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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
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第162話 11歳(夏)…冒険者証

 訓練校を卒業してから十日が経過し、いよいよおれたちの冒険者証が発行される日がおとずれた。

 その日の午後、冒険者ギルド中央支店に向かったおれたちはすぐに支店長室へと通され、そこで支店長のエドベッカじきじきに冒険者証を手渡された。


「あれ?」


 渡された冒険者証を見て、おれは首をかしげる。

 仮の冒険者証は木板だった。

 発行ギルドと訓練校名、そして名前が焼き印されただけの代物だった。

 それに対し、受けとった冒険者証は紙を薄く色のついたガラスで挟み込んだような感じのカードである。

 冒険者証はそれ自体が魔道具で、ギルドにある書き換え用の魔道具によって変更することができるようになっているそうな。


「やったー!」

「おー、ずいぶん情報が増えてますねー……」


 冒険者証を受けとり、喜ぶミーネと関心をもって眺めるシア。

 二人は渡された冒険者証に疑問を抱いていないらしい。


「あの、エドベッカさん、どうしてランクがDなんでしょう?」


 冒険者証の色は薄い緑色。

 これはランクDの冒険者証の色である。

 本来、成り立ての冒険者――ランクFに渡される冒険者証の色は白なのだ。

 レベル0から9までのランクFは白。

 10から19まで――、ランクEだと青。

 そして20から29までのランクDがこの緑なのである。

 以降はCなら銅、Bは銀、Aが金と色が変わるのだ。


「本来ならランクFからの開始になるんだが、このたびの活躍に鑑みてそうなったんだ」


 そう言ってエドベッカは苦笑する。


「戦闘能力だけならすでにB相当、だが冒険者としての経験が不足しているのを考慮してC。しかしいきなりそれは早すぎるだろうということでDに落ち着いた。それでもかなり早いのだが」

「いや早すぎるでしょう……」


 レベル0から始まり、ランクDのレベル20に到達するまで五年という話である。


「え? じゃあ私、もうランクDなの?」


 きょとんとミーネが尋ねてくる。


「いや冒険者証にそう表示されてるだろうが」

「ごちゃごちゃしてるじゃない」

「してるけども……」


 ひとまずミーネに冒険者証に表示される情報の説明をしてやる。

 冒険者証の表には上に小さい文字で所属国の略称、発行ギルドの店舗番号、冒険者証の発行番号がある。

 その下にランク、レベル、職分類があり、三段目には大きな文字で名前が、そして一番下に累計経験値が表示されている。

 裏面は現在は空欄。

 賞罰や称号があれば記入されるようになっている。


「あ、このDがランクで、この20ってのがレベルなのね」


 なるほどなるほど、とミーネがうなずく。

 まあ確かにランクD・レベル20が『(R)D/(L)20』としか表記されてないから、知らないとわかりにくいか。


「わからないことがあればレイヴァース卿が説明してくれるだろうから……、簡単に利用法だけ話そうか」


 まず最初に、とエドベッカは説明を始める。


「当然の話なのだが、これがあればギルドで依頼を受けられる。次に自分が何者であるかを証明するための身分証としても使える。それは自分の魔力を冒険者証に覚えこませることが出来るからだ。登録はこの後、受付ですることになっているよ。他にも望むならギルドに資金を預けおくことができ、好きなときに、世界中どこの支店でも受けとることが出来る。これが実に便利なのだが……、少しだけ複雑な話が含まれる。レイヴァース卿はこの仕組みについてもう理解しているかね?」

「ええ、ギルド通貨のことでしたら」

「そうか、ならば詳しい説明はレイヴァース卿に任せたほうがよいだろうな。正直助かったよ。訓練校を卒業してもよくわからないままでいる者は必ずいてね、理解してもらうために苦労するというのが毎年のことなんだ」


