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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
204/820

第202話 12歳(夏)…迷推理

 変態に絡まれて時間を無駄にしてしまったが、それからもおれは屋台をまわって上手くいっているかを確認していった。

 そして日暮れと共に王宮へと戻ったのだが――


「なにこれ……」


 先に部屋へ集合していた連中がベッドでごろんごろんしていた。

 ごろごろ、ではなく、ごろんごろん。

 金銀、リビラ、ユーニス王子が万歳した状態でベッドの上をごろんごろんと転がり回っていたのだ。


「なあ王女さま、これってベルガミアに伝わる儀式かなんか?」

「ダンナさー、なんでもかんでもベルガミアにしないでくれよー」


 ふむ、どうやら儀式ではないようだ。


「……なにやってんの?」


 いくら観察してもその意図は理解できなかったので、転がる連中に尋ねてみた。

 するとミーネがベッドからおりて儀式を外れる。


「あ、戻ったのね! これはね、えっと……、よくわかんない!」

「よくわかんないって……」

「うん、なんか戻ったらシアが転がってたの。だからわたしも一緒になって転がってたら、ユーニスも転がり始めて、リビラも転がるようになったのよ」

「なるほど、まったくわからん」


 まあ、子供はまったく意味不明な遊びを始めるものだとはなんとなくわかるのだが、そのきっかけがシアというのが解せない。

 ミーネが離脱したのをうけ、リビラもベッドから起きあがり、続いてユーニスも起きあがる。

 ところが、シアだけは依然ごろんごろんとベッドの前後を行ったり来たりだ。


「うん? シアさん?」


 呼びかけてみるが、シアは押し黙った状態でごろんごろん。

 あとその表情なのだが……、まったく楽しそうではない。

 どちらかと言うと不機嫌そうなのである。

 これは……、もしかしてあれか、不機嫌アピールか。

 腹を立て不機嫌になっている、もしくは落ち込んでいる、しかし、それを素直に口に出して励ましてもらったり、慰めてもらったりするのはちょっと癪で、しかししかし、それでもやっぱりかまってはもらいたいので普段とはちょっと違う行動をして誰かの気を引く、そんな面倒くさい駆け引きである。

 残念ながらミーネにはさっぱり理解されず、一緒になって転がられ始めてしまったようだが……。


「…………」


 シアは黙したまま転がる。

 いつまでもいつまでも。

 正直なところ放置したかったが、このあと皆で冒険の書をやらないといけないのにシアがこれでは問題である。

 しかしこういった子供っぽさ、クロアやセレス、場合によってはミーネも有り得るだろうが、シアは別だと思ったのに……。

 それとも、シアですら心の骨が折れるようなことがあったのだろうか?


「どうしたお嬢さん」


 おれはベッドに腰掛け、転がるシアを堰き止める。

 止まったシアは仰向け状態、ややふくれっ面のまま起きあがろうとしないので、面倒とは思いつつも体を起こすのを手伝ってやり、並んで座る状態にしてやる。


「なんだ、なんか嫌なことでもあったのか?」

「……むー……」


 シアが小さく唸る。

 どうやらこの線で当たりらしい。

 しかしシアがこんなことになるような状況となると……、なんなのだろう。

 町中にオークでも出現したのだろうか。

 シアに喋りだす気配がないので、おれはさらに推測する。

 と、テーブル、無造作に放られたようにあるヒモを通した札の束に気がついた。

 確かあのヒモで通した札はシアのものだ。

 今日だけでずいぶん集めたようで、三十枚ほどはありそうなのだが……、シアにしては本当に雑に放置されているのが気になった。


「どうした、札を集めてるときになにかあったのか?」

「……むぅー……」


 探りをいれてみたところ、反応が微妙に変わった。

 当たりか、……となると、なんだ?

