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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
1章 『また会う日を楽しみに』編
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第17話 4歳(秋)…おもちゃ作り計画

 一ヶ月ほどして弟の様子が落ち着くと、ハンサ婆ちゃんは父さんにおくられて町へと帰っていった。

 こうしてまた家族だけの生活にもどったが、まだまだ弟のクロアは手がかかるため両親はせっせと世話をする。

 今、両親の注意は完全に弟にむいている。

 普通の四歳児なら両親がとられたような気がして拗ねるかもしれない。

 もちろん、おれはほったらかされてぐずるようなことはなく、むしろ両親と一緒になって弟の世話をしたかった。だがいまのおれでは抱っこすることもできやしない。せいぜい揺り籠にはりついてすやすや眠る姿を見守るか、もじもじする弟に話しかけてあやすくらいだ。

 うーむ、オモチャでも作ってみようかな。

 ハンサ婆ちゃんの提案によって午後から自由時間になったが、取り立ててしたいこともすべきこともなく途方に暮れていたおれは、ふと、そう思いたつ。

 赤ちゃん用のオモチャってどんなのがあったかな……?

 手に持ってふると音が鳴るガラガラ、ちっちゃな積み木、あとぶらさげてクルクル回すなんか名前のわからないやつ、手押し車、揺り木馬――今ぱっと思いつくのはこれくらいだ。

 複雑な構造をもつようなものはないので、時間をかければ今のおれでも作ることができるだろう。ただ頭のなかの設計図を参照して完成させられるほどおれはできが良くないので、書きおこすための紙と筆記用具がほしい。

 紙はどれくらいの価値なのだろう。

 作れるものなら作るが、おれは作り方など知らないのでどうにもならない。

 紙のかわりで思いつくのは地面に書くか、木の板に書くか、そんな程度である。紙は両親にお願いした方が手っとり早そうだ。もしかしてこれが産まれて初めてのおねだりになるかもしれんな。

 そしてもうひとつ、鉛筆が必要だ。

 これも作り方なんてわからない。

 芯さえ作れたらいいんだが、そもそもあの芯ってなんでできてるんだ?

 鉛筆っていうんだから、やっぱ鉛か?

 鉛を加工とか体によくなさそうだな、そもそもここに鉛ないし。

 うーむ、木炭でどうにかならないだろうか。

 木炭画ってのがあるんだから、木炭を粉にして固めたらどうにかなるんじゃないかな。

 おれはさっそく竈から木炭を集め、手を真っ黒にしながら木炭の粉を作る。

 固めるためにはなにを使ったらいいか考えた結果、こういった世界ならやはりニカワだろうと家にあったニカワをちょっともらって溶かす。

 でろーんとしたニカワに木炭の粉を投入し、熱いのでまずは木の棒でせっせとこねる。冷めてきたら、今度は手で懸命にこねる。

 びっくりするくらい手が真っ黒になった。

 おれは一生懸命こねてこねて、最後にころころ転がして細長い形にした。

 これ自体が鉛筆のような太さになったが、まあ試作品だしね。

 そしてできあがった黒くて長細いなにかを二日ほど乾かした。

 そして完成した。

 墨が。

 違う、そうじゃない。

 実は作っている途中、なんとなくこういう工程で作られる製品を知っているような気がしていたのだ。そうだこれは墨だ。

 水にぬらして石で磨ってみたら、質の悪い墨汁になった。

 うん、確かに筆記用具なんだけど、おれ墨と筆で自在に設計図をかけるような書道の達人じゃないから。

 どうやら木炭の粉を固めるための材料が違ったようだ。

 ほかの固まるものを試してみるか。

 ということで、おれは小麦を煮て溶かし、デンプンのりを作る。

 デンプンのりで木炭の粉を固め、乾燥させる。

 そして完成した。

 炭団が。

 違う、そうじゃない。

 筆記用具を作ろうとしていたら、なぜか成形燃料が完成した。

 筆記用具ですらなくなったぞ、いったいどういうことだ。

 くっ、もうこうなったら木炭をそのまま使ったらどうだろうか。

 うまい具合に細くできない!

 あれだ、枝をうまい具合に燃やして炭化させれば――

 完全な灰になりやがったわ!

 粘土に包んで焼いてみた。

 生焼けだ!

 炭にならない!

 ウウゥオアアーッ!

 なんということだ!

 おれは鉛筆の一本も再現することができないのか!?

 こんな有様じゃあ、発明品で名声値をかせいで導名をえるなんて夢のまた夢!

 すまぬ弟よ、おまえの兄はおまえにオモチャのひとつも作ってやれない無能だった……!


「うぐぐ……」


 おれが絶望して庭で這いつくばっていると、父さんが山盛りのおしめを干しにやってきた。


「……なにやってるんだ?」


 不思議そうに聞いてきたので、おれは書くための物を作ろうとしていたことを説明した。


「んー? ちょっと待ってろ」


 父さんはおしめ山盛りの籠をおろすと、家へ戻り、すぐ帰ってきた。


「これじゃ駄目なのか?」


 と、父さんがさしだしてきたのは紙の束と鉛筆だった。


「……あれ?」


 なんであんの!?


「父さん、これって……?」

「これか、これはペンシルって言ってな、シャーロットが作った書くための道具だ」

「あー……」


 ま、まああれだ、すこしばかり無駄な努力をしてしまったが、予定どおり紙と鉛筆を手にいれることはできたのでよしとしよう。

 それに課題もひとつ見つかった。

 おれは発明品で名声値を稼ごうと計画している。しかしそれはすでにシャロ様が世に広めている物とかぶってしまう場合があるだろう。

 シャロ様が世にだした物のリストでもあれば気をつけることができるだろうが、さすがに母さんもそんなもの持ってない。この問題を回避するためには、おれ自身がこの世界にある道具をよく知らなければならないのだが……、それはこの家にとどまっている現状では難しい話だ。両親から情報を集めるにしても、いったいどう尋ねたらいいかわからない。

 たとえば、こんな質問。

 ――電気によって光をともす道具はあるか?

 ある場合はどうしてそれがあることを知っているのかという話になる。

 ない場合はどうしてそんなことを思いつけたのかという話になる。

 つまり、今のおれの状態では、どういう物があり、どういう物がないか、それを聞きだすことも一苦労なのだ。じれったい話だが、両親からすこしずつ情報を集め、時には話題を誘導して知りたいことを知るという方法が必要になる。

 面倒だし、もどかしい。

 だが今は紙と鉛筆が手にはいったことで満足しておこう。

 これからさまざまなオモチャの設計図を書きおこす作業にかからねば。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日

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