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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
188/820

第186話 12歳(夏)…大武闘祭とは

「戦いたかったの」


 ひとまず閉会したあと、のこのこ戻ってきたミーネを問い詰めたらそう言われた。


「そう言えばおまえ着てるの普通の服だな。ひさしぶりに雷撃喰らってみるか? ん? ん?」

「それは嫌っ」

「あ、てめっ!?」


 悪びれもしやがらなかったのでちょっと脅したところ、ミーネは身をかがめてユーニス王子の背に引っ込んだ。


「殿下を盾にすんな!」

「だってー」

「だってじゃねえ。わかった。雷撃は無しにしてやるから……」

「ん」


 ひょこっとユーニスの背後からミーネが出てくる。


「殿下も振りはらってくださいよ」

「か弱い女性の盾となるのは紳士のつとめですから!」

「いやそいつ全然か弱くないですよ? そこらの魔物が群れをなして突撃してきても蹴散らすような奴ですからね?」


 ユーニスにそう言ったあと、もう許されたと勘違いしてぬけぬけと近づいてきたミーネの頬を左右からつまんで引っぱる。


「あだだだだ……!」

「ひとまず勝手に巻きこんだ罰だ」

「ぶー、だって私だけじゃつまらないじゃない……」


 清々しいまでに自分本位なことを言われた。


「ったく、のんびり祭を見てまわる予定だったってのに。おれ完全にそのつもりだから、大会の詳しい規定とかまで知らないぞ?」

「ほほう? では俺がじきじきに説明してやろう!」


 と、こちらの様子をうかがっていたリクシー王子が嬉しそうに割りこんでくる。


「よいか、ベルガミア大武闘祭は一週間かけて開催される。まずは五日かけての予選だ。申し込みのあった者すべてが参加者となり、その証明として自分の名前と番号の書かれた札が渡される」


 王子の説明によれば、自分の札を保持した状態で他人の札を百枚集めること、これが本戦への進出条件らしい。

 本戦は進出した者たちによるトーナメント戦。

 そしてベルガミアで一番の強者が決定となる。

 参加者が多いだけの武闘大会だな、とおれは思った。

 が、説明はまだ続く――


「札には金銭的な価値があり、祭りの間は通貨として使用できる。実はほとんどの参加者の目的、これは与えられた自分の札で買い物をすることだったりするのだ」

「……? 参加者はどれくらいの数になるんですか?」

「王都に住む者のほとんどが参加者となるな。そのため、実は札を用意するのも一苦労な話でな、ひと月ほどはかかってしまうのだ」

「そうなんですか」


 ただの大騒ぎ、とは違うようだ。

 スナークの暴争からベルガミアの景気が落ち込み気味とか聞いているし、この祭り、実は消費の活性化を狙ったものなのか?

 となると札とやらは申し込み型の地域振興券といった感じ?


「では参加者自体は多いものの、実際に札を奪い合う者はそのなかのごく一部ということですか」

「いや、そうではない。自分の札を失おうと、それは本戦への出場権利を失うだけで、祭りへの参加資格を失うわけではないのだ」

「え……、しかしそれ――、あ」


 その瞬間、おれの脳裏に物凄く嫌な閃きがあった。


「自分の札がなかろうと、誰かの札を奪うことは出来る。本戦進出を目指す者は暗黙の了解として自分の札を首にかけるなど、見えるようにしておく。そうでもしないと同じように本戦進出を望む相手を見つけられない――、札を集めることもままならないからだ」

「そ、そんな札を目に付くようにしておいたら……」

「本戦進出など眼中にない大量の王都市民が己が欲望のために襲いかかってくるな。実はこれこそがこの武闘祭の醍醐味でもある。武力で劣る者たちではあるが、徒党を組み、時と場所を選ばず襲いかかってくるのだ。ただ腕っ節に自信があるだけでは札を百枚集めるなど夢のまた夢、五日間を生き残ることも出来まい」

