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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
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第178話 閑話…裏ボスの心配事

 聖教国セントラフロに存在する冒険者ギルド本部、その自室にてロールシャッハは頭を抱えていた。

 原因は一人の少年である。


「……どうしてよりにもよってこの時期にベルガミアへ行くことになるんだあいつは……」


 スナーク暴争の気配あり、警戒を強化しろ――

 そうベルガミア王家へ通達したのがひと月ほど前だ。

 祭りなど行っている場合じゃないだろう、と言いたいところだが、祭りを行わなければならない理由もよくわかる。

 五年前のスナークの暴争からベルガミアは国全体が不安に包まれてしまっている。その不安を一時的にでも払拭する材料がもたらされた今、一気に活気を取りもどさせ、そして高まった機運のなかで警戒強化のため黒騎士を瘴気領域境界線に送りたいと王は考えているのだろう。

 おそらく、祭り自体は通達後すぐに計画されたのではあるまいか。

 問題はそこに彼がぶつけてしまったのだ。

 よりにもよって獣人の悩みを解決する発明品を。


「どうして、この、タイミングで、また絶妙なものを……!」


 できれば彼にはベルガミアへ向かってほしくない。

 しかし、発明者の彼を迎えるというのが祭りの名目に組み込まれてしまっている以上、そこに横やりをいれるのは躊躇われる。


「護衛に誰か……」


 呟いてみるが、この選定がまたややこしい。

 正直に護衛として……、などとしてしまうと冒険者ギルドがベルガミア王家を信用していないという誤解を与えかねない。

 王ならば冒険者ギルドは元よりロールシャッハに他意がないことを理解してくれるだろうが、周りの者たちはそうもいかないし、それを王に説明させるのも余計にこちらへの不満を生むことになるだろう。

 ならばベルガミアの案内役という名目では?

 ただの観光ならいざ知らず、王家が招待しているのだからそれくらい当然ベルガミアで用意されるに決まっている。


「保護者……、保護者もなぁ……!」


 彼の両親は辺境の森の中、であれば、同行するミネヴィアの、といきたいところだが――バートランは行かせられない。

 五年前のことがある。

 同行させられるバートランを同行させない、これが王の判断を尊重していることを示すならばなおのこと。


「……いや、まあ、何か起きると決まったわけではないからな……」


 事を荒立てることなく、誰かを付き添わせる名目が思いつかなかったロールシャッハは自分を納得させるように呟いた。

 それにもし――、もし彼が滞在する一週間を狙い撃つようにスナークの暴争が起きたとしても、彼が戦場に立つような事態は起こりえない。

 賓客を戦場に送りだすような暴挙は国としてありえない話だし、そして彼自身は自ら戦場へとおもむくような人間ではない。

 それは冒険者メアリーとしてもぐり込んだ遠征訓練、見張り番をしているとき話をしてよくわかった。

 彼は自ら戦いを求めるようなタイプの人間ではない。

 むしろ戦いを回避しようとするタイプだ。

 戦闘力は冒険者のランクで言えばBといったところだが、それは自衛のために身につけたもので、より刺激的な戦いを求めた結果ではない。

 一緒にいるシアも好んで戦うタイプではなかった。

 となると心配なのはミネヴィアか。

 ちょっと戦ってみたいとか言いだし、彼を引っぱっていってしまう可能性は否定できない。


「……念のため、バートランに忠告させておくか」


 これがそこらの魔物の暴争であれば心配はしない。

 あの三人なら並の魔物の暴争くらい殲滅してのける戦闘力を持っているとロールシャッハは判断している。

 だがスナークは駄目だ。

 例え元が子犬であろうと子猫であろうと、スナークと化したものに勝つことはできない。

 なぜなら奴らは死なないからだ。

 斬りふせようと、叩き潰そうと、次元の狭間に放りこもうと、数時間の後、何事もなかったかのように奴らは復活する。

 スナークと戦う者に必要なのは高い戦闘力ではなく、戦い続けられる体力、そして不屈の精神だ。

 死なないバケモノと何日も何日も戦い続けると、奴らは満足したように引きあげる。

 討伐、撃退などとは言うが、要は命がけの根比べをし、瘴気領域へと帰ってもらうしか暴争に対処する手段がないのが現状だ。

 結局、主のシャーロットですらスナークを討滅する手段を見つけられなかった。

 ロールシャッハはかつての主の言葉を思い出す。


『悪神が邪神を誕生させた。悪神という機能神に与えられた役割は世界の変革。シチューが焦げつかないようかき混ぜる役ね。その役割において悪神は絶対的な権限を持ち、そのために邪神は誕生した。それが他の神々が邪神に対処できなかった理由なのだけれど、なら、邪神が残した瘴気、これに囚われたかつての勇士たち――スナークもまたその権限内の存在ということなのかしら』


 機能神として与えられた役割を別の神に侵害された場合、その機能神は補正を受けより強力な執行力を持つようになる。

 神々がスナークの討滅を行った場合、もしかしたら悪神は補正により新たなる邪神を誕生させる――、そんな可能性も否定できない。

 故に――、スナークは人が対処するしかない。

 神々は恩恵を授けるまでにとどめ、実質は人が主体となって対処しなければならないのだ。

 救いは魔王が討滅できる存在であり、討滅のたびに瘴気が減少しているという事実である。

 魔王――小邪神とも呼ばれるものを倒し続ければ、いつか瘴気領域の瘴気も消えうせ、同時にスナークも消滅するのではないか。

 結局、シャーロットですらそんな仮定を立てることしかできなかった。

 スナークとは実にやっかいな存在なのだ。

 あの、死なぬものどもは。


※誤字を修正しました。

 ありがとうございます。

 2018/12/11

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/22


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