第20話 5歳(秋)…届いた荷物
ダリスの訪問からひと月ほどたち季節が夏から秋へ移り変わりはじめた頃、頼んでおいた物が届けられた。
まずはシャロ様の発明品リスト。これ大事。
それからビン詰めされたアメ玉など保存のきくお菓子。地味にうれしい物。
そして弟のための絵本がたくさん。厚さの薄い絵本ぽい装丁のものが二十冊くらい、厚めの物語が十冊ほど。けっこうな量だ。
絵本はある程度、予想していたものだった。
『アリとキリギリス』『はだかの王さま』『太陽と北風』『赤ずきんちゃん』『オオカミと七匹の子ヤギ』『シンデレラ』『眠れる森の美女』『親指姫』『みにくいアヒルの子』『三匹の子ブタ』などなど。
著者はシャロ様になっている。まあそうだろう。
覚えていた有名なお話、というわけだ。
でも厚めの物語とかどうなんだろう。
まさか全部記憶していたとか?
シャロ様そんなに超人なのか?
とりあえず一冊とって読んでみる。
『ピーター・パン』シャーロット(R)
うん、読んで確かめようとしたけど、そもそも原書なんか読んだことないおれが確認なんかできるわけがなかった。高校の同級生に本好きの奴がいて概要を聞いたくらいだ。なんでもピーターとかいう大人にならない妖怪がネヴァーランドという場所に住んでいる。ピーターは子供たちをさらってはネヴァーランドに住まわせ、やがて大人へと成長する前に子供たちを殺してしまうらしい。まったく恐ろしい話だ。こんな話を弟に読み聞かせていいものか。
ひとまず読んでみる。
なんか夢と冒険にあふれてた。
うーん? 本当はこういう話だったのか? それともシャロ様が変更したのか?
まあこれなら問題ないからいいか。うん。
その日からおれは弟に読み聞かせをするのが日課になった。
オモチャでキャッキャさせたあと、絵本を読んでやると弟はすぐにぐっすりだ。
おれもシャロ様みたいに元の世界のお話を絵本にしてもいいかもしれない。
シャロ様がとりこぼしている話や、日本の昔話をアレンジしたものとか。
日本の昔話といったら『桃太郎』『金太郎』『浦島太郎』『一寸法師』『花咲爺さん』『わらしべ長者』『かちかち山』『舌きり雀』『かぐや姫』『おむすびころりん』……と、けっこう覚えてるな。まだまだある。
なら今年の冬はのんびり絵本をつくり、春になったらダリスに出版の相談をしてみよう。
ちょうど絵が見られる程度になってきたことだし。
おっと、そうだ。
となれば著者名をヴィロックにするようにしないといけないな。
△◆▽
弟のクロアにとっては二度目の冬。
一歳四ヶ月の弟はよちよち歩きができるようになった。
とはいっても歩けるのは数メートルがやっとで、急ぐときにはハイハイをする。その急ぐときというのは主におれを追ってくるときだ。にー、にー、と言いながらハイハイしてくる弟を見ると大いなる喜びとともに立派な兄であろうと決意を新たにする。一日に十回くらい。
弟は去年の冬に作りまくったオモチャで遊んでくれる。今のお気に入りはカラクリ手押し車だ。押して歩くと車輪の回転によってカラクリが動作し、木琴のような綺麗で暖かみのある音を奏でる。
ガラガラを作るのにも苦労していたのに、我ながらずいぶんと上達したものだと思う。
まあ去年の冬は寝ても覚めてもオモチャ作ってたからな、才能がないとはいってもそれなりに上達はするのだ。並は並なりに。
しかしこうしたオモチャも、あと一年くらいしたら飽きられてしまうだろう。
三歳児用のオモチャといったらどういうものがあっただろうか。
そのくらいだと、車や電車の模型、戦隊物のグッズか?
ちょっとどれも無理ですね。
うーむ、戦隊物の意味不明な構造した、合体したり分離したりする武器もどきなら木でどうにかできるか……? でもああいうの、こっちだとハイセンスすぎて珍品にしか見られないかもしれない。なら普通に剣の模型か。木剣ではなく、ちゃんと作りこんだそれなりに見栄えのするものを。
でもせっかくならギミックとかもつけたい、ということで、おれはいわゆるガンブレードの模型を作ることにした。
リボルバー銃と剣が融合した厨二心をくすぐる一品である。
そうだな、せっかくだから設定も考えるか。
回転式弾倉は弾丸をいれておく場所ではなくて、銃口のかわりについているブレードに魔法を付与するための魔石みたいなものをこめる部分というのはどうだろう。弾倉の後部に、付与する魔法の刻印が何種類かあって、こっちも回転して、それで選択できる。剣として振りまわすわけだから、構造的にトリガーが軽いシングルアクションよりも、重いダブルアクションの方が理にかなっているだろうか?
うん、なんか楽しくなってきた。
男の子だもの。
設定と大まかな外観を紙に書きこむ。
もちろん木製ガンブレードが完成したらこの資料は燃やす。
黒き歴史になりかねない。
残しておくのは危険だ。おれの心が。
試行錯誤の結果、おれはなんとかギミック付きの木製ガンブレード一号を完成させた。
が――
「なんだか不思議な仕組みね。……これって魔石を破裂するようにして、その衝撃を相手にぶつけるようにとかできないかしら」
母さんのその一言で木製ガンブレード一号がお蔵入りになることが決定した。
いかんいかん、うっかりしていた。
回転式弾倉の構造なんぞ世にだしてはいけないものだ。
せっかくシャロ様が銃なしの世界を保持させたというのに、世界で誰よりもシャロ様を崇拝するおれがそれを台無しにしてしまうなど、あってはならないことである。
そんなわけで木製ガンブレード一号はおれの部屋に死蔵されることになった。
うーむ、かわりになにを弟に作ってあげたらいいかなー……。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/09/14