「…………」


 おれは真顔になった。

 シアも真顔だった。


「すごく楽しそうね!」


 ミーネだけが目をきらきらさせて楽しみにしていた。

 いかん、放心している場合ではない。

 気になることや知りたいことを質問せねば。


「気になったのですが、例えば自分の札は隠しておいて、そのまま札を晒している参加者に挑んだりできてしまいますよね? その場合、自分は負けても札は取られませんが、勝った場合は相手から取れるわけで、そのあたりのズル? それについての規定などは――」

「無い」

「……無いんですか?」

「その程度の者は本戦へ進出することはできない。その程度の者に負ける参加者も同じだ。五日間の間に百枚の札を集めるというのは簡単な話しではないのだよ。その程度の者たちがどう浅ましい手段を用いようとどうにかなる話ではないのだ」


 参加して札をもらいたいだけの市民にとっては完全に奇祭。

 しかし本戦を目指す参加者にとっては真に己の実力を証明するための試練の五日間。

 求められるのはとにかく自分の札を奪われず、百枚集め五日間を生き延びること。

 どれだけの市民に襲いかかられようとも……。


「どうしてまたこんな過酷な祭りなんですか……?」

「ふむ。実はこの祭り、札を求めて襲い来る参加者たちをスナークに見立てたものでな、五日間という期間もスナークが撤退していく平均的な日数から定められたものなのだ。そういった見立てもあるが故に本戦進出を果たした者には栄誉が与えられ、そして望むなら黒騎士への入隊も認められる」


 あー、そういう理由で……。


「と言うことは、リビラはこの祭り……」

「参加するニャ」


 ですよね。

 ってか参加のためにベルガミアに戻ってきたって話になるのか。


「一応、あたしも参加するんだぜ」

「ぼくはダメでした……」


 にやっとするシャンセルと、しょんぼりするユーニス。

 いや、王子はこんな野蛮な祭りに参加しないほうがいいですよ。


「あと、予選の間は本戦の舞台となる闘技場で余興が行われる」

「余興?」

「黒騎士団と参加者たちの合戦だ。黒騎士にも札が設定されているが少し特殊でな、倒せば戦っていた全員に札が与えられるのだ。黒騎士は倒されたら退場だが、参加者たちは黒騎士相手ならば負けても札を失うことにはならないため、いくらでも再挑戦できる」

「黒騎士はずいぶん不利ですね。五日間もあればいずれ押し切られるのではないですか?」

「まともに戦おうとする者、おこぼれをもらおうとする者、入り乱れての集団、しかしそれは烏合の衆だ。その程度の集団に敗北するようでは黒騎士は名乗れない」


 対スナーク。倒しても死なず、また襲いかかってくるものどもの群れと戦うための者たち。


「もしかして訓練の一環だったりするんですか?」

「そうだ」


 ふと抱いた疑問にリクシー王子はうなずく。


「黒騎士にとってはスナークの暴争を想定した模擬戦だ。五日間の間、その陣を守るために戦い続ける、というな。それとこれはある意味では景気づけのようなものでもある」


 王子はそこで少し声を落とす。


「スナークの暴争が再び起きる可能性を冒険者ギルドから示唆されてな、黒騎士たちの遠征準備はほぼ整っている。出発前に武闘祭を行い、士気を高めるというのが王の考えなのだ。レイヴァース卿は実に良い時期にウォシュレットをもたらしてくれた。武闘祭を行う本当の目的を誤魔化すことができ、民衆の多くは純粋にお祭り気分のまま騎士たちを送りだすことができる」


 この話――、おれに聞かせるような内容じゃない。

 でもそれを話すのは……、もしかしてリビラに聞かせるためか?

 とっとと父親に会いにいけと王子は暗に告げている?


「まあ予選の流れはこのような感じだな。本戦は単純な勝ち抜き戦だから説明はいらんだろう」

「ありがとうございました」


 おれはリクシー王子に礼を言い、少し考える。

 おれの場合、王都を歩きまわって地域振興券に飢えた市民を相手にするより、闘技場で黒騎士を相手にしていたほうが楽そうだ。

 ぶっちゃけ、黒騎士・参加者まとめて雷撃ぶちかまして札をかっさらい、あとは王宮に閉じこもっていれば本戦に進出できるのではなかろうか?

 あ、ちょっと気分が明るくなってきた。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/22

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