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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
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第169話 11歳(夏)…依頼の手続き

「契約は任せるわ! 私は毛を集めないといけないから!」


 指名を受ける当人――、ミーネは依頼の契約、その話し合いをおれに丸投げしてきた。

 パーティ仲間とは言え、それでいいのだろうか?


「パーティで受けるということにすれば問題ないと思うわよ? 三人パーティーでそのうちの二人が実際に採毛するんだし」


 平気平気、とティゼリアが言う。


「うぅ……、わたしはまたもふもふに埋もれるんでしょうか……」


 シアは気乗りしないようだったが、お仕事となっては仕方なく、ミーネに引きずられてしぶしぶ飼育場へと戻っていく。

 何も出来ないおれとティゼリアはひとまず飼育施設にあるダイロンの執務室へと案内される。

 部屋は二階にあり、窓からは飼育場の様子が見下ろせるようになっていた。

 下ではミーネとシア、そしてダイロンと飼育員たちがせっせと採毛作業に勤しんでいる。

 幸いなことに、餌をたらふく召し上がったヴィルキリーは活動が緩慢になった。

 ひっくり返っているのか、横になっているのか、もふもふすぎて体勢はわからないが、シアの周りに敷きつめられるように集まってわりと大人しくしている。

 これにはシアも一安心だったのだが――


「――おごっ! ちょ、ちょっと! 突撃してくるのやめてもらえませんかね! やめてもらえませんかねえ!」


 採毛されて身軽になったヴィルキリーたちはときおり作業をしているシアにドゴッ、ドゴッ、とタックルをかまし、半ギレにさせていた。

 ヴィルキリーにとても愛されているシアはなかなか作業が進まないようだったが、一方のミーネは順調に採毛を続ける。

 もさー、もさー、とミーネが櫛で毛をごっそりとすき、傍らに控える飼育員に櫛ごと渡す。

 受けとった飼育員は毛を器に入った水に落とし、別の飼育員がそれを丁寧に集めて箱へ。

 なんか効率が悪いことをやっていたが、まあ貴重な毛だし、そもそもごっそり取れる事なんて想定してないから仕方ないか。


「でも、どうしてシアちゃんだけあんなに好かれているのかしら?」


 一緒に窓から眺めているティゼリアは不思議そうに言う。


「二人が懐かれているのはたぶん服のせいでしょう? やっぱり生地の違いかしら。シアちゃんは完全に古代ヴィルクだけの服なわけだし」

「そもそもどうしてその服を着た者に懐くのかどうかですよ」

「んー、自分たちとの違いがわかるのかしら。ヴィルキリーたちにとって、シアちゃんは(ぬし)みたいな感じなのかも」


 じゃああれは敬意のタックルなのか?

 本当にふざけた生物だな。


「すまない。待たせた」


 おれとティゼリアがとりとめのない会話を続けていると、冒険者ギルドから戻ったアリテックが部屋へやってきた。

 他にも一人、男性が入ってくる。


「初めまして。聖女様。レイヴァース卿。私は冒険者ギルド、カナル支店の支店長を務めているジェンスです。本日は指名依頼の立ち会いのために来ました」

「あ、どうも初めまして。契約依頼って立ち会いが必要だったりするんですね」

「いえ、聖女様とレイヴァース卿に会いたかったので来ました」

「えー……」


 超正直に答えられた。


「あ、もちろん私がここにいる意味はありますよ? 私が立ち会ったということで、契約はすぐに正式なものと認められます。グーニウェス卿の話では大急ぎで契約する必要があるということですのでちょうどいいかと」

「まあ、そういうことだな」


 アリテックはうなずき、部屋の真ん中にある向かい合わせのソファに腰掛けるとテーブルになにやら色々と書かれた紙を置く。


「これが指名依頼のための書類だ。確認してくれ」

「わかりました」


 おれがテーブルを挟んでアリテックと向かい合いに座ると、ティゼリアも隣に腰掛ける。

 支店長のジェンスはアリテックの傍らに立ったままだ。


「ギルドで聞いて驚いたが、君たちは今日から冒険者で、すでにランクDなんてとんでもない子たちだったんだな」

「え? ギルドにはもうその情報が伝わっているんですか?」


 これには素で驚いた。

 正式に冒険者になったのは今日の話だ。

 こんな離れたところにまで伝わるとは、ギルドの情報共有レベルはすさまじいな。

 感心していると、それについてジェンスが補足する。


「将来が有望視される冒険者の情報はすぐに伝えられます。レイヴァース卿の場合は特に、あれです、冒険の書の制作者ですし」

「あー、なるほど」


 冒険者ギルドという組織との関わり方が普通とは違うからな、そういった内情込みでおれの情報は伝わりやすいのか。


「ですから、私が立ち会いに行くと言ったとき、自分も自分もと職員たちが騒ぎだしたんですよ。置いてきましたが。しかしここで会えなければもう会う機会があるかどうかわからないわけでして……、もしできれば、後でギルドを訪ねてもらえると……」


