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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
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第176話 12歳(夏)…家出の理由

 話が急だったので返答は後日ということにしてもらい、ひとまず大使には帰ってもらった。

 とは言え国王からのご招待、これは応じないわけにはいかないか?

 武闘祭の開催は二週間ほど先で、期間は一週間とのこと。

 招待を受けるなら、マグリフ校長には一週間ほど訓練校の臨時教員はお休みしないといけないと伝えねば。


「リビラって貴族だったのね」

「ベルガミアが誇る英雄のご令嬢ですか。……メイドなんかしていていいんですか?」

「今はただの家出娘ニャ。家のことは気にしないでほしいニャ」


 大使がお帰りになると、入れ替わりのようにミーネとシアが飛びこんできた。

 内容を知っていることからして、こいつらドアに張り付いてでもいやがったか。


「それでどうするの? 行くんでしょ?」


 ミーネはすこぶる嬉しそうに尋ねてくる。

 どうやらすっかり行く気になっているようなのだが――


「おまえは呼ばれてないんだけど……」

「なんでよ!?」


 根本的なことを指摘すると一転して愕然となった。


「じゃああなただけ行っちゃうの!? そんなのずるい! ちょっとシアも何か言わないと! このままじゃ置いてかれちゃうわ!」

「あれ!? わたしも置き去り!? ご主人さま!?」

「ふむ。わざわざ目立ちに行きたいと?」

「お、おおぅ……」


 おまえは自分が奴隷になった発端を忘れたのかと睨んでやる。

 シアはひるんだが、それでも諦めずそっぽを向きながら言う。


「い……、居たとこはベルガミアじゃないと思いますしぃー……」

「……、ま、おまえはなんとかなんだろ。一応身内だし」

「なんでよ!?」


 さらに愕然となってミーネが怒鳴る。

 なんでもなにも、先に答えは言ってるでしょうに。


「ちょっと待って! 私だけ置き去り!? そ、そういう仲間はずれは良くないと思うわ! パーティの仲間を一人だけのけ者とかそういう――、あ! パーティの仲間なんだから私も身内よ!」

「うん、まあ、何だろうがいいんだが、おれの裁量でどうにかなる話じゃないんだよ。大使に聞いてみないことにはな」

「じゃあ私を連れて行けないなら行かないってことにしましょう!」

「なんでそうなる」


 そんなこと言おうものなら、まだ子供のくせに相当の女好きとか邪推されても文句言えねえじゃねえか。


「ミーネさんはクェルアーク家ですし、どうにかなるんじゃないですか? 貴族ってそういう繋ぎを作るのに熱心ですから」

「んー、たぶん大丈夫だろうけど……、そもそもおれはあんまり行きたくないんだよなー」

「なんでよ!?」


 今回の「なんで」は適切だなとぼんやり思いながら、おれは嘘偽りない気持ちを告げる。


「めんどい」


 急ぎの仕事が終わり、やっと落ち着けると思った矢先のご招待。

 ベルガミア国王直々のご招待とか、どう考えても堅苦しく息の詰まる社交界的催しがあるに決まってる。


「そ、そんなこと言わないで欲しいニャ。ニャーさまも来てほしいニャ。このままじゃニャーだけのこのこ戻ることになりかねないニャ」


 リビラが懇願するように言ってくる。


「リビラとしては戻りたくないのか?」

「戻りたくないってわけじゃないニャ。ただ、まだちょっと……」

「家出してきたことに関係するのか?」

「そういうことニャ。でも、べつに深刻な話ってわけじゃないニャ。ただの親子喧嘩の結果だニャ」


 そう言うと、リビラは観念したように一つため息をつく。


「ととニャは話の通りベルガミアの英雄ニャ。バンダースナッチの討伐で知られる前から、それなりに知られた人物だったのニャ。スナークに対抗するための騎士――黒騎士の団長さんニャ」

「スナークと戦うための騎士なんてあるのか」

「星芒六カ国にはそういう者たちがいるニャ。このスナークはただのスナークだけでなく、ジャバウォック――魔王まで含めてのスナークなんだニャ。要は精鋭を集めた部隊だニャ」

「その団長さんってことは、リビラのお父さんってすごいのね」


 話を聞いていたミーネが目を輝かせて言う。

 リビラはふと黙って口をもにゅもにゅさせる。

 素直に父親を褒められ、まんざらでもないような感じである。


「ま、まあ、すごいのニャ。黒騎士は百獣国の子供たちの憧れなんだニャ。あ、黒騎士は実力があれば性別は問われないニャ。だからニャーも憧れてたニャ。小さい頃から黒騎士を目指していたのニャ」

「もしかして……、リビラさんはそれを反対されて家出ですか?」

「そうだニャ」


 シアが尋ねるとリビラは不服そうな顔でうなずいた。


「小さな頃はととニャも賛成していたニャ。未来の団長とか言ってくれてたニャ。だからニャーは黒騎士になれるよう頑張ったニャ」


 ぶすっとしたままリビラは続ける。


「家出する……二年前? もしかしたらもうちょっと前からかもしれないニャ。ととニャが急に黒騎士になるのを反対し始めたニャ。そんなのニャーからしたら今更なに言ってるって話だニャ。ニャーはずっとずっと黒騎士になるために頑張ってきたニャ。それからちょくちょくその話題で喧嘩するようになって、そしたら一年ほど前ニャ、いきなり王子との婚約の話がでてきたニャ。ニャーはブチキレたニャ」

「で、家出なのか」

「ニャ」


 国外まで家出してくるとか、本当に頭に血が上るとなかなか無茶をするお嬢さんだったらしい。


「戻ると王子と婚約することになるかもしれないのか?」

「たぶんそれはないと思うニャ。そこまで話が進んでいたわけではないのニャ。ちょっと提案されたくらいニャ」

「戻ってみたら話が進んでいたなんてことは……」

「ニャー……」


 それもあり得ると考えているのか、リビラは意気消沈な様子。

 しかしそれでも「やっぱり戻るのはやめる」と言いださないことから、これを機会に国へ帰りたい――、父親を説得し、黒騎士になるのを認めさせたいという気持ちがあるのだろう。

 認められたらメイド辞めちゃうんだろうなー……。


「いいニャ。もしそうなったらまた家出するだけニャ。でも一人で戻るのは心細いニャ。ニャーさまにも来てほしいニャ」


 とは言え今現在はメイドさんだ。

 不安そうにしているメイドを一人送りだすわけにはいかない。


「わかった。招待は受けよう。おれとしても国を挙げてウォシュレットを広めてもらってる借りがあるしな」

「ありがとニャー」


 リビラがほっとした顔になって言う。


「ところで……、リビラは大使がいたときと、今と、どっちが素なんだ?」

「ニャ? こっちだニャ」


 そうか、なんか安心した。


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