 エドベッカがちょっとほっとしたような表情で言う。

 ギルド通貨。

 要はギルドが提供する通貨の交換システムに使われる仮想通貨――払い戻しのきく電子マネーのようなものだ。

 この世界、言語は統一されているが通貨は国ごとに違う。

 各国を旅しながら仕事をする冒険者は少なからずおり、その都度資金を両替するのは手間である。これが年単位ならばまだいいが、数ヶ月単位となると面倒以外の何物でもない。

 そこで生まれたのがギルド通貨というシステム。

 まあ生まれたと言うよりシャロ様が作っただけなんだろうけども。

 資金をギルド通貨にしておくと、各国のギルドで各通貨に両替してもらうことができる。

 これは国家間を移動する冒険者だけに魅力的な話、というわけではない。

 一国に留まる冒険者にしても、どこの支店でもお金をおろせるというのは非常に便利でありがたいことなのだ。

 そのため、だいたいの冒険者は資金の多くをギルド通貨にして冒険者ギルドに保持してもらい、銀行代わりにしている。

 銀行は銀行としてあるのだが、やはり店舗数の多さからくる利便性には敵わない。

 なにしろド田舎のタトナトの町にもあるくらいだからな。

 まあ酒場と兼業だったけど。


「ミーネはギルド通貨のことわかってる?」

「前に説明されたけど、よくわかんなかったわ」


 ミーネはギルド職員を苦労させる側の卒業生か。


「まあ無理もないか。時間があるときゆっくり説明するよ。シアが」

「ちょっとー。そこは一緒に、とかでしょうに」


 だって大変そうなんだもの。

 他にもどう手数料がかかるとか、各国の情勢でレートが変動するとか。


「べつに私、わかんなくてもいいわよ? お金は全部あなたに預けておいて必要なときにもらえばいいでしょ?」


 それはいかん!

 お金に関しては自覚を持ってちゃんと扱ってほしい。

 あー、そうか、ならおれがちゃんと説明すべきか……。


「近いうちに説明する。理解できるまでいつまでもだ」

「え。ええぇ……」


 ミーネが嫌そうな声をあげたが、知ったことではない。

 意地でも理解させる所存である。

 おれが密かに決意を固めていると、エドベッカは話の続きを再開した。


「冒険者証は冒険者にとって重要なもの。なので無くしたりしないよう気をつけてもらいたい。再発行も出来るのだが……、かなり面倒だ。本人であると証明しなければならないし、再発行の費用と罰金は少ない額ではない。これが捻出できず、冒険者を辞める者もなかにはいる。肌身離さず持っておくのがいいだろう」

「うぅ……」


 それを聞いてミーネがおののいた。

 免許証とキャッシュカードが一緒になったような物だからな。

 ほいほい再発行できていいような代物ではないか。


「不安ならばギルドに預けておくことも出来るよ。活動拠点を変える場合は返却してもらい、移動してまた預けるというわけだ。ちなみに預かりにはちょっと費用がかかるが……、無くすよりはましだろう?」

「うーん……」


 ミーネは手にした冒険者証をまじまじと眺め、それからふとおれを見る。


「あなたに預けておけばいいかしら……」

「いやおれに預けんなよ」

「えー、だって同じパーティだし、いつも一緒でしょ?」

「だからってな……」


 だが冷静に考えると預かっておいた方が良いような気がする。

 もし無くしたら、絶対に大騒ぎしておれも探し回るハメになるだろうからな……。

 まあ妖精鞄に入れておけばいいだろうし、預かることも考えておこうか。


    △◆▽


 その後、おれたちはエドベッカと一緒にギルドの受付へ向かい、冒険者証に自分の魔力を覚えこませる作業を行った。

 登録のための魔道具はなんと言うか携帯ゲーム機のような楕円型をしていて、液晶が在るべき場所に冒険者証をはめ込むというものだった。

 シャロ様はゲームをする人だったのだろうか?