 戦いに納得がいかなかった、と言うのはシアの性分ではない。

 これに不満を持つとしたらミーネの方だ。

 そもそもシアはおれと同じく巻きこまれての参加であって、戦いに明け暮れたいわけではない。シアは市民たちを適当に撒いてあしらうだろうし、札持ち相手でも全力で戦うようなことはせず、適度に実力をだして軽く狩ってくことだろう。

 いや、待てよ……?

 本戦を目指す札持ちとなれば、当然ながら自分の強さに自信を持っている連中だ。

 なのに見た目は可愛らしいお嬢さんなコレにあっさりと負けるというのは、なかなかショックな出来事なのではなかろうか。

 おまけにそれが手加減されて――となれば、憤懣やるかたないといった感じで、罵声の一つでも飛ばしてくるのでは?

 例えば――、ガキのくせに、とか。

 シアからすれば「ガキじゃねえ」と言いたいだろうが、その容姿はまだ子供なのだから言うに言えない感じになる。

 うーむ、これかな?


「なあお嬢さん、なにがあったかわからんが……、もしかして戦った相手からなんか言われたのか? んー、容姿のこととか?」

「……ッ!?」


 シアが超びっくりした顔でおれを見た。

 当たりか!

 うーむ、我ながら恐ろしくなるような推理力である。

 いつウィークリーな殺人事件が起きてもいいように決め台詞の一つでも考えておくべきか。


「んー、まあ……、そんなに気に病むこともないだろ。やっぱりまだ子供なんだしさ、仕方ないってのは自分でもわかるだろ?」

「……、ま、まあ、それは……」


 ちょっとおどおどしたようにシアが言う。


「でもまあ……、悩むことが無駄だとは言わんさ」

「……?」

「いつか成長したときふと、あの頃はこんなことを気に掛けていたな、なんて懐かしく思う日が来るかもしれないだろ? そして、そう思える日々を送れていることに気づけるなら、いずれつまらない悩みだったと笑い飛ばしてしまうようなことに思い悩む日々も、きっと無駄ではないはずなんだよ」


 人の生き死にを見守ってきた死神も、自分の人生はこれが初。

 幼い頃の悩みを宝――、とは言わんが、リサイクル不能のゴミではないと思うし、それをなんとなくでも理解してもらえたらなと思う。


「まあ、あれだ。いいじゃないか、幼くても」


 人間だもの、とか言いたくなるのをぐっと我慢。

 シアはおれをぽかんと眺めていたが、やがて小声で聞いてくる。


「……、ご、ご主人さまは、どう思います? ち、小さいの」

「どう思うって……、可愛らしいし、好きだが?」


 変に答えてこじれると面倒なので正直に答えた。

 すると何故か、シアが顔を赤くしてぷるぷる震えだし――


「ご……」

「ご?」

「ご主人さまのロリコニアファミリーッ!!」

「ごほぉッ!?」


 腹に一撃喰らわされた。

 その一撃がまた微妙に手加減された意識を失えない一撃で、腹の中で苦い袋が爆ぜたみたいに痛みが広がるわ、呼吸が出来なくなって苦しいわで、おれはぼてんとベッドに転がった。


「ああぁッ!? ごご、ごめんなさいごめんなさい! すいません、ついうっかり昔の癖がッ! ご主人さましっかりーッ!」

「……? ……!?」


 おれなんで殴られたの?

 ってかロリコニアファミリーってなに?

 おれはそう言いたかったが、息を吸うことも吐くことも出来ない状態のためどうにもならなかった。

 思い出すのは小学校、うっかり動いている棒形ブランコの正面に立ってしまい、みぞおちに一撃くらって吹っ飛んだ記憶。

 あのときもこんな感じでしばらく身じろぎも出来なかった。


「あれー……、よしよし、よしよし」


 見かねたミーネが背中を撫でてくれたが、それで楽になるようなことは特になかった。


※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/23

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうせ最後は意味の食い違いとかに気づいてぶっ飛ばされるんだろうなぁと思っていたら 違う意味で食い違ったままぶっ飛ばされたでござるの巻
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