヴァイロ共和国からは魔剣兵エーゲイト・ロシュラ。

 そしてメルナルディア王国からは男の娘ヴァイシェス・セファール。


『今回の予選は参加者たちが奮起しすぎたため、本戦出場は過去に例を見ない難易度となりました! そのため本戦出場者の数はこれまでと比べれば半分以下となっております! しかし! それ故に本戦出場を果たした者たちは腕の確かな者たちなのです! 続きまして冒険者たちの紹介を行います!』


 星芒六カ国の武官たちの次は冒険者たちの紹介となった。

 いずれもランクBの者たちで、ギルド公認の二つ名を有する。

 おれもランクBになれたら公認の二つ名とかつくのだろうか?

 どうしよう、良い予感がまったくしない。

 本戦に進出した冒険者たちは六名。

 大剣を使う熊族の大男――剛剣のアスレッジ。

 短槍を使う猿族の男性――風斬りのバレンハット。

 双剣を使う鼠族の小柄な男性――千刃のチェルブ。

 狐族の男性剣士――実剣のダグマー。

 剣と魔法を使う兎族の若い女性――奔放のイメス。

 長剣を使う牛族の偉丈夫――剣域のブレルッド。

 そうそうたる顔ぶれ……、なのか?


「リクシー殿下、この国の冒険者ランクがAの方たちはこの祭りには参加しなかったのですか?」

「うむ。この時期でなければ参加してもらうところなのだが……、色々とあるのだ。しかしまあ、アズアーフ殿が勝つだろうしな、そういうことだ」

「あー、なるほど」


 はっきりとした返答ではないが……、まあ理解した。

 言葉を濁したのは、たぶん純粋に強い者を決めると思っているユーニスに聞かせたくなかったからだろう。

 この祭り、予選は経済活性化を狙いとし、本戦はこの国の英雄が優勝することによって国民を安心させるためのプロパガンダなのだ。

 ランクAの者たちは空気を読んだ、読んでもらった、ということなのだと思う。


『そしてそして! 最後に紹介するのは特別な四名! いずれもまだ幼いにも関わらず、本戦進出を決めた驚愕の乙女たちなのです!』


 とっておき、とばかりに進行役の声に力が入る。


『まず最初に紹介しますはこのたびベルガミアへ訪問してくださったザナーサリー王国の誇る勇者の末裔! ミネヴィア・クェルアーク! そして二人目、同じく訪問してくださったレイヴァース卿の妹君、シア・レイヴァース! このお二人は王種率いるコボルトの群れを討伐した功績を認められ、冒険者訓練校を二ヶ月で卒業! そしてすでに冒険者レベルは26のランクDというとてつもない逸材なのです!』


 驚きのこもった歓声があがり、金銀二人は万歳するように挙げた手をぱたぱたさせて応えていた。


『そして三人目はベルガミア勇者の末裔にして英雄のアズアーフ・レーデントの息女、リビラ・レーデント! この度のウォシュレットが発明されるきっかけを作った方でもあります! 皆さん、心からの拍手をお願いしますッ!』


 雄叫びのような歓声と割れんばかりの拍手がリビラに捧げられる。


『そして最後はこの方、ベルガミア勇者の末裔! 国王陛下のご息女! シャンセル王女殿下!』


 引き続きの歓声と拍手、まだ選手の紹介だけだというのに観客たちはやたら盛りあがっていた。


『以上十六名が本戦進出を果たした選手たちです! それではさっそく試合の組み合わせを発表致します! それではどうぞ!』


 進行役の合図により試合場に設置されたどでかい看板に掛けられていた布が取り払われ、トーナメント表があらわれた。


【1回戦】

 第1試合……『シャンセル』対『アスレッジ』

 第2試合……『バレンハット』対『チェルブ』

 第3試合……『エーゲイト』対『ダグマー』

 第4試合……『リビラ』対『アウレベリト』

 第5試合……『アロヴ』対『ヴァイシェス』

 第6試合……『セトス』対『イメス』

 第7試合……『ミネヴィア』対『シア』

 第8試合……『アズアーフ』対『ブレルッド』


『本戦一日目の今日はまずこの一回戦が行われ、続いて午後からは一回戦の勝者たちによる二回戦が行われます!』


「あ! 姉さまが最初に戦いますよ!」

「ふむ、そのようだな……」


 対戦表を眺め、王子二人はいきなりの試合となるシャンセルについての話をしていた。

 一方、おれはその対戦表にシャンセルの意図が反映されているのを感じ取っていた。

 第一試合から第四試合のA枠と、第五試合から第八試合のB枠。

 シャンセルとリビラはA枠にいて、リビラの親父さんはB枠――つまり決勝でなければ当たらないようになっている。

 他にも金銀が一回戦で対決することや、親父さんと同じB枠に放りこまれているのもなんとなく意図を感じさせるような……。

 おまえら邪魔だからあっちで処理、みたいな。


    △◆▽


 開会式が終了したところで、皆が観戦席に集まってきた。

 シャンセルはすぐ第一試合に出場するため向こうに残ったようだ。


「……なんでリク兄がいるニャ」

「リビラよ、そう嫌ってくれるな」


 露骨に嫌な顔までされているのにリクシーは「はっはっは」と笑って気にした様子もない。


「リビラ姉さま、姉さまは勝てるでしょうか?」

「ユーニス……、現実は残酷ニャ。きっとシャンはそれは無様に負けるニャ。だから負けっぷりをよーく目に焼きつけておくニャ」

「ほほう? リビラは妹が負けると思うか? では一つ俺と賭けでもしようではないか」

「ニャーはひとまずシャンが勝つ方に賭けるニャ」

「リビラ姉さま!?」


 リビラは殿下たち相手になんか適当なことを言っていた。

 一方、金銀のお嬢さんたちは――


「ふっふっふ、今日こそ私が勝つわよ!」

「えー……、おてやわらかにおねがいしますー、いやほんとー」


 一人はやる気満々、もう一人はすでに気力を挫かれていた。


※1名、登場人物の名前をブレルッドに変更しました。

 2018/08/23

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