 まあ精霊門で飛んで来てしまったから実感がわかないが、本来は相当の理由でもなければ訪れたりしないくらい離れた場所だしな。

 冒険の書の広報活動もしてくれているんだし、お礼もかねて行った方がいいかもしれない。


「あー、わかりました。では後でうかがいます」

「ありがとうございます! もしかしたら冒険の書の遊戯会が始まるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします」

「そ、それはちょっと……」


 この支店長ぐいぐい来やがるな。


「あぁ、駄目ですか? 職員たちはもうすっかりその気になって今日はもう支店を閉めてレイヴァース卿の歓迎会の準備を始めてますが」

「ちょっとぉ!?」


 ギルド閉めんなよ!

 仕事しろよ!


「そうですか、駄目ですか……」


 しょんぼりとするジェンス。


「皆も残念がるでしょうねぇ……」

「わ、わかりました。ある程度でしたら参加しますので……」

「あ、そうですか? ありがとうございます」


 とたんに笑顔になってジェンスが言う。

 なんかやりづらいなこの人!


「……私も参加できるかしら……」


 話を聞いていたティゼリアがぼそっと呟く。


「えっと聖女さま? ぼくが誰の急ぎの依頼でここに来たか、忘れてたりします?」

「え!? あ、ううん、そうじゃないのよ? ただほら、今日は色々と立て込んでしまうし、なら生地を探すのは明日でしょ? だったら今日はのんびりしてもいいんじゃないかなーって思うのよ、私」

「反対しろよ」


 思わず素で言ってしまったが、かまうもんか。


「冒険の書の遊戯会か……、それは父が喜びそうだな。参加しても平気だろうか?」

「おや、コンテット様が? もちろんです。ぜひお越しください」


 アリテックが言うと、ジェンスがそれを歓迎する。

 なに勝手に話すすめてんの!?

 やべえ、下手すると深夜どころか夜通しの遊戯会になりかねん。

 ああ、なのにこの流れを止めてくれる者がこの場には居ない。

 ってかおれの味方が一人もいない!

 まず止めなきゃいけない聖女まで参加したがってるんじゃどうにもならん!

 くっ、シア、シアなら止めてくれるか?


 ――脳内シア――

「あきらめるしかないですねー……」


 ダメだ、役にたたん!


 ――脳内ミーネ――

「私はぜひやるべきだと思うわ!」


 おまえには聞いてねえよ!?

 突然でしゃばってくんな、びっくりするだろうが!

 聖女がお気楽なせいでおれ一人だけが困ってしまっていると、アリテックが安心させるように言う。


「聖女様の生地探しについては懇意にしている生地屋を紹介する。一見の客には見せないような品も引っぱりだしておけと伝えておくからそれで大丈夫だろう。後は仕立屋探しになるが……」

「あ、それは大丈夫です。こちらのレイヴァース卿にお願いしましたから。下で採毛している二人の服はレイヴァース卿が仕立てたものなんですよ?」

「え」


 ティゼリアが笑顔で言うと、アリテックはきょとんとした。


「あれは……、君が?」

「えー、まあ、ある程度のー……、仕立てた後の着心地などは生地に任せるようなものですが……、一部では評判です」

「ふむ……」


 するとアリテックはそう唸って黙りこんでしまう。

 なにか思案しているような……、あの二人の服でなにか気になることが――、って、あるに決まってんじゃねえか!

 これあれがヴィルクってバレてるんじゃないか!?


「………(ごめん)…」


 振った話の行く先がデッドエンドであることに思い至ったか、物凄く小さい声でティゼリアが謝ってきた。

 男爵が黙りこんでしまったので場には一旦沈黙がおりたが、気を使ったのか空気を読まなかったのか、ジェンスが口を開く。


「聖女様が生地を探しているということは新しい聖女様に法衣を贈るためですね? これはめでたい。時期はいつです?」

「来月です……」

「「来月!?」」


 尋ねたジェンスはおろか、黙りこんでいたアリテックまで驚いて声をあげた。

 この様子からして、やっぱり普通はありえない期限なんだな。

 ふと隣のティゼリアを見ると、渋い顔してうつむいていた。


「ま、まあ、聖女様はお忙しいので、ぎりぎりになってしまっても仕方ないですね」

「そ、そうなんですよ。本当に忙しくて……」


 ジェンスのフォローに乗ってくるティゼリア。

 笑顔で取り繕おうとしたようだが、苦笑いになっている。


「で、でもレイヴァース卿がなんとかしてくれますから!」


 今の状況は「なんとか出来る」じゃなくて「もうどうにかするしかねえ!」なんですけどね。


「と、とにかく、まずは依頼の確認をしませんか!? ほら、もう二人は作業を始めてしまっていますし!」


 旗色が悪くなってきたのを感じたか、ティゼリアは強引に話を指名依頼の契約へと変えさせた。


※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/22

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/27

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/03


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