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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
186/820

第184話 12歳(夏)…大使と派遣武官

 晩餐会が終わると別の大広間へと移動になった。

 あちこちにグループが形成され、それぞれなごやかに談笑中。

 そしておれなのだが、シャンセルの予想通りベルガミアの貴族の方々がひっきりなしに挨拶しにきた。

 しかしそれもシャンセルとユーニスが一緒にいてくれるおかげで軽い挨拶程度ですんでいる。

 王子王女をさしおいて長話、というわけにはいかないのである。


「二人ともありがとう。とてもとても助かってる」


 おれは二時間くらい代わる代わる挨拶され続けた。

 もちろん自己紹介だけではなく、二言三言の会話もありはした。

 多くはウォシュレットや冒険の書の話題。

 お褒めの言葉をいただくので、それに感謝の言葉を返す程度のものである。


「ダンナはこういうの苦手みたいだな。まあ、あたしも得意ってわけじゃねえけどさ。ってことはシアも苦手か?」

「今年の春まで森の一軒家で暮らしていたもので……」

「ミーネは?」

「退屈だからきらーい」


 おまえはもうちょっと順応していてもいいような気がするが……。


「リビラも苦手だよなー。だいたいすっぽかしで、参加したらしたで似合わない外面貼りつけて対応してたもんな」

「うっせーニャ」

「ぼく、お淑やかなリビラ姉さまも好きですよ」

「ユーニスはいい子ニャー」

「えへへ」


 リビラに頭を撫でられ、ユーニスの尻尾がぱたぱた揺れる。


「…………」


 ミーネが無言で殿下のぱたぱた尻尾を握ろうとしたので、おれはその手をとってシアの尻尾――編まれた銀のおさげを握らせた。


「ほら、これで我慢しなさい」

「むー……、にぎにぎ」

「ちょっとこれとはなんですか、なんなんですか」


 貴族たちの挨拶も一段落したので適当になごむ。

 すると、それを見計らってか十人くらいの集団がやってきた。


「失礼。少しお時間をいただきたい」


 その集団は獣人ではなく、人族、エルフ、ドワーフと、ぱっと見では正体のよくわからない集まりだった。

 声をかけてきた男性は周りの饗宴用の衣装とは違うゆったりとした――宗教色のある服装をしている。


「私たちは星芒六カ国の大使と武官です。私はセントラフロ聖教国大使、アロール・マクランタと申します。こちらは派遣武官、セトス・ルーラー。以後お見知りおきください」


 紹介され、紹介された男性が静かに礼をする。


「あ、ティゼリアの国ね。派遣武官ってなにかしら?」


 集団でこられておれはびびっていたが、ミーネは物怖じすることもなく率直に尋ねた。


「瘴気領域を囲む国々――星芒六カ国はスナークの脅威に敏感でなければなりません。いずれ自国での戦いに備え、スナークの暴争が起きた国へ少数の部隊を派遣し、協力しつつ戦闘経験を積ませてもらうのですよ。ベルガミアが黒騎士を擁するように、セントラフロでは聖騎士を擁します。レイヴァース卿が聖女ティゼリアと知己の間柄とは存じておりましたが、ミネヴィア嬢も?」

「最近知り合ったの。後輩の子に法衣を用意するのにつきあってカナルに行ったりしたのよ」

「ああ、そうでしたか、法衣を――……、を? 最近?」

「えっとね――」


 と、ミーネは止める間もなくティゼリアが法衣を用意してなくておれが必死こくハメになったことをぺろっと喋った。


「申し訳ない……」


 そしておれは聖都の大使にも謝られるという体験をした。

 一日のうちにこれほど謝罪を受けることはこれまでなかったし、きっとこれからもないだろう。


「面白い話をしているところ悪いが、そろそろ俺たちにも喋らせてくれよ」


 そう言ったのは大柄の逞しい男性だ。


「俺がアロヴ・マーカスターだ」


 俺が……ってあんた、初めて名前聞いたんですけど。

 ちょっとあきれていると、細身の男性がアロヴの肩にそっと手を置き、


「ぬお!?」


 アロヴを力まかせに折り敷いた。


「うちの者が失礼しました。私はザッファーナ皇国大使、ヴリスト・ヴォーフォートと申します。どうぞお見知りおきを」


 ザッファーナ――、シャロ様の魔王退治にお供した竜が治める国。

 別名が竜皇国。

 ってか武官が大使に跪かされてるんだが……。


「次は儂らでいいかの? 儂はヴァイロ共和国大使、スコード・ジドラフ。こっちが武官、エーゲイト・ロシュラ」


 大使、武官共に豊かなお髭のドワーフ。

 まあドワーフの国だからな。

 位置はここベルガミアの北、ザナーサリーからしたら北西にある隣国だ。

 続いてエルフの女性と男性が挨拶する。


「わたくしはエクステラ森林連邦大使、ミグダルス・トゥリック・レフザル・ロウです。こちらは派遣武官、アウレベリト・ラスター・フォンス・ロウ。どうぞお見知りおきください」