「ふむ、登録も完了したことだし、これで君たちは正式な冒険者となった。おめでとう。活躍を期待しているよ」


 エドベッカがそう言うと、受付にいた職員たちが笑顔でパチパチと拍手を送ってくれた。

 ちょっと照れる。


「では後は……、あ、そうだそうだ。君たちが討伐したコボルト王の素材だがね、魔石以外はひとまずギルドで買い取らせてもらった。パーティ資金にするか、分配するかは君たちが判断することだし、ギルドで預かったままになっている」

「あ、そうなんですか。わかりました」

「うん。ではまた」

「ありがとうございました」


 最後におれたちはお礼を言ってエドベッカを見送り、さっそくその臨時収入を確認してみた。

 なんか一般市民の年収くらいあった。


「お、おう?」

「これ魔石抜きですよね?」


 予想よりだいぶ多くておれとシアが困惑する。

 一方、ミーネは特に気にしていないような感じだ。

 大した金額ではないと思っているのか、そもそも自分でお金をだして買い物をしたことがないからよくわかってないのか。


「ねえねえ、私にもわけてくれる?」

「いやわけるよ? ちゃんと三人でわけるから」

「そう? じゃあ私それで贈り物を用意しようかしら」

「贈り物?」

「うん、これって初仕事の報酬みたいなものでしょ? だから家族のみんなと、あと、メイドのみんなにも」


 ミーネがにこにこと殊勝なことを言いだした。


「メイドたちの分に関してはおれも出すよ。世話になってるし」

「そういうことならわたしも出さないといけませんね」

「んじゃ報酬四等分して、パーティ資金からってことにするか?」

「あ、それでいいわ!」

「そうですね、そうしましょう」


 二人の了承をもらったので、おれは受付でまず報酬をギルド通貨に替える。それから四等分し、おれたち三人の口座、それから『ヴィロック』のパーティ資金用口座にそれぞれ割り振ってもらった。


    △◆▽


「なにを贈ろうかしら……」


 中央支店からの帰り道、ミーネは腕組みしてずっとプレゼントを何にするか考えていた。

 メイドたちの分はおれとシアも一緒になって考えればいいが、家族への贈り物はミーネが自分で考えたものの方がいいだろう。

 ミーネの家族は八人。

 王都にいる祖父のバートランと兄のアルザバート。

 領地には父親――現クェルアーク家当主、ミーネの実母である第一夫人、そして第二夫人がおり、異母姉兄となる長女の姉と次男の兄、それからお婆ちゃんがいるらしい。

 そして、家族になる予定としてミリメリア姫がいる。

 ミーネはちゃんとミリー姉さんにも贈り物をするつもりでいた。

 もしなかったらミリー姉さんは密かに泣くかもしれんな……。


「うーん、ううーん……」

「今日中に決めないといけないわけじゃないんだし、メイド学校に戻ってからゆっくり考えたらどうだ?」

「そうですねぇ。サリスさんにどんな贈り物がいいとか助言してもらうこともできますし」

「そっか、じゃあサリスに聞いてみようかしら。私、こうやって贈り物とかするの初めてだから難しいわ。もし私も服を縫えたら、生地を買ってきてみんなに服を作って贈るのに……」


 いやいや、寸法とらんと。

 生き布なら自動的に調整されて体に合うようになるんだろうけど、それだとお金が足りなくなるだろうな。


「あ! ひとつ決まったわ!」


 難しい顔をしていたミーネがハッと顔をあげて言う。


「クマ! クマのぬいぐるみ! あの、あなたが贈ってくれたあの変なクマのぬいぐるみ。お姉さま、あれ欲しがってたの。だからあれを贈れば喜んでもらえると思うの」


 ミーネにリラックスしているクマのぬいぐるみを送った後、ミーネの姉が欲しがっていて困るという内容の手紙がバートランから送られてきたことがあったが……、まだ欲しがってるのか?


「ん? ちょい待て。それってお古をあげるって――」

「新しいの作って! 布は買ってくるから!」

「ですよねー……」


 まあ、それくらいは作ってやるか。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/22

※ミーネの家族紹介でお婆ちゃんが抜けていたのを修正しました。

 ありがとうございます。

 2021/02/02

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/15


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[一言] 甘い!甘過ぎるぞ、セクロス!
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