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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
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第199話 12歳(夏)…王女の相談

「で、おれはカレー屋台を始めたわけだ」

「いやダンナさ、話を聞いても納得できねえよ。他国に来て二日目に事業思いついて始めるとかどうなってんだよ。めちゃくちゃだよ」


 ミーネとシャンセルは話が終わるまでにカレーを食べ終えた。

 かなりお気に召したようで、途中、本当に話を聞いているのかちょっと怪しかったが、シャンセルの方はちゃんと聞いていてくれたようだ。

 はじめは様子をうかがっていた人々も、ミーネとシャンセルがもりもり食べる姿を見て注文する者が現れ始め、今ではテーブルがちょっと混雑するくらいになっている。


「カレーね、うん、覚えたわ。後でまた食べようかしら。今はまだここにしかない料理なんでしょ?」

「そうだな。まあメイドたちにも食べさせてやりたいし、帰ったら普通におれが作るんだけどな」

「お肉もお願いね!」

「ん? ああ、カツレツな。でもあれだぞ、カレーはカツレツ以外にも色々合う――と思うぞ。例えばハンバーグとかコロッケとか」

「え、ええぇ……」


 そのカレーを想像したのだろう、ミーネがおののいた。


「まだここにはないの?」

「さすがにハンバーグやコロッケを作る余裕はなかったからな」

「あうー……」


 目に見えてミーネはしょんぼりしたが、そこでふと、何か思いついたようにカッと目を見開いておれ――の腰にある妖精鞄を見た。


「もしかして!」

「持ってねえよ!」

「えー……」


 そして再びしょんぼりする。


「……いざというときのために、これからはちゃんと用意しておいたほうがいいと思うの、私」

「どういう状況だそれは」


 ただ妖精鞄を自分のお弁当箱にしたいだけじゃねえか。



    △◆▽


 腹を満たしたミーネはさらなる戦いを求めて旅立って行った。

 それを見送ったあと、おれはそろそろ他の地区にある屋台の様子も見にいくことにする。


「あ、ちょっと待った!」


 皆に声をかけて移動しようところボランに止められた。


「これを受けとってくれ」

「あん……? 札?」

「まだ使ってない仲間から集めたものだ、少ないんだが……」


 ばさっと札を差しだされる。

 感じからして百枚近くありそうなんだが……。


「本戦に進むつもりなんだろう?」


 ボランは「さあ受けとってくれ」という顔でいる。

 実のところ超余計なお世話だった。

 しかしそれを正直に言える雰囲気ではない……。


「いいのか、借金返済が延びるだろ……」

「そのぶん働く。もう真っ当に働けるからな」


 嬉しそうにボランは言う。

 札もいずれ金に換えることができる。

 おれに札を渡してしまうのは、借金返済にその分だけ苦労するという話なのだが……、そんなの承知で札を渡したいらしい。


「わかった。じゃあ、ありがたく」


 本戦進出が一気に現実味を帯びてきてしまった……。


    △◆▽


「あの猫のことなんだけどさー」


 別の屋台へと向かうのに王女さまがついてきた。


「ダンナはどう思う?」

「質問がいきなりなうえに漠然としすぎなんだが……」


 相談や質問はかまわないが、もうちょっと答えやすい問いかけをお願いしたい。


「いや、だからさ、あいつこの国に戻ってきたじゃん? やっぱそれって伯父貴を説得するために来たんだと思うんだよ。だろ?」

「まあそれはな」

「でもさ、そのわりにはまだまともに顔も合わせてねえし……」


 まだ会ってすらないのかあの親子は……。

 うーん、お互いに頑固とくるときっかけが必要なのかな?

 しかし、ただ対面させても話し合いにすらならず余計こじれてしまう危険性もあるので……、下手なことはできないか。


「リビラが黒騎士になりたいのは、やっぱり両親に憧れてなのかな?」

「たぶん。でもさ……、それがすべてじゃないと思うんだよ」

「と言うと?」

「それはわかんね。あいつ無駄に頑固だし」


 うん、普段の様子からはわからなかったが、今回のことでかなりの頑固者と判明したからな。


「あいつは武闘祭があるから戻ってきたと思うんだよ。本戦で伯父貴が認めざるを得ないくらいの実力を示して見せるために。それこそ直接対決するのが目的なんじゃないかな」


 言われてみればなるほどと思う。

 あの猫メイド、肉体言語で説得するつもりだったのか……。

 どんどんそれまでのリビラの印象から離れていくな。


「でも親父さんがそれで認めるかって話だな……、いや、認める認めないのはこのさい置いとくとして、ずっとリビラはそのために頑張ってきたんだからさ、それを諦めさせるだけの理由っていうか、説得するためにもっと言葉を尽くすっていうか、話し合う必要があるんじゃないかな。もともとは黒騎士になるのを認めてたんだろ?」


 うーん、とシャンセルは腕組みして唸る。


「二年か三年くらい前から変わったって話だけど、たぶん暴争のときに考えが変わるような何かがあったと思うんだよ」

「戦ってみたら想像以上に厳しくて、だから単純に一人娘に危険な仕事はさせたくないとか? 普通の生活をしてほしいと思うようになったとか? ほら、婚約まで勧めるし」

「もっともな話だけど、でもしっくりこねえんだよ。そう思ってるのは間違いじゃないとしても、要はどうしてそう思うようになったかってことだよ。それに娘を危険な目に遭わせたくないなんて考えるなら、居なくなったら捜すだろ? でもこうして帰ってくるまでほったらかしで、まだまともに対面すらしてないんだぜ?」


 あ、そっか。

 親父さんが接触してきたことをシャンセルが知るわけもないし、それで冷たい印象のままなのか。

 おれはシャンセルにリビラが世話になっていると親父さんに感謝されたこと、そしてこれからもよろしくと頼まれたことを話す。


「わっかんねーな! ってかこれからもってことは、やっぱ黒騎士になるのは認めないつもりか。あーもー、あの猫親子は! やっぱこうなったらリビラにちょっかいかけて、まずはあっちの本音を引きずりだすしかないかな。頭に血を上らせれば案外うっかり喋るかもしんねーし。あたしも思うところがあるし」

「ちょっかい?」

「うん、あいつが本戦での直接対決目論んでるって前提の話だけど、立ちはだかって邪魔してみようかなって」

「組み合わせ次第な話だな……」

「あー、それはまあ……、どうにかなるんだ。ぶっちゃけ、この武闘祭って士気向上のための――、茶番って言っちゃ言葉が悪いけど、最終的には伯父貴が優勝ってのは揺るがないんだよ。これは単純な実力的な問題で。だからリビラが伯父貴と対決するのはそれこそ決勝戦までお預けってなるような組み合わせをさ」


 なるほど、王女権限でちょっと組み合わせに口出しするのか。


「まあそれであたしがリビラと当たったとして、あっさり負けたらホントなにしに来たんだって話になるんだけどさ」

「リビラの方が強いのか?」

「いまんとこ負けっぱなしで止まってる。いや、あたしがへなちょこってことはないんだぜ? あいつちっちゃい頃からずっと黒騎士目指してるから、あの年代じゃベルガミア一なんじゃねえの?」

「そんなに強いのか」


 メイド学校ではそこまで強さを見せつけるようなことにはなっていなかったが……、あ、そう言えば武器を変えているって話だったな。

 もともとはでかい剣を使っていたとか。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2023/04/30


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