 大使のミグダルスも武官のアウレベリトも若々しい美形なのだがエルフは四百年くらい生きるらしいので実際は何歳なのかさっぱりわからない。いや、それを言うならもっと長生きな竜族二人の方か。

 ベルガミアを除いて四カ国が終わったので、あとは一カ国。

 人族とそう変わらない容姿の魔族が治める国。

 邪神討滅後に出現したスナークに対処するため、バロットという組織を作った国だ。


「私はメルナルディア王国大使、ネイオン・オウリアクス。こちらは武官のヴァイシェス・セファール、そしてそれとは別にバロットから派遣された調査員のカルロ・ルーフォニアルです」


 ヴァイシェスは愛くるしい顔立ちをした女の子。

 短くふわっとした金色がかった茶髪で目は緑。

 歳はおれよりも幼いくらいでなぜか男性服を着ている。

 カルロは右腕だけを肩から甲冑で覆った青年だ。

 まあカルロはわかるのだが、ヴァイシェスが武官として紹介されるのが違和感ある。

 実は百歳とかそういう話だろうか。

 そんなおれの困惑を感じ取ったか、ヴァイシェスはちょっと苦笑する。


「私は男性ですよ。そしてすでに二十歳をこえています」

『へ?』


 と声を揃えたのはおれと金銀、そしてリビラだ。


「父がエルフ、母がドワーフなんですよ。この姿は両親の特性が現れた結果です。女の子に見えるかもしれませんが、私は男性なのです」


 見えるかもしれないじゃなくて、そうにしか見えない。


「……〝男の娘(おとこのこ)〟……!」


 なんかシアが反応していたが無視する。


「ほぇー、男の人なのね……、こんなに可愛いのに」

「……はは、よく言われますね……」


 ずーん、とヴァイシェスの顔色が暗くなる。

 かなりのコンプレックスを抱えているようだ。


「あなたはどうして右腕だけ防具をつけているの?」


 ヴァイシェスをヘコませておきながら、フォローもなにもなくミーネの興味はカルロへと移っていた。

 カルロは微笑みながらすっと右腕を伸ばして見せる。

 すると微かにだがその腕の内部からカリカリキリキリと金属が噛みあったり擦れたりする音がした。


「これは義手なのです。しかしご覧の通りただの義手ではありませんよ。シャーロットがバロットに残していった魔導学の成果、その一つで、単純な名称ですが魔導義肢と呼ばれています」


 それを聞いてミーネの目がまん丸になる。


「普通の手みたいに動かせるの?」

「はい。しかし才能と、そして訓練が必要になりますね。この魔導義肢は自分の魔力を通して操作します。普通の手のように動かすには、その魔力操作がごく自然に行えるまで訓練をしなければなりません」

「うわー、大変なのねー」

「ええ、かなり大変です。でもまだ試作品の段階ですし、より開発が進めばもっと扱いやすくなると思います。いずれは現在の義肢に取って代わる物になるでしょう。そしてそれとは別に――」


 そう言って、カルロは腕を胸の前にかざす。

 するとその義手の内部で稼働音が響き淡い光が灯る。


「魔力で強化する技術の試作もかねています。これは自分の魔力でなくてもかまわないため、例えば魔石を使用することにより攻撃力を向上させる武器、防御力を上昇させる鎧といったものに活用されるでしょう」

「ほわー」


 ミーネはすっかり魔導義肢に魅入られていたが、ふと何か思いついたようにおれを見やる。


「ねえ、これってあなたの――……、んー、んんーん、ん~♪」


 木製ガンブレードのことを言いだしそうだったので、睨んでやったらミーネは謎の鼻歌を奏で始めた。

 びっくりするくらい適当な誤魔化しようだった。


「レイヴァース卿もこのような構想をお持ちだったようですね」


 もちろんそんな誤魔化しが通用するわけもなく、カルロは義手を沈静化させて言う。


「ええ。ただぼくのは本当に構想だけですけどね。魔石を使って魔法の効果を発現できるというだけの」

「ああ、なるほど。我々も考えましたね。結局は兼ね合いがあって強化だけにとどまってしまいましたが。それにそういった技術はヴァイロ共和国が進んでいますし」


 構想をちょろっと漏らし、銃の構造については話を濁すことができた。

 ミーネにはあとでお説教をしておこう。


「レイヴァース卿はシャーロットのように何かを作りだすのが得意なようですね。どうでしょう、バロットという組織に興味はありませんか?」

「カルロ殿、ここであまりお時間をとらせては」


 なんか勧誘が始まりそうだったが、それを聖都の大使がやんわりとたしなめる。


「おっと失礼しました。つい」


 ふむ、どうやら皆さんは本当に挨拶のためだけに来たらしい。

 まあ挨拶だけでもしておけばアポ取りは楽になる。「いついつどこどこでお会いした何々です」なんて言われたら「知らん!」とは言えないのだ。それが国王主催の晩餐会となればなおさら。ある意味、そこに参加していたという状況が紹介状のような役割すらはたす。一国の王が招待していた客を無下には出来ないのである。

 めんどい。


※誤字を修正しました。

 ありがとうございます。

 2018/12/12

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/22

※ヴァイシェスの両親の種族を入れ替えました。

 2019/03/05

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/09


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